第19話 聖杯の機士①
「や・・・た・・・ぞ!遂に聖杯を取り戻したぞ!!」
「ヴィダリオン、私と一緒に!」
ヴィダリオンの両手は闇の瘴気と聖骸布の聖なる力の反発によるスパークしていた。彼は慎重に聖杯を置くと聖骸布を自分の主であり、聖杯の巫女である金雀枝杏樹と共に杯を布で覆っていく。
「なんということだ・・・・!聖骸布越しからも暗黒の力が湧き立ってくるとは!?浄化にどれだけ時間が掛かるのだ?」
カローニンの言う通りだった。悠久の年月を暗黒の盟主たるマレフィクスに取り込まれていた聖杯はいまや半分に裂けた聖骸布の力では浄化に相当な時間がかかるのだ。
「しかしよう、もう連中には切り札はねえ。後はマレフィクスとザパトの野郎をぶっ飛ばせば終わりだ」
「なら連中はまたすぐに攻勢に出るだろう。聖杯を取り返す為にもな。それに聖杯を失って尚マレフィクスの闇の力は強大だ。俺達4人では相打ちにさえ持ち込めまい。それはお前にも分かっているはずだ、ホットスパー」
楽観的ホットスパーにヴィダリオンは釘を刺す。彼の疑問は聖杯を取り返す事にもっと激烈な抵抗を見せると思っていた。だが彼らはあっさりと引き下がってしまったのだ。
「それじゃどうするつもりだよ!?聖杯の浄化が間に合わねえとなるとこっちだって打つ手無しだ」
「そのことなんですが・・・・」
ハダリーがおずおずと手を上げる。
「何かあるのか?」
「はい。聖骸布をお貸しくださいませんか?確かめたい事があるんです」
「聖骸布を!?それがどんな事か聞いてもいいですか?」
「カローニン様、私にも確信が持てないのです。ですが、私はこの声に賭けてみたいのです」
「声!?誰の?」
「恐らく、マリニエール様とメガイロ様です。先程から時折私に助言を下さるのです」
確信が持てない、と言いながらもハダリーはその部分に関しては断言した。
「マリニエールとメガイロが!?」
その場の全員が飛び上がる思いだった。
「なんで自分達には聞こえずにハダリーだけが聞こえるんだ?」
星川勇騎の疑問に
「私も最初は聞こえませんでした。でもティレニア号と合体した後、つまり船底の船倉に安置してあるお二方のエスカッシャン・ハートが先日の海戦の折にティレニア号の受けた光の影響で活性化したのかもしれません。船底の部分はあの光を受けて装甲が強化されていますから」
「蘇るのか!?あの2人が!?そうなんだな!?2人は何と言っているんだ?」
勇騎はハダリーの手を取って上下に振り回して喜びを露にするが、当のハダリーはその意見に懐疑的だった。
「それは何とも・・・・お二方もどうなるのか分からないと仰っています。ただより今よりは役に立つだろうとしか・・・」
「それでも構わねえ!やっぱ最後はみんなしてマレフィクスの野郎をぶん殴らねえと気が済まんぜ!」
「大団円を迎えるには彼らが居なければね」
珍しくホットスパーとカローニンの意見があった。
「行ってみよう。その上で何が必要か彼らに聞こう。ハダリー、頼む」
ハダリーを先頭にヴィダリオン一行は期待を胸にティレニア号の船倉へと降りていく。
階段を降りていく中でいくつかの壁の色が銀色の輝きを放っている。
「この辺ってスキュラと戦った時に破壊された箇所だよね・・・修理していた覚えがないけど」
「ってことは俄然あの2人の復活も期待していいかもな」
列の後ろにいた分限博人は半ば神秘の力に怯えを含みながら、新井陸は喜びを滲ませながらヒソヒソ声で話す。
(皆喜んでいるけど私達にとっては得体のしれない力である事は間違いない)
金雀枝杏樹はだからこそ自分がその力を暴走させない為にいるのだ、と納得させる。
(でも、2人の復活がもし理に反する物だったとしたらこの人達を説得できるかしら?)
それが期待を裏切って、戦力不足の解消の道を絶ってまで達成しなければならない事なのかは彼女には分からなかった。
「着きました」
「・・・・光っているな」
暗い船底で仄かに輝く2つのエスカッシャン・ハート
半円状に取り巻く一行の中から杏樹は歩き出すと2つの紋章の間に立ち両の手で触れた。
「マリニエール、メガイロ。ハダリーに助言を与えて巨人との戦いを勝利に導いてくれてありがとう。貴方達は・・・復活したいの?その為には何が居るのかしら?皆に応えられる?」
杏樹の問いかけに躊躇いがちなマリニエールの声が船倉に木霊した。
『出来れば、また轡を並べて共に戦いたい。しかし・・・』
「しかし?何かあるのか?」
『ヴィダリオン、判っているはずだ。この戦いでは何よりもまず聖杯が必須。悠久の刻の中で汚されてきた聖杯を浄化するには時間が掛かる。それは敵方も承知しているだろう。その時間を割いて私とメガイロの復活させるのは浄化の時間をその分減らす事だ』
「俺達は皆聖骸布の力を得ている。6人の浄化の力があればどんな奴らも・・・・」
『ホットスパー、聖杯の力は聖骸布とは比較にならない奇跡の力を生むのです。マレフィクスが様々な図像獣を生み出し、強化し、復活させる事が出来るのは偏にこの力の恩恵なのです。
そして、ここが重要なのですが私が寝返っていた頃、首領マレフィクスの体を分析した事があります』
「どうだったんだ!?弱点は無いのか!?」
勇騎の興奮気味の声を宥める様にマリニエールの言葉は続く。
『奴は体内の各所に聖杯の力を貯め込んでいます。その力は恐らく聖杯その物が無くなった今でもその力は完全に失われていないはず。聖杯には聖杯。それが判っていて我らの復活を優先してくれとは言えませんよ』
「あのな、メガイロはどう思っているんだよ?」
陸の言葉にメガイロが初めて言葉を話す。
『俺の任務はマリニエールの護衛だ。復活するのなら共に蘇るし、そうでないならこのままだ』
「・・・・・んな姿になっても律義だね、お前さんは」
呆れたようにホットスパーが首をすくめる。
ヴィダリオンは一同を振り向き、続けて2つの紋章に向き直り
「だが、マリニエール、メガイロ。俺はこの戦いをお前達と共に、復活した姿でという意味でだぞ、終わらせたいと思っている。聖杯は確かに重要だ。だが仲間が生き返るかもしれぬという選択を敢えて捨てての勝利が果たして散っていった仲間達に誇れるものか、何より聖杯に認められるのかと俺は考えている」
自身の心からの思いを告げた。
『・・・・全滅しては元も子もないでしょう。気遣いは嬉しいですがね』
「極めて現実的な提案だよ。聖杯と俺達を同時攻撃されたらどうする?すぐに奪い返されちまうぞ?こっちはただでさえ人手が足りねえんだよ」
『マレフィクスとザパトが仕掛けてくる、か・・・・有り得ない話ではないな』
ホットスパーの意見にメガイロも同調してはマリニエールの意志も揺らぐ。いや、実際のところは彼の本心もヴィダリオンと同じなのだ。彼の場合、任務遂行という使命を優先させるという思考があるだけの違いである。ヴィダリオンらが自由過ぎるともいえなくもないが
『そう言われては提案に乗らざるを得ない。しかし、部品があるのですか?聖骸布も今の状態の聖杯も無から有を生み出せませんよ?』
マリニエールの疑問に勇騎は意外な答えを返す。
「あるよ。連中の乗って来たロボットの残骸を使えばいい」
同時刻 デウスウルト城
中庭に降り立ったマレフィクスは自身を支える邪神官ザパトを投げ飛ばすとよろめきながらも立ち上がった。
「主よ、此度は・・・・我が命を救って頂きありがとうございます」
這いつくばったままザパトは掠れ声で主へ呼びかける。考えられる限りの作戦は全て失敗に終わり、邪神官も自分1人になった今かれは主に顔向けできないが、最後の感謝の意は伝えるべきであるという悲しい忠誠心に突き動かされて口を開いていた。
マレフィクスは無言だった。中庭の中央で彫像の様に動かない。
どの位の時間がたったろうか?ザパトには悠久にも思える時間の後マレフィクスが口を開いた。
「その言葉は・・・・心からの物か?」
「勿論でございます!我が忠誠はこの世に生まれた時から不動の物。今まで御心に背いた事など」
「黙れ!!ここまで醜態を曝しておいて何を言うか!?」
「う」
「だが成果はともかく変節していないと誓うのだな?」
「ハッ!!」
「・・・・・・良いだろう。テュポーンを使う」
「伝説の図像獣テュポーン!しかしあれは!?」
「そうだ。だからこそお前の忠誠心が試される。我と同じ戦闘力を持つテュポーンの頭脳としてその力を抑え、束ねられるか?どうだ?」
「勿論でございます!このザパト、主の為に最後の任務を全う致します!!」
ザパトは歓喜に震えてマレフィクスへ額づく。その背中にマレフィクスは首の装甲を引きちぎると僕の背中へと落とす。装甲は黒い繭となりザパトを包むとあっという間に中庭一杯に大きくなる。
そして
同じ頃ヴィダリオン達は手分けしてマリニエールとメガイロ復活の為にゴリアテとエンキドゥの残骸から拾い出したパーツを聖骸布の上に集めて包みこんでいた。
「まずはメガイロからだ。それでいいんだな?」
『ええ。彼の戦闘力は防衛戦には役に立ちますよ。私以上にね』
『先に待っているぞ、マリニエール』
布の中で何かが蠢き人形を形作ると聖骸布の裾から大きな足が飛び出して起き上がる。布を落として現れた姿は白銀に縁どりされた灰色の全身鎧を着たメガイロだった。
「おお・・・・」
「おかえり、メガイロ」
「再会の挨拶は後だ。どうやら敵が来た」
「・・・・あれは図像獣・・・か!?」
中世の生気の無い人物画のような人間の胴体に樹木の様な下半身。背中にコウモリの翼を生やし、両肩には大蛇の群れが鎌首をもたげている。両の腕は狼かライオンのような鋭い爪を生やしている。
最強最後の図像獣テュポーンが、邪神官ザパトが最期の戦いを挑んできたのだ。




