星の記憶:EP04 ノイズの向こうの残響
「ふぁ〜……昨日はちょっと夜更かししすぎたかも」
ベッドから身を起こし、出勤に備えてシャワーを浴び、髪と服を整える。
「パシッ!」
両手で頬を叩き、気合を入れた。
「――おはようございます!」
深宇宙探査艦調査室に入るなり、元気よく挨拶をする。
「おはようさん、早いな」
ソファーに横になっていた室長のシンジョウが、ゆっくりと上体を起こした。
「室長……もしかして、家に帰ってないんですか?」
「ああ。昨日は飲みすぎてな、そのままここで寝ちまった。ははは」
室長は豪快にあくびをすると、頭をぽりぽりとかきながら立ち上がった。
「ま、こういう朝もあるさ。……おっと、そろそろ来る頃だ」
言葉の通り、数秒後に廊下の向こうから足音と話し声が近づいてくる。
「おはよーございまーす!」
「ふぁ〜、眠い……」
メンバーたちがぞろぞろと調査室へ入ってきた。コーヒーを片手にしている者もいれば、寝癖を直しきれていない者もいる。
「お、全員そろったな。じゃあ――」
「――室長、またここで寝たんですか?」
「ははは。まぁ、そんなとこだ」
笑いが起き、調査室の朝がようやく本格的に動き出した。
「――よし、じゃあ現状の報告を聞こうか」
「では、説明は私が」
そう言ってトウドウ主任がメガネをクイッと押し上げた。レンズがライトの光を反射して、一瞬だけ怪しく光る。
「主任、それ絶対わざとやってますよね?」
「……気のせいだ」
主任は咳払いを一つしてから、机の端末を操作し始める。
「まずは、深宇宙探査艦〈オルフェウス〉の航行データの解析結果だが――興味深いデータが見つかった」
トウドウ主任の声に、室内の空気がぴんと張り詰める。
「軍の正式発表では『探査中に艦から発せられるエネルギー反応が突如として消滅した』とされている」
そう言って主任は、一度視線をみんなに巡らせ、間を置いた。
「……しかしだ」
その言葉に、ヒカリの喉がごくりと鳴る。
「解析の結果、オルフェウスが消息を絶つ直前――旧型の探査ドローンから“謎のノイズ”が送られていたことが判明した」
主任は端末を操作し、壁一面のモニターに波形を映し出す。
不規則に上下するグラフと、耳障りな雑音。だがその奥に、確かに“声”が潜んでいた。
「ガァァァ……ザァァ……%!6#&tm――こちら……オ■フェ■■艦長アマ……現■■■■の妨害……■いる(不明瞭)」
「パパ!」
ヒカリが反射的に身を乗り出した。目が潤み、手が震えている。
幻聴ではない。確かに、そこには“艦長アマギ”の声が残されていた。
ノイズ混じりの声は、なおも途切れながら続く。
「妨■電波のハ……は――■クシ■■艦――%!6#&tmガァァァ……ザァァ……」
室内の誰もが息を呑んだ。冷たい沈黙が張りつめる。
「……今の、“イクシオン艦”って聞こえなかったか?」
「……ああ。断片的だが、間違いないと思う」
「バカな、本当にイクシオンが妨害を?」
ざわつく調査室のメンバーたち。だが声を荒げる者はいない。むしろ声を潜め、恐怖と緊張を共有していた。
そんな中、鋭い声が割って入る。
「トウドウ。この情報は上には?」
「もちろん……上げていません」
主任は端末から視線を外し、口元に不敵な笑みを浮かべた。
「よろしい」
シンジョウ室長が低く言い放つ。
「この情報は絶対に外部に漏らすな。いいな!」
「「はい!」」
室内の全員が反射的に声を揃えた。背筋に冷たい汗が伝う。
シンジョウ室長は険しい表情を崩さず、さらに言葉を重ねる。
「やはり……この事件、どうもきな臭い。艦隊内部に“裏切り者”がいる可能性も捨てきれん」
その一言が、ヒカリの胸を強く締めつけた。
(……裏切り者? もし本当に艦隊の中にそんな人がいるなら……パパは……!)
モニターに映し出された、ノイズ混じりの声。
「……こちら……オ■フェ■■艦長アマ……」
途切れ途切れでも、たしかに父の声だった。
(イクシオン……やっぱりパパを狙ったのは……!)
恐怖と怒りが交錯する。だが同時に胸の奥から熱いものがこみ上げた。
(絶対に……助け出す。イクシオンだろうと、裏切り者だろうと……!)
――室内を覆っていた沈黙を、シンジョウ室長の声が切り裂いた。
「いいか、この件は軍にも正式には報告せん。俺たちで秘密裏に動く。――証拠を掴む、絶対に気づかれるなよ」
「それから、今後イクシオンの技術が使われた機器の使用も禁ずる」
「了解しました」
主任をはじめ、メンバーたちが一斉にうなずく。
「表向きの任務は通常の探査調査。その裏で、オルフェウスが最後に通信を発した宙域を徹底的に洗うんだ」
シンジョウの瞳が鋭く光る。
「痕跡を見逃すな。――たとえそれがどんな些細なノイズであろうとな」
その日から、調査室のメンバーは二重の任務を抱えることになった。公式の航行記録を装いながら、裏では極秘で解析を続け、既存マップに記載のない宙域を次々と割り出していく。
――数日後。
「……見つけました」
端末を操作していたヒカリの声が震えた。
壁面のモニターに映し出されたのは、星図の端――通常の航路から大きく外れた暗黒宙域を進む黒い物体。
「これは……小惑星か?」
トウドウ主任が目を細める。
映像がズームされるにつれ、その姿が露わになる。
その小惑星はただ進んでいるだけではなかった。まるで意志ある者のように星屑をはね除け、軌道をねじ曲げながら進んでいた。――それは“天体”ではなく、“何か”が隠れている証拠だった。
「明らかに人工物だな。まさか……小惑星に偽装していたとは……!」
「軍のデータベースには存在しないのも頷ける」
誰もが言葉を失った。
その施設が、ただの施設ではないのは明らかだ。真っ当な施設なら偽装などする必要がない。
シンジョウ室長は険しい顔で腕を組む。
「――イクシオンか、それとも裏切り者の仕業か。どちらにせよ、オルフェウスの行方と無関係ではなさそうだ」
調査室に再び緊張が走る。
(パパ……待ってて。必ず、見つけてあげるからね!)
ヒカリは拳を強く握りしめ、心の奥で決意を固めた。
だが、ヒカリは気づかなかった。
星々の高みから降りそそぐ“視線”が、彼女たち自身に絡みついていたことに。
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