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異世界の機士 黒のヴィダリオン  作者: 紀之
最終章 聖杯の章

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最終話 光と闇の決着⑥(完結)




 「最強合体だと・・・!?」


巨大な機械竜・マレフィクスは目の前に現れた重装ヴィダリオン・サン・クレールに余裕を崩さない。


「こちらとしては的が大きくなってありがたい!!」


マレフィクスの口内にエネルギーが収束していく。


『私がヴィダリオン様の不調の原因となる闇のエネルギーの侵食を食い止めている間に決着を!』


『もちろん。短期決着を狙うぞ!ヴィダリオン、俺達の武器のタイミングは全部お前に任せるぜ!存分にやれ!』


「応!コートオブアームズ・クレッセントカッター!」


「消え失せろ!!」


マレフィクスは赤い熱線を発射。


ハダリーとホットスパーの言葉を受けてヴィダリオンは周囲に展開したマリニエールのクレセントカッター6個をそれぞれ3個1組にして円状に合体。1つを自分とマレフィクスの間に置く。赤い熱線は円状パーツを通り抜けると白い光となって重装ヴィダリオン・サン・クレールの体に吸収されていく。


「ム?」


「お前の力を数倍にしてお返しするぜ!コートオブアームズ・アニューレットカノン収束発射!」


右肩に装着されたメガイロの持つアニューレットカノンの6つの砲口が輝き巨大な1つの赤い砲弾となって発射。砲弾はもう1組の円状パーツを通り抜けて赤から白銀の砲弾となって弾速を増してマレフィクスへ直撃する。


「グ・・ォ!?」


爆圧で後退したマレフィクスは全身から白煙を上げながらも巨大な翼を開く。


「逃がさん!」


ヴィダリオン・サン・クレールは2つの円状に合体させたクレセントカッターを6つのブーメランへ分解し飛び上がった魔竜へ投げつけた。四方八方から迫るブーメランを躱すのは666mもの巨体を誇るマレフィクスには至難の業である事を見越しての判断である。


「フン」


マレフィクスは、だが動揺することなく微動だにせず全てのブーメランを受ける。


『気をつけてください!何か・・・』


敵の行動に違和感を覚えカローニンが警戒を促す。その言葉が終わらぬ内にブーメランで切断された首・両腕・両脚・尾は胴体から伸びる細い黒煙状の靄で作られた『鎖』で繋がれた状態で四方から襲い掛かって来た。


『ゲッ!?あの野郎体を分離できるのかよ!!』


今度は自分が四方から狙われる事になった重装ヴィダリオン・サン・クレールは首が放つ熱線を盾で受けようとするが死角から滑り込んだ尾の一撃で左腕を殴打され盾を取り落す。


「しまった!?チェンジマートレット、ブースタレイブル!」


「逃さん!!」


魔竜の首が熱線を吐く。同時にマレフィクスの両腕がヴィダリオン・サン・クレールの背部の翼とブースターを、両脚が機士の踵をガッシリと抑え込み獲物を固定する。


「背部パーツ分離!」


背部の翼とブースターが一瞬で分離、鳥型メカとなって低空を錐揉み飛行する。


「ヌオッ!?」


魔竜の首がグッと上に引っ張られ熱線は夜空を切り裂くだけに終わった。鳥型メカの錐揉み飛行はマレフィクスの各部を繋ぐ『鎖』を絡め取る事でもあったのだ。


「おのれ・・・!ならば町ごと貴様らを焼き尽くしてくれるわ!!」


胴体に各部を戻したマレフィクスは怒りに燃えて再び高空へと上昇していく。


「ウ・・・させん!」


『すみません。闇の力が急に・・・!!』


ハダリーの謝罪を気にするなと言いつつヴィダリオン・サン・クレールは眩暈で前方によろめきつつ、背部の翼を広げブースターを点火して先行する魔竜へ追いすがると上昇スピードを生かした左アッパーを腹部にめり込ませると翼とブースターで体を回転させ、悶絶する敵の頭頂部に踵落としを決める。


「ホットスパー、大丈夫か⁉右腕の闇の力は・・・」


『俺は平気だ。お前、さっきふらついてたよな・・・・一気に仕留めるぞ!』


落下していくマレフィクスを見ながら右手にコートオブアームズ・スターシールドを展開しつつホットスパーは彼なりにヴィダリオンを気遣う。


『まず喉元を狙って下さい!ようやく見つかりましたよ!そこに装醒剣(そうせいけん)と千切られたヴィダリオンの腕があるんです』


「マリニエール、感謝する!往くぞ!」


スターシールドを変形させ槍へ変形させると翼とブースターを展開し、最大加速でマレフィクスの喉元目掛けて突っ込んだ。目標は地面に激突するギリギリのところで瓦礫を巻き上げながら体勢を立て直し終わった直後だった。


「そろそろ、闇が女機士だけで制御できなくなる頃だな」


マレフィクスは一瞬視界を落とし、聖杯の黒い部分が全体の半分ほどになっているのを確認すると素早く顔を上げ空からやって来る敵の動きに目を凝らす。



「聖杯の色が・・・!?」


「もう半分・・・・!いや、まだ半分だけだ!ハダリー頑張れ!俺の力を受け・・・取れ!」


金雀枝杏樹(えにしだあんじゅ)と星川勇騎の顔は汗だくで疲労の色が徐々に濃くなっていく。互いに聖杯の制御とハダリーへの力を分け与えるのに精一杯なのだ。勇騎は何度も膝をつきそうになる杏樹を支えながらも片手は聖杯の取手を離さない。


「ありがとう・・・」


「ヴィダリオンもハダリーも頑張ってんのに俺達が倒れるのは格好つかないからな・・・・あれ?」


ミシミシと(きし)む音がする。


聖杯のステム(ワイングラス等で人間の手が持つ部分)にヒビが入っていく。光と闇の力の拮抗(きっこう)に聖杯が耐えられなくなってきている証拠だった。


「いけねえ!ヴィダリオン、このままじゃ聖杯自体が持たないぞ!早く決着を!」



「わかって・・・・いる!」


勇騎の言葉を待つまでも無く、ヴィダリオンは短期決着を着けるつもりだった。だが気持ちと裏腹に視界がぼやけブースターの出力と可動を制御できなくなった重装ヴィダリオン・サン・クレールの槍はあらぬ所を穿つ。


「勝機はこちらに傾いたな!」


魔竜の口が紅く染まる。


「この距離で熱線を撃つつもりか!?」


ヴィダリオン・サン・クレールは咄嗟にスターシールドを構える。だが3割ほどの熱量で発射された熱線は盾の殆どを溶解させるのに十分な威力を持っていた。


「次は頭を蒸発させてくれる!」


マレフィクスの口内に光が収束していく。


(この瞬間しか・・・・今しかない!!)


「ウ・・・ウオオオオッ!」


ヴィダリオン・サン・クレールは雄叫びと共にスターシールドを槍へと変形させる。槍というより割れたガラスのコップの残骸と形容した方が良いスターシールドの欠けた先端がマレフィクスの喉元に突き刺さる。


「グ・・・ゴォア⁉」


「かえ・・・・して・・・もらうぞ・・・・俺の腕を・・・・な!!」


スターシールドを完全に溶解させながら灼熱の魔竜の喉から原形を保ったままの装醒剣とそれを握ったままの自身の右腕を引きずり出す。


『腕を交換しな!最後は自分の腕で決めんのが筋だぜ!!』


「ああ!皆の力の全てを注ぎ込む!!」


溶解したホットスパーの腕を自分の腕と交換したヴィダリオンは両手で剣を握り大上段に構える。


『装醒剣・一つの太刀!!!!!!!!』


星川勇騎・金雀枝杏樹・ホットスパー・カローニン・マリニエール・メガイロ・ハダリー。そしてヴィダリオンの裂帛(れっぱく)の気合とエネルギー全てが装醒剣に流れ込み天を裂く巨大な光の剣を形成し、振り下ろす。


「光と闇の地平の彼方へ逝け!!マレフィクス」


剣はマレフィクスを切り裂く。


「この程度か!!それでは我を消し去る事など不可能!!」


マレフィクスの肉体が消滅する寸前、切断面から黒い靄が溢れ出し赤黒い陽炎のような竜とも悪魔とも知れぬ像を結ぶ。だがそれを包み込むように像の内部から光が放射状に溢れ出し陽炎を球状に包み込み強烈な光を発すると黒と白の『光』は明滅しながら完全に消えていった。


『そうか・・・・闇も光も目指す所は同じ・・・・静寂・・・・我は今度こそ永遠の支配と平穏を・・・・・』



「おわった!?・・・・・勝ったのか!?あ・・・」


「あれ・・・・は!?」


光の点滅が完全に消えた後。目を上げた勇騎と杏樹の見た物は剣を地面に突き刺したまま祈るように蹲るヴィダリオン・サン・クレールの石化した姿だった。


「ウソだろ・・・・なんで!?」


「皆の力って、命を、エスカッシャンハートの動力を全て出し切るって事だったの・・・・!?」


ハッとなった勇騎は握りしめていた聖杯を見やる。聖杯はバラバラになっていないのが不思議な程至る所ヒビだらけでステムから下が黒、カップ部分が白という配色になっていた。


「こ、こんなにボロボロになっちまって・・・・おい!お前聖杯なんだろ!なんでわけわかんない事になってんだよ!」


これが命をかけた戦いの結果なのか


がくりと膝をついて嗚咽する杏樹と地面を拳で何度も打ち付ける勇騎。彼の悲しみの絶叫が全てが終わった町に木霊した。


戦いが終わりその被害を確認しようとしたのか、それとも勇騎の絶叫を聞きつけたのか。新井陸と分限博人がその後に続々と剣王町の住人が城跡へ集まって来た。皆戦いがようやく終わった事、そしてその功労者である動かなくなった異世界の機士を見て深い悲しみに打ちひしがれる。


「・・・・・・おい、勇騎。金雀枝。盛大に弔ってやろうぜ・・・・俺達を救ってくれた騎士に出来るのはそれだけだ」


同意の声が方々から上がる。


「そうだな・・・・ン!?」


「どうしたよ?」


「いや、陸お前涙が光って!?」


「お前もだろうが・・・」


慌てて陸は目元を擦るが跡は消えない。


「見て・・!?」


ひび割れた聖杯に人々の光る涙の滴が集まり、滴は見る見るうちにカップに溢れんばかりの量となる。


「まさか・・・・」


「きっとそうよ・・・!」


聖杯が宙に浮き石像の頭上に来るとその水を注ぐ。


光る水は小さな滝となり石像を覆いつくすとその中から6騎の機士、ホットスパー・カローニン・マリニエール・メガイロ・ハダリー。そしてヴィダリオンが姿を現した。


全員無事な姿で。




半年後


剣王町は一連の戦いから復興しつつあった。


「どうしても行くの?」


「はい。壊滅した機士団を再建せねばなりません。全ての悪と戦う為に。それが私達の使命ですから」


剣王神社の境内ではホットスパー・カローニン・マリニエール・メガイロそれぞれの愛馬の轡を取って整列してい

た。その後ろに生き残った機士達が続く。


その前にヴィダリオンとハダリーが立ち主人に別れの挨拶を交わす。


「ユウキ様、どうかいつまでもお元気で・・・!」


「その・・・今生の別れってわけじゃないんだろう?主従関係はそのままみたいだし」


「ですがみだりに別の次元にいく事は許されませんので」


「そうか・・・・そうだよな。・・・俺、皆の事、ハダリーの事忘れないよ」


「はい・・・」


「元気でね・・・ヴィダリオン」


杏樹はヴィダリオンの手を取る。ヴィダリオンも優しくその手を包むと跪いて最敬礼を取った。


「聖杯はこちらに残していきます。そちらの方が安全でしょうから」


「また来る理由になるものな!」


「不謹慎ですよ、ホットスパー」


「それでは・・・異次元の・・・・素晴らしき友に敬礼!!」


ヴィダリオンの号令で全ての機士が最敬礼を取る。


「往け!」


再建されたデウスウルトへ1列に並んで馬を走らせる。


最後の機士が城内に入ると城とティレニア号が宙に浮かび空に次元の穴を作るとその中に消えていった。


「さようなら!」


町中から感謝と惜別の声がその日一日響き渡った。


星川勇騎と金雀枝杏樹もいつまでも空を見上げて手を振り続けていた。


異世界からきた機械の友へ

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