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星雲の飛翔士 〜アーティファクトの力で世界を巡る〜  作者: いぬは
【第3章】 《ギルベルグ探索者協会編》
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第14話 探索者への第一歩

 昨日、念願だった初フライトを終えたばかりのオレは、朝からルミナークの点検作業に取りかかっていた。

 今日は探索者協会に向かい、正式な登録を済ませる予定だ。その前に、もう一度しっかりとルミナークの状態を確かめておきたかった。


 一方マイルはというと、「お弁当作ってくるね」と嬉しそうに厨房へ向かっていった。

 ノクティもその後をついて行ったけれど、あれは完全につまみ食い目的だ。「味見も仕事の一部だ」とか言ってたけど、もう完全にただの“食いしん坊キャラ”になっている。


 ――そのとき。

 重厚な足音と共に、グラン工房長がゆっくりと近づいてきた。相変わらずの無骨な雰囲気に、思わず姿勢を正す。


「どうだ、メンテナンスの調子は?」


「はい。昨日の慣らし運転のあと、ノクティが全体を調整してくれたので、今はオレが最終チェックをしています」


 工具を手に、船体の接合部を確かめながら答える。


「ほう……精霊ってのは、ほんとに便利なもんだな。だがな、あまり甘えてばかりじゃ、お前自身が育たんぞ」


 グラン工房長は腕を組み、鋭い目でオレを見た。

 その視線は厳しいけれど、どこかオレたちへの期待を含んでいるようでもあった。


「はい。わかっています」


「ならいい」


 短く言って頷くと、工房長は懐に手を入れ、何かを取り出した。


「……で、今日は探索者協会に行くんだったな?」


「はい。言われた通り、マイルと二人で登録してこようと思っています」


「そうか。なら、これを持っていけ」


 差し出されたのは、金属製の小さなバッジだった。


 それはグラン工房のロゴによく似ていたが、中央の大きなスパナの両脇に、計四本の小さなスパナが刻まれている。全体的に年季が入っていて、長く使い込まれたものだと思った。


「これは……?」


「昔、ワシが探索者をやっていた頃に付けていたバッジだ。今は使う機会もないが、何かの役に立つかもしれん。……まぁ、縁起物みたいなもんだな」


 その目に、どこか懐かしさがにじんでいた。

 大切な記憶と共にあったバッジなのだろう。オレは両手でしっかりと受け取り、胸の奥が少し熱くなるのを感じた。


「ありがとうございます。大事にします」


 そう言って、オレは服の左胸にそのバッジを付けた。


「ふん……で、他の二人は?」


「二人とも厨房で、お弁当作ってます」


「そうか。なら、ワシも味見でもしに行くか」


 ふっと口角を上げ、工房長は踵を返した。その背中は、どこか楽しげで――オレは思わず笑ってしまう。


(……弁当、ちゃんと残ってるといいけど)


 ◇◆◇


 それからしばらくして、マイルとノクティが厨房から戻ってきた。


「おかえり。……ずいぶん遅かったな?」


「ティーちゃんと工房長がね……」


 その表情から察するに、作ったそばから二人がつまみ食いしていたのは間違いない。

 ノクティは何事もなかったかのように、澄ました顔だけど……若干きまずそうにしている。


「よし……それじゃ、そろそろ出発するよ」


「うん!」「おう……ふぁ~、腹いっぱいで眠いぜ」


 ノクティが欠伸をしながら伸びをする。


 目的地である探索者協会ギアベルグ支部は、ギアベルグの中心部にあり、グラン工房からは飛翔船で向かう。

 もっとも、探索者協会の建物には着陸スペースがないため、オレたちは少し離れた協会専用の着陸スペースに駐機してから向かうことになる。


 探索者協会がある街の中心部は背の高い建物が建ち並び、上空には広告艇《宣伝用の小型艇》が行き交い、地上では人々の賑やかな声が交錯していた。

 通りには商人、技師、旅人といったさまざまな職業の人々が集まり、ギアベルグが“産業都市”と呼ばれるのも納得できる光景だった。


 やがて、目的の建物が見えてきた。


「それじゃ、行こうか」


 探索者協会――金属製の堅牢な門構えと、正面に掲げられた翼と剣を象ったエンブレムがひときわ目を引く。

 重厚さの中にも、どこか誇り高い気配を感じさせる建物だった。


 中へ足を踏み入れると、落ち着いた照明に包まれた受付ロビーが広がっていた。

 いくつもある受付カウンターの中で、オレたちに気づいた受付のお姉さんが、にこやかに声をかけてきた。


「探索者協会ギアベルグ支部へようこそ。本日は、どのようなご用件でしょうか?」


「あ、ええと……探索者登録をしに来ました」


「かしこまりました。それではこちらの申請用紙に必要事項をご記入ください。あと、飛翔船をお持ちでしたら、こちらに登録番号のご記入もお願いします」


 オレとマイルは並んでカウンター脇のテーブルに腰かけ、用紙に記入を始める。名前、年齢、連絡先、所属地……思ったよりも記入項目が多くて、ちょっと緊張する。


 ルミナークの登録番号は、あらかじめ工房長から聞いていたものを記入した。


「はい、確認いたしました。それでは、探索者証をご用意するのに少々お時間をいただきます。本日、なにかご依頼は受けて行かれますか?」


「いえ、今日は登録だけで大丈夫です」


「承知しました。それでは、こちらの待合スペースでお待ちください」


 促されて、待合室のソファに腰を下ろし、ふと周囲を見渡してみる。

 大きな掲示板には、討伐依頼や配送依頼、調査依頼など、さまざまな依頼がずらりと並んでいる。なかには“危険”の赤いマークがついた高難度らしき依頼もある。


 出入り口の方では、ちょうど任務を終えて戻ってきた探索者たちが、報告の列をつくっていた。

 ベテラン風の男、研究者風の女性、そしてまだ制服のような装備を着た若い新人――年齢も格好もバラバラだが、それぞれがこの場に自然に馴染んでいるのが印象的だった。


 誰かが任務の報告を終えて仲間と笑い合う声が聞こえる。

 緊張した面持ちで受付に書類を差し出している新人の姿もあった。

 その光景に、思わず見入ってしまう。


「……いろんな人がいるんだね」


 隣でマイルがそうつぶやく。


「ああ……オレたちと同じくらいの人たちもいるな」


 マイルとそんな事を話していると、受付から探索者証が用意できたのでカウンターまで来てくれと言われた。


「お待たせしました。こちらがお二人の探索者証になります」


 手渡されたカードは、思っていたよりもずっしりとした銅製で、表面には自分の名前が記されていた。


「現在のランクは“カッパー”――初級ランクになります」


 受付のお姉さんが丁寧に説明してくれる。


「探索者のランクは、下から順に

 カッパー(初級)

 アイアン(中級)

 シルバー(上級)

 ゴールド(エリート級)

 プラチナ(国家・特務級)

 ――となっております」


 なるほど。最初は全員がこの“カッパー”から始まるってことか。


「それでは、登録は以上となります。ようこそ、探索者協会へ」


「ありがとうございました!」


 オレとマイルは揃って頭を下げ、協会の建物をあとにした。

 ――そして、グラン工房へ戻るなり、オレたちはまっすぐ工房長のもとへ向かった。


「探索者登録、してきました!」


 そう言って、できたての探索者証を胸を張って見せる。


「おう、最初はみんなカッパーからだ。焦らず、着実にな」


「はい!」


 工房長は少し笑ってから、真顔になる。


「ランクってのはな、無理に“上げる”もんじゃない。“上がる”もんだ。ちゃんと実績を積み重ねれば、自然と認められてくる」


「……わかりました!」


「よし、じゃあ武装を解禁してやるか。……まあ、封印を解くだけだがな」


 工房長はそう言って、ノクティに何やら細かく指示を出した。

 ノクティは得意げな顔で「任せろ」と言い放ち、調整作業に取りかかる。

 まるで機体の構造をすべて知り尽くしているかのように、あっという間に作業を終えてしまう。


「よし……この武装だが、封印は一切していない。使う飛翔士の力に同調するように調整してある。

 つまり――この船はお前と一緒に“成長する”ということだ」


「オレと一緒に……?」


 ルミナークと一緒に成長する――そう思った瞬間、胸の奥が熱くなった。

 これから、どんな出会いがあって、どんな空を翔けるのだろう。

 そのすべてを、ルミナークと共に乗り越えていける気がした。


 ――いよいよ、オレたちの冒険が始まる。


 その実感が、体の奥から込み上げてきて、じっとしてなんていられなかった。

最後までお読みくださいありがとうございます。

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