第18話 魔の巨人①
Y市沖・ティレニア号
聖骸布争奪戦を制したヴィダリオン一行は戦闘終了後、その力の確認と今後の行動を決める為に甲板へと集まっていた。集まったメンバーを前にヴィダリオンが報告を行う。
「見事取り返した、と言いたいが半分は失われてしまった。だがその力は絶大だ。ホットスパーとカローニンにも加護があるだろう。そして反撃をどう行うのが最善か話し合いたいと思う」
「よし、俺はもうどうするか決めてある」
箱に戻され畳まれた聖骸布を広げたホットスパーは先刻破損したコートオブアームズ・スターシールドと両腕に掛ける。聖骸布が光り、ホットスパーの両腕が赤く縁どられた白銀の炎を模した篭手へ、スターシールドの5つの星を形成するパーツ先端から銀の光が迸ると1種のビームシールドを形成する。この光は彼の意思で槍状にもチャクラムにも変化する攻防一体の武器として更に洗練された形となった。
「・・・・何か思ってたのと違うがこれが最適解って事なら使いこなして見せるぜ」
「では次は私ですね」
カローニンは背中に聖骸布を羽織る。
肩と背中のパーツが一体化し、コートオブアームズ・チェンジマートレットによく似た鳥型メカが背中に形成され、これがカローニンの意志で自在に分離出来る様になった。
「聖骸布ってのはすげえな。これでようやくマレフィクスの連中に反撃出来るぜ!早速殴り込もうぜ!!」
意気上がるホットスパーの意見にはさすがに他の面々は慎重だった。
「そもそも図像獣や邪神官そしてマレフィクスにもあの光は有効だとは思いますが、数の上では劣勢ですから」
「そうだな。連中は洗脳した機士達を前面に押し出してくるに違いない。もし小姓や技術者にも武装させてくるとしたらその数は優に千を超える数になる」
カローニンの意見にヴィダリオンも賛成する。
「しかしよう、あの力なら洗脳だって解けるんじゃねえか?」
「そう都合よくいけばいいですけどね。もし、聖骸布がマレフィクスやその他の闇の力を持つ者を無差別に消し去るとしたら、城にいる我が同胞達も消滅してしまうかもしれません」
「ぐぬぬ。そうなったらとんでもない事になるな。だがそうなると・・・・」
「あの広い城の中からヴィダリオン達の仲間をやり過ごして親玉と邪神官を探し出して倒すのか。どこにいるか判ればなあ」
星川勇騎は以前ハダリーと共に訪れたデウスウルト城内の広さと複雑さを思い出して唸る。もしもう1度自分が案内された場所に行けと言われたら1人では確実に迷子になる自信があった。
「それは、円卓の間ではないのですか?あの部屋は城内の最奥にあるのですし」
「だといいがな。それを逆手にとって別の部屋で待ち構えている可能性もある。こちらの思い込みを逆手にとっての奇襲の可能性も捨てきれない」
ヴィダリオンは罠の可能性を指摘されたハダリーはなるほどと頷かざるを得ない。その可能性は実際あり得ることだった。
「チッ、結局向こうから来るのを待つしかないってのか」
「ですが、彼らが手をこまねいているとは思えません。聖骸布の恐怖から座して死を待つよりは何らかの対抗処置を不完全でも講じてくるでしょうね」
「それは逆に考えれば次の戦いを勝って、隙を与えずこちらが攻め手になれば向こうの対策をご破算に出来るという事でもありますよね?つまり次の戦いがこの戦争の節目となる」
「ってことは戦いの終わりは近いってことか」
ハダリーの言葉に星川勇騎は安堵と寂しさが混じったため息をつく
「そうだ。終わらせなければならない。世界の為にもな。よし、待っていては敵の反撃の機会を完全にしてしまう恐れもある。よって各員出発の準備が出来次第、デウスウルト城へ進軍する。連中を挑発して邪神官を引きずり出すぞ!」
ヴィダリオンの言葉に全員が力強く頷いた。
同時刻・デウスウルト城内
城内最奥の円卓の間には黒竜鎧皇マレフィクスとナイトクレスターザパトそして同じくナイトクレスター・プレハが居た。
だが部屋の雰囲気は陰気な静寂に包まれている。各々全く同じ事を考えているのだがマレフィクスはその結論を口に出す事は自身の支配権を揺るがしかねない点である。実際彼は組織の支配を盤石にするため配下の能力は武力も知恵も自分未満の力しか与えていない。こうしておけば例え反逆があっても容易に鎮圧できるというのが彼の考えだった。
一方の邪神官側は単純にいい案が出ないという焦りと自身の死が近づいているという恐怖からである。だが手をこまねいているだけでは早晩自分達もガルウと同じ運命を辿る事になるのだ。
「これしかあるまいな」
長い沈黙の後マレフィクスが絞り出すようなかすれ声での呟きを神官達は聞き逃さなかった。
「何か策が?」
「お前達2人に更なる力を分け与える。これで聖骸布の力をある程度抑え込めよう」
「ありがたきお言葉でございます」
玉座に傅く神官達にマレフィクスは先刻粉々になったガルウのクレストの破片を自らの体に入れると両手が緑色の光を発する。
その光を足元の信徒2名の頭に浴びせるとザパトとプレハの両目と両腕が同じく緑色に変わっていく。
「これは・・・!?」
「聖骸布に対抗できるのは闇に染まった聖杯の力のみ。その力を分け与えたのだ」
「おお・・・この力ならば中途半端な浄化能力しか持たない機士共を確実に葬り去る事が出来るでしょう」
(そうだ・・・連中にとっても聖骸布の力はある意味毒。ガルウとの戦闘記録を見る限り長時間は使えん。その時こそが・・・ククク!)
「手段は問わぬ。我が眷属の最大の勇者として我が望みを果たせ」
「「ハハッ!」」
「それで具体的にどうするつもりだ?主はああ仰せられたが、ガルウの断末魔の記憶を見る限りは聖骸布に対するこちらの対抗策は無い」
「我々にはな」
円卓の間を出た後、長い廊下を歩きながら話すザパトの弱気な姿にプレハは内心で驚いていた。
「我々?機士をぶつけるつもりか?だが今のヴィダリオンらの実力には他の機士共では敵わないし、何より洗脳を解かれる恐れもある」
「途中までは正解だ。連中を使う。性格には連中には我らが操る巨人の部品になってもらう」
「この次元で言う機動ロボットという奴か?」
「そうだ。今計算したところ、機士の装甲と内部の部品には聖骸布のエネルギーを増幅させる機能がある。これを逆用して連中の攻撃を受ければ受ける程こちらの性能が増す無敵の巨人兵器を作るつもりだ。無論、我々の特性もそのまま使える闇の巨人をな」
「素晴らしい。我らが主を守る守護神を是非とも完成させてくれ」
「勿論だ。すぐに取り掛かる」
「出来る事は言ってくれ。連中もグズグズしてはいないだろうからな」
そこからの作業は早かった。プレハは1つは機動力、もう1つは防御力に特化させた恐るべき戦闘力を持つ2体の巨人兵器の開発の為の部品として従機士以上の腕利きの機士達をザパトに集めさせた。
工廠内で急ピッチで組立作業が行われる中様子を見に来たザパトが監督室で作業を見守るプレハに声を掛ける。
「皮肉な物だな。自分達で自分達の同胞を鋳潰して巨大兵器を組み立てるとはな」
「それも操縦するのは宿敵だった我らだとも理解していない」
「完成はどの位になる?」
「2時間ほどで完成させるために大きさを予定より3分の1程度に縮める。操縦席は窮屈だが勝利の為我慢してくれ」
「無論だ」
そこに敵接近の合図の鐘が城内に響き渡る。
『ティレニア号接近!』
「来たか!予想以上に早かったな!」
「選抜に漏れた装甲を着けていない従機士と小姓共とを既に編成して配置している。これで連中も迂闊に手が出せまいよ。砲兵隊、工廠にかすり傷一つ付けさせるな!撃って撃って撃ちまくれ!!」
ザパトの読みは当たっていた。ヴィダリオン達はティレニア号をデウスウルト城に体当たりさせるつもりだったが、予想以上の弾幕と骨組み同然の兵達が胸壁や城門前や各部の櫓に配置されているのを見て作戦を変更せざるを得なかった。
「奴ら、最悪の手を打ってきやがったな!」
船の舳先で身を屈めながらホットスパーが爆音に負けない大声で悪態をついた。その隣で舷側から頭を出して様子を窺っていたヴィダリオンも首をひっこめると彼に劣らぬ大音声で伝声管に指示を出す。
「各砲座、撃つなよ!分かっていた事だが、やはり間近に見ると胸が痛む。ハダリー、砲撃の届かない場所に着陸させてくれ!」
「はい!」
「ホットスパー、俺と一緒に砲台を潰しに行くぞ!」
そう言うとヴィダリオンは再び伝声管に向かって
「カローニン、船が着陸して主達が外に出るまで船を守ってくれ!俺達で砲台を潰す!」
「了解!」
カローニンの返事を聞くとヴィダリオンはコートオブアームズ・ブースターレイブルを背中に装着、ホットスパーは機動鋼馬ベオタスに跨って甲板を飛び出した。
「工廠付近に砲台が集中していやがる。何でだ?」
「本陣を敷いているんだろう。あそこなら移動架台で兵や弾を迅速に送り込める」
「なるほどな。なら」
「突っ込むぞ!」
猛スピードで工廠目指して突っ込む2騎。その速度は砲台も歩兵の放つアーキバスランチャーも捉える事が出来ない。
「目を覚ませ!いつまで悪党に従っているつもりだ!?」
工廠を守る胸壁の上で説得を試みるヴィダリオン。聖骸布の力の影響かその言葉に兵の動きが止まり、その眼に光が戻る。
「う!?今まで俺達は一体?」
「やったぜ!皆、正気に・・・!お前ら、反撃開始だ!敵は工廠内にいるぞ!!」
ホットスパーの言葉に鬨の声で返した機士達が整然と隊列を反転させた瞬間、胸壁を引き裂いて工廠内から2体の巨人がヴィダリオンらの眼前に飛び出す。
『フフフ、ハハハハ!機士共よ、見よ!これが貴様らの切り札を破る奇怪巨人ゴリアテ!』
『同じくエンキドゥ!』
胸壁から落ちる兵たちの悲鳴をかき消して2体の巨兵から邪神官の哄笑が響き渡った。




