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星雲の飛翔士 〜アーティファクトの力で世界を巡る〜  作者: いぬは
【第3章】 《ギルベルグ探索者協会編》
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第15話 ギアベルグ支部からの特別指名

 翌朝、オレたちはさっそく初めての依頼を受けるため、再び探索者協会を訪れていた。

 なぜか今日は、広々としたロビーが人で溢れ、狭く感じるほどだ。


「なんだろう……カウンターのあたり、やけに騒がしいな」


「何かあったのかな? トラブルとか?」


 気にはなったけど、それ以上にオレには、もっと気になることがあった。


「……受けられそうな依頼、ほとんど残ってないね」


 掲示板を見上げると、“指定ランク以上”の文字が並ぶ。

 掲載されている依頼の大半が、アイアン以上のものばかり。

 残っているのは、割に合わない雑務や不人気の地味な仕事だけだった。


「今日は……たまたま少ないだけ、なのかな」


 肩を落としながらつぶやいたそのとき、背後から声がかかった。


「君たち、新人さん?」


 振り返ると、壮年の女性が立っていた。


「えっ……あ、はい。もしかして職員の方ですか?」


「そうよ。さっきから掲示板の前でうろうろしてたから、なにか困ってるのかと思って」


「……実は、オレたちのランクで受けられる依頼がほとんどなくて」


 オレは、気になっていたことを思いきって尋ねた。


「あの、どうしてカッパー向けの依頼って、こんなに少ないんですか?」


 女性は少し困ったように微笑んで、けれど優しい目で答えてくれた。


「それはね……まだ信用がないからよ。たとえばあなたが誰かに仕事を頼むとして、実績のあるベテランと、まだ何もしていない新人、どっちに頼みたいと思う?」


「……やっぱり、ベテランのほう、ですね」


「そう言うことよ。でも焦ることはないわ。最初は地道に、自分たちにできることからこなして、少しずつ信用を積み重ねていけば勝手に上がっていくものよ」


「知り合いにも言われました。“ランクは上げるもんじゃなくて、上がるもんだ”って」


「懐かしいわね、昔よく聞いた言葉よ」


 ふっと目を細めた彼女の視線が、オレの胸元に移る。


「――あら?」


 彼女はオレの服につけたバッジをじっと見つめる。


「そのバッジ……どこで手に入れたの? 昔、知り合いがつけていたものに似てるわ」


「え、あ……これですか? グランさんから渡されたんです」


「……まさか、あなた、グラン工房の関係者?」


「はい。つい最近まで働かせてもらってました。今でも手が空いた時は手伝ってます。もしかして、グラン工房長のことをご存じなんですか?」


「ええ、昔お世話になったの」


 彼女は懐かしそうに目を細めた。


「そうだったのね。ちなみに、工房ではどんな仕事を?」


 興味津々といった様子で尋ねてくる。


「えっと……“コアの調律”をしてました」


「――この年で?」


「はい。自分の飛翔船のエンジンコアも、オレが調律しました」


「……そう。グランさんが調律を任せるってことは、それだけの腕があるってことよね」

 急に思案顔になる彼女。


「ねえ、急だけど、ひとつ“指名依頼”を出したいの。受けてくれる?」


「えっ、依頼……ですか?」


「ええ、ちゃんと説明するわ。少し待ってて」


 そう言って、彼女はくるりと背を向け、カウンターの奥へと入っていった。

 やがて戻ってきた彼女は、書類を手にこう言った。


「実はね、ギアベルグ支部専属の調律師が乗った定期船の航路に、深雲獣が出現して……定期船が運休になってしまったの」


「えっ……」


「軍が調査に向かったけど、再開のめどは立っていないわ。そのせいで、こっちも手が足りなくて困っていたのよ」


「それで……代わりの調律師を探してるんですね?」


「そう。調律って、誰にでもできるものじゃないから……。でも――」


 彼女はオレの顔を見て、微笑んだ。


「そんなときに“グラン工房で働いていた”っていう調律師が現れたわけ」


「それで、オレに依頼を?」


「ええ。“グランさんが認めた”というだけで、十分な信用になるわ」


「でも、オレがやったことあるのは……飛翔船のエンジンコアだけですよ?」


「大丈夫。今回お願いしたいのも、エンジンコアよ」


 そう言って彼女は、依頼の詳細を説明してくれた。


 内容は、協会が保有する旧型シャトルの整備。近ごろ依頼が増えたせいで、輸送用のシャトルが不足し、倉庫に眠っていた機体を再整備することになったという。その矢先、あの深雲獣の事件が起きたらしい。


「……わかりました。オレでよければ、やってみます」


「ありがとう、助かるわ。それじゃあ手続きしましょう」


 そう言って彼女はカウンターの女性職員に声をかけた。


「この依頼の手続きをお願い。最優先でね」


「かしこまりました、支部長」


「えっ……支部長!?」


 思わず聞き返すオレに、彼女はにっこり笑った。


「そうそう、挨拶がまだだったわね。私はこのギアベルグ支部の支部長、メイリッサよ」


「お、オレはスカイです」


「わたしはマイルです!」


「スカイ君にマイルちゃんね。覚えたわ」


 メイリッサ支部長は立ち上がると、軽やかに言った。


「シャトルは協会の駐機場にあるから、案内するわ。ちなみに君たちの飛翔船も、そこに?」


「はい、同じ駐機場に停めてます」


「ちょうどいいわね。じゃあ出発しましょうか」


「えっ、一緒に来てくれるんですか?」


「もちろんよ。発注者は私だし、それに君たちはまだ新人でしょう?」


 そのままオレたちは、メイリッサ支部長とともに駐機場へと向かった。

 歩きながら、彼女がふと尋ねてくる。


「ところで、君たちはどこのメーカーの船にしたの?……まさか“第4”の船じゃないでしょうね?」


 その名を出したとたん、彼女の表情が曇った。どうやらいい印象はないらしい。


「いえ、船はグラン工房長のオリジナルです」


「――えっ!?グランさんの……オリジナルなの!?」


 メイリッサさんは目を見開き、まるで時間が止まったかのように固まった。


「どれだけお金を積まれても、認めた相手にしか船は造らないっていう、あのグランさんが……」


 そんなやりとりをしているうちに、駐機場に到着した。


「本当はすぐにシャトルの倉庫に案内するつもりだったんだけど……」


 メイリッサさんは足を止め、にっこり笑った。


「オリジナルなんて聞いたら、君たちの船、俄然見たくなっちゃったわ」


「あ、はい。えっと……こちらです」


 オレが指差す先には、白銀の飛翔船ルミナークが静かに佇んでいた。

 その機体には、グラン工房のステッカーがさりげなく貼られている。


「ああ、あれね。変わったデザインね」


「はい。“ルミナーク”って名前なんです」


「ルミナーク……素敵な名前ね」


 メイリッサさんはその名を口にすると、足早にルミナークの周囲を見て回り始めた。

 機体を眺め、フレームを叩き、接合部を覗き込む。そして――懐から取り出した計測器を、コアにかざした瞬間。……固まった。


「……ちょっと、スカイ君!? これは何よ!!」


「えっ、えっ!? どうかしましたか!?」


 オレとマイルは慌てて駆け寄った。


「このコア……このサイズで出力限界が……巡洋艦クラス!? いえ、それ以上かもしれないわ!」


「それになによ、この伸び代しかない設計は!」


「それは……」


「しかもこの装甲、重力制御フレームよね? 初めて見る……なにこれ……武装も控えめすぎて逆に怪しい……もしかして……」


「え、えっと、メイリッサさん……?」


「ごめんなさい、ちょっと取り乱しちゃったわ」


 彼女は頬に手を当て、驚きを隠しきれない様子で言った。


「でも本当にすごいわ……これ、ただの船じゃない。ポテンシャルが異常よ。しかもこの最高出力の数値、出力限界に対して低すぎる。わざと抑えてあるわね? これ、グランさんの判断でしょ?」


「……はい。オレたちの実力が追いつくまではって」


「ふふ、さすがね。性能に頼りすぎて、自分の実力と勘違いする――新人にありがちな失敗だもの」


 メイリッサさんは目を細めてルミナークの機体を撫でた。


「君たち、いい船に出会ったわね。大事にしなさいよ」


「……はい、もちろんです!」


 ルミナークを褒められると自分のことのように嬉しくなる。


「それじゃ、シャトルの倉庫に案内するわね」


 ――オレたちはメイリッサさんに案内され、倉庫にたどり着くと中にはいる。

 そこにはシートを被った飛翔船が五機並んでいた。

最後までお読みくださいありがとうございます。

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