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異世界の機士 黒のヴィダリオン  作者: 紀之
最終章 聖杯の章

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87/90

最終話 光と闇の決着③




 「本当にホットスパーとメガイロは大丈夫かな?」


分厚い扉越しでも聞こえる轟音(ごうおん)に星川勇騎は事前の見通しが甘かったのでは、と不安だった。


「・・・・彼らを信じましょう。今は」


「そうだな・・・この真っ暗な中をどう行くか、だな」


(口に出さないだけで思いは同じなんだ。なら俺達は先に進むのが残った2人に対する礼だよな)


カローニンの言葉に勇騎は改めて決意を新たに眼前の暗闇を見据(みす)える。


「城の中っていつもこんなに暗いの?」


「まさか。しかし照明を取り除くだけではこれほどの闇は出来ない。つまりこれもマレフィクスの罠でしょう」


金雀枝杏樹(えにしだあんじゅ)はヴィダリオンの言葉を受けて持ってきた聖杯を取り出そうとするが、止められる。


「それはまだ後で。このカラクリを暴いてからでも遅くはないです」


「それじゃあどうやって進むつもり?」


「勝手知ったる城ですよ。目を(つむ)っても円卓の間まで行けますよ」


(それではこの闇には別の意味があるというの?)


案内を買って先を行くヴィダリオンの自信に杏樹の頭に新たな疑問が浮かぶが答えは出なかった。


一行は廊下をいくつも曲がり長い廊下のさきで大きな扉に出くわした。


「この扉の先が円卓の間です」


「ちょっと待って。ここまで全く護衛の敵がいなかったけど・・・」


「機士全員を外に出したようです。手が回らない・・・というのは考えられませんね」


主の指摘にヴィダリオンがドアを押す手を止める。マリニエールが探査能力を用いてドアの中を探る。


「ヴィダリオン、中にはマレフィクス1人だけです。恐らく扉を開けた瞬間に攻撃が来るでしょう」


「なら第一撃をやり過ごして一気に突入、俺が変身するから援護を頼む。主とユウキは扉付近に隠れていて下さい」


ドアの内部を探っていたマリニエールの情報を基に各々の動きを確認する。ハダリーはアーキバスランチャーを、マリニエールが蛇腹剣を、カローニンが高周波を放つ準備を完了した事を確認し、ヴィダリオンは扉を両手で勢いよく開けると同時に全員が脇に隠れる。


攻撃は無い。入って来たのと同様の息がつまりそうな静寂を破るのは2人の人間の呼吸音のみである。


「ここは私が」


カローニンが素早く扉をくぐると同時に驚愕の声を上げる。


「どうした!?」


付き合いの長いヴィダリオンは彼がこんな声を上げるのを聞いたことがない。扉に飛び込むと後の2人と2騎も続けざまに飛び込み、3騎はカローニン同様の上ずった声を上げる。


「「「馬鹿な・・・・入り口に戻ってきた・・だと!?」」」


「本当なの、ヴィダリオン?」


「はい。ここはさっき入って来た入り口、第一ホール前です」


「この闇は迷宮を作り出す装置だったのね」


『フフフ、ようやく理解したようだな。我が僕の忘れ形見をとくと堪能(たんのう)するがいい』


マレフィクスの唸るような笑い声が城内に響く。


「・・・・ですがこれだけなら私とマリニエールの探査能力で正しい道のりを探し出す事で出来ます。それを見越していないとは考え辛い」


「罠は扉だけなのでしょうか?」


ハダリーの言葉にカローニンは小さく頷く


「今のところは・・・という条件付きですがね」


「曲がり角や扉の先では特に注意しないといけないってことだな」


一行は城内の探索を再開する。万が一分断された時の為マリニエールが殿(しんがり)を務める事になった。


「こちらです。マリニエール、貴方の方は?」


「同じです。つまり正しい道のりだという事です」


「さっきと同じ道じゃないか」


「何か法則があるか、それとも誘導されているのかもしれませんね」


(ハダリーの言う通りかもしれない。高周波の探査に時々違和感がある。円卓の間の前ではなかった何かが城内にあるのかもしれない)


「マリニエール」


「・・・・ええ」


廊下の途中でカローニンが止まる。左右の壁にはそれぞれ扉が1つあった。


「どうした?」


「改めて探索を開始した時から何か違和感があるんです。それも(かす)かな・・・」


「それが異常の原因なのか、正解の道を示しているのかが分からないので迷っているんですよ」


分隊し左右両方に飛び込むか。どちらか一方に全員飛び込むか。前者は分断の危険があり、もしカローニンとマリニエールの連絡が取れなくなれば一大事である。後者は分断の危険はないものの時間を無駄にするか、もしくは全員が何かの危険に曝される可能性がある。


彼らの取ったのは後者だった。間違っていた場合、元のホールに戻されるという保障がないのだし連絡が取り合えなくなるのが一番の問題であると結論を出したのだ。


「違和感のない方へ行きます。良いですね?」


全員が頷くのを確認したカローニンは扉を開けて全員脇に寄り、敵の攻撃に備える。先程と同じく静寂が続き、一列になって扉へ飛び込んだ。その先はまたしても第一ホールだった。


「ウッ!?」


「散らばれ!」


突然天井から巨大な剣、マレフィクスの持つ竜の尾を模したあの片刃の剣が一向目掛けて振り下ろされたのだ。


「何!?消えた!?」


ホールに真一文字の亀裂を深く刻みこんだ刃は霧の様に消え失せる。同時に部屋全体の温度が急激に上がっていく。


「どこだ!?」


「・・・ホール全体にマレフィクスの気配が!?」


カローニンの言葉に杏樹は聖杯を(かか)げる。


「皆!私の周りに集まって!!」


杏樹の言葉に従い一行は一塊(ひとかたまり)になって身を寄せ合うと杏樹は聖杯に念じてバリアーを発生させる。バリアーはホールの周囲の闇が作り出すいくつものマレフィクスの腹部の竜の口から発射される火球を防ぎ切った。



『見たぞ・・・・それが現世の聖杯の力か・・・・恐るるに足らん!』


「何をっ!」


ヴィダリオンが天井の闇を睨みつける。虚空からは薄気味悪い笑い声が反響し、やがて消えていった。入れ替わるように杏樹の荒い息がヴィダリオンの耳朶を打つ。


「主!まさか・・・!?」


「この闇はマレフィクスそのもの・・・・ここにいる限りどこからでも彼は私達を攻撃できる・・・わ」


「時間をかけてたら杏樹がヤバい!何とかしないと!」


「ですが、これで正解の道は分かりました。後はマレフィクスの攻撃をいなし続ける必要がある訳ですが・・・」


「違和感があるという道だな。周囲を警戒しつつ早速行くぞ。主の為にも早くここを突破せねば」


再び探索を開始するヴィダリオン一行。先程と違うのは勇騎が杏樹を背負っているのと周囲の闇を警戒している為歩みはひどく鈍いという事だった。


「ここです。ここで違和感のある扉に飛び込みます」


最大限の注意を払ってカローニンが扉に入り、次いで全員が身を縮めて中に転がり込んだ。


「円卓の間じゃないが・・・・別の場所に飛ばされたな。しかもここは恐らく」


「ホール正面の扉から入った後の迷宮通路でしょうね」


ヴィダリオンらは周囲の壁の配置から敵が直線状に突入した場合の対策となっている城内屈指の複雑さを誇る迷宮に入り込んだのを悟る。


「今私達のいるこの場所の直線状に円卓の間にありますが、それを妨げる為の迷路状に通路を配置しているのです」


ハダリーが勇騎と杏樹に場所の説明をする(かたわ)ら、カローニンとマリニエールが迷宮の構造を探査していた。


「構造が変わっているのか?」


ヴィダリオンが尋ねる。


「いえ、そこまでは。ただ厄介な事に道順を指定されているのがね・・・」


「案内してくれるって?何で?」


説明を聞き終わった勇騎が会話に入ってくる。


「どうやらこの異変の根本らしい何かが2つあって、それが配置されているのが左右の端の行き止まりなんですよ」


「それを両方壊さないと円卓の間にたどり着けないって事?」


「アンジュ殿の推測通りだと思います、よ!?」


ゾッとする感覚がカローニンの頭を駆け巡り、振り向いた時巨大な爪を生やした腕か足が振り子のように襲い掛かって来た。


「させない!」


ハダリーが聖杯の光を受けたマント(元はティレニア号のマスト)を盾替わりに立ちはだかる。弱弱しい白い光が数条、暗黒空間を照らして全員が迷宮の中へと押し込まれてしまった。


「大丈夫か、ハダリー!?」


「平気です。ですがもう迷っている時間はありません。異変の根本を破壊しなくては」


「それは私とマリニエールでやります。ヴィダリオンとハダリーは迷路の空間のねじれの手前で待機して破壊と同時に円卓の間へ突入してください」


「しかしそれでは・・・・」


「いくらマレフィクスでも3方を同時攻撃するにはそれなりに集中力がいるはず。攻撃を分散する上でも、それに異変の根本を破壊した時何が起こるか分からないですから」


「・・・・それが最善か」


「ヴィダリオン!?」


「いいのです、主。何もなければそれで良い。そして簡単に屈するような者はこの場に誰一人としていない、でしょう?」


「そうだけど・・・気を付けてね2人とも」


「無論です」


そこから先は無言だった。勇騎と杏樹はいつ攻撃が来るか分からないという緊張と死地に単独で赴くカローニンとマリニエールに気の利いた言葉をずっと考えていたのだった。


「ここです。丁度左右の扉から別々の反応があります。では」


敬礼するカローニンとマリニエール。


「きっとだぞ!!全員いなくちゃアイツには勝てない!誰も欠けちゃいけないんだからな!」


「・・・・そうよ!必ず皆で戻りましょう!」


勇騎と杏樹の激励の言葉を聞いた2騎は身を翻して扉の中へ飛び込んでいく。同時に闇が形を取り竜の顔となってヴィダリオンらに襲い掛かる。ヴィダリオンとハダリーはそれぞれの主を抱えて飛び上がった。少しの間をおいて左右の通路からも轟音が響く。


「汚いぞ!」


『我が城に土足で入り込む能無しネズミが何を言うか!』


マレフィクスがせせら笑う。


「元々は我らの城だ!!それに貴様、我が主を侮辱するとは!?」


ハダリーがアーキバスランチャーを構えて竜の口内目掛けて引き金を引く。


弾丸を受けた竜の頭は闇色の霧となって霧散し、弾丸は迷宮の壁にパッと大きな火花を咲かせただけに終わった。


「く・・・やはり本体を破壊しなければこちらが消耗するだけか・・・!?」


『その通り。良い事を貴様らだけに教えてやろう。2つの球は同時に破壊されなければならぬ。一方でも残っていれば、あるいはタイミングが少しでもズレれば我のいる場所には永久にたどり着けぬわ!』


「しまった!?この事をあの2人に・・・」


『行かせん!!』


虚空からの声にマリニエールの入った扉に近づくハダリー。だが再び闇が凝縮し竜の顔が出現、口を開けると同時に火球を吐く。


同じ頃


別々の扉へ入ったカローニンとマリニエールはその先で床や壁に生えた無数の竜の手足の攻撃を躱しつつ、迷宮を作る魔力の源へとじりじりと近づきつつあった。

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