最終話 光と闇の決着②
船内を揺るがす轟音と浮遊感。船倉で機動鋼馬ヴァレルの傍に待機していた星川勇騎と金雀枝杏樹はそれが門を破壊した音で同時に船が落下しているのだと悟った。
「伏せろ皆!ベオタスも!飛んだら逆に危ないぞ!」
彼の言葉に反応して船倉に集められていた機動鋼馬達は一斉に身を伏せる。ヴァレルはこの後の事もあり自身の周囲に配されている3枚の長方形の盾を上と左右にへ向けて人間2人を落下物や飛散する物資から守る。
間を置かず先程の爆発に劣らぬ轟音とメリメリという引き裂くような音が船全体を包む。ティレニア号が地面に激突したのだ。
「う・・うわ!・・・・あ?」
目の前の正方形のコンテナが床と天井を何度も行き来してバラバラになる様を見ていた勇騎は自分と馬達が地上数センチの所で白い半球状のバリアに覆われているのに気が付いた。
「そうか・・・杏樹、サンキュ。ケガないか?」
「・・・どういたしまして。私も皆もかすり傷一つないわ」
咄嗟に聖杯の力を使った彼女の微笑みに疲労が滲んでいるのを勇騎は見逃さなかった。
「大丈夫か?この先まだ長いんだ。これでも食べて元気出せよ」
ポケットから飴玉を取り出して渡す。こんな事でどうにかなるとは思わなかったが何もしないよりはましだと思っていた。
「ありがとう。まだある?」
「あるけど。ラムネ味そんなに好きだったっけ?」
「今は好き。また後で欲しいから」
「・・・・そうだな。城に着いたら、な」
勇騎は杏樹の手を引いて彼女が立ち上がるのを助ける。上からガチャガチャと機士達が降りてくる鎧の音が聞こえてきたからだ。
「ユウキ様、ご無事ですか!?」
「主、ご無事で何よりです。他の者も無事だな!各員馬を降ろすぞ」
「ハダリーは全員が降りたら合体してユウキ殿とアンジュ殿と共にヴァレルへ!」
「はい!」
テキパキと下船準備を遂行する機士達は船倉の扉を押し開けて外へと出て行く。彼らが全員揃っていない事に勇騎は気づいた。
「ちょっと待ってくれ!ホットスパーがいないけど!?」
「1人で突撃しました。ですがご安心を。彼はこの程度でくたばる男ではないですよ」
最後尾で愛馬ナライズを曳いていたマリニエールが振り返って言った。
「でも・・・」
周囲の瓦礫の山を見て勇騎は息を飲む。その山の1つがガラガラと音を立てて崩れ、中ほどからドリル代わりにしたスターシールドを持ったホットスパーが飛び出して来た。
「ね」
「・・・・ホットスパー、無事でよかった!」
「おう、ロクな手柄を上げん内にくたばってたまるかよ」
槍を振り振り、愛馬ベオタスに近づく。ベオタスは主人を見つけた喜びを示すように翼を広げる。
「闇が濃くなっている!?」
杏樹の言う通りだった。眼前の城を覆う闇は濃くなり、城全体を包んでいる。
「さっきまではこれ程ではなかった・・・・これは!?」
同時にマリニエールは自身に内蔵された分析装置が異変を察知し、その内容を告げようしたその時
「うお!?ベオタス?ベオタスに何があった!?」
見えない糸か何かでベオタスの1対の翼が切断された。ベオタスは悲鳴を上げて蹲る。
「全員騎乗するな!今この中庭全体に見えない刃が張り巡らされている!騎乗した場合丁度頭部を切断する位置にな!」
「それも俺達だけにしか利かん代物らしい」
マリニエールの説明を補足するメガイロ。彼の言う通り彼らの眼前に並んだ城を守る機士達は全員騎乗し横一列に並び、突撃の合図を今か今かと待ちかねている。
「騎馬兵相手に歩立ちで戦うのかよ・・・」
流石に機械の騎士でも歩兵が騎兵を破るのは生身の人間の場合と同様困難なのだ。彼らの場合馬と機士の体重の合計は戦車並みとなる。それの正面に立つことがどれ程の無謀かは戦いの素人の勇騎でも判る。
ゴッと生暖かい風が吹き、城から立ち昇る闇がまるで腕を突き出すように揺れる。
それが突撃の合図だった。土煙を上げて一斉に機動鋼馬に跨った機士達が迫って来た。
「まずは数を減らす」
メガイロが膝立てになって右肩のアニューレットカノンを構える。
「俺達も一列横隊でメガイロの砲撃の後に突っ込むぞ。主、ユウキ、ヴァレルの背に腹這いになって掴まっていてください。それなら大丈夫なはずです」
「わかった!」
勇騎の言葉は最大出力のアニューレットカノンの砲撃音で遮られた。砲撃は突進してくる騎兵隊の前方の広範囲の地面を抉り、即席の空堀を数mに渡って生み出した。突然の事態に騎兵隊の最前列は手綱を引いて馬を停止させようとするが後ろから突っ込んでくる事情を知らない同僚たちに押し出される形で堀に転落していく。
「ベオタスの翼のお礼をしてやるぜ!」
大混乱に陥った敵に槍を構えたホットスパーが脚部の拍車を展開し、ローラーダッシュ。堀を飛び越え軍団へ躍り込む。
「往くぞ!入り口まで突っ走れ!」
一拍遅れてヴィダリオンの合図で4騎と1頭が走り出す。身を屈めて走る彼らの頭越しにメガイロの第2射が火を噴き敵部隊の陣形を崩していった。
「おらよっ!」
敵騎兵の槍を右に避けたホットスパーはスターシールドで騎兵の盾を突き落馬させると左手で剣を抜き、剣の腹で馬の尻を叩く。驚いた馬は主不在のまま戦場を駆け巡り味方側の騎兵部隊を更なる混乱に陥れる。
「その首貰ったァッ!」
「へっ、無理だな!」
側面から突進してくる騎兵をクルリと回転して躱す。騎兵は方向転換する間も無くメガイロの砲撃で出来た堀に転落していった。
「さあ、ドンドンかかってきな!機士団随一の問題児、ホットスパー様はここにいるぞ!」
怒号飛び交う戦場でホットスパーの大音声がそれらを圧して響き渡った。
「退け!」
「距離を取らないと大ケガをしますよ!」
戦場を駆ける2条の閃光。飛行形態に変形したカローニンは脚部の爪にそれぞれマリニエールとハダリーを掴んだ状態でその後ろからブースタレイブルを装備したヴィダリオンは杏樹と勇騎の乗ったヴァレルを抱えて、地面スレスレを飛んでいた。
騎兵隊は『裏切った』カローニンの能力を知っている。だから彼の翼の発する高周波の有効範囲から逃れようと道を開けざるを得ない。どんな盾も鎧も微細振動する翼の前には紙同然だからだ。その開けた道を一瞬の隙をついてヴィダリオンが通り抜ける。稀に命知らずが背後や側面からヴィダリオンかヴァレルを狙って槍を突き出すが可動するヴァレルの3つの盾は非常に硬く、槍をへし折って逆に機士を落馬させた。
「後ろから追っかけてくるぞ!」
「心配ない。主、耳を塞いでいてください」
「ええ」
「一体何が・・・」
勇騎の言葉は爆音に遮られる。ヴィダリオンらが通り抜けた道はメガイロの砲撃で大穴が出来て騎兵の追撃を防いでいた。
「すげえ」
「飛び越えてくるわ!」
杏樹の悲鳴を聞きつけたハダリーが肩に掛けていたアーキバスランチャーを構え、穴を飛び越えて頭上から槍を突き出す機士を撃った。右半身を吹き飛ばされた機士は地面に仰向けに倒れ主を失った馬は嫌な音を立てて頭からヴィダリオンのすぐ傍に転がった。
「気にするなハダリー。戦である以上は全員無事とはいかない」
「・・・・はい」
明らかに気落ちしているハダリーをヴィダリオンが慰める。だが彼の気遣いはマリニエールが側面から迫る騎兵隊を蛇腹剣で機士数人を纏めて地面に叩き落としたことで無駄に終わった。
「う・・・精進が足りません」
「銃器と剣では流石に比較になりませんよ。威力が違い過ぎますしね」
「ですがメガイロ様は砲撃で少なくとも直接機士にも馬にも被害を出していません」
「それは逆に言えば武器の精度が甘いから、と言えます。とにかく主を守ったのだから堂々としていなさい」
マリニエールの声は微かに震えている。
「・・・はい」
カローニンが目前に迫った城の玄関口に到達し扉を押し開く。
「さ、主、ユウキ中へ!」
ヴァレルを扉へ押し込むと殿のヴィダリオンは剣を抜き盾を構えて扉の前に立つ。
「ト・・・アアアッ!!」
騎兵の突撃を盾で受けると力の限り左腕を振り上げ馬ごと騎兵を吹き飛ばし、左右から迫る槍を一刀の下に叩き斬った。その馬鹿力に気圧された騎兵らの歩みが止まった隙にヴィダリオンは後ろ手に扉を開け城内へと入っていった。
「往ったか!後はどれだけ粘れるかだ・・・な!!」
騎兵の動きから予定通りヴィダリオン達が城内に侵入した事を悟ったホットスパーは城の玄関口へと突っ込んでいくと先ほどヴィダリオン同様扉の前で立ちはだかった。
「これでも食らいな!」
スターシールドが猛烈な勢いで旋回し、暴風を起こす。暴風は扉の正面から中庭全体に直径2m程の竜巻となって進路上とその付近の騎兵を空中へ巻き上げていく。
「俺もやればできるってこった!」
気を良くした彼は左右から下馬して迫る機士に気が付かなかった。厳密にいえば彼らが剣を振り下ろす瞬間まで自分の竜巻の範囲が狭すぎる事に気が付かなかったのだ。
「ゲッ、しまった!?」
「死ね!」
「裏切りもの・・・・ガッ!?」
2騎は横合いから来た何かに吹き飛ばされ頭から芝生にめり込んだ。追いついたメガイロの大剣の腹で撃たれたのだ。
「助かったぜ。砲撃が無くなったと思ったら斬り合いしてたのかよ」
「ああ。流石に俺を先に討ち取らないと被害が増える一方だと判断したらしい」
息を弾ませるメガイロの灰色の鎧は至る所にへこみや刃の跡が残っていた。
気が付けば戦の喧騒が嘘のように静まり返っていた。中庭には負傷して蹲ったり運悪く命を落とした機士や機動鋼馬で溢れかえっている。
それら『忠勇』の機士らに空から闇が降りかかる。闇に包まれた機士は人形の様に両腕と両脚を揃えたまま90度跳ね起きるという不自然な起き方をすると馬に飛び乗り獣のような怒号を上げて城の入り口へ突進する。
「ここが正念場だな」
「ああ」
メガイロとホットスパーは自分の盾を馬防柵がわりに地面に尽き立てると各々のコートオブアームズを構えるのだった。




