#1
短編でミステリー小説を書きました!
5回にわけて投稿していく予定です
完結しているので、途中で終わることはないのでご安心ください。
空の色は灰色だった。曇りと言われればそうかもしれない。でも、僕から見えてる空が灰色なだけで本当に灰色なのかはわからない。
「おい、ここじゃねぇよ、どこに橋があるんだよ? あ? 」末藤達也は不機嫌そうに口を尖らせた。
「いや、でもネットで確認したし、ここだって携帯には…」
液晶画面にはたしかにそう表示されている。通信制限か容量が重いのか画面の中の地図上にある矢印は10分前から動かない。
「あーあ、てめぇがいま噂になってる消える橋があるって言うからここまでついてきてやったのに、なんだよこれ」
何度か足を地面に強くこすり、鋭い眼光を僕に向ける。威嚇をされていると僕ははっきり感じていた。
「ごめん」
「ごめんじゃねぇよ。どうすんだよ。俺今日予定あったんだぞ? どう責任とるんだよ」
「……」
予定があるなんて初耳だ。それにこの話題を持ちかけ、乗り気じゃない僕に無理やり案内させて連れてきたのは末藤のほうだった。
「お前明日学校で罰ゲームな。女子の前で魅惑のダンス踊らせるから」
ギャハハと露骨に下品に笑う末藤の顔が僕の脳に直接覆いかぶさった。
「い、いやだよ」
「はぁ? 拒否権なんてねぇから。ぶっ飛ばされたい?」
「いや、どうしてもしなきゃだめ?」
覆いかぶさった末藤の表情や声は僕の視界をどんどん暗くしていく。
「あたり前だろ。てめぇが悪いんだからな。文句あるのか?」
「いや、ないよ」
殺すしかない。頭じゃなく、本能と呼べるようなもので全身でそう感じた。けど、理性がないのかといわれればわからない。ただ、冷静だとは思う。冷静に殺すしかないと判断したんだ。
末藤が僕に背中をみせる。
「あ、そうだタクシー代くれよ。お前のせいでここまできたんだから。俺はもう帰るからよ」
「ああ、いいよ」
茂みのようにザワザワと動く後頭部を眺めながら顎が外れるのではと恐怖を覚えるほどのあくびがでる。
オホン、とわざとらしく咳払いをして学校長が新年度の挨拶を始める。
「えー、晴天のつづく春の……」
僕は校長の声を聴きながら、次こそ外れるのではとあくびを恐れている。つまり退屈なのだ。
「おい、西澤…」
肘で肩をつつかれ、僕はチラリと横を見る。
同じのクラスの磯田が、俺も同じ心境だぜといわんばかりの不敵な笑みと、謎の仲間意識を発動させながらなにか言いたげだ。
「おい、前むけよ。怒られるぞ」
「誰にだよ。それより、こんなつまらない校長の話しよりよっぽど面白い話しあるんだよ」
僕は、あくまで話しかけてるのは磯田で仕方なく会話に付き合っているという体裁をとるため前を向いて答える。
「面白い話し?」
「そうなんだよ、お前さ、最近あのヤンキーみた?」
「ヤンキーって、うちのクラスにヤンキーなんていないだろ」
「ちげぇよ。ウチのクラスじゃなくて一つうえの……. ほら上の学年の」
磯田が言っているヤンキーはどうやら三年の末藤辰巳のようだ。
「…… ああ、末藤先輩か? そういや、最近みてないな。この前停学くらってたし退学にでもなったんだろ?」
「いや、それが行方不明らしいんだよ」
「行方不明?」
「そうだよ、その先輩が…」
「あ、私もその話し知ってる」と振り返り目を見開いているのは同じクラスの瀬名梨花だ。
「おい、邪魔すんなよ。俺がせっかく話してたのに」
磯田は自分で積み上げた積み木を崩された子供のような反応をする。
気にもとめず瀬名は話を続ける。
「その話しって、今流行ってる学校の噂が関係してるらしいよ」
「言うなよ!」と磯田が声を張り上げたとこでこの話はお開きとなる。気づけば校長は話を止めてこちらを睨みつけている。自然と周りの生徒もこちらを注目せざるを得ない状況だ。
「やば、おい、だから言ったろ、前向けって」
僕達は話を中断し、あからさまにバツが悪そうにうつむいた。横目で体育館の壁際に立っている担任をみると静かな怒りに震えているのがわかる。僕は、はぁ、とため息をつきたくなった。なぜならきっとこのあとで担任からの呼び出しまでの未来が確定したからだ。