第38話 学院の日常、再び
――数日後。
オレたちはしばらくぶりに、アストリア飛翔学院に戻ってきていた。
朝から学院の講義に出るのは本当に久々だ。
「……やっと日常に戻ったって感じがするな」
講堂に足を踏み入れると、すでに沢山の生徒が集まっていた。
アヤナがしずかに机に座り、カバンから教科書を取り出す。
表情からも楽しみにしているのがわかる。
アヤナにとっては、初めての講義だしな。
――講師が講堂に入ってくると講義が始まった。
講師が淵獣の特性について解説し始めると、マイルが教科書を広げ小声で話しかけてくる。
「……ねえスカイ、せっかくの講義なんだから、ちゃんとノート取るのよ」
「わ、わかってるって!」
マイルの世話焼きも久しぶりだな……と思いながら慌ててペンを握り直す。
そんなオレの横では、アヤナは真剣な表情でメモを取り続けている。
さすがアヤナ……初めての講義なのに全く問題ないようだ。
一方、レオンはというと開始数分で船を漕ぎだしている。
(まったく、追試になっても知らないぞ……)
◇◆◇
午前の講義が終わったので食堂へ向かう。
そこでは、学生たちがワイワイと騒ぎながら食事をしていた。
すると、レオンが大げさに腕を組み、わざとらしく鼻を鳴らす。
「うーん……久々に“学生してる”って気分だぜ」
「レオンは数分で寝落ちしてたけどね」
「ぷっ」
マイルの突っ込みに、アヤナが小さく吹き出している。
「おい! 俺は考えてただけだ!」
「夢の中で、でしょ?」
「ぐっ……」
講義中のそんなやり取りも、どこか懐かしくて――オレも思わず口元が緩んだ。
「ねぇねぇ! そんなことよりあの新しいパフェ頼んでみない?」
「え? お昼だぞ?」
マイルがトレーを手にキラキラした目を向けてくるが、オレは呆れ顔で首を振る。
「いいでしょ! 学院生活の醍醐味だよ!」
(俺様はテリヤキだ! テリヤキを出せ!)
「ちょ、ノクティ! 大声出すなって!」
ノクティが指輪の中からわがままを言と、周囲の生徒が「なに?」とざわめき始めてしまう。
オレが慌てて制止するけど、時すでに遅し。
周りの学生たちがチラチラこっちを見ている。
「て、テリヤキ……く、食いて〜なぁ……あ、ははは」
「ぷっ……!」
レオンが慌ててノクティの真似をするのを見て、アヤナが笑いをこらえきれず吹き出した。
その瞬間、周りの学生たちの視線が一斉にアヤナを向き、ざわめきが広がっていく。
「ねえ、あれって……」
「アヤナさんよね?」
「あ、ほんとだ。なんかニュースになってたけど大丈夫なのか?」
「……っ!」アヤナが恥ずかしそうに頬を赤らめて俯く。
(もう、ティーちゃんのせいで目立っちゃったじゃない……)
(あとでテリヤキサンドあげるから今は我慢してね)
マイルがノクティをなだめるけど、「絶対だからな! 大盛りだぞ!」などと言って反省の色は無いみたいだ。
笑い声とざわめきが溶け合う食堂の中で――久しぶりの平穏な学院生活を感じられた。
――午後の講義を終えたオレたちは、久しぶりに街へ繰り出す。
マイルとアヤナは並んで歩きながら、楽しそうにあちこちの店を覗いている。
「じつは……こうして友達と街を歩くの、初めてなんです」
「そっか。アヤナちゃん、有名人だもんね」
確かに、アヤナはかなりの有名人だ。加えて、流れるような黒髪はこの街では目立つ。
そこでマイルと相談した結果、今日は髪をアップにまとめ、大人びた雰囲気にしているんだけど……。
(たしかにファンの視線は減った……けど、なんか逆に男連中の目を集めてないか?)
自称アヤナ親衛隊のレオンが、声を掛けてこようとする男たちを睨みつけては、片っ端から追い払っている。それを見ながらアヤナは困ったように微笑むけど、どこか楽しげだ。
「有名人って、ちょっと憧れてたけど……今のを見ると、やっぱり大変そうだな」
アヤナは「そうでしょ?」と言いながら苦笑いを浮かべている。
……その笑みには、照れと疲れが混じっているように見えた。
「アヤナちゃん。あの服かわいいよ!」
「ほんと、最近流行りの服ね」
「ねえ、見ていかない?」
「えっと、でも……」
そう言って二人がこちらをチラっと見る。
「行ってきなよ。オレたちも適当に見て回るから。一時間後にここ集合でどうだ?」
「そうしよ、アヤナちゃん」
「ええ……じゃあ、一時間後に」
アヤナはマイルに手を引かれて、少し照れくさそうに店へ入っていった。
さて、オレは本屋で最新の飛翔船マガジンでも探すかな。
「レオンはどうする?」
「さっき気になる店があったんだ。ちょっと見てくる」と言って人混みに消えていく。
◇◆◇
――一時間後。
オレは服屋の前に置かれた大量の荷物を前に立ち尽くしていた。
「……おい、なんだよこれ」
「えへへ、ちょっと買いすぎちゃった」
「あ、あの……ごめんなさい。つい……」
マイルが笑ってごまかし、アヤナも気まずそうに俯いた。
眼の前に広がるのは、紙袋の山。足元が見えないくらいに積み上がっている。
「はぁ……どうすんだよこれ」
「俺に任せろ!」
レオンがどんっと半分の荷物を肩に抱える。やけに得意げな顔だ。
残りを持ち上げようとしたマイルが、ちらっとオレを見ながら、「女の子に荷物を持たせて、男子が手ぶらってどうかと思うな」などと言ってくる。
「いや、買い込んだのはマイルだろ」
「スカイのごはん、いつも作ってあげてるよね?」
「はあ、わかったよ」
ずるい論法と一緒に紙袋を押し付けられた。
観念して腕に引っかけると、今度はアヤナまでおずおずと袋を差し出してきた。
「お、お願いします……」
……照れた顔で上目遣い。これは断れない。
結局、両手いっぱいに抱えた紙袋で、身動きが取れなくなってしまう。
(まったく……戦場よりこっちの方が重労働なんじゃないか?)
けど横を見ると、マイルもアヤナも楽しそうに笑っていて。
まあ……こういうのも、悪くないか。
そう思えた。
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