第18話 断罪と新たな依頼
救援艇がセリナ大使たちを乗せ、ゆっくりと空へ離れていく。
その機体が雲海の向こうへ消えるのを見届け、オレたちはルミナークに乗り込む。
「……よし、無事に引き渡し完了だな」
「うん。あとは報告だけね」
「早く帰ってメシにしようぜ」
ルミナークのエンジンが低く唸り、再び空を駆け出す。
雲を切り裂き、青空を滑るように――向かう先は、探索者協会ギアベルグ支部だ。
――飛び立ってから一時間後。何事もなく、ギアベルグの街並みが見えてきた。
「ねえ、あれって……あいつらの船じゃない?」
「ああ、間違いない」
「抹殺だ!」
ギアベルグの駐機場には、あの空島でオレたちを襲った三人組の飛翔船が停まっていた。
(依頼の報告と一緒に、あいつらの悪事も伝えておかないとな)
ルミナークを駐機場に停め、探索者協会へ向かう。
協会の前には、今回の依頼に参加していた探索者や、大使の遭難事件を嗅ぎつけた記者たちが大勢集まっていた。
オレたちは人の波をすり抜け、協会の中へ。
――だけど、中も外と変わらず、探索者たちでごった返していた。
肩と肩がぶつかるような混雑の中、ひときわ耳障りな怒鳴り声が響く。
「おい、どういうことだ! 新米のガキどものせいで、こっちは被害を受けたって言ってんだろ!」
「そうだ! あんな新米に協会が依頼を回したせいで、俺たちは危うく命を落とすところだったんだぞ!」
「とうぜん慰謝料を払ってくれるんだろうな! それとも直接依頼した支部長が責任を取るのか!」
視線を向けると――例の三人組が、受付カウンターに詰め寄っていた。
周囲の探索者たちが半歩引きながらも、好奇の視線を向けている。
受付嬢は眉ひとつ動かさず、静かに問い返す。
「つまり、あなた方はスカイさんたちが探索中に無謀な操縦をして崖崩れを起こし、その影響で被害を受けたと主張し、その被害に対し協会に謝罪と慰謝料の両方を求めている……そういうことで間違いありませんね?」
「ああ、そうだ!」
三人組は声を揃えてそう言い、さらにカウンターへ身を乗り出す。
ギルド内のざわめきは一段と大きくなり、空気がじわじわと熱を帯びていく。
周囲の探索者たちの視線には、興味と疑念が入り混じり、まるで舞台の幕が上がる瞬間を待つ観客のようだ。
「――協会に謝罪と慰謝料、ですって?」
そのとき、奥の扉が音もなく開き、二人の女性が姿を現した。
一人は、このギアベルグ支部の長――メイリッサさん。
もう一人は、今回のターゲットであり、カレントポートの大使、セリナさんだ。
場の空気が一気に引き締まり、ざわめきがぴたりと止まる。
「まず、確認なんだけど――スカイ君たちは崖崩れに巻き込まれて墜落したのね?」
「ああそうだ!」三人組の一人が勢いよく頷く。
「奴ら、フラフラ飛んで崖に突っ込みやがって、崖崩れに巻き込まれて墜落したんだ! 俺達も巻き込まれて危なかったんだ間違いねえ!」
「それで、依頼した協会に謝罪と慰謝料を請求、ねぇ」
「そうだよ! 何度言やわかるんだ!」
メイリッサさんとセリナさんが、同時に目を細める。
呆れと冷ややかさをないまぜにした視線が、三人組に向けられた。
「……だそうよ、スカイ君」
ロビー中の視線が、一斉にオレたちへと注がれる。
その重さに、一瞬だけ息が詰まりそうになる――が、オレはゆっくりと口を開いた。
「……墜落? おかしいな。だったら、こうして協会に戻って来られるはずがないと思うけど?」
三人組の顔が、ぴくりと引きつる。
「それに、崖崩れの原因――あんたらが峡谷の壁を撃ったせいだろ」
ざわ、と周囲が揺れた。
観客のように見ていた探索者たちの間に、低いざわめきが広がる。
「なっ、証拠は?!」三人組が強がって口を開く。
オレは腰から取り出した小型端末を、カウンターの上に置いた。
そこにはルミナークの外部カメラが記録した映像――峡谷での威嚇射撃と、崖崩れを引き起こす瞬間が、しっかり映っている。
「これが、証拠だ」
沈黙。
空気が、音を立てて凍りついた。
メイリッサさんが小さくため息をつき、セリナさんと目を合わせる。
「……これ以上、時間を割く必要はなさそうね」
「ええ。協会として、正式に処分します」
三人組の顔色が、見る見るうちに青ざめていった。
メイリッサさんは、冷ややかな目で三人組を見据えた。
「あなたたち三人は、依頼遂行中の探索者を妨害――あまつさえ依頼中の探索者に武力を行使。これは協会規約において、最も重い違反行為よ」
「な、なんだよ証拠なんて――」
「証拠は十分よ」
メイリッサさんは受付嬢に頷き、壁際の大型モニターに映像を映し出させた。
そこには峡谷での襲撃と崖崩れの瞬間、ルミナークが必死に回避する様子が鮮明に映っていた。
ロビー全体がざわつく。
明らかな殺意を持った攻撃――言い逃れはできない。
「あなたたち三人には、探索者資格の即時剥奪。そして、殺人未遂の容疑でギアベルグ治安局に身柄を引き渡します」
「ふざけんな! 俺たちは――」
「黙りなさい!」
メイリッサさんの一喝が響き、三人組は顔を引きつらせる。
「それと――今回の妨害で依頼遂行が危ぶまれた分、協会とカレントポート双方に対する高額な賠償請求が発生します。覚悟なさい」
探索者たちの視線が冷たく突き刺さる中、三人は治安局の隊員に両腕を拘束され、引き立てられていった。
残された静寂を破るように、セリナさんが前に出る。
「スカイ君たち……あなたたちがいなければ、私も護衛も危なかったかもしれない。改めてお礼を言うわ。本当にありがとう」
彼女はオレの手を握り、真剣な眼差しを向ける。
「この功績は、正式にカレントポートからも感謝状と褒賞を贈らせてもらうわ」
「ありがとうございます」
胸の奥に熱が広がる。
メイリッサさんも頷き、受付に指示を出す。
「……さて」メイリッサさんが、少し意味ありげな目をして言った。
「落ち着いたら、次の依頼の話をしましょうか。君たちにしか頼めない仕事があるの」
その言葉に、オレは自然と背筋を伸ばしていた。
――そして、次の冒険が静かに幕を開けようとしていた。
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