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異世界の機士 黒のヴィダリオン  作者: 紀之
最終章 聖杯の章

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88/90

最終話 光と闇の決着④




 

 通常の目には見えない赤い糸が迷宮内を導くように走っている。その糸を辿っていこうとするカローニンとマリニエールを妨害するように無数の竜の手足が床や壁から飛び出しては襲い掛かってくる。


「クレッセントカッター!」


マリニエールは6枚の三日月型ブーメランを周囲に展開し、投擲されたブーメランが竜の手足を切断する。だが切断され黒い靄となった手足は再び凝縮して元の手足の形へと戻って行く。


「相手をするだけ無駄か・・・ならば先を急ぐのみ」


手元に戻って来たブーメランを自分の周囲に浮遊させて曲がり角の多い通路を進む。相も変わらず襲い掛かってくる手足に対して6枚の回転するブーメランを自分と手足の間に置くことで進路を確保しながらマリニエールは妨害がたったこれしかない事に疑問を抱く。


(ここで私と恐らくカローニンも倒すつもりが無いのか?つまり、この特殊な糸の大元には何かあるのか。それとも)


最後に浮かんだ楽観的な考えを否定する。マレフィクスはやろうと思えば虫を潰すように自分を殺せるはずなのだ。そうしないのはこの状況を楽しんでいるからに他ならない。


(糸を辿った先に何かがあると見るべきか)


恐らくカローニンも同じ結論に達しているだろう。糸の大元がある部屋の扉から突如現れた巨大な腕を剣で斬り落とし、マリニエールは内部に入る。部屋の中心に赤黒い糸玉が淡い光を放ちながら台座の中央に鎮座していた。


『こちらは終点に到着しましたが・・・・カローニンの方はどうでしょうか?』


自身に備わっている探査装置を使い作戦の相方の動向を窺う。カローニンの姿を見る事は出来ても城全体を覆う闇のせいか、通信を送る事は出来なかった。



「糸が現れたり消えたりしていますね。大元への到着に時間をかけようという算段か?』


自身を取り囲む様に群がり、爪を突き立てようとする竜の手足をカローニンは全身から高周波を発して消滅させる。同時に再び現れた糸を追うべく飛行形態へと変形してその後を辿る。カローニン側の通路は1本の大きな通路の左右に多くの短い脇道があり、この全ての脇道の先に扉があるのだった。


(消えた!?隣の通路に出現したのか)


本道に戻ろうとするカローニンを妨害するように道を塞ぐ2本の腕を彼は壁を三角飛びの要領で蹴って躱し、隣の通路に飛び込む。


(また反応が消えた!?もしやこの糸これ自体が罠なのか・・・ならば)


彼は辿っていた糸が消え、また隣の通路に出現したのを無視して通路の奥の扉に飛び込む。


その先は大きな通路で先ほどと同じように脇道が続いている。


(やはり・・・この大きな道に沿って糸が、それも消えることなく続いている。となればあの先が終点か)


『こちらカローニン、もう少しでたどり着きます』


高周波を応用した通信を送るカローニンだが応答はなかった。だが高周波の跳ね返りによる移相変化で一部を除く城全体の様子を『見る』事が出来た。


「マリニエールは辿りつきましたか。早くヴィダリオンとハダリーに加勢しなくては。あちらに攻撃が集中しているからこちらへは大した攻撃をしてこない訳ですね」


再度飛行形態へ変形するとカローニンは大扉に突入し、中に入る。内部では糸玉がマリニエールの居る部屋と同様の状態で鎮座していた。再度高周波を発するとマリニエールが糸玉を破壊している所だった。


(城全体に変化は無いようですね)


カローニンは高周波を発して周囲の状況を探るが特に変化は見られない。それはマリニエールの探査装置でも同様だった。


「また糸玉が出現しました。どうやらやり方が違ったようですね」


「では今度は!」


通信が出来ている訳ではないが互いの動きは見える。カローニンとマリニエールは互いの挙動を確認し、同時に互いの目の前の糸玉を切り裂いた。真っ二つになった糸玉から強烈な衝撃波が噴き出し、カローニンとマリニエールを天井へ叩きつける。衝撃波は城全体を、いや空間全体を揺るがした。



同時刻


円卓の間へ続く扉の前でのマレフィクスの攻撃はカローニンとマリニエールが受けている物の比ではない。ハダリーへ向かって放たれた火球は分裂し、その場にいたヴィダリオンや星川勇騎、金雀枝杏樹へと向かっていく。


「「いけない!」」


ヴィダリオンとハダリーはそれぞれの主を守る為2人の前に立ちはだかり火球を受ける。


『フフフ・・・どうした!?聖杯の力とやらは使わぬのか、黒のヴィダリオン?』


城全体から響く嘲笑の声。


「戦えぬ者を狙うとは卑怯な!我らを攻撃しろ!!」


(奴はこちらが聖杯の力を永続的に使えぬ事を看破している。しかし奴の挑発に乗らなければこちらは・・・)


ヴィダリオンは虚空を見回しながらそこに居るであろうマレフィクスに怒鳴りつけるが内心では聖杯の力を、ヴィダリオン・サン・クレールにならなければ勝ち目がない事は分かっていた。だが杏樹の消耗を考えれば扉を抜けた先にいるであろうマレフィクス本体との戦いにまで彼女の体が持つかは分からないのだ。かといってこのままでは全滅する恐れもある。


『良かろう。貴様らがその気ならばこの場で叩き潰してくれるわ!』


闇が、いや黒い(もや)が急速に動き出す。円卓の間の扉の前のホール一杯に黒い竜巻が渦を巻いて吠え狂う。城全体の闇を集めたこの竜巻によって扉の前はヴィダリオンの知るいつもの城の薄暗い灯りに照らされていた。

「う!?」


「うわああっ!?」


凄まじい強風に煽られヴィダリオンは床に剣を突き立て引き寄せられる体を押し留めると背後から飛ばされてきた勇騎と杏樹を左手の盾を掲げる。2人は盾に掴まるとそのままヴィダリオンの体の影に隠れる。


「ハダリーは!?」


「何をするつもりだ!?戻れハダリー!?」


「いいえ!成算があります!あれを消さなければ、消してしまえば敵の力を削ぐことが出来ます!」


ヴィダリオンの制止を振り切りハダリーは敢えて巨大な竜巻へと向かっていく。


(オーン看護長、ギスカル様!私に力をお貸しください!!)


『血迷ったか!?だがこれで浄化剣の使い手を葬る事が出来る!!』


マレフィクスの最大の恐れはヴィダリオンが聖杯の力を手にした事ではない。彼の最大の懸念はハダリーの持つカウンター剣術『月輪(がちりん)』にある。彼は闇の力を対消滅させる力を持つこの剣術の使い手を消し去る事を何よりも望んでいたのだ。


漆黒の竜巻の中心部に竜の頭部が浮かぶ。竜巻に呑まれ、その中心へと向かっていくハダリーを巨大な顎がかみ砕いた。


「ハダリィィィー!!」


勇騎の絶叫は竜巻の轟音にかき消されていく。


「いや、見ろ、ユウキ」


「でも、でも」


「よく見て。ハダリーはまだ死んでいないわ」


杏樹に促され勇騎が目を上げると竜の頭部の中にハダリーが闇夜に輝く月の如く全身から光を放ちながら浮かんでいた。


『お・・・おのれ!?いつの間に秘法を会得(えとく)していたのだ!?』


「月は闇の中でこそ輝き、闇とは交わらない!月輪の極意はここにあり!!」


奥義『月輪』。真の暗闇の中で自らを『撃つ』ことで己が拠って立つ場所(ひかり)を確立する究極の技である。その為には確固たる信念が必要なのだ。


竜巻がハダリーを避けるように左右に分かれていく。だがハダリーの発する光がそれを許さない。


「私一人ではお前を倒す事は出来ない。だがその一助は出来る!月輪奥義・明星!」


ハダリーの叫びと共に強烈な光を全身から放つ。光は徐々に大きくなり闇を自らの白色光へと染め上げていく。そして光は城内に溢れ、扉や窓から中庭へ、城門を照らす。


「ウッごおオオオッ!?」


扉の奥から凄まじい苦悶の声が城を揺らす。逃げ場を求めるように暗闇が円卓の間の扉の隙間に吸い込まれると同時に空間全体が大きく振動し捻じれると絡まった糸を強引に引っ張った時のような感覚がヴィダリオンらを襲う。


「何だったんだ?」


「恐らく次元の歪みが、つまり迷路が消えた・・・・カローニンとマリニエールがやってくれた」


「じゃあ・・・後は・・・」


杏樹にヴィダリオンが頷く。


「正真正銘扉の先にいる、闇の首領を倒すのみ!」


ヴィダリオンは力を使い果たして倒れたハダリーに駆け寄る。


「よくやってくれた。後は俺に任せろ」


「ですが・・・」


「少ししたら援護に来てくれ。それだけの力はあるだろう?ユウキ、彼女の傍にいてやってくれ。主は責任を持って俺が守る」


「わかった。頼んだぞ、ヴィダリオン」


勇騎は力なく微笑むハダリーを楽な姿勢を取らせる。


「いざ・・・・最後の戦いへ・・・!!」


ヴィダリオンは円卓の間の大扉を力強く押し開けた。

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