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異世界の機士 黒のヴィダリオン  作者: 紀之
最終章 聖杯の章

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第19話 聖杯の機士④




 各員の強化によって重装ヴィダリオン改の姿は鎧を纏った天使と言うべき姿をしていた。


「フン、如何に大きくなろうが、このテュポーンの敵ではない!」


テュポーンは樹木状の下半身からの酸の嵐を吹き付ける。重装ヴィダリオンは背中の猛禽類(もうきんるい)を思わせる1対の翼を震わせる。高周波振動はあらゆる攻撃を防ぐバリアーとなり酸の嵐を防いだ。


「ム!?」


「今度はこちらの番だ!クレセントカッター!」


コートオブアームズ・クレッセントカッター6枚を周囲に展開後、全てを合体させ1つの大きな輪を形成させる。円の内側は聖骸布のエネルギーが機士を強化する力場を形成している。


()くぞ!」


背面にコートオブアームズ・ブースターレイブルを形成して宙を突進、輪を潜り抜ける。通過と同時に速度が更に増す。


「振動波がいつまでも持つと思うな!」


(高周波振動によるバリアーは強力だ。だがその影響を最も受けるのは他ならぬヴィダリオン本人なのだ。つまりバリアーを長く展開すればするだけ振動の影響で奴らの機体がバラバラになる危険も高まっていくのだ)


だからこそ短期決着を狙っているのだ、とテュポーンの頭脳を司るナイトクレスター・ザパトは予想し、両肩の蛇の群れと自身の口から炎と氷そして砂嵐の最大の力を一斉に吹き付ける。


(1つでさえ、町一つを壊滅させる威力があるのだ!それが3つも合わされば・・・!)


3つの竜巻が合わさった超大型竜巻の中で重装ヴィダリオンは全身を震わせ吹き付ける暴風で速度を落としながらも一直線に進む。


『おい、本当に間に合うのかよ!モタモタしてたら作戦にならねえぞ!?』


「それよりもホットスパー、スターシールドを展開しろ!カローニン、振動波を前面の一点に集中!スターシールドにな!」


『了解!』


「怪物の口はまだ空いているな、マリニエール?」


『ああ。だが計算だとこの竜巻の中を突破するのに後7秒は掛かる。その間にこちらの真意に気付かないと良いが…』


「ならば急ぐ!カローニン、済まないがお前の飛行出力をブースタレイブルに回す!ブースターを焼き切っても奴の(もと)へ往くぞ!衝撃に備えろ!!」


背部のブースターが猛烈な輝きと炎を上げる。ロウソクは燃え尽きる時、その最期が一番大きく輝き燃えるという。ブースタレイブルの光は正にそれだった。


「グ!ウオオオオ!!」


バリアーを一部のみに展開した重装ヴィダリオンの全身の装甲が岩の直撃でへこみ、熱と冷気の急激な温度差でひび割れていく。それでも突進は止まらない。


「フン!自爆よりは最期の一太刀というつもりか?だがバリアー無しでこの竜巻を超えられると思っているのか!?それに・・・」


『いかん!?奴め、酸の嵐を追加するつもりだ!?』


「変更は無しだ!」


テュポーンの様子を探っていたマリニエールが警告を発するがヴィダリオンは意に介さない。

このやり取りの間にもテュポーンは下半身の木の幹を開口させる。最大出力の嵐を発生させるつもりだった。



ヴィダリオン達の危機的状況は後方にいるティレニア号にも伝わっていた。


「あんなのを受けたら・・・皆様(つか)まって下さい!ティレニア号で突っ込みます!」


「正気?だってヴィダリオン達は・・・」


ハダリーの決断に分限博人が悲鳴を上げるが星川勇騎はそれを遮るように大声で叫ぶ。


「生きてるよ!!あの光が見えるだろ!突撃を援護するんだよ!」


「だからどうやって?ドロドロになっちまうよ!?」


「それは・・・そうだ、陸、博人手を貸してくれ!ハダリー、俺達で船の(いかり)を操作するからそれをあの脚の穴にぶち込むんだ!!そうすりゃ船は無事だ!」


「賭けですが・・・・それ以外に良い方法は無いですね」


「よし、そうと決まればやるぜ!」


「ええい、もうヤケだ!」


人間の少年三人は船の錨を操作するレバーを渾身の力で下げる。同時にガクンと船が下に傾いた。


「ユウキ様!合図をしたら脇の赤い装置を押して下さい!緊急用の切り離し装置です!」


「分かった!」


勇騎の言葉が終わった瞬間、ハダリーは船を急降下させる。


「ボロ船が!機士というのは自殺志願者の集まりか!?」


テュポーンの声音と表情は呆れというより憐みに近い。だが船が急角度で左に旋回し、尻尾の様にしならせてた鎖とその先端の錨を見てその意図を悟り驚愕と共に体を捻ろうとした。だが333mの巨体が機敏に動けるはずも無い。


「ガ、オッ!?グオオオオオ!?」


脚部に鎖が巻き付き、嵐を生む悪魔の穴が錨に塞がれる。


「今です!」


ハダリーの合図と共に勇騎は錨の鎖を切る。彼は他の仲間同様墜落の衝撃で床を転がりながらも地面を滑るティレニア号の艦橋から錨が直撃した痛みでくの字に折れ曲がったテュポーンの口部に間髪入れず槍が突き刺さるのが見えた。


反射的に口を閉じたテュポーンの口部装甲はその巨体に相応しい強度で小さなヒビを入れながらも高周波を纏ったスターシールドを真ん中から折ってしまった。


「メガイロ!」


『分かっている』


その小さな傷にメガイロが腕力を一時的に3倍にするアニューレットドライブを起動させ渾身の一撃を叩き込む。


「ハアッ!!」


「おのれ!」


「これで終わりだ!アニューレットカノン最大出力!」


破砕した装甲から見える闇の如く黒い内部構造へ重装ヴィダリオンは最後の一撃と右肩の大砲を撃ち込む。



「おい!?どうなってやがる?」


ホットスパーの指摘の通り砲弾は爆発も装甲を貫通もしないまま無反応だった。


「ク・・・ククク!馬鹿め!!これを待っていたのだよ!!!」


「うおっ!?力がぬけ・・・・る?」


露出した内部の闇から赤い煙が噴き出す。煙を浴びたヴィダリオン達は合体を解除され地上へ落下する。


「これがテュポーンの隠し武器たる静寂の霧だ!!この霧に触れたら最後、あらゆる物が機能を停止する!聖骸布も、貴様らの命の源エスカッシャン・ハートの鼓動もな!!我が主の慧眼と周到さに感服しながら永遠の眠りに就くがいい」


「く・・・・そ・・・う・・・・・・・」


指一本動かせないままヴィダリオン達は薄れゆく意識の中見た物はテュポーンがティレニア号へゆっくりと歩みを進めている光景だった。



「ここはどこ・・・?」


金雀枝杏樹は真っ白な空間の中で聖杯を持って1人立っていた。聖骸布に捲かれて鈍い輝きを放つ聖杯は彼女の意志に応えるかのように1つの場面を映しだす。


「え?私が倒れている?それに皆気を失って・・・?じゃあこれは夢?いえ、聖杯の力による異空間なの?」


突如自分のいる空間が振動する。聖杯は杏樹の不安に応えるように外の様子、すなわちテュポーンがティレニア号をその樹木状の触手で殴りつける様とその後ろで倒れている機士達を映しだす。


「ヴィダリオン!?それに皆も!?お願い、早く聖杯の浄化を・・・・!」


しかし、聖杯内は依然と変わらず光と闇が均衡を保ったまま。


「お願いヴィダリオン起きて!!ヴィダリオン!!」


杏樹の叫びと共に彼女の周囲の空間が一転し1点を除いて暗黒の闇の中に立っていた。


「光・・・・そう、あの時の・・・・ヴィダリオンが初めて地球に来た時のあの光・・・」


つい半年ほど前の事なのにその弱々しい光に懐かしさを覚える。


「光は弱くても闇の中でまだその命を保っている・・・・!」


杏樹の頭の中にある考えが閃いた。彼女はその瞬きを見つめ、手元の聖杯を見つめる。


「光は闇と交わらない・・・・!?でもそれは昼と夜があるようにお互いが世界にとって必要だから・・・・聖杯は浄化されていないのではなく、これが光と闇を半々に宿したこれが本来の聖杯の姿・・・・・ヴィダリオン!」


杏樹は一飛びに消えかけた光―ヴィダリオンの魂へ語り掛ける。


「う・・・・ここは・・・?主何故ここに!?」


「ここは精神世界。だから直接あなたの心に語り掛けているの。分かったわ、聖杯の真の力が」


「本当ですか!ではなぜその力を私は、私達は使えないのです?」


「よく聞いて。聖杯は光も闇も受け入れる。調和の力を与えるのよ。その為には光と闇を善と悪を理解し受け入れる必要があるの」


「出来かねます。闇を、悪を受け容れるなど、とても」


「出来るわ。だって貴方は不良機士でしょう?」


「う・・・・確かに真面目とは言えませんが・・・」


「私も勇騎君も人間には良い心と悪い、いえ醜い心があるのよ?HBクレスターを生み出してしまう位のね。そういう存在に忠誠を何故誓うのかしら?それとももう、誓えない?」


「まさか!?我々にもゲッグのような者がいます。その点では同じです」


「そう。私は貴方が来てからずっと考えていたわ。機士団の掲げる理想を完全に賛同していない毎日寝てばかりいる貴方がなぜ地球に来たのか?そして組織のはみだし者の貴方や仲間達に何故聖骸布が力を与えたのか?」


「もしやその事を気が付かせる為に、増大する闇に対抗するだけの力を与える為に?」


「そうかもしれない。いいえ、きっとそうよ。全ては聖杯の真の力を受け容れる為の試練。後は・・・・」


「私の心次第・・・!」


(正直な所まだ私には理解しかねる。だがマレフィクスの闇一色の静寂も機士団の掲げる光溢れる理想の世界も私には居心地が悪い気がしてならなかった。だが主の言う世界なら

少しは過ごしやすいのではないか?誰もが受け入れられる世界を、少なくとも門前払いを食らわぬ世界。だがその為にはあれは危険だ)


「あ」


聖杯が杏樹の手から離れヴィダリオンの胸に吸い込まれていく。


「これが・・・・これこそが聖杯の力!創造主の目指した調和の世界を創る為の力!!」



「これくらいで良いだろう。後は一思いに船諸共全員溶かしてくれる!!」


テュポーンは下半身の木の幹を開口させる。先程邪魔をされた意趣返しだった。


待て


「・・・・何!?」


もはや聞く事が出来ないはずの声にギョッとしてテュポーンは振り向く。


そこにヴィダリオンが立っていた。


「何故貴様だけが!?」


「テュポーン!!真の聖杯の力今こそ見せる!パーチメント!!」


「あれは!?」


ヴィダリオンの絶唱と共に胸から聖杯が(あらわ)れる。


聖杯は彼の胸の前で分解し、2つの鋭角的な取っ手が兜の両側面に、ボウル(液体が入る場所)が2つに分かれて胸と背中に装着。ステム(ワイングラス等で手で持つ部分)は4分割されて手足のそれぞれ中心に吸着するとそこから稲妻状の模様が広がる。最後にベース(グラスを支えるスタンド部分)が盾として左腕に装着される。

聖杯と同じパーチメント(羊皮紙色)となったヴィダリオンの体は徐々に巨大化し、遂にテュポーンと同じ大きさとなった。


「信じられん・・・・これが聖杯の真の力だと!?貴様如きが選ばれただと!?」


ヴィダリオンは高らかに宣言する。


「その通り!私は聖杯の機士!ヴィダリオン・サン・クレール!!」

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