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異世界の機士 黒のヴィダリオン  作者: 紀之
最終章 聖杯の章

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第18話 魔の巨人②




 「なんだありゃあ!?」


ホットスパーのマヌケな声が夜空に響き渡る。


無理もない。飛び出してきた2体の機械の巨人は異様な見た目をしていた。


まずは邪神官、ナイトクレスター・プレハの搭乗するエンキドゥ。

猫背の2本の角が側頭部から生えた尾長猿その物の見た目をした4mのロボットである。毛皮に似た銀色の装甲が全身を覆っており、手足には長い爪が生えている。


もう一方のナイトクレスター・ザパト駆るゴリアテはまだ人間に近い見た目をしていた。といっても見た目は古代の兵士の埴輪(はにわ)そのもので5m程の大きさではあるが間の抜けた顔の造形のせいで単純な迫力はエンキドゥの方が勝る。こちらは重装兵さながらのトゲ付きの鎧を全身に装備し、簡素な短槍と円盾を持っていた。


「巨大ロボ!?こんなのを持ってるなんて!?皆気を付けろ!」


「でかけりゃいいってもんじゃないって事を教えてやるぜ!!」


星川勇騎の忠告を無視してホットスパーはベオタスに拍車を当てて夜空を突っ走る。彼はコートオブアームズ・スターシールドを出現させるとスターシールドの5つの星を形成するパーツ先端から銀の光が迸ると1個のビームシールドを形成する。シールドはそのままの状態で槍へと変形、聖なる炎の槍をゴリアテの首筋目掛けて突き出した。


『フン』


ザパトはゴリアテのコクピット内で右の操縦桿の役割を果たす重力剣ガナドールに魔力を込める。ガナドールから伝わった魔力は右腕を経由してゴリアテの槍に伝わると槍から増幅された重力波が放射され、ホットスパーとベオタスを鋭利な穂先へとアリジゴクの巣の様に引き寄せる。


「しまった!この感覚、前に競技会で!?」


『ハハハ!猪機士めが!我が槍の錆になるがいい!』


「そうはいかん!」


ゴリアテが右手の槍を突き出した刹那、コートオブアームズ・ブースターレイブルを背中に装着したヴィダリオンが間一髪で天馬と機士を横合いから救い出した。


「すまねえ!」


「礼は後だ。今は・・・ウッ!?」


ヴィダリオンは足元から急上昇してくるエンキドゥを避ける為急停止を掛ける。鼻先を飛び越えるエンキドゥの爪攻撃は2騎には当たらなかったものの、その跳躍が巻き起こした突風にバランスを崩した所にゴリアテが円盾を投げつける。


「躱せねえ!なら!」


「応!」


ヴィダリオンは白銀に光る剣を抜き、ホットスパーの槍と同時に振り下ろす。


「グッ!?これは・・・!?」


「馬鹿な?この感覚は!?」


円盾に触れた刃先から聖骸布のエネルギーが抜き取られる感覚に2騎の腕が驚愕(きょうがく)の余り止まる。敵のエネルギーを吸収した盾は勢いを増して回転、ヴィダリオンらを吹き飛ばした。


「ヴィダリオン、ホットスパー!?上から来るわ!」


ティレニア号の手前でブーメランの様に戻っていく円盾の唸りにかき消されていく金雀枝杏樹の悲鳴をヴィダリオンは聞き逃さなかった。


先刻上昇したエンキドゥが両腕を振り上げて急降下してきたのだ。


「ウォッ・・・!?」


「ベオタス、逃げろ!」


エンキドゥの長い爪はブースターレイブルの先端を穿ち、ヴィダリオンを墜落させ、もう片方の腕がベオタスの横腹を蹴り飛ばして愛馬を魔爪から救ったホットスパーを地面に叩きつける。エンキドゥの一撃もゴリアテ同様、聖骸布のエネルギーを吸い取る感覚をヴィダリオンらに与えた。


「グッ・・・生きているか?」


「当然・・・こんなんで死にゃしねえよ」


ヴィダリオンとホットスパーは互いの無事を確認し、起き上がろうと上体を起こそうとする。だが2騎の両腕は、いや体は地面へと吸い込まれていく。


「これはまさか・・・」


『忘れていたようだな。このプレハの流砂を生み出す力を!』


ヴィダリオンらとティレニア号の中間に立っていたエンキドゥからプレハの勝ち誇った声が木霊する。

エンキドゥの周囲の地面にはいくつもの円錐状の深い穴が深淵への入り口を形作っている。


「クソ、滑って登れやしねえ!」


ホットスパーとヴィダリオンは懸命に手足を動かして穴をよじ登ろうとするが彼らが力を込めれば込める程に流砂はサラサラと獲物の体を徐々に穴へと押しやっていく。


(だが、復帰したとてこのままでは奴らに勝てん。あの力を吸収する感覚・・・・あれをどうにかしなくては)


ヴィダリオンは対抗策を頭の中で考えるがその間にも地中の穴に押しやられていく焦りから良い案は浮かばない。


「掴まって下さい!ティレニア号の救援を!!」


「カローニン、助かった!」


「了解だ」


2騎はカローニンの脚に掴まって穴から脱出する。


『3人纏めて地獄の穴に落ちろ!』


プレハはカローニンを撃ち落とすべくエンキドゥの口から火炎弾を連射。


「くっ、マートレット!敵を引き付けて下さい!」


カローニンはヴィダリオンとホットスパーをぶら下げたまま左右ジグザグに飛びながらマントと背部パーツを変形させると背部パーツは鳥型メカとなって分離、プレハの注意を引くべくエンキドゥの周りを超音波を発しながら高速で飛行する。


「ウっ、どうしたのだ?エンキドゥの制御が利かぬ!?そうか!あの小うるさい燕のせいか!」


プレハは操縦するエンキドゥのターゲット機能が機士ではなく鳥メカに自動で引き寄せられる原因を即座に突き止めると、対超音波用のターゲットプログラムを構築する為に一旦機士を追う事を止める。ゴリアテが母艦を攻撃している事とたかがサポートメカにエンキドゥを破壊する手段なぞ無いという計算の上である。



ヴィダリオンとホットスパーがエンキドゥに翻弄されている間、ザパトの駆るゴリアテは空飛ぶ帆船ティレニア号のバリスタや大砲の砲撃を跳ねのけながら悠々とその真下に陣取った。船底部分は最も装甲が厚いと同時に最も無防備な場所でもある。


「これで終わりだ!串刺しになるがいい!」


ゴリアテの短槍から重力波が放射、船は見えない糸に手繰り寄せられる凧の様に直下へと引き寄せられていく。


「やべえ!この振動じゃ皆バラバラになっちまうぞ!?」


「ひ、ひええ~神様お、お助けェ!?」


激震する船の艦橋へと集まっていた人間組でも新井陸や分限博人(わけきりひろと)ら一般人協力者はパニックに陥っていたが星川勇騎と金雀枝杏樹(えにしだあんじゅ)の2人は場数の違いから冷静だった。


「そうだ、陸の言う通りこのままじゃ全滅だ。だから俺達だけ外に飛び出てハダリーと船を合体してもらうんだ」


「それしか皆が助かる道はないわね」


「正気かい!?ここ地上何mと思っているんだよ!?」


「ハダリー、聞いていたな!近くのなるべく高いビルに寄せてくれ。俺達はそこに飛び移る。そうすればお前も心置きなく戦えるはずだ」


ハダリーへ指示がそのまま勇騎の分限らへの回答だった。


「・・・・分かりました。どうかご無事で!」


ハダリーも敵の狙いが自分達である以上勇騎達を積極的に狙ってはこないだろう事は予測できた。そうでないなら巨人などをわざわざ持ち出す必要はないのだ。


「ほ、本当に飛ぶのか!?」


「今更喚くなっての。戦いの邪魔なんだよ、俺達は。そら行くぞ!」


下からの突風と夜の闇に浮かぶビルのシルエットに怖気(おじけ)づく分限は陸に両肩を掴まれて舷側から共に飛び降りた。


「よし、行くぞ杏樹。怖くないか?」


「少しだけ」


震える杏樹の両手を握ると勇騎も続けて船から飛び降りる。彼の背後で大きな光が1回明滅する。ハダリーがティレニア号と合体したのだ。


「いってえ。意外と近くに寄せてくれたのか」


杏樹を庇った為受け身は取れなかったが骨が折れている事は無さそうだった。


(ありがとう、ハダリー。ここから俺も敵の様子を探るぜ)


ハダリーの心づかいに感謝しつつ勇騎はビルの間で弾ける火花が照らす巨人とナイトハダリーの影に目を凝らすのだった。



「あの巨人には俺達の新しい力が通じない。俺達2人がかりでもな。どうも力が吸い取られる感覚があるのだ。それをどうにかしない事には・・・・」

前方で繰り広げられるティレニア号の危機にヴィダリオンは自分の主の身を案じつつも一向に対抗策を思いつかない事に焦りを感じていた。


「あなたらしくない弱気ですね。2人で駄目ならば4人同時に攻撃してみてはどうでしょう?連中の体はそれほど大きくない。なら最大吸収量もさほどないと見るべきでは?」


「やってみよう。それでどちらを狙うかだが」


「猿の方はすばしっこくて狙いが定まらねえ。もう1体のゴリアテとかいうのに狙いを定めるべきだな。あれをどうにかしないとティレニア号が危ねえ」


「・・・・どうやら時間はもう無いようです。一気に飛びますよ」


カローニンは背後で突っ立っていたエンキドゥが自分の相棒である鳥メカを無視してこちらへ突進してくるのを確認すると両肩の羽根を大きく羽ばたかせて、ティレニア号と合体したナイトハダリーへ撃ちかかるゴリアテの背後へと突進していった。

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