第十ニ話「図書室ミッション!」
みんな!静かに!先生怒るよ…
朝の学園はいつもより静かに始まった。
グレイは隣の部屋のアーシェの元気な声に引きずられながらも、眠気眼で部屋を出る。
「グレイ〜、今日はお願いがあるんだ〜」
アーシェが笑顔で近づいてくる。
「なに?」
「図書室の魔法薬の本を友達に借りてきてほしいって頼まれちゃって〜。私も付き合うから!」
グレイはため息をついた。
「図書室か……あそこはマナー厳しいからな」
アーシェは目を輝かせた。
「だから面白そうなんだよね!行こう行こう!」
二人は足早に図書室へ向かう。廊下の途中で、先輩が近づいてきた。
「図書室は声を出したら即アウトだぞ。司書のミラ先生はかなり厳しいからな」
「マジかよ……」とグレイは呟き、少し身構えた。
図書室の扉を開けると、そこは異様なまでに静かだった。
「いらっしゃい。話し声は厳禁です」
眼鏡をかけた冷たい瞳の女性が現れた。
「ミラ=ヴェルグラスです。魔法図書の管理は私の責任。静粛にお願いします」
アーシェは少し緊張しながらも、嬉しそうに本棚を眺める。
だが、アーシェが声を出してしまい、ミラ先生に睨まれてしまう。
「小声で話すのです。理解しましたか?」
二人はこっそり会話を続け、本を探し出した。
依頼された本は高い棚にあり、グレイが無言で取って渡す。
アーシェは「ありがとうグレイ〜」と普通に言ってしまい、またもミラ先生の鋭い視線を浴びる。
ミラ先生は無言でその場を離れたが、二人は息を殺して笑いを堪えた。
その後、グレイはふと目についた古びた魔導書に手を伸ばす。
「これは……閲覧禁止の本か」
ページをめくると、そこには古代の全属性魔法の儀式についての断片が書かれていた。
「面倒だ……でも、これは気になるな」
本を閉じ、二人は依頼を果たし学園を後にした。
夕暮れ色に染まる学園の道を、二人は静かに歩いていた。
「また図書室、行きたいな〜」
アーシェがふわりと声を弾ませる。
「俺はあの静けさは苦手だな……」
グレイが苦笑する。
そんな会話をしながら寮の前に着くと、アーシェがふと立ち止まった。
「グレイ、今日はありがとう……疲れたでしょ?」
言いながら、そっとグレイの肩に体を預けてきた。
「……アーシェ?」
驚きながらも、彼は何も言わずじっとそのままにしていた。
冷たい風が吹く中、アーシェの体温が伝わってくる。
しばらくして、彼女の呼吸が次第に穏やかになり、いつの間にかそのまま眠ってしまったことに気づいた。
「……おいおい、まったく……」
少し照れくさそうに笑いながらも、グレイは静かに彼女をおぶって彼女の部屋まで連れて行った
二人の距離が、ほんの少し縮まった夕暮れだった。