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星雲の飛翔士 〜アーティファクトの力で世界を巡る〜  作者: いぬは
【第5章】 《アストリア飛翔学院前編》
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星の記憶:EP05 ヒカリの決意

「トウドウ、船と機材の手配を頼む。イクシオンの技術が使われていないやつだぞ」


 室長のシンジョウが主任のトウドウへ指示を飛ばす。


「マルコは引き続き小惑星の監視。何か変化があれば即報告しろ」


「他の連中は、最近のイクシオンの動向を探れ。ただし直接的な接触は絶対にするな」


「それから……深宇宙探査艦調査室はすでに“黒幕”の監視下にある可能性が高い。くれぐれも感づかれぬよう、普段どおりを装え」


『了解です!』


 その瞬間、調査室の空気がピリリと張り詰めた。

 私たちは端末に向かいながらも視線を交わし合い、作業にかかる。

 イクシオンが何かを隠しているのは間違いない。

 そして、それを探る自分たちもまた――すでに監視されているのかもしれない。


 ◇◆◇


 ― イクシオン:潜航艦 ―


 その船は、深宇宙にひっそりと潜んでいた。

 艶のない漆黒の船体は、すべての光を吸い込み、そこに在ることすら疑わしい。窓も無ければ、航行灯すらない。

 ただ、漆黒の虚無に溶け込むように、静かに佇んでいる。


「――星界連邦に動きはないか?」


 低く、響く声が艦橋に落ちる。


「はっ。特筆すべき動きは確認されておりません」


「そうか。……ならばよい。何かあれば、すぐに報告しろ」


「はっ!」


「ゼロ・ポイント《惑星アステール》の進捗はどうだ」


「干渉体の成長は順調に進んでおります。ただ……」


「何だ?」


「関係ないとは思いますが……一瞬、“エリュシオン”の波長を捉えました」


「……留まったのか?」


「いえ。おそらくは別の目的で、“こちら側の世界”を観測したのではないかと」


「忌々しい奴らだ」

 一瞬、艦橋に冷たい沈黙が流れる。


「……絶対に感づかれるな。奴らが介入してきたら、計画が大幅に狂う。――それだけは避けねばならん」


「心得ております」


 返答と同時に、無数の計器が淡く光を放ち、漆黒の船体はさらに闇へ沈み込んでいった。


 ◇◆◇


「――では、今回の作戦について説明する」

 シンジョウ室長の低い声が会議室に響いた。

 メンバーが一斉に姿勢を正し、モニターへと視線を向ける。


「先日発見した小惑星だが……現在も“惑星アステールが存在した宙域”を周回し続けている」


 操作されたパネルに応じて、映像が切り替わる。漆黒の宙域を、岩塊がゆっくりと軌道を描きながら漂っていた。


「正規の手続きを踏んでも、調査許可はまず下りないだろう」


 シンジョウが一拍置いて続ける。


「そこで、今回はこれを使う」


 映像が切り替わる。そこに映し出されたのは、中型の黒い艦影。装飾を削ぎ落としたそのフォルムは、ティアドロップ型の陶器のようだ。


「この艦は、トウドウ財閥傘下の研究機関から借り受けた実験艦だ」


 トウドウ主任が前に出て説明を引き継ぐ。


「民間初の“ディメンション・シフト搭載艦”になる」


「民間の……ディメンション・シフト《次元航行》ですか!」


 メンバーから驚きの声が上がる。

 そんな驚きをよそに、トウドウは冷静に頷いた。


「小型化こそいまだ実現していないが、性能は問題ない。もっとも――実験艦ゆえに搭乗可能人数は三名が限度だ。そして、今回この艦を使って小惑星に侵入する」


 シンジョウが指でパネルを叩くと、モニターに宙域図が表示された。


「まず、通常の調査を装った囮艦が、イクシオンの監視を引きつける。その間に、実験艦である“シフト艦”を用い小惑星に接近、内部へ潜入する」


 ざわめきが広がる。


「当然、イクシオン側には気づかれるだろうが、この小惑星がイクシオンの施設として登録されているわけではない。表面上はただの小惑星だ」


「妨害さえ気をつければ、侵入しても抗議される理由もないと」


「そうだ」


「潜入チームには、現場指揮としてトウドウ。戦闘員にヴォス。パイロットはリディア。この三名に任せる」


 その瞬間、ヒカリの肩がぴくりと揺れた。


「待ってください! 私に行かせてください!」


 椅子を弾くように立ち上がり、声を張り上げる。


 会議室の空気が張りつめる。

 シンジョウは鋭い眼光を向け、冷たく言い放った。


「ヒカリ、これは命令だ。感情で動くな」


「感情ではありません!」


 ヒカリの声は震えていたが、瞳は真っすぐだった。


「ディメンション・シフトには、使用後に一時的な感覚障害や幻覚などの副作用があるとされています。

 ですが――私は〈蒼穹〉の試験運転でシフトを経験しました。副作用は一切出ませんでした!」


 ざわめく隊員たち。驚きと疑念が交じった視線がヒカリに注がれる。


 シンジョウは眉間に深い皺を刻み、重い声で問う。


「本当に……副作用がでなかったのか」


「はい! 参加者の中で、私だけに耐性がありました」


 静まり返る室内。隊員たちが固唾を呑んで二人を見つめる。

 長い沈黙ののち、シンジョウは深いため息をついた。


「……まったく、戦闘経験はあるか?」


「シミュレーションですがS+評価でした!」


 シンジョウはしばし考え込んだあと、決断する。


「よかろう。ヴォスと交代だ。潜入チームに――ヒカリを加える」


「はい!」


 ヒカリは拳を握りしめ、前を見据えた。その瞳には迷いはなかった。


「――決まりだ」

 シンジョウが最後にそう言い切ると、場に張りつめた緊張が解ける。


「作戦開始は二十四時間後。潜入チームはすぐに準備に入れ。

 囮役は通常任務を装い、予定通り小惑星宙域に展開する」


「了解!」

 メンバーが一斉に席を立つ。


 ヒカリは胸の奥で拳を握った。


(お父さん……絶対に手がかりを見つけるから)


 その小さな決意は、誰にも聞こえなかった。

 だが確かに、彼女の心に灯った炎は揺らがなかった。


 ――こうして、小惑星へ潜入するための極秘作戦が始まろうとしていた。


 真実を追う者たち。

 その裏でうごめく陰謀。

 そして、そのすべてを遠くから観察する“第三の瞳”。


 三者三様の思惑が、今まさに交差しはじめる。

 誰もその先に待つ結末を知らぬまま――。

最後までお読みくださいありがとうございます。

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