第6話 文芸部③
「――じゃあ、次はまよせんの子!」
「あー。奥村ちまり、一年B組です。ジャンルはまだわからないけど……タイムリープもの、書いてみたいです……」
ジャージ姿のロリ少女の名前は奥村ちまりというそうだ。
確かに名前の通りちんまりしており、おそらく身長は百五十センチ以下。ただ、全くちんまりしていない部分もある。
タイムリープか。俺も大好きなジャンルだ。タイムリープというだけでなんだかワクワクするんだよな。
舞台が異世界なのか現代なのかはわからないけれど、奥村さんはタイムリープという設定に何か思い入れがあるのだろうか。
「おお、タイムリープ……いいじゃん! 昔に戻りたいとか、未来に行ってみたいとか思うことあるよね! ちまりちゃん、期待してるよー」
「はい……」
なんというか、奥村はダウナー系だ。
テンションが基本的に低いというか、瞼も半分しか開いていない。それがノーマルなんだろうけど、奥村は声を大きくして叫ぶようなことはあるのだろうか。少し気になる。
「じゃあ最後、君ぃ!」
「はーい。ボクは安茂里小路るい! ちまりんと一緒の一年B組だよー! ジャンルはミステリーを書いてる! ほら、事件解決モノとか面白いでしょ! 気軽にるいるいって呼んでねー!」
なんて? あもり……? 難しい名字だな。
それに一人称が『ボク』って……もしかして男なのか? でもスカート履いてるし……これが噂に聞くボクっ娘なのか!?
それにこの可愛い見た目でミステリーを書くのか。失礼だけど軽そうだしバカっぽくも見える……でも意外と頭良いのかな。
「へえー! ボクっ子! んで、るいるいの性別はどっちなのかな?」
「せんぱーい。どっちの性別でもいいじゃないですぁー。でも、そんなに気になるなら…………ほらぁっ!」
「ちょっ、お前っ!?」
椎木先輩がるいるいの性別を聞いたあと、突然椅子から立ち上がり、自らのスカートの裾を持ってめくり上げたのだ。
いきなりの行動に俺は顔が赤くなる思いをしたのだが、このあとそれ以上のことが起こった。
「見ちゃダメええええっ!!」
「んもっ!?」
突然、目を塞がれたと思ったら後頭部に柔らかな感触を得た。
ふわふわマシュマロとろとろオムレツぅっ!?
……積み重なったストレスも吹っ飛ぶようなふんわり感とシトラスの香りが鼻腔をくすぐり、俺は幸福感に包まれた。
「ざんねーん。短パンでしたーっ」
暗い視界の中聞こえたのは、るいるいのイタズラな声だった。
つまり、男か女かはわからなかったというわけだ。
「てか、この状態っ……何も見えないっ」
「あっ、あっ………って、なに触ってんのよぉっ!!」
「あだぁっ!?」
次に香澄さんの声が聞こえたかと思えば、後頭部に強い衝撃を受け、俺は椅子の下に転がっていた。
理不尽すぎる。それにデジャブ……早くない?
「ふーん。二人は訳アリって感じかぁ……ムフフっ」
痛い頭を抑えていると、るいるいからそんな声が聞こえた。
なんだよ訳アリって……。てか誰か俺の頭を心配してくれても良くない?
こうして、俺たち入部希望者の自己紹介が終わり、椎木先輩が眼鏡をきらめかせると、
「――じゃあ、最後に私の自己紹介だね!」
一息吐いてから、自己紹介をはじめた。
「私は部長で二年の椎木栞! 書いてるジャンルは主に悪役令嬢モノ! ほら、最近ブームじゃん? あ、ちなみに半分腐ってまーす。だからたまにそういうのも書いてたり」
――ガタっ。
俺の隣に座っているやつの椅子が揺れた。
まさか香澄さんも腐ってるのか?
女性だし、わからなくもないけど……。
「椎木先輩の執筆歴はどれくらいなんですか?」
「私は中学生の時から書いてるから、四年くらいかな! でも、勉強もあるし、ちょこちょこね!」
四年か。結構な執筆歴だ。
なんとなく椎木先輩は頭良さそうだし、丁寧な文章を書くイメージがある。
腐っていることは置いておいて、今度作品を見せてもらおう。
「――ってことで、今日はこんな感じかな! 明日からこの部室は好きに使ってくれて構わないよ。読書する場所として使っても良いし、執筆するなら自分のノートパソコンを持ってきてもいい。パソコン持ってない場合は、まよせん――顧問の京本先生に聞いてみるから言ってね!」
京本先生……って、俺らの担任じゃん!
あの、やる気のなさそうな担任……顧問だったのか。
おそらく名前が麻世理だから麻世理先生でまよせんってことだろう。
「あ、そうそうグループLINE作るから、皆教えてねー。部室の鍵は基本的に私が管理してるから、部室が空いてない時は言ったら渡すねー」
そんなこんなで自己紹介が終わり、俺たち文芸部のメンバーはグループLINEの中で連絡先が繋がった。
それぞれがスタンプを押して、参加したことをアピールすると——
……………あれ?
LINEの画面を見ると、俺はふと気になったことがあった。
香澄さんのアイコンだ。
それが犬のアイコンだったのだが、どこか既視感があるような気がした。
…………いや、わからない。
ただ、気になったというだけで、結局は何もわからなかった。
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