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星雲の飛翔士 〜アーティファクトの力で世界を巡る〜  作者: いぬは
【第4章】 《アストリア飛翔学院入学編》
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第22話 ガルドゥ襲来!峡谷の空戦試験

 係員の合図と同時に、実技試験第二部が始まった。


 オレたちはすぐには離陸しない。

 大勢の飛翔船が一斉に飛び立てば、エンジンコア同士が共鳴して不安定になる危険があるからだ。

 ルミナークは対策済みで問題ないが、他の受験生の機体がそうとは限らない。


 案の定、我先にと空へ舞い上がった機体の中には、エンジンコアが安定せずふらつき、隣の機体と接触しかける受験生もいた。


 そんな様子を横目に、出発のタイミングをうかがうオレと、同じく慎重な数人の受験生。

 その中には、アヤナの機体と、レオンの姿もあった。


(アヤナは当然として……レオンのやつも、どうやらただのお調子者ってわけじゃなさそうだな)


「マイル、そろそろ出発するぞ」


「了解!」


 頃合いを見てルミナークを浮かび上がらせる。スロットルをゆっくり押し込むと、ルミナークのエンジンが低く唸り、機体が滑るように滑空を始めた。

 スロットルをさらに上げると、一気に加速する。


 ――次の瞬間、軽やかに空へ舞い上がった。


「よし、一つめのチェックポイントに向かう。ナビは頼む」


「まかせて!」


 風を切る音が心地いい。

 操縦桿を軽く引くと、ルミナークは速度を上げ、心地よいエンジン音とともに風を切って進んでいく。


 しばらく飛行すると、遠くに一つめのチェックポイントが見えてきた。

 混雑を避け、あえて近場ではなく遠目のポイントを選んだおかげで、周囲に他の受験生の姿はない。

 遠くに見えたチェックポイントを通過し、マイルが旗を掲げると、係員が手旗で確認のサインを返してきた。


「よし、この調子で次のチェックポイントへ向かう」


 その後も数人の受験生とすれ違いながら、オレたちは順調にチェックポイントを通過していく。

 やがて――最後のチェックポイントが視界に入り始めた。


 最後のチェックポイントまで、あと少し。

 ルミナークは安定して飛び、マイルのナビも順調そのもの。

 そこへ管制から緊急無線が飛び込んできた。


『こちら学院管制。付近で受験生の飛翔船から遭難信号を受信しました。最寄りの者は救助に向かってください。付近の座標を送信します』


 表示された座標は、岩場が入り組む山あいの奥――普通なら通らない場所だ。


「どうする?」マイルが不安げに聞く。


「……決まってる。行くぞ」オレは即答し、操縦桿を切った。


 峡谷の入口は狭く、冷たい風が渦を巻いていた。岩壁は鋭く切り立ち、光が差さぬ谷底は不気味に暗い。

 奥に進むと、黒煙が立ちのぼっているのが見えた。着陸すると、足を押さえて座り込む受験生が顔を上げる。


「僕はエリオ……助かった。足と機体、両方やっちまった」


 膝から血が滲んでいる。


「学院に座標の連絡は?」


「通信が死んでて……」


「マイル、連絡頼む」


「了解」


「ありがとう、助かったよ」


 その後、何人かの受験生が駆けつけてきたが、エリオが大丈夫だと伝えるとみんな試験に戻っていった。


「もう大丈夫だ。お前たちまで遅れるぞ」


「怪我人を置いていくわけにはいかないよ」オレはきっぱりと言った。


「だが試験が……」


「気にするな」


「そうよ。わたしなら、一人にされたら心細いし」


「……ありがとう」


 また機体の音。現れたのはレオンとアヤナだった。


「大丈夫か!」


「無事ですか?」


「学院に連絡済み。あとは救助待ちだ」


 二人は当然のように降りてきて、オレたちと並んだ。


「試験に戻らなくていいのか?」


「怪我人を置いていくわけないだろ!」レオンが笑う。


「そのとおりです!」アヤナも同意。


 マイルと顔を見合わせ、思わず笑った。


 だが次の瞬間、レオンが眉をひそめた。


「おい、何か聞こえないか?」


 峡谷を吹き抜ける風音に混じって、耳障りな甲高い鳴き声が反響してくる。

 それはだんだんと数を増し、近づいてきていた。


「この声……ガルドゥ!? こんな場所にまで……!」エリオが叫ぶ。


「ガルドゥ?」


「ああ、小型の淵獣だ。群れで獲物を襲う……鋭い嘴と鎌のような翼でな!」


 言葉に、全員が息を呑んだ。


「静かにすればやり過ごせるか?」


「無理だ。この声は“警戒音”。すでに見つかってる!」エリオが震え声で答えた。


 谷底の暗がりがざわめく。

 岩陰から影が次々と這い出し、夜のように黒い羽を広げて舞い上がる。

 黄色い複眼がぎらつき、嘴を打ち鳴らす音が峡谷に響き渡る。


「くそっ……数が多い!」レオンが舌打ちした。


(ノクティの力を使えば……でも、みんなに力を晒すことになる――)


 一瞬、迷いが胸をかすめる。


(……いや、命がかかってる。迷ってる暇はない!)


「オレたちで迎え撃つ!」


「本気か?」レオンが目を丸くする。


「スカイがやるって言うなら、わたしは賛成」


「待ちなさい、危険です!」アヤナが止めに入る。


「他に手はあるか?」


「私の“ルージュ”で引き付けて遠ざけられます」


「全部は無理だ。エリオを守りきれない」


 レオンが息を吐き、立ち上がる。


「オッケー、いっちょやるか!」


「いいのか?」


「空中戦はちょっと自信ある。ガキの頃から叩き込まれてるからな!」


 アヤナが小さくため息をつく。


「はぁ……わかりました。出来るだけ私が引きつけるから、残りをお願いします」


「ああ、任せろ!」レオンが力強くうなずいた。


 ◇◆◇


 谷底の空気が震える。

 無数のガルドゥが鋭い羽音を立て、一斉に襲いかかってきた。


「来るぞ!」レオンの叫びと同時に、アヤナの“ルージュ”が咆哮。赤い翼が光を反射し、群れの半分を引きつける。


 オレは小声で呼びかけた。


「ノクティ、力を貸してくれ」


(へっ、待ってました!)


 指輪が淡く青く光り、飛翔士としての身体能力が飛躍的に上がったのがわかる。

 その瞬間、視界の色が鮮やかに研ぎ澄まされる。

 ルミナークのエンジンが咆哮を上げ、全身が機体と一体になる。

 風の流れすら手に取るようにわかった。


「右上から三体!」マイルの声が鋭く飛ぶ。


 オレは操縦桿を切り込み、常識外れの角度で機体を横滑りさせる。

 岩壁すれすれを抜けながら急反転――追ってきたガルドゥが慌てて翼を翻した瞬間、攻撃を叩き込む。

 青白い閃光が走り、二体が煙を上げて墜落した。


「おいおい……そんな曲芸みたいな動き、普通じゃ無理だぞ!」レオンが笑い混じりに叫ぶ。


「今だけ特別だ!」


 だが残りの群れがエリオたちに向かって一直線に迫る。


「まずい!」


 急降下するぞ! ノクティ、補助翼制御は頼んだよ!


(おっしゃ、任せとけ!)


 身体が座席に押し付けられる。

 機体をひねり込み、翼端でガルドゥの群れを切り裂くように突っ込む――数体が多層バリアに触れると、衝撃で吹き飛んだ。


 ナビ席からマイルが声を上げる。


「残り四体!」


「全部まとめて落とす!」レオンが急上昇からの反転に入る。


 そのタイミングに合わせ、オレはルミナークと完全に同調し、敵の動きを完全に見切る。

 二人の機体が十字に交差し、残りのガルドゥを一掃した。


 峡谷に静寂が戻る。

 オレは肩で息をしながら、ノクティとマイルに礼を言った。


「助かった」


(へっ、相棒なんだから当然だろ!)


「わたしはスカイのナビなんだから、これくらい当然よ」


 エリオの震える声が聞こえた。

「な、なんだ……あの動きは……」


「二人とも、ありがとな」


「気にすんな。朝飯前だぜ!」レオンが笑い、「うまくいって良かったです」アヤナも微笑む。


 遠くから低いエンジン音が近づいてくる。

 協会の救助艇だ。


「ありがとう、助かったよ」。――笑顔でそう言い残し、救助艇はゆっくりと上昇していった。

 やがて機影は小さくなり、空の向こうへと消えていく。

 エリオが救助されるのを見届け、オレたちは再び操縦席に戻る。


「試験は……まだ終わってない」


 そう呟き、ルミナークのエンジンを再び轟かせた。


 ――協会救助艇内。


「エリオ、大丈夫だったか? まさかガルドゥの群れが現れるとはな」


「ああ、大丈夫だ。それより……あの四人、本当に受験生なのか? 信じられん腕だ」


「ほぉ……そうか。やっぱりクラインさんが気に掛けるだけはあるな」


「間違いない。将来が楽しみだな」


 ――この事件が試験の結果を大きく変えることになるとは、この時のオレたちはまだ知らなかった。

最後までお読みくださいありがとうございます。

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