第22話 ガルドゥ襲来!峡谷の空戦試験
係員の合図と同時に、実技試験第二部が始まった。
オレたちはすぐには離陸しない。
大勢の飛翔船が一斉に飛び立てば、エンジンコア同士が共鳴して不安定になる危険があるからだ。
ルミナークは対策済みで問題ないが、他の受験生の機体がそうとは限らない。
案の定、我先にと空へ舞い上がった機体の中には、エンジンコアが安定せずふらつき、隣の機体と接触しかける受験生もいた。
そんな様子を横目に、出発のタイミングをうかがうオレと、同じく慎重な数人の受験生。
その中には、アヤナの機体と、レオンの姿もあった。
(アヤナは当然として……レオンのやつも、どうやらただのお調子者ってわけじゃなさそうだな)
「マイル、そろそろ出発するぞ」
「了解!」
頃合いを見てルミナークを浮かび上がらせる。スロットルをゆっくり押し込むと、ルミナークのエンジンが低く唸り、機体が滑るように滑空を始めた。
スロットルをさらに上げると、一気に加速する。
――次の瞬間、軽やかに空へ舞い上がった。
「よし、一つめのチェックポイントに向かう。ナビは頼む」
「まかせて!」
風を切る音が心地いい。
操縦桿を軽く引くと、ルミナークは速度を上げ、心地よいエンジン音とともに風を切って進んでいく。
しばらく飛行すると、遠くに一つめのチェックポイントが見えてきた。
混雑を避け、あえて近場ではなく遠目のポイントを選んだおかげで、周囲に他の受験生の姿はない。
遠くに見えたチェックポイントを通過し、マイルが旗を掲げると、係員が手旗で確認のサインを返してきた。
「よし、この調子で次のチェックポイントへ向かう」
その後も数人の受験生とすれ違いながら、オレたちは順調にチェックポイントを通過していく。
やがて――最後のチェックポイントが視界に入り始めた。
最後のチェックポイントまで、あと少し。
ルミナークは安定して飛び、マイルのナビも順調そのもの。
そこへ管制から緊急無線が飛び込んできた。
『こちら学院管制。付近で受験生の飛翔船から遭難信号を受信しました。最寄りの者は救助に向かってください。付近の座標を送信します』
表示された座標は、岩場が入り組む山あいの奥――普通なら通らない場所だ。
「どうする?」マイルが不安げに聞く。
「……決まってる。行くぞ」オレは即答し、操縦桿を切った。
峡谷の入口は狭く、冷たい風が渦を巻いていた。岩壁は鋭く切り立ち、光が差さぬ谷底は不気味に暗い。
奥に進むと、黒煙が立ちのぼっているのが見えた。着陸すると、足を押さえて座り込む受験生が顔を上げる。
「僕はエリオ……助かった。足と機体、両方やっちまった」
膝から血が滲んでいる。
「学院に座標の連絡は?」
「通信が死んでて……」
「マイル、連絡頼む」
「了解」
「ありがとう、助かったよ」
その後、何人かの受験生が駆けつけてきたが、エリオが大丈夫だと伝えるとみんな試験に戻っていった。
「もう大丈夫だ。お前たちまで遅れるぞ」
「怪我人を置いていくわけにはいかないよ」オレはきっぱりと言った。
「だが試験が……」
「気にするな」
「そうよ。わたしなら、一人にされたら心細いし」
「……ありがとう」
また機体の音。現れたのはレオンとアヤナだった。
「大丈夫か!」
「無事ですか?」
「学院に連絡済み。あとは救助待ちだ」
二人は当然のように降りてきて、オレたちと並んだ。
「試験に戻らなくていいのか?」
「怪我人を置いていくわけないだろ!」レオンが笑う。
「そのとおりです!」アヤナも同意。
マイルと顔を見合わせ、思わず笑った。
だが次の瞬間、レオンが眉をひそめた。
「おい、何か聞こえないか?」
峡谷を吹き抜ける風音に混じって、耳障りな甲高い鳴き声が反響してくる。
それはだんだんと数を増し、近づいてきていた。
「この声……ガルドゥ!? こんな場所にまで……!」エリオが叫ぶ。
「ガルドゥ?」
「ああ、小型の淵獣だ。群れで獲物を襲う……鋭い嘴と鎌のような翼でな!」
言葉に、全員が息を呑んだ。
「静かにすればやり過ごせるか?」
「無理だ。この声は“警戒音”。すでに見つかってる!」エリオが震え声で答えた。
谷底の暗がりがざわめく。
岩陰から影が次々と這い出し、夜のように黒い羽を広げて舞い上がる。
黄色い複眼がぎらつき、嘴を打ち鳴らす音が峡谷に響き渡る。
「くそっ……数が多い!」レオンが舌打ちした。
(ノクティの力を使えば……でも、みんなに力を晒すことになる――)
一瞬、迷いが胸をかすめる。
(……いや、命がかかってる。迷ってる暇はない!)
「オレたちで迎え撃つ!」
「本気か?」レオンが目を丸くする。
「スカイがやるって言うなら、わたしは賛成」
「待ちなさい、危険です!」アヤナが止めに入る。
「他に手はあるか?」
「私の“ルージュ”で引き付けて遠ざけられます」
「全部は無理だ。エリオを守りきれない」
レオンが息を吐き、立ち上がる。
「オッケー、いっちょやるか!」
「いいのか?」
「空中戦はちょっと自信ある。ガキの頃から叩き込まれてるからな!」
アヤナが小さくため息をつく。
「はぁ……わかりました。出来るだけ私が引きつけるから、残りをお願いします」
「ああ、任せろ!」レオンが力強くうなずいた。
◇◆◇
谷底の空気が震える。
無数のガルドゥが鋭い羽音を立て、一斉に襲いかかってきた。
「来るぞ!」レオンの叫びと同時に、アヤナの“ルージュ”が咆哮。赤い翼が光を反射し、群れの半分を引きつける。
オレは小声で呼びかけた。
「ノクティ、力を貸してくれ」
(へっ、待ってました!)
指輪が淡く青く光り、飛翔士としての身体能力が飛躍的に上がったのがわかる。
その瞬間、視界の色が鮮やかに研ぎ澄まされる。
ルミナークのエンジンが咆哮を上げ、全身が機体と一体になる。
風の流れすら手に取るようにわかった。
「右上から三体!」マイルの声が鋭く飛ぶ。
オレは操縦桿を切り込み、常識外れの角度で機体を横滑りさせる。
岩壁すれすれを抜けながら急反転――追ってきたガルドゥが慌てて翼を翻した瞬間、攻撃を叩き込む。
青白い閃光が走り、二体が煙を上げて墜落した。
「おいおい……そんな曲芸みたいな動き、普通じゃ無理だぞ!」レオンが笑い混じりに叫ぶ。
「今だけ特別だ!」
だが残りの群れがエリオたちに向かって一直線に迫る。
「まずい!」
急降下するぞ! ノクティ、補助翼制御は頼んだよ!
(おっしゃ、任せとけ!)
身体が座席に押し付けられる。
機体をひねり込み、翼端でガルドゥの群れを切り裂くように突っ込む――数体が多層バリアに触れると、衝撃で吹き飛んだ。
ナビ席からマイルが声を上げる。
「残り四体!」
「全部まとめて落とす!」レオンが急上昇からの反転に入る。
そのタイミングに合わせ、オレはルミナークと完全に同調し、敵の動きを完全に見切る。
二人の機体が十字に交差し、残りのガルドゥを一掃した。
峡谷に静寂が戻る。
オレは肩で息をしながら、ノクティとマイルに礼を言った。
「助かった」
(へっ、相棒なんだから当然だろ!)
「わたしはスカイのナビなんだから、これくらい当然よ」
エリオの震える声が聞こえた。
「な、なんだ……あの動きは……」
「二人とも、ありがとな」
「気にすんな。朝飯前だぜ!」レオンが笑い、「うまくいって良かったです」アヤナも微笑む。
遠くから低いエンジン音が近づいてくる。
協会の救助艇だ。
「ありがとう、助かったよ」。――笑顔でそう言い残し、救助艇はゆっくりと上昇していった。
やがて機影は小さくなり、空の向こうへと消えていく。
エリオが救助されるのを見届け、オレたちは再び操縦席に戻る。
「試験は……まだ終わってない」
そう呟き、ルミナークのエンジンを再び轟かせた。
――協会救助艇内。
「エリオ、大丈夫だったか? まさかガルドゥの群れが現れるとはな」
「ああ、大丈夫だ。それより……あの四人、本当に受験生なのか? 信じられん腕だ」
「ほぉ……そうか。やっぱりクラインさんが気に掛けるだけはあるな」
「間違いない。将来が楽しみだな」
――この事件が試験の結果を大きく変えることになるとは、この時のオレたちはまだ知らなかった。
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