第36話 名を受け継ぐもの
「全機、気を引き締めろ! ここからが本番だ!」
レオンの全隊に檄を飛ばす。
囮役の二機が毒霧をかいくぐり、ヴェノスの進路を乱す。その隙を狙って、オレたち攻撃班が一気に接近した。
「よし、今だ! 一斉射撃!」
レオンの号令に合わせ、主砲が次々と火を噴く。
赤や青の光の帯がヴェノスの外殻を撃ち抜き、肉が焼ける匂いが風に混じる。だが――。
「やっぱり、あまり効いてない……!」
鱗のような外殻が攻撃を弾き、ダメージはほとんど内部まで届いていない。ヴェノスは苛立ったように羽を大きく広げ、さらに濃い毒霧を撒き散らした。
「後退しろ! 巻き込まれるな!」
レオンの指示で、全機が一斉に退避行動をとる。
毒霧が風に流れ、わずかな静寂が訪れるなか、レオンが低く冷静な声で続けた。
「外殻が厚すぎる……! 弱点はどこだ?」
「弱点か……」
オレが呟いた瞬間、ノクティが口を開く。
(羽だ! あそこに硬い外殻は無い、奴が毒霧を撒き散らそうと広げた時を狙え!)
ノクティの助言をすぐにレオンに伝える。
「なるほど、毒霧を放つ瞬間か……危険だがやるしかねえか」
レオンが力強く叫ぶ。
「全機、毒霧を放つ瞬間の羽を狙え! 深追いはするな!」
パンツァーが先陣を切り、全機が後に続く。
ヴェノスが毒霧を溜め込む、その一瞬の隙を狙い、一斉射撃を叩き込んだ。
粒子の光線が羽を貫き、ヴェノスが耳をつんざく悲鳴を上げる。
「ギュラァァァ……ガァァァ!」
巨体が激しく揺れ、態勢を崩す。
「よし、いける! トドメだ!」
レオンのパンツァーがヴェノスの体を這うように駆け上り、ヴェノスの頭上を取る。
機体下部のハッチが開き、巨大な爆弾が投下された。
「……右翼■損……%ERROR:CODE***//回避不可//……グギギ……」
――ドゴォォォォォンッ!! ゴゴゴゴ……
爆炎が空を覆い、轟音と衝撃波が空気を裂く。
爆風が通り過ぎたそこには、黒焦げになった体中から煙を上げるヴェノスの姿があった。
三対の羽は片翼が完全に消失していて、反対側もかろうじて一枚が残っているのみ。
静寂の中、ヴェノスの体がゆっくりと傾く。そして、そのまま雲海の底に落ちていった。
ヴェノスの姿が完全に消えると、レオンが高らかに叫んだ。
「ヴェノス、討伐完了だ!」
「うおぉぉぉぉーーーっ!!」
勝利の雄叫びが空に響き渡り、オレも思わず操縦桿を握る手に力を込めた。
――周辺の安全を確認後、オレたちは村に戻る。
「ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」
村長にヴェノス討伐を報告すると涙を流して何度も感謝された。
村人たちも、オレたちの周りに集まってきて口々に感謝の言葉をかけられた。
「……よかったね」
マイルが小さく息を吐き、安堵の笑みを浮かべる。
「ふん、俺様がいたから当然だな!」
「はは、ありがとなノクティ」
オレは自然と笑みを返した。
レオンも感謝の勢いに誇らしさと照れくささが入り混じった表情をしている。
その日は、村長からぜひともと言われ、村人全員から歓待を受けた。
村のこども達からは戦闘の様子を教えてくれとせがまれ、娘たちからもてはやされて顔がニヤけていたのが、いかにもレオンらしい。
――そして歓待を受けた翌日、オレたちはヴァルガス家へ向けて飛び立つ。
◇◆◇
『――レオン』
威厳のある声に、レオンの背筋がピシッと伸びるのが見えた気がした。
その姿に、こっちまで思わず息を呑んだ。
『見事だった。部隊をまとめ、仲間と力を合わせ、よくぞ脅威を退けた』
「父上……! ありがとうございます!」
声がわずかに震えていた。
横目でその表情を見ながら、オレは思う。
(レオン……今の言葉が、きっとずっと欲しかったんだろうな)
『お前はこれまで、上の兄弟に追いつこうと、儂に、そして家に認められることばかり考えてきたな』
「はい……」
レオンの返事は、素直すぎるほど素直だった。
『だが――今回、強敵を倒し村人から感謝されて、どう感じた?』
レオンは一瞬だけ目を伏せる。
それから顔を上げ、晴れ晴れした表情で叫んだ。
「最高でした!」
『……そうだ。お前が目指すものは兄でも、ましてや儂や家に認められる事ではない』
『これがヴァルガスの名を受け継ぐ者の使命だ』
短い言葉。でもその一言には、重みがあった。
「――それから、なぜお前にパンツァーを与えたかだ」
当主の眼光が鋭くなる。
『それは、お前が“選ばれた”からだ』
「俺が……選ばれた?」
『そうだ、お前は知らぬだろうが、お前の兄たちには乗ることができなかった。いや、お前以外乗れる者がいなかったと言うべきだな』
「……!」レオンの瞳が大きく見開かれる。
その横顔には驚きと戸惑い、そしてわずかな誇らしさが混じっていた。
でも――オレにはわかる。
きっとレオンの中には、まだ新しい疑問が芽生えてる……。
「……なぜ、パンツァーは俺を選んだんだ?」
小さな声でそう呟いたレオンの目は、さっきまでとは違う。
迷いと、不思議な光が同居していた。
「それについては……儂にもわからん」
当主はわずかに目を細め、低い声で続ける。
「だが、乗っていれば――いずれその答えは見えてくるであろう」
「はい!」
レオンの声には、迷いを超えた決意がにじんでいた。
そして――当主の鋭い視線がオレに向く。
「不肖の息子だが……これからも仲良くしてやってくれ」
そう言って、深々と頭を下げた。
空気が一瞬止まった気がした。
周りの兵士や執事たちが息を呑むのがわかる。
――ヴァルガス家の当主が、頭を下げる。
それがどれだけ大きな意味を持つか、誰もが理解していた。
「……任せてください!」
オレは真っ直ぐに当主の目を見て答えた。
その瞬間、レオンの横顔に浮かんだ笑みは、誇らしさと照れくささが入り混じったものだった。
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