#2
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次回の投稿は本日の15時頃を予定しています
「で? その噂話って?」
担任からの叱責も無事終わり、休み時間に入ると僕はすぐに磯田に話しの続きを求めていた。
「やっぱお前きになるんだろ?」
磯田の目が弧を描いている。まるで磯田の策略に溺れたように感じて非常に癪ではあるが、今はいいとしよう。
「あんな途中でやめられたら誰だって気になるだろ。それに噂話なんて学校生活において朝の星座占いみたいなもんだろ」
「星座占い?」
「そう、星座占い。毎日やってて見飽きてるしどうでもいいけど、でもなぜか一度みると自分の運勢が分かるまでみるちゃうだろ? それと一緒だよ」
「なんだよそれ? お前例え下手じゃね?」
磯田は急に僕を見下し笑っている。
「そんなことねぇよ。思春期の子供を同じ建物に何百と押し込めてるんだ。毎日どこかしらで誰かの噂が流れてるし、どうでもいいけど一度きいたら後が気になるんだよ」
磯田は「あー」と恐らくよくわかってないが、ここは話を合わせておこうといった相槌をいれた。
「で? その噂って?」
僕は話を本題へと戻す。
「お前、消える橋ってしってる?」
「消える橋?」
「そう、消える橋だ」
「橋が消えるのか? どうして?」
「わからないけど、消えるんだよ。渡る時はあったはずの橋が渡ってる途中で突然消えるらしい。毎年何人もそれで亡くなってるんだよ」
「なんだよそれ。消えるなんてありえないだろ、それにそんなのただの殺人橋じゃないか」
磯田は唾をのみ喉を上下させた。好奇心に少し恐怖が混ざった顔をしている。
「ま、まぁ、そうだよな。そんなのあるわけないとは俺も思ってんだけどな、で、俺が話したかったのは…」
磯田の話はつづいていたらしいが僕は最後まできかず思ったことを口にする。
「まさか噂って、末藤先輩がその橋を渡ったったから行方不明になったっていうんじゃないだろうな?」
僕がそういうと磯田はムスッとした。全校集会の時と同じ顔だ。
「おい、全部いうなよ。最後のオチをいう権利は話し噂をもちかけた側にあるんだぞ?」
と案の定怒っておりくだらない理論を展開した。
そしてもちろん僕はその理論を無視して話を進める。
「仮にそんな橋があったとして、末藤先輩がその橋で死んだってなんでわかるんだよ?」
それがさ、と椅子の背もたれに肘をかけ身を乗り出す「あんまり大きな声じゃ言えないんだけど、実はその消える橋に行く事を前日に、クラスで自慢してらしいんだ。ダセェだろ?」
磯田は小馬鹿にしたように笑う。
「自慢? 自慢になるのかそれ?」
「ヤンキー特有の俺はそんなもん怖くねぇぜアピールだろ? くだらないよな」
「くだらないな」
ここには共感する。
「なぁ、俺達で見に行かね?その橋」
どうやら磯田のなかでは恐怖よりも好奇心が勝ったらしい。噂の続きを求めておいてなんだが、僕はこの話題に少しも興味が持てないでいた。
「行ってどうなるんもんでもないだろ。橋なんて見てどうするんだよ。 それに俺達が行ったときに消えてたら見れないだろ」
ため息に混ぜて、わかってないなぁ、と呟いたあと「あのなぁ、西澤、浪漫だよ」と僕の肩に手をのせる。
目を輝かせているが、人が亡くなっている橋を見に行くのに浪漫は不謹慎すぎないかと言いたくなる。
このままだと本当に見に行くことになりそうなので、この辺で噂話しを切り上げようと思い、新たな話題を考えていると、磯田の好奇心に加勢するかのような声が聞こえる。
「私もいく!」と瀬名が栗色の瞳を爛々と輝かせ、ショートボブの髪を踊らせながら近づいてきていた。
「マジかよ? 瀬名も行くのかよ? 俺は西澤と二人で行こうと思ってたのによ」
磯田は顔を赤くさせチラチラと瀬名をみていた。瀬名のことを意識しているのだろう。こいつは女子なら誰でも意識するタイプだ。誰が見ても照れ隠しだとわかる磯田の言動を僕は心底恥ずかしいやつだと思いながら観察する。
「ねぇ!西澤!私もいくから!つれてって!」
なぜ僕に、と僕は思ったのでそのまま口にする。
「なぜ僕に?」
瀬名が目を丸くし「え?西澤しかいないじゃん」と答える
「え?」僕しかいないの意味がわからない。それよりも嫌な予感がして恐る恐る磯田に視線を送ると嫌な予感はやはり的中した。
「あーあ、俺いかね」
やはり不貞腐れいた。めんどくせぇ。
「おい、瀬名!この話持ち出したのは磯田なんだから磯田といってこいよ」
あ、と瀬名はそこで初めて磯田を認識したかのように驚いた顔をする。
「え? 磯田もくる? どっちでもいいけど」と火に油を注ぐかのような発言をする瀬名に「おい!」と言わずにはいられない。
磯田はふんっと鼻を鳴らした。
「いや、俺はいかね。お前らだけで行ってこいよ。仲良いいみたいだし。だいだいこんなの朝の星座占いみたいなもんだろ? くだらね」
さっき批判した僕の例えを磯田は当たり前のように引用した。が、そんなのは慣れっこだ。
こいつとっての言葉は女子と仲良くするためのツールでしかなく発する言葉に主体性なんてほとんどない。
「え? 星座占い? どうして」と意外にも瀬名が食いついた。
「だってそうだろ? 学校なんて思春期ばかり閉じ込めてるとこなんだから噂話なんて毎日あるしいちいち気にしてたらきりないだろ」
あはは、と瀬名がわらっている。その表情をみて、「笑ってんじゃねぇよ」と露骨に照れる友人を前に僕は哀れみすら感じていた。
こいつは瀬名が仮に、自分のために学校辞めてほしいといえば明日にでも辞めるだろう。
「朝の星座占いかぁ、たしかにどうでもいいけど一度みると最後までみちゃうね。磯田、上手いこというじゃん」
「ま、まぁな」
「ねぇ、じゃあ磯田も行こうよ!」どうやら瀬名の中で磯田の存在が正式に認識されたらしい。
「え?うーん、どうしようかな、ま、まぁ、せ、瀬名がそこまで言うなら……」
僕はあえて反応しなかった。磯田はこういうやつだ。
「じゃあ決まりね!西澤も磯田も常に暇でしょ? いつ行く?」
いや、2人で行ってきなよ、と口しようとしたとき、察したのか磯田が釘をさす。
「西澤!いくんだよ!お前も!」と目を血走らせ僕に訴える。彼はなぜか必死だった。
僕は諦めたように口を開く「はぁ、わかったよ。行くよ。それで? その消える橋はどこにあるんだよ?」
磯田は急にぎこちない笑顔をつくり申し訳なさそうに指で頭をかいた。
「それが、よくわからないんだ…」
「じゃあどうやって行くんだよ」
僕は呆れる。が、しかし、これで行かなくて済みそうだ。
「私、ちょっと心当たりがあるというか」と瀬名が顎に指を当てる。
「心当たり?」
僕と磯田が同時に反応する。
「実はミナ先輩がいってたんだけど、末藤さんの他にもう一人消える橋に行ってたって」
「ミナ先輩って、瀬名が入ってる陸上部のエースじゃん」
磯田がなぜ知っているのかはさておき、僕は瀬名に質問する。
「そのミナ先輩は末藤先輩と同じクラスなのか?」
「ううん、隣りのクラスなんだけど…」
瀬名は言いずらそうに口ごもっている。
「隣りならどうして知ってるんだよ?」
もちろん磯田はそんなのお構いなしに答えを求める。
「実は、ミナさんと同じクラスの相田さんって人をつれてったって」
「相田さん? 末藤先輩に友達なんていたの?」と僕はきく。
「実はその、相田さんは末藤さんからいじめをうけてたらしくて、その時も橋の噂をきいて興味をもった末藤さんが無理やり連れてったって」
「とことんダセェな」と磯田は腕を組む。
「なるほどな、その相田先輩にきいたら橋がどこにあるのかわかるってことか」
「うん、でも相田先輩も今回の末藤先輩の行方不明についていろいろ疑われているから話してくれないかも」
「疑われてる?なにを?」と磯田は首を傾げているが、瀬名がそういうのは理解できる。最後に会ったのが相田という人でそこから末藤先輩が行方不明となれば当然の嫌疑だ。むしろ疑われない方が不自然といえる。
「もし、話してくれなかったらその時は諦めればいい。必要以上に探ってめんどくさくなっても嫌だし」と僕は一応諦める道も提示しておく。