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星雲の飛翔士 〜アーティファクトの力で世界を巡る〜  作者: いぬは
【第4章】 《アストリア飛翔学院入学編》
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第20話 “最速”と“英雄”

 午前中の筆記試験を終え、オレたちは学院の食堂で昼食をとっていた。


「午後からの実技試験も、頑張ろうね!」


 マイルが食後のコップを置きながら、にこっと笑う。


「ああ。筆記は見直しても問題なさそうだったしな。あとは実技でやらかさなきゃ、合格間違いなしだよ」


 実技試験は二部構成になっている。

 一部は、それぞれの専門科目に応じた実技試験。基本的な操作や知識があれば十分と言われていて、ドランさんたちからも「お前たちなら問題ない」と太鼓判を押されていた。


 二部は飛翔船を使った課題試験だ。こちらは試験官によって内容が異なり、飛翔船乗りとしての資質を見極めるためのものらしい。


「そっかぁ……二部の試験はどんな課題になるんだろうね。簡単ならいいな」


(心配なら、俺様がサポートしてやるぞ)


 テーブルの下から聞こえたノクティの声に、マイルの顔がぱっと明るくなる。


「ほんと?!」


「今回はダメだよ、ノクティ」


(なんでだよ!)


「ノクティが手伝ったら試験にならないだろ。だから試験中ノクティには指輪の中にいてもらう。オレも飛翔士クラスしか使うつもりはないよ」


(ちぇ、つまんねーの)


 そんな話をしていると、不意に背後から声がかかった。


「なあ、相席いいか? 席、空いてないんだわ」


 振り向くと、金色の短髪に笑顔を浮かべた男が立っていた。いかにもお調子者っぽい雰囲気をまとっている。


「ああ、いいよ」


「すまねーな。もっと早く来ればよかったんだけど、アヤナさんが来てるって聞いて、つい見に行っちまってたんだ」


「えっ? アヤナって黒髪の子か?」


「そうそう。……もしかしてアヤナさんのこと知らないとか?」


 オレとマイルは顔を見合わせた。


「ああ、ちょっと見かけたことがあるくらいかな。えっと……」


「ああ、わるい。俺はレオンだ」


「スカイだ」


「わたしはマイルよ」


「スカイとマイルか。よろしくな!」


 少し話しただけだが、その明るい声と笑い方に、悪いやつではなさそうだと直感する。


「それで、彼女は有名なのか?」


 オレが尋ねると、レオンはニヤリと口角を上げた。


「そりゃそうさ。なんたって“最速”だからな。俺たちと同じ歳で、すでに数々の飛翔船レースを総なめにしてる有名人なんだぜ」


「レース……か」


「それが、今年俺たちと一緒にこの学院に通うんだぜ。それにあのルックスだろ、やっぱお近づきになりたいよな?」


「えっ? ま、まあ……?」


 マイルがすかさず口を挟む。


「スカイって、飛翔士にはあまり興味ないよね」


「そんなことないよ、探索者の飛翔士なら憧れてる人とかいるよ。それに――オレは“飛翔船”が好きなんだよ」


「おっ、飛翔船マニアか! いいねぇ。俺は今月号の〈飛マガ〉《飛翔船マガジン》に載ってた、グラディス重工のパンツァー型が一押しだな」


「わかる。グラディス重工は飾らない性能重視を貫いてて好感持てるよな」


「そう、それそれ!」


 飛翔船談義で盛り上がるオレたちを、マイルがじと目で見つめる。


「ねえ、アヤナちゃんの話はどうなったのよ」


 ――“わたしは飛翔船よりアヤナちゃんが気になります!”と顔に書いてある。


「ああ、ごめん。つい夢中になって」


「それでさ、さっきの続きなんだけど、彼女今回の二次試験に参加するんだと」


「でも推薦で入学は決まってるって聞いたけど?」


「ああ、そうなんだけどな。どうも学院長が参加を勧めたらしいぞ。受験生の気合いも入るからってな」


「なるほどね。有名人も大変だな」


 ――それから、しばらく雑談をして過ごす。


「おっと、そろそろ時間だな。お前らも頑張れよ」


「お互いにな」


 ◇◆◇


 一部はそれぞれの専門コースごとの実技だ。

 廊下を進む足取りは自然と早くなる。マイルの受ける航法支援コースとは途中で別れた。


「スカイ、頑張ってね!」


「マイルもな」


 飛翔士コースの会場に入ると、学院の用意した飛翔船がずらりと並び、試験官が淡々と受験生を案内している。


 試験内容は、基本操縦の確認とスラローム飛行のタイム計測などの簡単な操作だけだった。

 半年間、ほぼ毎日ルミナークを操縦してきたオレにとっては拍子抜けするほど簡単で、体が勝手に動く。

 結果も上々で、試験官は「問題なし」といった表情を見せた。


 終わって外に出ると、ちょうどマイルも試験を終えたところだった。


「どうだった?」


「基本的な計器操作だけで拍子抜けだったわ。スカイは?」


「こっちも同じ。これなら大丈夫そうだな」


 ただし――問題はこのあとだ。

 二部の課題試験は、試験官によって内容が異なり、飛翔船乗りとしての資質を測る――いわば本番だ。


 ざわめきが広がる試験場に、学院長と並んで一人の探索者が姿を現した。

 その瞬間、周囲の受験生たちが一様に驚きの表情を見せる。

 もちろん、オレもだ。あの顔を見間違えるはずがない。


 プラチナランク、誰もが知る超有名探索者――クライン。


「おい、あれクラインだろ?」


「ああ、間違いない! 俺、緊張してきたよ」


「後で記念撮影お願いしようかな」


 あちこちから興奮まじりの声が上がる。

 クライン本人はそんな視線を意にも介さず、落ち着いた足取りで試験官席に腰を下ろした。

 そして――続いて入ってきた女性の姿に、場内がさらにどよめいた。

 アヤナ。


 長い髪が揺れ、堂々とした足取りで歩みを進めるその姿に、歓声があがる。


「アヤナちゃん、やっぱり参加するんだね」


「ああ、そうみたいだな」


 試験場の空気が、熱を帯びていくのがわかる。

 まるで観客が集まるレース会場にいるみたいだ――。


 学院長が壇上に立ち、マイクを手に取った。

 試験場のざわめきが、少しずつ静まっていく。


「受験生の皆さん、お疲れ様です」


「試験は次で最後となるわけですが、今回の試験官を紹介します」


 一拍置いて、会場を見渡す。


「皆さんご存じかと思いますが、今回の試験官を――プラチナランク探索者のクラインさんにお願いすることになりました」


 試験場の空気が一気に熱を帯びる。拍手と歓声があちこちで巻き起こる。


「クラインさんは当学院の卒業生でもあり、今や世界中で活躍する探索者です」


 会場の熱が冷めやらぬ中、学院長は続けた。


「――それともう一人。今年から当学院に通うことになったアヤナさんです。彼女の実力は皆さんも知るところであり、推薦という形で一足先に入学が決まっておりますが、この最後の試験には皆さんと一緒に参加することになりました」


 アヤナさんが一礼する。

 ざわめきが再び波のように広がる。


「クラインさんにアヤナさんなんて、今回の試験ヤバすぎ!」


「俺もう落ちてもいいや……」


「合格すればアヤナちゃんとお近づきのチャンスがあるかも!」


 ――完全にアイドル扱いだな。


「はいはい、皆さんの気持ちはわかりますが、お静かに」


 学院長が軽く手を上げると、会場の声が徐々に収まっていく。


「それでは、今回の試験官であるクラインさんから試験内容を発表していただきます」


 学院長と交代し、クラインさんが一歩前へ出る。

 堂々とした立ち姿に、場の空気がぴんと張りつめた。


「今回試験官を任された、探索者のクラインだ」


「みんな、これまでの試験ご苦労だった。これが最後の試験だ」


 鋭い視線を受験生たちに走らせた後、口を開く。


「それでは、試験内容を発表する!」


 その一言で、場内の空気がさらに緊張の度合いを増す。誰もが息をのんだ。


「今回の試験は――配達任務だ」


 小さなどよめきが起こる。だがクラインさんは構わず続けた。


「たかが配達任務――そう思うな」


「いかに迅速に、安全なルートを選定して届けるか。探索者として基本の依頼だ。もちろん、全員が探索者になるわけではないだろう。だが、迅速かつ安全なルート選定は飛翔船乗りとしての基本だ。これができないやつは、飛翔船乗りとして大成するのは諦めたほうがいい。俺はそう思っている」


 言葉には容赦のない重みがあった。

 クラインさんが視線を鋭く光らせる。受験生たちは誰も口を挟まない。


「詳細については今から配る資料に目を通してくれ。出発は一時間後だ。それまでに準備を整えるように」


『未来の“英雄”候補たちの健闘を祈る』


 そう告げると、クラインさんは学院長と再び入れ替わる。

 そして学院長の口から、実技試験第二部の開始が宣言された。

最後までお読みくださいありがとうございます。

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