最終話 光と闇の決着⑤
デウスウルト城・円卓の間
室内は城内のどこよりも暗く、血も凍るような呻き声に満ちていた。
「マレフィクス、姿を現せ!!もうお前を守る物は何もない!決着を着けるぞ!」
ヴィダリオンの声を受けて闇の中から相も変わらず続いていた呻き声が低い笑い声に変わっていく。
『ウウゥ‥…ウッワハハ!!決着だと!?全ての賭けに勝ったこの我にとって貴様との対決何するものぞ!!』
「賭けだと!?」
「あれは!?」
金雀枝杏樹は絶句する。円卓の間を支配していた闇が聖杯の形を取り、次いでマレフィクスの姿を取ったからだ。新たな魔王真マレフィクスと言うべき闇の王の体には各所に鈍く光る銀色のラインが掛け巡っている。
「我の最大の懸念は自分自身の力を光の力に変換され対消滅を起こす可能性だった。だがその心配も無くなった!!貴様らの体に流れる聖骸布の力が作り上げたこの体を流れる光の経路が貴様らの攻撃を受け流し、反射する!あの女機士は我に最大の贈り物をくれたという事だ!!」
マレフィクスは背中の翼を広げ竜の尾を模した片刃の大剣を振りかざして迫る。
「主!」
「ええ!!」
杏樹が聖杯を召喚する。
「パーチメント!!」
ヴィダリオンの声と共に巨大化した聖杯が各部に合体しヴィダリオン・サン・クレールへと姿を変えると音叉状の剣、装醒剣を頭上に翳してマレフィクスの大剣を受ける。剣戟の反響が装醒剣を震わせ光と柔らかな音響が部屋全体に木霊する。全くの互角の力で互いの刀身から火花を散らせながら両者一歩も動かない。
「ウッ!?」
ヴィダリオン・サン・クレールの目には音波と光が真マレフィクスの全身を流れる銀色のラインに吸い込まれ輝きを増したように見えた。
「馬鹿めが!」
全身のラインから細い光が放射されヴィダリオンを壁に叩きつけた。
「グウッ・・・!闇の勢力でありながら光の力を無効化し反射する力とは!?」
「見たか・・・長きに渡る年月聖杯の力を吸収し、その複製ともいえる存在となった我だからこそ成せる業よ!!もはや何者をも襲るるに足らず!」
マレフィクスの腹部の竜の顎が開き巨大な火球を放つ。
「主!隠れていてください!」
ヴィダリオンは剣を中段に構えるとそのまま突進する。音叉状の剣は火球を切り裂きながら火炎を光に変えて自身へと取り込む。
「ハアアァァッ!」
敵の眼前で飛び上がり剣を大上段から降下と同時に振り下ろす。
「フン」
マレフィクスの体が黒い靄へと変わる。ヴィダリオンの一撃はその靄を払い、床に光の円を刻み込むだけに終わった。
「浄化できない!?」
『言ったはずだ。光を恐れる必要は無くなったとな!互いに力は互角いや我が勝っているのだ』
マレフィクスはヴィダリオンの背後で実体化し大剣を横薙ぎに払う
「まだ勝負は終わっていない!」
ヴィダリオンは相手の大剣を装醒剣で受け流し体を回転させ円卓の間の柱の1つに相手の剣をめり込ませると下段から斬り上げる。再びマレフィクスは黒い靄となり攻撃を無効化、ヴィダリオンの剣は別の柱を中ほどまで斬り裂くだけに終わった。その裂傷は朧な光を放って部屋を照らす。
『無駄だ!貴様も我と一つになれ!!』
黒い靄がヴィダリオンの体に纏わりつく。だがヴィダリオン・サン・クレールの装甲は靄が触れると同時に剥離し床に落ちると小さな光の滴となって部屋を照らす。滴はいくつも集まって小さな光る水たまりとなって徐々にヴィダリオンを取り巻く靄を撹拌し、その闇の色を薄めていった。
『う・・・ム!?しまった!?』
「光よ!!」
ヴィダリオン・サン・クレールが頭上に剣を掲げる。その剣先に足元の水たまりや柱の傷跡そして初撃で出来た光の円から白色光が集まり完全に靄を消し去った。
「やった…の!?」
「まだです!?」
ヴィダリオン・サン・クレールの眼前で黒い靄が集まりマレフィクスの姿を形成する。
「どうして?闇は完全に払われたはずなのに・・・!?」
「聖杯の巫女よ・・・これを見るがいい!」
マレフィクスの腹部の竜の口の中に黒い聖杯があった。
「それは・・・!?」
「模造品だがな・・・だが本物と同じ機能を持つ!これある限り我は死なず!」
瞬間ヴィダリオン・サン・クレールはコートオブアームズ・ブースターレイブルを背中に装着し、ブースターを吹かして突進し竜の口に装醒剣を突き込んだ。
「そしてこうやってみえすいた罠に飛び込む馬鹿が掛かるという訳だ!!」
剣が黒い聖杯に達する直前を狙いマレフィクスは腹部の竜の口を閉じヴィダリオン・サン・クレールの右腕と剣を牙と恐るべき咬合力で嚙み千切ろうとする。
「グ・・・ウッ・・・!!まだだ!聖杯よ!我が鼓動を糧に悪を滅ぼす力を与え給え!!」
「グごオ⁉いかん!?この力は・・・!だが!!」
マレフィクスは腹部の竜の口内に不快な光の振動を感じヴィダリオンを排除すべく口内に火球を形成する。
「悪を為す力よ!」
「汚らわしい光よ!」
「「消えよ!!!」」」
凄まじい爆発が円卓の間を揺るがす。
「きゃああああ!!ヴィダリオン!?」
聖杯の発するバリアに守られた杏樹は爆発の衝撃で吹き飛ばされ扉の外に吹き飛ばされる。
「杏樹!?おい、無事か!ヴィダリオンは!?マレフィクスは倒したのか!?」
扉の外にいた星川勇騎が杏樹を助け起こしながら聞く。
「・・これを・・・・」
「噓だろ!?聖杯が黒くなってる!?」
杏樹の見せた聖杯の底の部分が僅かに黒くなっているのを見て勇騎は絶句する。
「あれを!?」
ハダリーの言葉に2人は目を上げる。爆発で天井や柱の無くなった円卓の間には右腕を失い全身の装甲がボロボロになったヴィダリオン・サン・クレールと巨大な機械竜が対峙していた。
「真の姿を現しやがった・・・!」
「ああ・・・よかった!ヴィダリオン・・・!」
安堵と驚愕に目を見開く勇騎と杏樹。機械竜はその2人を睨め付ける。
「忌々しい現地民共め!!貴様らさえいなければ聖杯を2度も失う事も無かったのだ!しかしまだツキはこちらにある。ヴィダリオン、貴様の残した右腕を我が体内で闇に変える。さすれば貴様と同調しているその聖杯も暗黒の神器に変わるのだ!!」
「だが、俺は死んでいないぞ、マレフィクス!」
足下で立ち上がったヴィダリオンは苦痛に呻いて蹲る。その右腕から黒い靄が立ち昇っていた。
「そのザマで何が出来る!しかもたった2騎で我を止めるつもりか!?」
マレフィクスは鼻で笑う。
「それは違うぜ」
円卓の間にホットスパーの声が響く。彼だけではない。
「あの程度でくたばりませんよ」
「そう、見くびってもらっては困ります」
「まだ俺達は戦える」
ホットスパーに続いてカローニンとマリニエールそしてメガイロが次々に廃墟となった円卓の間にやって来る。
「戦う?どうするというのだ?」
「合体するんだよ!さんざっぱらお前の手下どもをあの世に送ってきたあの姿を知らないとは言わねえだろ!?」
「止せ!そんな事をしたらお前達まで闇に浸食されてしまうぞ!」
「ですが放っておいたら我々は貴方とマレフィクスの両方を相手取る事になる。それは勘弁願いたい」
「それならいっそ乗るか反るかで最後の反撃に出た方が良い」
マリニエールのひねくれた物言いにメガイロが同調する。
「結局いつも通りですがね。それが私達らしいやり方ですけどね」
「・・・・わかった。お前達の力と命を貸してくれ」
ヴィダリオンはカローニンの言葉に覚悟を決める。
「待ってください!今回は私も行きます!私の力で少しでもヴィダリオン様の侵食を食い止めさせてください」
「ハダリー⁉しかしお前は!?」
「出来る!聖杯はここにまだあるんだ!それに皆聖杯の音と光を受けているんだ、絶対に6人で合体できる!俺達でさせて見せる!」
「ええ!!」
勇騎の言い分は根拠のないものだ。だが杏樹にはやれると思える何かがあった。
「往くぞ!」
「「「「「ヴォ―セアン!!」」」」」
6騎が円陣を組みそれぞれの剣とハダリーのメイスの先端を合わせ頭上に掲げる。
「杏樹、ほら」
「ありがとう。これで」
勇騎から渡されたラムネ味の飴玉を口に入れると杏樹は彼と共に底の黒く染まった聖杯を掲げる。
「無駄な事を!!」
マレフィクスの火炎が迸る。
掲げられた聖杯から発する光は火炎を遮るバリアとなって機士達の合体を守る。
頭部と両肩そして二の腕がヴィダリオン、両前腕がホットスパー、胸部が伸長し頭部が胸の中央に配置されたメガイロ、両足がマリニエール、背部はコートオブアームズ・チェンジマートレットとなったカローニンがレイブルブースターと合体し装着されている全長10mの重装ヴィダリオン。その四肢に分解したナイトハダリーの手足が追加装甲として被さる。
胸部にはティレニア号の船首部分が装着、四方に展開して十字架状の意匠を形成する。マスト部分にハダリー以外の
機士の盾が合わさり本体と同じ長さの一個の盾となる。
最後にハダリーの頭部が冠の様に頭部に合体
「最強合体・重装ヴィダリオン・サン・クレール!!」
その体躯はマレフィクスと同等。6騎の機士のいや、6騎の機士と2人の人間の絆が生んだ最大最強の合体機士が孤独な闇の王の前に姿を現した。