第30話 誓いの空、守るべき仲間のために
――その後、オレたちは元アヤナの使用人だったという、ノエルさんの家に招かれていた。
そこで、今回の事件のあらましを聞かされる。
第4ファクトリーのオーナー、ガメルンから長男との婚約を迫られたこと。
条件を飲まなければ、実家への支援だけでなく所属するレースチームへの支援も打ち切ると脅されたこと。
さらには、アヤナの両親には「二人がすでに同意している」と嘘まで伝えられていたこと。
――そんな状況に追い詰められ、アヤナは「一人ではどうにもならない」と感じ、身を隠したのだと。
「なんで……なんで相談してくれなかったの! 友達でしょ!」
マイルが机を叩き、涙声で叫ぶ。
「ごめんなさい……。みんなに迷惑をかけたくなかったの」
アヤナは目に涙を浮かべながら答えた。
「迷惑なわけ無いでしょ!」
マイルの言葉にオレたちも一斉に頷く。
「ガメルンの野郎、絶対許せねぇ!」
レオンが拳を握りしめて怒りを爆発させる。
もちろん、オレも同じ気持ちだった。
ノクティも指輪の中から、(俺様もだぜ)と小さく唸った。
――やがて、マイルが落ち着きを取り戻すと、オレたちは今後のことを話し合い始めた。
ナタリー先生からは「私たちのところに連れてきてくれれば、必ずどうにかする」と言われている。
「そうなると……どうやって気づかれずに学院まで連れて行くか、だな」
オレが口にすると、レオンも眉をひそめる。
「だな。学院に近づいたら、どうしても気づかれちまうぜ」
静まり返った部屋に、緊張が満ちていく。
みんなの視線がオレに集まっていた。
「アヤナの機体は目立ちすぎるから使えない。レオンの機体は一人乗りだし……」
オレは全員の顔を見渡し、決意を込めて言った。
「――だから、オレが運ぶしかないだろうな」
「そうだな」レオンも短くうなずく。
「それで、二人にお願いがある。……マイルはここに残って、この町に出入りしてる探索者に何か動きがあったらすぐ知らせてほしい」
「わかった。任せて!」
マイルは真剣な顔で拳を握る。
「レオンには、先に戻ってアストリア側の動向を探ってほしい。ファクトリーの探索者がどう動いてるか知りたいんだ」
「了解だ」
レオンも迷いなく応じるが、そのあと心配そうに眉をひそめた。
「だがよ……お前たちだけで大丈夫か?」
「ああ。ルミナークとノクティがいれば問題ない」
「ティーちゃん、二人をよろしくね」
(俺様にまかせとけ!)ノクティもやる気十分だ。
「アヤナ、それでいいか?」
オレが問いかけると、アヤナはずっと真剣な顔で説明を聞いていたが、やがて静かに頭を下げた。
「……みんな、私のためにありがとう」
「仲間なんだから当たり前だ!」
「そうだよ!」
レオンとマイルが声をそろえる。
胸に熱いものがこみ上げてくる。
(必ず、アヤナを守り抜く――)
「よし。じゃあレオンがアストリアに着いたら、こっちも出発だ」
そう言い切ったオレの声に、全員が力強くうなずいた。
◇◆◇
――とある宿の一室。
「ターゲットの様子はどうだ?」
「はい、予定どおり学院の学生と合流したようです」
目つきの鋭い鉤鼻の男が静かに頷く。
「……予定通りだな」
「ターゲットが動いたら、こちらも行動を開始する」
まるで獲物を狙う狩人のような冷ややかな声。
その男からは、ただならぬ強者の気配が漂っていた。
◇◆◇
出発して少し経ったころ。
オレとアヤナ、そしてノクティを乗せたルミナークは、アストリアへ向けて青空を翔けていた。
そんなときルミナークのコクピットにマイルの緊急通信が入る。
「スカイ! 探索者が動き出したわ!」
マイルの声がスピーカー越しに響く。
『こちらレオンだ! やべえぞ、ファクトリーが雇った探索者どもが動き出した! お前らの方角に飛んでいった!』
「くそ、気づかれたか」
(だけど、なぜ作戦がバレた……?)
胸がざわめき、背中に冷たい汗が流れる。
――その時、ノクティの声が響く。
(おいアヤナ、そのバッグの中何が入ってる?)
「えっ……?」
慌ててバッグの中を覗き込むアヤナ。すると飛翔船の起動キーが微かに青白く点滅しているのを見つけた。
(クソッ、発信器だ! 位置を追跡されてるぞ!)
アヤナが、すぐさまキーを雲海へと投げ捨てる。
だが気づくのが遅かった。
(……来るぞ!)
雲の切れ間から、黒い飛翔船が数機、こちらを取り囲むように現れた。
『アヤナ嬢。逃げるのはおしまいだ、おとなしく投降しろ』
通信越しに響く声は冷酷だった。
『町で事を起こさなかったのは、こちらも穏便に済ませたかったからだ。だが……逆らえば多少強引でも構わないといわれている』
「ふざけるな!」
オレは操縦桿を握り直した。
「行くぞ、ノクティ!」
(おうとも!)
ルミナークが青白い粒子の尾を引き、流星のように敵の包囲を突き破る。
背後から弾幕が降り注ぐ。旋回して一機を撃ち抜くが、すぐに別の敵機が迫ってくる。
光をきらめかせて、襲い来る敵機を次々と翻弄する。
だが時間が経つに連れ敵の数は増えていった。
「くそっ、多すぎる!」
「スカイさん、右後方から!」
アヤナが叫び、オレはスラスターを全開にして辛うじて回避する。
だが――数の差は歴然だった。
気づけば再び四方から囲まれ、網を絞るようにじりじりと追い詰められていく。
「囲まれた……まずい!」
リーダー格の探索者がこちらへ狙いを定めると――大口径の機銃が火を吹く。
『終わりだ!』
絶体絶命の瞬間――。
鋭い閃光が走り、敵の攻撃がはじかれた。
「なっ!?」リーダー格の探索者が驚愕の表情を見せる。
現れたのは、“鋭い目付きをした鉤鼻の男”。そのまま敵機の背後に回り込むと敵の一人を一撃で叩き落とす。
「えっ、味方なのか?」
「なかなか良い動きだったぞスカイ」通信越しに聞く頼もしい声。
混乱するオレたちの前で、男はゆっくりと変装を解いた。
「クラインさん!?」
自信に満ちたクライン笑みがそこにあった。
「な、なんでクラインなんて化け物が介入してくる!」
「クランメンバーを助けるのに理由が必要か?」
「クランメンバーだと! まさか、俺たちはアストラル・ナイツに喧嘩を売ったってことか……話が違う!」
リーダーが驚愕の表情をみせる。
「くそっ、ちくしょうが! だが……いくらクラインでも、一人でこの人数には勝てんぞ!」
探索者のリーダーが吠える。
「そう思うか?」
クラインの声と同時に、空の彼方から二十機以上の飛翔船が姿を現し、敵を完全に包囲した。
「な、なんだと……!」
探索者たちの顔に絶望が広がる。
「お前たちの悪事はすでに証拠と共に押さえた。逃げ道はない」
第4ファクトリーと探索者との資金の流れや、指示のやり取りを記録した証拠があることを、クラインが告げる。
さらに捕縛した探索者たちの所持品からは、第4ファクトリーの名が刻まれた契約書や資金受領記録まで出てきた。
「くっ……俺たちは雇われただけだ!」
必死に言い訳をするが、クラインはまったく聞く耳を持たない。
部隊員たちが次々と「捕縛完了!」の報告を上げる。
クラインは深く息を吐き、オレたちに視線を向けた。
「……アヤナの救出成功だな。よく頑張った」
こうして、第4ファクトリーの悪事は白日の下にさらされ、アヤナは無事に学院へと戻ることになった。
――数日後。
学院に戻ったオレたち四人は、学院長室に呼び出されていた。
部屋には学院長とナタリー先生、そしてクラインさんの姿がある。
「まずは……よく無事に戻ってきてくれましたね」
学院長が柔らかく微笑む。
「今回の件、第4ファクトリーが探索者を雇ってアヤナさんを強引に連れ戻そうとし危害を加えようとしたこと、そして資金援助を盾に婚約話をでっち上げていたこと――すべて証拠と共に明らかになりました」
「つまり……」
「ええ。アヤナさんの婚約話はもちろん白紙になりました」
学院長はきっぱりと言い切った。
その言葉に、アヤナは大きく息を吐き、力が抜けたようにその場に座り込む。
「……よかった」
薄く笑みを浮かべながら、瞳から涙がこぼれた。
マイルが隣に駆け寄り、ぎゅっと抱きしめる。
「もう一人で悩まなくていいからね!」
「うん……ありがとう」
アヤナは嗚咽まじりに答えた。
「それから、レースチームへの支援の件ですが――学院がスポンサーに付くことが決まりました」
「え、本当ですか!」
アヤナが勢いよく顔を上げる。
「ええ、本当よ。後日、正式に発表されるわ」
「ありがとうございます!」
「アヤナさんのスポンサーになることは、学院にとっても大きな利益になりますから。どうか気にせず、これからも全力で励んでください」
学院長は優しく微笑んだ。
アヤナは涙をぬぐい、少し照れたように、それでも心の底から安堵した笑顔を見せた。
その笑顔を見られた――それだけで、これまでの苦労が報われた気分だった。
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