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ラノベ作家になったドイツ美少女の初恋は俺らしい。  作者: 藤白ぺるか


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第18話 失敗or成功

 翌日。

 俺は香澄さんを映画デートに誘うため、その機会を伺っていた。


 ただ、あまりの恥ずかしさに、授業の合間の休み時間では声をかけることができなかった。

 なぜなら、近くには多数の生徒がいるからだ。

 ここで誘ってしまえば、まるで公開告白のような形になってしまう。


 そんな度胸もない俺は、良いタイミングをひたすら待っていたのだが――なかなか言い出せずにいた。


 俺がそうしている間にも時間は過ぎて、昼休みになった。

 けれど、ここにもまた声をかけるタイミングは存在しない。その理由は――


「香澄さーんっ! 一緒にご飯たーべよっ!」

「ああ…………うん」


 委員長の庵野小依あんのこより

 最近では、毎日のようにこうして香澄さんに声をかけに来る。


 一瞬だけ、ちらっとこちらを見た香澄さんだったが、庵野さんの誘いに応じ、前の席の人の机を借りて二人で昼食をとり始めた。


 一方の俺といえば、購買でメロンパンとコーヒー牛乳を買い、適当な場所で一人食べている。


 ……ぼっちだった。

 学校では真幌も真幌で友達を作っているようだし、こちらから誘うこともできずにいた。


 ――今日までは。


「おー! 越智じゃねーか!」


 購買を離れて、一人寂しく昼食をとろうとしていたそのとき。

 茶髪の長い髪を揺らしながら、声をかけてきた人物がいた。


 イケメン・チャラ系・サッカー部の神宮利樹じんぐうとしきだった。


「ん、神宮……どうしたの?」

「どうしたの、じゃねーよ! これからメシか?」

「そうだけど」

「んじゃあ、俺と一緒に食おーぜ!」

「え……あ……うん」


 神宮の勢いに負けて、一緒に昼食をとることになった。

 ……正直、少し嬉しかった。


 神宮のあとをついていくと、グラウンドを見渡せる青いベンチがある場所へと辿り着いた。


「どうだ? いーだろ。ここ、けっこう風通しが良くて気持ちいいんだぜ?」

「確かに……そうかもしれない」


 メロンパンを頬張りながら、俺は神宮の話に耳を傾ける。

 サッカー部に所属しているせいか、俺よりもいろんな場所を知っているのかもしれない。


 この場所だって、グラウンド全体が見渡せるし、部活のときには監督やコーチが使っているのかもしれない。


「んで、サッカー部に入る気にはなったか?」

「気が早いよ。それ先週聞いたばっかじゃん」

「ははっ、それもそーか」


 爽やかな笑顔で笑う神宮。男の俺から見ても、モテそうな雰囲気だった。


「越智はさ、クラスじゃあんま喋らないよな。こうして話そうとすれば返事はするけど……ほら、隣のクラウディアちゃんと喋ってるとこしか見たことないわ」

「別に喋るのが苦手ってわけじゃないんだけど、元々積極的に話すタイプじゃないんだ。サッカーしてる時だけは、ちょっと違うけど」

「そっか。なんつーか、そういうタイプには見えなかったからさ、顔つき的に」

「なんだよそれ……まあ、小さい頃は今と違ってもっと活発だったって家族から聞いたことはあるけど、自分ではあまり覚えてないんだよな」


 ――事故に遭ってからだろうか。

 小さい頃の記憶が曖昧になっていて、性格も昔に比べてずいぶんと陰キャ寄りになったと母や姉からはよく言われる。

 とはいえ、性格なんて簡単に変えられるものじゃない。


「へえ……で、クラウディアちゃんのこと、好きなのか?」

「ぶへぁ!?」


 コーヒー牛乳を吹き出した。

 脈絡なさすぎるだろ。


「ほら、前に教科書忘れて机くっつけてたじゃん? あの時さ、二人ともドギマギしてる雰囲気でさ、見てるこっちが恥ずかしくなるっていうか」

「え、え……周りにはそんなふうに見えてたの……?」

「だって二人とも顔赤いし、だいたいわかるって」

「マジか……」


 緊張して、自分のことで精一杯だったから、周りの目なんてまるで意識していなかった。

 まさか、そんなふうに見られていたなんて。


「じ、神宮こそどうなんだよ。好きな人とか……もしくは、もう彼女いたりするんじゃないの?」


 話題を自分から逸らしたくて、神宮の恋愛事情に話を振ってみた。


「俺は彼女はいねーよ……まあ、ずっと昔から好きなやつはいるけどな。……これが結構大変なんだよ」

「へえ、神宮ってけっこう一途なんだな」

「なんだよその言い方」

「だって、見た目チャラいし、モテそうだし。逆にその相手も大変だろうなって」

「んー、どうだろうな。そこんとこは、相手もわかってるとは思うんだけどな……」


 その後も、神宮から好きな相手の話を聞いた。

 相手はなんと幼馴染で、ずっとアプローチし続けているけれど、一度も付き合えたことがないらしい。

 これだけイケメンなのに、もったいない。


 彼のそんな話を聞いたからか、俺も少しだけ勇気をもらった気がした。


 このあと俺は、香澄さんにノートの切れ端で手紙を書き、以前やりとりしたような筆談の形で映画に誘った。


 ◇ ◇ ◇


「うぎゃあああああああああああ〜〜!?」


 部活が終わり、夕方になってから帰宅した私は、家のソファでクッションを抱きしめながら盛大に発狂していた。


「お姉ちゃん、今度はどうしたの?」


 金髪に碧眼。私と同じ特徴を持つ、世界一可愛い妹――ノーラがリビングにひょこっと顔を出し、そんな疑問をぶつけてくる。


「これ……言っていいのかな……でも、言っていいよね? ……私、男の子にデート、誘われちゃった」

「えっ、えっ……お姉ちゃんがデート……ですか……?」


 発狂の理由を口にすると、ノーラは目を見開いて驚いた。

 こういうことは、今まで一度も話したことがない。

 小さい頃の素直の話すらノーラにはしたことがなかった。

 当時のノーラはまだ幼くて、そんな話をしても理解できなかったから。


「ど、どうしよう……服、何着ていけばいいかな!? ほら、ノーラってお洒落だし!」

「何言ってるんですか。お姉ちゃんの方がお洒落ですよ」

「そんなことない! だってノーラは、私と違って学校でも人気者なんでしょ!?」


 私はコミュ障だから、庵野さんみたいにグイグイ来てくれる子としか話せない。

 でも、ノーラは違う。人当たりが良くて、学校ではとても人気があるらしい。

 あれだけ可愛ければ、納得だ。


「そんなことないと思いますけど……なら、一緒に服選びますか?」

「ノーラ……大好きぃっ!!」

「ちょっ、お姉ちゃん……」


 まだ小さな体のノーラをぎゅっと抱きしめたら、潰れそうになったので、すぐに離した。


 

 そうして夕食の時間。

 私の話を聞いていたお母さんが、食卓でその話題を口にしてきた。


「それで、クラウちゃん。“あの子”とデートするんですって?」

「うん……服はノーラに決めてもらうとして……なにか気をつけることってあるかな?」


 日本人で黒髪のお母さん――香澄橙子かすみとうこ

 落ち着いた雰囲気と優しさが魅力で、とても綺麗な人。

 その佇まいは、どこかノーラに通じるものがある。


 お母さんには、過去の素直の話をよくしていた。

 でも、高校に入ってからは、あまり話せていない。


「ちょ、ちょっと待ってくれクラウちゃん。お父さん、心の整理がまったく追いついていないんだが……!」


 一方でこの落ち着きのないお父さんは、ドイツ人の香澄・ノルベルト・フリッツ。

 どうやら、お母さんの家柄が良かったようで、婿養子に入る形で結婚したらしい。

 もう十年以上日本にいるせいか、日本語はペラペラ。


 私とノーラの金髪碧眼は、お父さん譲り。

 ただし、この落ち着きのなさは、どうやら私だけがしっかり受け継いでしまったらしい。


「お父さん、うるさい。黙ってて」

「いいや、これは大問題だ! ……デートの前に一度、家に連れてきなさい!」

「そ、そんなことできるわけないでしょ! てか、家に来たら私がハイルヴィヒだってバレちゃうかもしれないじゃない! あっちはラノベに詳しいんだから!」

「ぬ……それは、そうかもしれないが……来る時だけ、隠せばいいじゃないか」


 食卓で話すには、あまりにもセンシティブな話題だったかもしれない。

 今まで男の子を家に連れてきたことなんて一度もなかった私だ。

 お父さんとしても思うところはあるのだろうけど――それでも、邪魔はしてほしくなかった。


「フリッツ。それくらいにしておきなさい。子供の恋愛に口を出すなんて、みっともないわよ」

「でも、大事な娘なんだぞ? 相手がどんな子かもわからないんじゃ、安心できないじゃないか」

「一週間くらい出張でも行ってきたら? 家も静かになるし」

「とうこぉぉぉぉぉ!? そんなこと言うなよぉぉぉぉ!?」


 我が家では、お父さんが圧倒的に弱い。

 愛妻家であるがゆえに、お母さんにはまったく頭が上がらないようだった。


「じゃあ、あとで私が男を落とすテクニックでも伝授してあげようかしら♪」


 ――ゴクリ。


 過去にモテまくっていたというお母さんの言葉に、思わず息を呑んでしまった。






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