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星雲の飛翔士 〜アーティファクトの力で世界を巡る〜  作者: いぬは
【第5章】 《アストリア飛翔学院前編》
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第35話 戦いの幕開け

 オレたちは、村長からの話を聞き終え、村の広間で今後の方針を話し合っていた。


 まず問題になるのは――ヴェノスの毒霧。

 ノクティの説明によると、大量に吸い込まなければ即死はないらしい。

 症状としては、初期は酔ったようなめまいから始まり、やがて全身に力が入らなくなる、そして最後には呼吸を止める。

 つまり、一度でも吸い込んでしまえば、まともに戦うのはほぼ不可能だ。


「姿形は、ヘビに三対の蝶みたいな羽が生えている飛行型の化け物だってさ」

 オレが言うと、マイルが息をのむ。


「対策は?」

 レオンがすぐに尋ねてくる。


「まずは風上を維持すること。あと、奴が羽を広げて静止したら毒霧を撒く前兆だから要注意だ。飛行速度については……普通の飛翔船なら十分逃げられる程度らしい」


「なるほどな。ヴェノスの行動範囲は?」

 レオンが聞いてくる。


「聖域から半径数十キロ……広くても百数十キロってところらしい」


「ってことは……この村もギリギリ範囲内か」


 そこで、マイルがおそるおそる口を開く。


「でも……魔獣は村に入ってこないんだよね?」


(それは違う。ヴェノスにとって最優先は“領域への侵入者の排除”。村がどうとかは関係ねぇ。侵入した奴がどこへ逃げようと、追ってくる可能性はある)


「……だそうだ」

 オレがノクティの言葉を伝えると、部屋に重い沈黙が落ちた。


「なら、待っていて被害が出るのを恐れるより……こっちから討ちに行くしかねえな」


 レオンの言葉に、全員が力強くうなずいた。


 ◇◆◇


 オレたちは今、ヴェノス討伐のため村長が話していた石柱があった付近で待機中だ。

 みんな緊張の面持ちで作戦開始の合図を待つ。


 作戦はこうだ、まずヴァルガス家の私兵の中でも飛行速度に自信のある三人が囮になり、ヴェノスの注意を引き付ける。

 それ以外は、背後からヴェノスへ一斉に近づき攻撃後即座に離脱。これを繰り返す作戦だ。

 少し離れたところには、救護室が設けられ、万が一毒霧を吸い込んでしまった場合に備える。


 ちなみにオレとレオンは攻撃班、アヤナは救護班に配置されている。


「よし、囮役の三機につづき全機前進!」


「緊張するね」

 マイルが後ろのナビ席から話しかけてくる。


「ああ、深雲獣の討伐は初めてだからな」


「俺様にまかせておけって!」


「二人ともよろしく。じゃあオレたちも行くぞ!」


 オレたちも囮役に続いて慎重に前進した。


 ――空気が張りつめる。

 ヴェノスの領域とされる石柱群が目前に迫る。大地から突き出すように並ぶ青色の柱。石柱の中心には古代遺跡の入口のようなものが見える。


「よし、そろそろだ! 警戒しろ!」


 コックピットのスピーカーからレオンの声が響いた。


 囮役の三機が前に出て、低空で大きく旋回する。その推進音が、静かな空にいやに響き渡った。


「……来るぞ」

 ノクティの声が鋭く耳に届く。


 次の瞬間、雲海から巨大な影が姿を現した。

 ヘビの胴体に三対の蝶のような羽――それがゆっくりと広がり、空気が一気に淀む。深雲獣ヴェノスだ。


「でっかいな……!」思わず声が漏れた。


 囮班が一斉に急上昇すると、ヴェノスが反応する。異様に長い胴体がねじれ、鋭い咆哮が空気を震わせる。

 ドクン……と胸の奥が跳ねた。


「スカイ、行くぞ!」


 オレとレオンは攻撃班として一気に加速してヴェノスの背後へ回り込む。

 石柱の陰を縫うようにして接近し、狙いを定める。


「今だ!」


 レオンの合図と同時に、攻撃班が一斉に攻撃を始める。ルミナークの主砲がヴェノスの胴体をかすめた。


 青白い閃光と共に爆煙が上がる――だが、ほとんど効いてない……!」


 次の瞬間、ヴェノスが羽を大きく広げた。

 羽が紫色に輝き渦を巻くような黒紫の霧が周囲に拡散していく。


「毒霧だ! 風上に回れ!」


 オレは舵を切り、必死で高度を上げる。


「くっ……これが……!」


「スカイ!」後ろからマイルの叫ぶ声。


「大丈夫だ!」


 けど……ほんの一瞬遅れていたら、危なかった。


(……思ったよりも毒霧の範囲が広いな。一瞬の油断もできない)


 ――黒紫の霧が広がる中、無線から苦しそうな声が漏れる。


「う、ぐっ……視界が……!」


 次の瞬間、囮役の一機が機体の制御を失い、急に蛇行をはじめた。


「やばい! 被毒したぞ!」


 レオンが即座に指示を飛ばす。


「救護班、出番だ!」


「了解!」アヤナの声が力強く返ってきた。


 ルージュが素早く近づき、近くを並走する。コックピットでは操縦者が咳き込みながら必死に意識を保とうとしていた。


「もう少し……持ちこたえて!」


 アヤナのルージュが姿勢を合わせ、救助用のアンカーを固定する。ぎりぎりの距離で囮役の機体を支え、輸送艇へと誘導した。


「アヤナちゃん……!」

 マイルが祈るように叫ぶ。


 救助班の輸送艇が近づき救助用ハッチを開く。

 救助隊員がコックピットに乗り移り、囮役の操縦者を抱きかかえ輸送艇へ移す。

 アヤナは操縦者が輸送艇に移るのを確認すると、ほっと大きく息を吐いた。


「大丈夫、意識はある! 今すぐ処置を!」


 すぐに解毒薬が投与され、苦しげな呼吸が少しずつ落ち着いていく。


「……よかった」


 その小さな安堵の声が、無線越しにも伝わってきた。


「アヤナ、ナイスだ!」レオンがすぐさま労いをかける。


 オレも胸をなで下ろしながら、操縦桿を握り直す。


「全機、気を抜くな! ここからが本番だ!」

 レオンの声が、全機に響き渡った。


 その間も毒霧を纏った巨体が、上空でゆっくり旋回している。蝶のような羽が光を反射し、ぞっとするほど不気味だった。

最後までお読みくださいありがとうございます。

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