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異世界の機士 黒のヴィダリオン  作者: 紀之
1章 機士の章
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第2話 宝石は図像獣のはじまり②

  


「もう大分先まで行っちまったみたいだな。こうなりゃ全力で走っていくしかないか」


「でも、着いた先でもうクレスタ―が目的を果たしていたら?」


『追いつきたいのでしたらお任せください』


「何かあんの?」


「ちょっと、もう!?」


杏樹が顔を赤らめ両手で胸を隠してそっぽを向く。勇騎は思わずヴィダリオンに話しかけたのだがそれはつまるところ杏樹の校章に話しかける事であり、それは杏樹からも周りの人間の目から見れば彼は幼馴染の、女性の胸を見て話しかけている構図になる。杏樹も勇騎もお互いに気まずいためヴィダリオンに外では話しかけない様に気を付けていたし、勇騎の方も出来る限り校章を見ずに話す事を心がけているつもりだった。


「あ、ごめん」


「アコレードヴィダリオン!」


怒りをぶつけるような叫び声と共に杏樹の校章から光が放たれ、黒い鎧を纏った偉丈夫が2人の前に現れる。


「ヴィダリオン、良い方法があるの?」


「はい。出でよ、我が愛馬マスルガ!」


そう叫んだヴィダリオンは左腰に提げている直径5センチほどの馬型のアクセサリーを外す。そこから光と共に灰色の機械の馬が現れるとその鞍の上にひらりと飛び乗る。


「私も行くわ」


「・・・・・・分かりました。ではどうぞ」


主と定めた女性が性格上一度決めた事はやり遂げる事を知っている彼は何も言わず彼女に手を貸して馬上に引き上げる。


「おい、俺も」


「早くしろ。時間が無いんだろう?尻尾以外のどこでも掴まっていろ」


「へいへい。所詮俺はおまけですよ」


勇騎も黒騎士の塩対応にはいい加減慣れてきたので何も言わない。


「マスルガ、地下の振動波の後を追え。ハイヤッ」


ヴィダリオンは機動鋼馬マスルガに拍車をくれるとマスルガは耳のレーダーを360度回転させながら電子音声のいななきをあげて疾風の如く駆ける。



「きゃあ!」


「うおっなんじゃこりゃあ!?」

杏樹と勇騎はジェットコースターにでも乗ったかのような風圧を顔に受ける。勇騎が足元の熱さに恐る恐る見ると後足の腿に当たる部分からジェット噴射が赤々と燃えていた。しかもこのブースターは可動式になっており商店街の2つ目の角をほぼ直角に曲がり、2秒後に機体を完全停止できる程の優れた代物だった。


「は・・・早く着いたのは良かったけど・・・・」


「寿命が50年は縮んだ・・・・」


「着きました。さ、主お手を」


ヴィダリオンは恭しく杏樹を下ろす。当然勇騎はスルーだ。彼もこうなる事は分かっていたので自分から飛び降りる。


「ここって宝石店?」


「換金でもするのか?ってあいつか?宝石を食ってやがる!」


そこは町一番、いや近隣地区でも一番大きな金村宝石店だった。


既にモールクレスタ―は地下トンネルから宝石店地下の保管庫に侵入すると小人形態に変形、ガーネット・トパース・サファイアの原石をトンガリ帽子の中にどんどん放り込む。この帽子は内部にワームホールを生み出し、原石を直接主たる邪神官らのアジトへ送り込むのだ。


やがてモールクレスタ―は使命ではなく自分の楽しみの為に宝石を片っ端から口に入れる。あらかた食べ終わると上の階へノシノシ上がっていった。


彼がヴィダリオン一行と鉢合わせたのは店員や客の悲鳴をよそに展示物の宝石や指輪、ネックレスなどを手あたり次第に両手一杯に握りしめてバリバリ食べていた時だった。


「ヴィダリオン!」


「承知!」


「モルっ!?モルガー!!」


「観念しろ!」


モールクレスタ―へ突進するヴィダリオンは自分目掛けて投げつけられる宝石や装飾品をその鎧に受けながらも全く意に介さずに鉄拳を腹に食らわせる。ところが殴られたモールクレスタ―は少し呻いて後退はしたもののさしたるダメージは無いようだった。


反撃とばかりにツルハシ状の右手を袈裟切りに振り下ろすモールクレスターだがヴィダリオンも体を捻ってその斬撃を躱すとその回転を利用し、自身の足をモールクレスタ―の足に引っかける。


「これで真っ二つだ!!」


図像獣の全身を両断すべく盾に描かれた紋章の剣を実体化させて頭上に構えるがモールクレスタ―はつんのめった勢いそのままにドリルタンク形態へと変形すると飛び上がり天井をぶち抜いて逃走を図る。


「おのれ!」

剣を紋章へと戻しヴィダリオンもモールクレスタ―が作った穴に飛び込む。


「俺達も行こう!」


「ええ!」


勇騎と杏樹が階段を駆け上がる。


「アッ、あいつまた下に行きやがった!」


2階へとたどり着く間の踊り場の窓からモールクレスタ―が真っ逆さまに落ちていくのが見えた。


「きっとまた地下に潜る気だわ」


急いで元来た道を駆け降り、店の入り口にたどり着いた時には既にモールクレスタ―は耳障りな音を響かせながら地下に潜った後だった。


「素早い奴め」


屋上から飛び降りてきたヴィダリオン。その身体能力が並の人間業ではない事は2人も気が付いていた。


「追います。2人とも早く」


3人はマスルガに跨ると再びモールクレスタ―の振動を頼りに追跡を開始した。



剣王町・旧市街 邪神官達のアジト


「プレハ、原石と加工品の両方を手に入れた。まだ必要か?」


「ウム、サンプルは多いに越したことはない。もう少し続けてくれ。だが流石に感づかれたのではないか?」


「モールクレスタ―はそうそうやられはしない。だがまずいな。次の宝石店への進路上にはこの隠れ家がある。一旦奴をクレストに戻してやり過ごすとしよう」


ザパトは地下を掘り進むモールクレスタ―を青い楔型の宝石へと変えると次元を超えて瞬時に手元へと戻す。


当然機動鋼馬マスルガのレーダーからモールクレスタ―は消失し、追跡が困難となってしまった。


「うおっ!?どうしたんだよ、急に止まって?」


「主、図像獣の反応が突然消えました。もしかすると連中のアジトが近いのかもしれません。どこか心当たりはありませんか?」


ヴィダリオンが振り向く。無論杏樹の答えを待っているのは明白である。


「うーん。怪しすぎる空き家は昔からいくつもあるのよね」


「こうなったら1つづつ探していこうぜ。まずはあの角の化け物屋敷からだ」


「勝手に仕切るな。だが誰も近づかぬ曰くありの物件というのも隠れ家としてはありか」


ヴィダリオンはマスルガを元のアクセサリーへと戻し、勇騎と杏樹の後をついて行く。契約を果たした彼は杏樹の半径300mしか実体化していられない。しかも離れすぎると紋章へと戻り主共々無防備になってしまい、再度の実体化には3分のインターバルが必要なのだ。



「まずいな。連中ここに近づいてくるぞ」


「さきにやっつけるか?」


「・・・・・待て。ここは私が何とかする。2人とも2階から動くなよ」


ザパトは短気なガルウを抑えると急いで裏口から外へ出るとわざと大きな足音で駆けだした。目的地はない。ただこれで確実に追跡者が自分を追ってくるのは確実だった。案の定自分を追いかけてくる足音が3つ。内1つはガチャガチャとやかましい金属音を立てている。


(かかったな。思いのほか単純な連中のようだが・・・・後はどこで実体化させるかだが)


ふといい場所を思いついたザパトはその方向へ足を向ける。


「あの人、速い!ヴィダリオン、マスルガは?」


「すみません、主。私と同じで再度の実体化には少々の時間が必要です」


突如脇道から飛び出した黒マントを追って3人は旧市街の狭く細い道を走っていた。前を行く黒マントは走るというより大股に跳んでいるという表現が近い、妙な走り方で右に左に3人を引っ掻き回す。


(あんな鎧を全身に付けてんのに全く走力もバテてもない。ヴィダリオンってやっぱ俺達と鍛え方が違うんだな)


その鎧の重量から最後尾を走るヴィダリオンを振り返りながら勇騎は内心感嘆する。


「ねえ、勇騎君。あの先工事中で行き止まりよ。でもあの人全然気にしてないみたい」


「異世界から来たから字が読めないんだろ。あんな工事現場なんて向こうにはないだろうし」


並走する杏樹の疑念に対して勇騎はあくまでも楽観的だった。だが黒マントが恐るべき跳躍力で工事現場のフェンスを一足飛びに越えたのを見て急停止、別の道を見つけようと周りを見回している間にフェンスの中から猛烈な土煙と耳障りな回転音、その数秒後にあの振動が地上を揺るがす。


「うわっ、まさか!?」


「どうやらわざとあの囲いの中に図像獣を落としたな。主、我々はうまく誘導されたようです」


「マスルガは!?」


「いけます。主、奴の行きそうな場所は?」


「待って・・・・一番近いのはここから東に500m。さっきほど大きなお店ではないけど」


「では行きましょう。ユウキ、グズグズするな」


「分かってるよ」


再び馬上の人となった3人はモールクレスタ―が襲撃しそうな島田宝石店目指して進む。


「あのさ、ヴィダリオン」


「何だ?」


「さっきなんでディバインウェイブを使わなかったんだ?」


勇騎は先程の戦いでの疑問をぶつける


「別にいいだろう。お前も主も巻き込まれる心配はなかったのだから」


「そうはいかないわ。私達がクレスタ―と戦うのは町を守る為だもの。それにね、あの人達がお賽銭をくれるから私達家族は暮らしていけるの。あなたは主を路頭に迷わせたいの?それにこれから行くお店はおばあ様の知り合いの店だから、何かあったらおばあ様が悲しむわ。そうなると私も悲しい」


杏樹はかなりずるい言い方だと思ったが、ヴィダリオンという人物にはこういう言い方が最も適切だという事が短い付き合いの中でも分かってきていた。


「ぐぬぬ。それを言われると弱い。分かりました。あれをやると疲れるのですが主命とあらば今後そうしましょう」


バケツをひっくり返したフルフェイスヘルメットで表情は見えないが渋々といった調子で返事をするヴィダリオンに気付かれない様に杏樹は振り向いてウインクする。


(女って怖ええ)


勇騎は苦笑いを返すしかなかった。


3人とモールクレスタ―が目的地に到着したのはほぼ同時だった。


「奴はこの中に。2人とも後は私が」


「待って。お店の人達に事情を説明するのは私達がやるわ」


「ありがとうございます」


「早く行こうぜ。もう店の中にいるかも」


勇騎に急かされて杏樹とヴィダリオンも折角結婚指輪を受け取りに来たのに、と嘆くカップルと入れ替わりに店に入る。店内の人間の反応は謎の振動とその後に入って来た店の客に似つかわしくない、3人組に呆れるか、狼狽えるかのどちらかだった。


「君達、地震だ。中にいると危ないから外へ出なさい」


支店長と思しき初老の男性が注意する。


「この振動は地震じゃありません。島田さん、信じられないでしょうが宝石を食べる怪物が地下から来ているんです」


「何だって!?君はリエさんのお孫さんじゃないか?ってことはあの言い伝えは本当なのかな?」


「言い伝えって?」


勇騎の疑問は奥の部屋から耳をつんざく金属音に打ち切られる。


「店長、申し訳ないが我が愛馬を入れさせてもらう」


「ン?なんだね君は?しかも馬ァ!?」


「すみません。私からもお願いします」


杏樹の懇願に支店長が頷くより早く、ヴィダリオンはマスルガを伴って保管庫を兼ねる奥の部屋へと飛び込んだ。


 

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