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星雲の飛翔士 〜アーティファクトの力で世界を巡る〜  作者: いぬは
【第4章】 《アストリア飛翔学院入学編》
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第19話 お嬢様と紋章と学院入試

 カレントポート大使遭難事件からしばらく――。


 あれからオレたちはたくさんの依頼をこなし、探索者ランクもアイアンに昇格した。

 依頼で稼ぎながら、空いた時間はアストリア飛翔学院の入試に向けて勉強。学費も自分たちでなんとかまかなえるくらいにはなった。

 宿は相変わらず、ドラン工房長が好意で部屋を貸してくれている。もちろん、タダで転がり込むわけにもいかないから、たまに工房の手伝いもしている。


 それから、週に二日はハイノ村に帰るようにしていた。

 学院に入学したら、頻繁には戻れないだろうから。

 家の管理はマイルの両親にお願いして、安心して任せられるようにした。


 ――そんな日々が、あっという間に過ぎていく。


 そして年が明け、今年で十七歳になるオレたちは――。

 ついにアストリア飛翔学院の入学試験を受けるため、学院のある学術都市〈アストリア〉へやって来た。


 アストリアは学術都市と呼ばれる通り学びの都で、アストリア飛翔学院のほかにも、様々な専門校や訓練校が集まっている。

 ギアベルグのように、さまざまな文化が入り混じった産業都市とは違い、街の中心には天を突くような学術庁の高層ビルがそびえ、そこから円形状に整然と街並みが広がっていた。

 石畳の通りに面して並ぶ建物は、白や淡い空色で統一され、緑あふれる街路樹と噴水があちこちに見える。空気まで澄んでいる気がした。


「試験って、一週間後だよね?」


「ああ、そうだな」


「アストリアの観光とかしたいよね」


「うまいもん探そうぜ!」


(ノクティはぶれないな)


 オレたちは少し奮発して、学院に近いちょっとお高めのホテルに泊まることにした。


(学院に入学したら寮生活だし、今だけは贅沢してもいいよな)


 ――荷物を置くと、早速街へ繰り出す。


「まずはやっぱり学院を見に行かないか?」


 そう言ってオレたちは学院への道を進む。

 学院の正門へと続く通りは、いわば〈学院の門前町〉だ。

 学院生のためのリーズナブルな食堂やお洒落なカフェ、古書店に文具店、制服を扱う仕立屋まで並び、行き交う人も学生や受験生が多い。

 ここを歩いていると、否が応でも学院の存在感を感じさせられる。


 ――しばらく店をのぞいたり、買い食いをしながら〈学院の門前町〉を抜けていくと、視界の先にそれは現れた。

 歴史のある中世の城を思わせる、堂々たる学院の建物。灰白色の石造りで、高くそびえる塔の上には学院の紋章旗がはためいている。

 校門の前には、オレたちと同じ受験生らしい人たちが、ちらほらと集まっていた。


「わたしたちも、今年からここに通うのよね」


「楽しみだな」


「……なんか、緊張してきちゃった」


「大丈夫だよ。やれる事はやってきただろ」


「そうだよね!」


 オレたちは学院の試験を受けるにあたり、工房長に事前相談していた。

 すると工房長は、元学院生の人たちを集めてくれて、試験の傾向や対策をいろいろ教えてくれたんだ。

 驚いたのは、工房の従業員の半数以上が学院の卒業生だったこと。

 さらに、探索者協会でも顔なじみになった探索者からアドバイスをもらって――。


 やれることは、もう全部やった。そう胸を張って言えるくらいには、準備は整っている。


「じゃあ、そろそろ街の散策に行こうか」


「待ってたぜ!」


「ノクティは散々買い食いしてただろ」


「はん、俺様の胃袋は宇宙なんだよ」


(食べたそばからエネルギーに変換してるんだから、胃袋なんてあるのかな……?)


 そう言って歩き出そうとしたとき、オレたちの横に、黒塗りの高級そうなシャトルが音もなく停まった。

 運転席から降りてきた執事っぽい男性が、恭しく後部座席の扉を開ける。

 そこから降りてきたのは、オレたちと同じくらいの年齢の女の子だった。

 腰まで伸びたストレートの黒髪が陽光を受けてきらめき、キリッとした黒目がまっすぐ前を見据えている。

 その表情には、不思議なくらいの自信に満ちている。


「ありがとうございます、クロフォードさん」


「どこかのお嬢様かな?」


 マイルが小声でささやく。


「そうかもな……あの車の紋章、どこかで見たことあるんだけど……」


(おい! そんなことより早く飯だ!)


 はぁ……ノクティはほんと食い意地が張ってるな。


 そう思っていると、そのお嬢様らしき子がこちらを振り向き、オレと目が合った。


「あら、あなたたちもこちらに入学されるの?」


「え、はい。試験に受かれば、今年から入学予定だよ」


「キミもそうなの?」


「はい。私は推薦で入学が決まっているので、試験は受けませんが……」


「あ、そうだ。オレはスカイ。それから……」


「わたしはマイルよ」


「ご挨拶が遅れました。私はアヤナ。よろしくね」


「……お嬢様、時間が押していますので」


「ごめんなさい、予定があるので失礼しますね。春から一緒に通えるといいですね」


「ああ、そうだな」


「頑張って絶対合格するよ!」


 そう言って、アヤナは校門の中へと歩いていった。

 ――結局、あの車の紋章が何だったのかは思い出せなかった。


 ◇◆◇


(うめー! お、これも最高だぜ!)


「早く飯を食わせろ!」と騒ぎ立てるノクティに急かされ、オレたちはバイキング形式のランチを取ることにした。


 マイルは山盛りの料理を皿に盛って、ノクティの口へ次々と運んでいる。

 一応ペット同伴OKの店を選んだけど、店側はまさかペットがこんな勢いで食べるとは思ってもいないだろう。


(二人は気にしてないけど、周りの視線が痛いから、程々にしてほしい……)


 そんなことを考えていたとき、不意に頭の中で記憶が繋がった。


「……あっ、思い出した!」


「急にどうしたのよ?」と、マイルが不思議そうに首をかしげる。


「あの紋章だよ」


「アヤナちゃんのシャトルに付いてたやつ?」


「そう。それ、第4ファクトリーの紋章だ」


 そう口にした瞬間、マイルの表情がピクリと固まった。


「えっ……ってことは、まさか関係者?」


「おそらくは、そういうことだろうな」


 フォークを持ったまま、マイルは小さく息をつく。


「そっかぁ……」とつぶやく声は、どこか沈んでいた。


 第4ファクトリーには、いい思い出がないからな。


「まぁ、入学した時にでも聞いてみよう」


「そうだね、まずは入試を頑張らないと!」


 会話を締めくくるように、マイルは笑顔を作った。

 それを見て、オレも小さくうなずく。今はとにかく試験が第一だ。


 その後は、満腹で寝てしまったノクティをバッグに入れたまま、街をぶらついてからホテルに戻った。


(……ホテルで目を覚ましたノクティの第一声が「腹減った」ってのは、さすがにどうかと思う)


 そうして過ごした六日間、オレたちはアストリア観光を存分に満喫し、お気に入りの店もいくつか見つけた。

 ――そしてついに、試験当日を迎える。


 校門前まで来ると、オレたちと同じ受験生たちが次々と学院の中へ入っていくのが見えた。

 ざわめきと、少し張りつめた空気。誰もがこれからの数時間に全神経を注ぐ準備をしている。


「筆記試験会場はこちらです。受験生の方は、受験票を持って列にお並びください」


 係員が声を張り上げ、受験生を試験会場へと誘導している。


「よし、行こうか」


 オレたちは校門をくぐり、係員の指示に従って列へ並んだ。

 周りを見渡せば、緊張で顔がこわばっている子、参考書のようなノートを読み込んでいる子、友達と談笑して少しでも緊張をほぐそうとしている子……。

 いろんな表情が、同じ列の中にあった。


「それでは、次の列の方、お入りください」


 オレたちの番が来た。

 試験会場の扉をくぐると、机が整然と並び、机上のモニターにはそれぞれ受験番号が表示されている。

 自分の番号を見つけて席に座ると、横目にマイルを見て、小さくうなずいた。


「……頑張ろうな」


「うん!」


 その一言で、胸の奥にあった不安が少しだけ薄らいだ。


 開始の合図とともに、試験会場は一気に静まり返った。

 出題は基礎的な飛翔船の知識、一般常識まで幅広いけど――正直、みんなに聞いていた通り特別難しいものではなかった。

 オレは落ち着いて回答を進め、ミスが無いか確かめたところで、ちょうど終了の合図が鳴った。


「ふぅ……終わった」


「お疲れさま」


 こうして午前中の筆記試験は、特に問題なく終えることができた。

最後までお読みくださいありがとうございます。

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