第3話 星降りの儀式と遺物の目覚め
「いやぁぁぁっ! 放してぇぇぇ!」
「危ないよ、マイル! 崖から落ちちゃう!」
泣きじゃくりながら崖に身を乗り出すマイルを、リンが必死に押さえつけていた。
「マリ、どう? 何か見える?」
「だめ、木が邪魔で……」
そのときだった。聖域から駆けつけてきたガイが、こちらの騒ぎに気づいて近づいてくる。
「おーい、何やってんだ、お前たち?」
リュークがこれまでの経緯――ナイトベアとの遭遇、スカイの囮行動、崖からの落下までを説明する。
「なんだって!? スカイのやつ……」
ガイは驚きと悔しさの入り混じった表情を浮かべた。
すぐそばで、マイルが肩を震わせて泣き続けている。誰も言葉をかけられず、ただ彼女のすすり泣きが静かに響く。
――そのとき。
「ぉーぃ……ぉぉおーい……!」
「スカイ!?」マイルが顔を上げた。
全員が一斉に谷底へ目を向ける。
「スカイなの!? 大丈夫なの!?」
「ああ、ナイトベアは死んだよー」
「スカイ……っ、よかったぁ……」
「他のみんなは大丈夫ー?」
「こっちは、スカイのおかげで全員無事だよー」
「おいスカイ! あんな高さから落ちて、よく生きてたなー」
ガイが崖下に向かって叫ぶ。
「ああ、運良く木の枝に引っかかって助かったよ」
星石の不思議な能力のことは秘密にしておいた。
こんな能力があるなんて聞いたこと無いし、騒ぎになっても嫌だから。
「どうだ? こっちに登ってこれそうかー?」
「いや無理っぽい。だから、歩いて登れそうな場所を探すよ。みんなは先に聖域で待っててくれー」
「了解だ! 気をつけろよー」
「スカイ気をつけてねー」
――さて、とにかく日が沈む前に合流しないとな。
まずは聖域側の崖沿いを歩いて、登れそうなルートを探そう。
◇◆◇
歩き始めて一時間ほどたったころ、足元に瓦礫のようなものが散らばっているのに気づいた。
どこか人工的な雰囲気があって、資料で見た古代遺跡とは少し違うような……。
(まさか、まだ誰にも発見されてない遺跡か……?)
両親がいたら、大喜びしただろうな……。
「とりあえず、ちょっと休憩するか」
近くの岩に腰をかけ、あたりを見回す。
もしかしたら、ここにもかつて人が住んでいたのかもしれないな。そんな思いが頭をよぎる。
ふと、崖の岩壁に目をやると、何かがゆらいだように見えた。
(あれ……? 幻覚じゃないよな?)
気になり、揺らめく壁に近づこうとしたそのとき――。
『いらっしゃい――ませ。こちらは――記録セクター0-3-0-4――』
『プラネ■■■ラ■センス――を確認――す』
「えっ!?」
どこからともなく響く不明瞭な音声。
次の瞬間、首にかけている両親の星石が光り始めた。
そして突如、壁の揺らぎが消える。そこに現れたのは、斜めに傾いた金属製の扉。
『深宇宙■■■■■――のIDを確認しました。どうぞ――お入りください』
音声はかすれて聞き取りづらいが、たしかにそう聞こえた。
(両親の星石と関係があるのか?)
「何か手がかりがあるかもしれない……行ってみよう」
勇気を振り絞って、扉の中に足を踏み入れる。
中は傾いたままの構造で、薄暗いオレンジ色の光が点滅している。
部屋の中央には円柱型の大きな装置があり、その周囲にはモニターと椅子がずらりと並んでいた。
(これ……コックピット? いや、違う。何かの観測室か?)
モニターに触れてみたが、反応はない。
部屋の奥にはもうひとつ扉があるが、内側からは開かなかった。
探索を続けると、部屋の隅にいくつかの金属製の遺物が落ちているのを見つけた。
見た目は五センチ四方の立方体を半分にしたような形で、中央に直径一センチ程度の丸い窪みがある。
もっと詳しく調べようと近づいた時、胸元がほんのりと光っているのに気づいた。
(……あれ? また星石が光ってる?)
星石を手に取り確認すると、やはりほのかに明滅している。
(周囲の何かに反応してるのか?)
すると幾つも落ちている遺物の中に、星石に連動してほのかに明滅している、他と違って“完全な立方体”をしてるものを発見した。
(この遺物だけ他と形が違う……それに星石に反応してるよな?)
拾い上げようと身をかがめ、そっと手に取った時。
「……ピピ、ロックを解除します」
部屋の奥から、高い女性の声が聞こえた。
(まさか……奥の扉!?)
急いで扉の前に戻ると、「ピ、ピッ」と電子音が鳴り、自動で扉が開く。
――その先は真っ白な部屋だった。壁そのものが淡く発光していて影ひとつ無い空間だ。
中へ入ると、また声が響く。
「中央にお進みください」
「誰かいるのか……?」
「中央にお進みください」
無機質な声が繰り返される。
一瞬ためらったものの、オレは言われるままに中央へと進んだ。
「それでは、〈受信地〉へ転送します」
足元に光のリングが幾つも現れ、まばゆい光に包まれる。
次の瞬間、視界が真っ白になった――。
◇◆◇
ふわりとした浮遊感のあと、徐々に視界が戻ってくる。
「……ここは、どこだ!?」
部屋の中だったはずなのに、気がつけば見知らぬ屋外に立っていた。
(〈受信地〉って言ってたけど……ここがそうなのか?)
見回しても、どこにも見覚えはない。戻る道も、方向もわからない。
「困ったな……どっちへ行けば……」
「スカイ!」
声がした方向を振り返ると――そこに、マイルが立っていた。
「スカイ!」
彼女が駆け寄ってきて、オレにしがみつく。
「無事でよかった……ほんとによかった……!」
「ああ、ごめん。心配かけて」
わずか数時間だったはずなのに、何日も離れていたような気がした。
ほどなくして、他の仲間たちもオレたちに気づき、駆け寄ってくる。
「スカイ、おかえり!」
「ただいま!」
オレは、ようやく――聖域にたどり着いたのだった。
その後、シモンからは何度も謝られた。
「みんな無事だったんだから、気にするな」
「うん、ほんとごめん、ありがとう……」
――みんなが落ち着くのを待って、オレは谷底での出来事を説明した。
「崖下に遺跡があったなんてな」
「で? これがその金属の遺物か」
リュークが興味深そうに手に取る。
「なるほど……見た目は鉄っぽいけど、やけに軽いな」
「ホント? ボクにも触らせて!」
シモンが興味深そうに手に取る。
「おぉ……ほんとだ軽い。なんだろうこれ、鉄じゃないね?」
「これを売れば商売になるかも!」
「売らないってば!」
「とにかく、いろいろあったけど、全員無事に聖域まで来れてよかったな」
リュークがまとめに入ると、みんな頷いた。
「……あれ? そういえば、ガイの姿が見えないけど」
周囲を見渡すと、森の中からガイガ出てくる。
「ここにいるぜ! いい鳥が獲れたんだ。せっかくだから、飯でも食いながら話そうぜ」
「やったー! 私、お腹ぺこぺこ〜!」
「じゃあ、わたしが料理するね」とマイル。
料理ができない組は薪拾いと火起こし担当だ。
◇◆◇
料理が完成する頃には、あたりはすっかり夜になっていた。
「お待たせ! あまり凝ったものは作れなかったけど、鍋にしたよ!」
「わーい!」
「めっちゃ美味しそう!」
「よっしゃ、食うぞー!」
それぞれ器を手に取り、一斉に食べ始める。
「……うん、美味しい!」
「最高だな、これ!」
やっぱり、マイルの料理は美味しい。みんなにも好評だ。
お腹も膨れた頃、リュークが話を切り出す。
「さて、今後の予定を決めようか。まず、星降りの儀式だけど……星石、全員持ってるな?」
リュークの問いかけに、みんなが頷く。
「村長の話だと、時間になると〈星の精霊〉が現れて、導いてくれるそうだ」
「なあ、その精霊ってほんとにいるのかよ?」
「……まあ、その時になればわかるさ」
「そして儀式が始まると、空から〈星の力〉が降ってきて、星石にクラスの力が宿るらしい」
「スカイはやっぱり、飛翔士でしょ?」
「ああ、もちろん!」
「マイルは何のクラスになりたいんだ?」
「わたしは……スカウトかな」
「へぇ、意外。てっきり料理人のクラスかと思ってたよ」
「料理は趣味よ」
みんな、それぞれがなりたいクラスの夢を語り、その声が聖域の夜に溶けていった。
◇◆◇
やがて、儀式の時刻が近づいた。
「よし、そろそろだな」
どこから精霊が現れるのか――みんなの視線が星空へと向く。
そのとき、夜空に一筋の光の帯が走った。
光の帯が空から降り注ぎ、地面に届くとやがて円形に広がっていく。
そしてその中央に――〈精霊〉が浮かび上がった。
姿は、羽のついた小さな光の玉。絵本や伝承に出てくるような、人型の妖精とはまるで違う。
「えっ、あれが……?」
「本当にいたんだ、精霊って!」
「なんか、かわいいかも……」
その光の精霊が、女性のような高い声で語りかけてくる。
<<お待たせしました。それでは、〈受信サークル〉の中へお進みください>>
オレたちは導かれるまま、光の円の中に入る。
<<それでは、〈スタークリスタル〉を顔の前にかざしてください>>
「スタークリスタルって……星石のことかな」「まぁそうだろうな」
<<続いて、希望するクラスを、スタークリスタルに申告してください>>
みんなが願いを込めて、星石に向かって話しかけていく。
「飛翔士になりたいです……お願いします!」
<<……確認しました。これよりクラスデータのロードを開始します>>
天から七本の光の柱が降り注ぎ、それぞれの星石に吸い込まれていく。
幻想的な光景に、誰もが目を見張っていた。
<<……データのロードが正常に完了しました>>
精霊はそう告げると、光となって再び夜空へと戻っていった。
残された静寂のなかで、みんなの星石がふわりと光り出す。
――すると飛翔船の操縦方法が頭の中に浮かぶ。
これがクラスを授かるって事なのか。
体はとくに変化はない、でもクラスを授かったという確かな確信があった。
その夜、みんな興奮冷めやらぬ様子でクラスの話を続けていた――
◇◆◇
――翌朝。
「おはよう、スカイ」
「……おはよう、マイル」
「朝ごはん作ってるから、もうちょっと待っててね」
「ありがとう」
しばらくすると他のみんなも起きてきて、朝食が完成。いつも通りマイルの料理は最高だった。
帰り道は周囲に気をつけながら慎重に歩いたけど、白い花は一輪も咲いていなかった。
出発が早かったこともあって、昼前には村に戻ることができた。
すぐに全員で村長の家を訪ね、儀式の成功――そしてナイトベアとの遭遇を報告した。
村長は驚きながらも、みんなが無事だったことを心から喜んでくれた。
そして、興奮冷めやらぬ様子で、それぞれの家へ帰っていった。
◇◆◇
マインと別れ家に戻ると、おれも自分の家に戻る。
「そういえば、遺跡で拾った遺物のこと……聞き忘れたな」
ポーチから取り出した遺物を、机の上にそっと置いた。
「……これでオレも、飛翔士か……」
思わず、顔がゆるむ。
「おい……なにをニヤニヤしてんだ」
すると、突然声が響く――。
「えっ!? だ、誰!?」
慌てて周囲を見回したが、誰もいない。
「こっちだ。スタークリスタル《星石》を通じて話してんだよ」
ま、まさか……星石から……声!?
「よし、まずはその遺物から――中にある〈スターリング〉を取り出せ」
「……」
「おい、早くしろよ!」
「これ……開かないんだよ」
「クラスを得た今なら開くはずだ。やってみろ」
言われるまま、慎重に遺物を開いてみる。
――パカッ。
遺物は意外なほどあっさり開いた。中には、中央の窪みにぴったりはまった指輪。
「この窪み……指輪を納める場所だったんだ」
「よし、それをスタークリスタル《星石》に近づけてみろ」
言われた通りに、指輪を星石へと近づける。
「ふぅーっ、やっと出られたぜ!」
「……は!?」
目の前には、ふわふわと浮かぶ小さな謎の生き物がいた。
それをオレは、ただ呆然と見つめるしかなかった。
最後までお読みくださいありがとうございます。
次の話「星の記憶:EP01 深淵」は本物語の核心に迫る重要な物語です、ここから広がる謎、伏線を気に入ってもらえると嬉しいです。
面白いと思っていただけたら、評価ポイント、お気に入り登録をよろしくお願いします。




