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星雲の飛翔士 〜アーティファクトの力で世界を巡る〜  作者: いぬは
【第4章】 《アストリア飛翔学院入学編》
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第23話 合格発表と交わる未来

 今、オレたち四人は配達物を無事に届け終え、協会への帰路についている。

 あの騒動を共に乗り越えた仲間だ。いまさら別々に飛ぶ理由もない――そういうことで、ルミナークとレオンの機体、そしてアヤナの赤い機体“ルージュ”が並んで編隊を組んでいた。

 青空の下、三機の飛翔船が規則正しく並んで飛ぶ姿は、ちょっとしたチームみたいで悪くない。


 ふと、前を飛ぶアヤナの機体に目をやり、無線で声をかける。


「アヤナの機体なら、遅れた分を取り戻せるんじゃないか?」


 純粋な疑問だったのだが――


「私だけ仲間外れにするなんて酷いです!」


 無線の向こうから聞こえる声は、明らかにご立腹な様子だ。

 そこへすかさずマイルまで同調する。


「まったく、そういう女心がわからないところは子供よね」


 その口調が妙に楽しそうなのは気のせいだろうか。


 さらに追い打ちをかけるように、無線からレオンの声が割り込んできた。


「スカイ、お前はレディの扱いがなってないぞ」


(……お前も多分わかってないだろ!)


 そう心の中でだけ反論し、オレは操縦桿を握り直した。


 救助作業でだいぶ時間を食ったせいか、帰路にはもう他の受験生の影は見えなかった。

 それでも協会への帰り道は順調で、オレたちは何事もなく学院の駐機場へと戻ってきた。


「だいぶ遅れちゃったけど、不合格にはならないよね?」


 マイルが心配そうな表情をする。


「学院からの要請で救助に行ったんだ。さすがにそれで減点はないだろ」


「これで不合格なら、断固抗議させてもらうぜ!」とレオンが拳を握る。


 そのとき、嫌な声が飛んできた。


「おやおや〜、ずいぶん遅いご帰還じゃないかぁ?」


 振り向けば、第4男――ゾンター。

 そして、いつもくっついている取り巻きその一とその二まで、そろっていやらしくニヤついていた。


「なんだと! こっちは協会からの救助要請で遅くなったんだぞ!」


 レオンが即座に噛みつく。


「はん、言い訳だろう? 要救助者くらい、僕たちだって見つけて協会に連絡したに決まってるだろぉ〜」


 ゾンターが鼻で笑うと、取り巻きどもも「そうそう」と同調してみせた。


「アヤナさんまで、こんな連中に足を引っ張られるとは……災難でしたねぇ」


「ち、違います。私は――」


「大丈夫、わかってますよ」


 ゾンターがアヤナの言葉をかき消し、勝手に話を締める。


 ……だが、オレの中で引っかかるものがあった。


「なぁ、お前たちがエリオさんのところに来たの、オレは見てないけど?」


「エリオ? 誰だそりゃ」


 ゾンターがいぶかしげな顔をする。


 ……どういうことだ?

 要救助者が同時に複数いたのか? それとも、こいつが嘘をついてるだけか……?


「もういいじゃない。行きましょ、スカイ」


 マイルが袖を引く。


「ああ。そうだな」


「だな、くだらねぇ」レオンも吐き捨てるように言った。


「ゾンターさん、失礼します」アヤナが軽く頭を下げる。


 ゾンターはまだ何やら喚いていたが、オレたちは無視して受験生控室へと歩き出した。


 ◇◆◇


 しばらくすると、係員から「最初に説明を受けた広場に集まるように」と連絡が入った。

 オレたちが広場に向かうと、すでに大勢の受験生が集まっている。

 その中に、こちらをギロリと睨みつけてくるゾンターたちの姿があったが……完全に無視だ。


 ――やがて。

 学院長とクラインさんが壇上に上がる。


「まずは皆さん、お疲れさまでした」


 学院長の言葉に、受験生たちから安堵の息が漏れる。これで試験も終わりか――そう思った矢先。


 十数人の探索者風の男女が壇上に現れた。

 会場がざわつく中、オレはその中に見知った顔を見つけて息をのむ。


「……あれ、エリオさんよね?」


「ええ、間違いありません」


 マイルたちも気づいたようで、声を潜める。


 周囲でも「え?」「救助要請の時の……」と受験生たちがどよめき始めた。

 その反応を待っていたかのように、学院長が口を開く。


「お気づきの方もいるでしょう。この方々は、今回学院から皆さんに救助要請をお願いした方々です」


 ――会場に、さらに大きなざわめき。


「今回、クラインさんの提案により“シークレット試験”を実施しました」


 学院長が言い終えると、横に立つクラインさんが一歩前へ。


「これから世界に飛び立っていく君たちに必要なのは、操縦技術だけではない」


 その声は広場全体を震わせるように響いた。


「仲間を、他者を見捨てない――その気構えこそ、飛翔船乗りに不可欠だ。今回の試練は、それを確かめさせてもらった」


 クラインさんの言葉に、受験生たちの表情が一気に引き締まる。

 誰もが、心当たりのある出来事を思い出しているのだろう。


「もちろん、すべての者が完璧に応えられたわけではない。だが――」


 クラインさんは言葉を区切り、広場を見渡す。


「自分の合格を危うくしてでも、最後まで要救助者のそばに残った者がいた。危険を承知で助けに飛び込んだ者もな」


 その視線が、まっすぐオレたちに向けられた気がした。

 胸が熱くなる。


「彼らの判断は、探索者として何よりも評価されるべきものだ。技術より、速さより、まず大切なのは――その心構えだからだ!」


 クラインの言葉に感銘を受けている者、悔しそうに唇を噛む者――表情は様々だった。

 けれど、次第にそのざわめきが、拍手へと変わっていく。


「受験生諸君。これで試験はすべて終了だ。健闘を称える!」


 クラインの宣言に合わせ、拍手の波が瞬く間に大きくなり、広場を包み込む。


 ――こうして、短いようで長かった試験が幕を閉じた。


 会場を包んだ拍手の余韻が、まだ耳に残っていた。

 緊張と興奮、そしてやりきったという充足感が胸の奥に広がっていく。


 マイルが大きく伸びをして、笑顔でこちらを見る。


「終わったね、スカイ!」


「ああ。色々あったけど……楽しかったな」


 レオンは腕を組みながらも、どこか誇らしげに鼻を鳴らす。

 アヤナも小さく笑みを浮かべ、「お疲れさま」と柔らかい声をかけてくれた。


 ――試験会場を出たあと、オレは二人を誘って「お疲れパーティ」を開くことにした。

 乾杯のあと、改めて自己紹介。レオンがアヤナに連絡先を教えてもらった瞬間、大はしゃぎする。


(やっぱりお前もレディの扱いがなってないと思うぞ)


 アヤナはちょっと引きつつも、楽しそうに笑っていた。


 話してみると、アヤナは見た目の凛とした印象とは違い、けっこうお喋り好きらしい。マイルとすぐに意気投合し、女子トークで盛り上がっていた。

 一方のレオンは、予想通りの人懐っこさで、誰とでもすぐに打ち解ける才能の持ち主だった。


 料理が運ばれ、テーブルの上がにぎやかになってきたころ。ふとレオンが真顔になって話を振ってきた。


「なぁ、そういえばガルドゥと戦った時のお前――あれ、マジですごかったな。あんなの初めて見たぜ!」


「本当ね、私も驚きました」


 アヤナが頷く。横を見ると、マイルが「どうするの?」って顔でオレを見ていた。


 少し迷ったが……この二人になら話してもいいかもしれない。


「実はさ……まだ二人に紹介してなかった仲間がいるんだ」


 そう切り出して、オレはノクティのことを紹介した。

 指輪から姿を現したノクティが、いかにも俺様って感じで胸を張る。


「よっしゃ、俺様だけメシにありつけないかとヒヤヒヤしたぜ!」


 最初こそ二人とも唖然としていたが――アヤナはすぐに瞳を輝かせて近寄り、ノクティに一目惚れ状態。第二のマイルかってくらい世話を焼き始めた。

 レオンはというと、驚いたのはほんの一瞬だけ。持ち前のコミュ力で、あっという間にノクティと意気投合して大笑いしている。


(……マイルとノクティが二人に増えたみたいだよ)


 そんな光景を見て、オレは頭を抱えるしかなかった。


 結局その日は、笑い声の絶えないまま夜が更けていった。

 別れ際に、合格発表のときにまた会おうと約束して、オレたちはホテルへ戻った。

 ベッドに横になった瞬間、今日一日の出来事が一気に押し寄せてきて、目を閉じても胸がドキドキしてなかなか眠れなかった。


 ――翌朝。

 俺たちは早めに街へ出て、グラン工房やハイノ村への土産を買い込んだ。

 紙袋を抱えたマイルが「これ持って帰ったらみんな喜ぶよね!」と笑う。


 準備を終え、再び空へ。工房に顔を出せば職人たちが「よくやったな!」と肩を叩き、工房長もクラインさんの名を聞いて口元を緩めた。

 ハイノ村でも土産を渡し、マイルの両親に試験での出来事を話した。


 ――そして十日後。

 オレたちは、合格発表を見に、ふたたびアストリア飛翔学院を訪れた。

 事前にアヤナとレオンにも連絡して、一緒に学院の門をくぐる。


 広場の中央には、大きな掲示板が設置されていて、すでに多くの受験生たちが集まっていた。

 名前を探す視線、肩を寄せ合う震える指先、喜びの声と落胆の吐息――そこには、さまざまな感情が渦巻いている。


「……ドキドキするね」


 マイルが小さな声で呟く。


「大丈夫だよ。ここまでやったんだ。信じよう」


 人波をかき分け、オレたちは掲示板の前へ進む。

 並ぶ名前の列――目が文字を追う。


「……あった!」


「ほんとに!? どこどこ!」


 マイルがオレの肩越しに覗き込み、ぱっと顔を明るくする。


「わたしの名前もある!」


「俺のもあったぜ!」とレオンが声を張り上げる。


「みんな合格ね」アヤナは安堵したように胸に手を当てた。


 その瞬間、全員が自然と笑顔になった。 

 ――そしてオレたちは、春からの学院生活が決まった。

最後までお読みくださいありがとうございます。

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