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異世界の機士 黒のヴィダリオン  作者: 紀之
最終章 聖杯の章
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第17話 聖骸布を探せ④




 金雀枝杏樹(えにしだあんじゅ)は真っ二つに裂けた聖骸布の片割れを回収すべく海へダイブする。


「俺のやくめおまえ殺す!」


だがナイトクレスター・ガルウは稲妻を奔らせながらまだ空中にいる彼女の左側に肉薄する。


「させるか!」


ヴィダリオンがブースタレイブルを吹かせて割って入る。だがガルウはお構いなしに腕を振るいヴィダリオンの背中に爪を突き立てるとそのまま海中へ叩き落とした。


「ヴィダリオン!」


「グ・・!私に構わず聖骸布(せいがいふ)を!」


沈みながら叫ぶヴィダリオンの許へ泳ごうとする杏樹。


「こんどこそ死ね!」


岩場に着地したガルウは再度杏樹へ飛び掛かる。


「向こうに行っていろ!」


無理やりブースターを吹かして上昇したヴィダリオンはブースターを分離させるとガルウへ投げつける。


「ガッ!?」


ブースターは見事ガルウの腰に当たり、彼を戦場から引き離していく。


「今のうちに早く!私は大丈夫です」


「修理しなくちゃ!」


杏樹は再び沈んでいくヴィダリオンの背中のマントの裂け目から回路がむき出しになり、赤黒い火花が海水をかぶっているにも関わらず燃えているのを見て小さく悲鳴を上げる。


「聖骸布が無ければ全て水の泡です!早く!!」


(そうだ・・・聖杯を清められるのならあの火花も浄化できるかも?)


そう考えると必死に泳いで波間に漂う聖骸布を掴むと海中へと潜っていく。


(例え、半分でも・・・・!)


海底に横たわるヴィダリオンの背を覆うように布を掛ける。


「う・・・こ・・・これは!?痛みが消えて力が(みなぎ)ってくる!主、布を拝借します」


「え、ええ!?平気なの!?」


「布を掛けられた箇所が整備したてのようです!これならば!」


ヴィダリオンは布で前面を覆うと次に盾を包む。


「漲るぞ!古の聖なる力が!」


ヴィダリオンは昼間の如き光を発する盾から剣を抜き放つ。その剣もまた銀の炎を上げて海中で燃え盛り、火勢は衰えるどこか海を割り天を突くほどの巨大な剣身となっていった。


同時刻


「ハダリー、マズイ奴が来てるぞ!?まだ飛べないのか?」


ホットスパーは甲板の向こうから水飛沫を上げてやって来る合体図像獣スキュラの異形を見て操舵室にいるハダリーへ怒鳴る。


「船底に海水が入りすぎて重すぎてとても・・・」


「移動する事は?」


今度はカローニンである。


「穴さえ塞げれば何とか」


「ではヴァレル!船底の穴を塞いで中の人達を守って下さい」


カローニンの腰のひし形の紋章が光と共に機動鋼馬ヴァレルへと変化し、船底に空いた大穴を塞ぐように自身の体の周囲にある3枚の盾を展開する。


「俺は行くぜ!船から目を逸らす必要もあるしな!」


ホットスパーは愛馬ベオタスに拍車を入れて空を駆けるとティレニア号の目と鼻の先に迫ったスキュラへ急降下を掛ける。


邪魔者を排除しようとスキュラは頭部の羽根を3対の辮髪(べんぱつ)、つまりナックラヴィーの蛇腹剣へと変化させると敵の接近を阻むべく無茶苦茶に振り回し始めた。


「こっちを狙わなけりゃ怖くないんだよ!」


ホットスパーにしろ、カローニンにしろあの蛇腹剣は今のような伸び切った状態で振り回されるよりも牽制や搦め手で使われた方が厄介だった。


このまま一気に突撃し、辮髪諸共本体を貫くのみ。


そう考えたホットスパーはコートオブアームズ・スターシールドを槍状に変形させると敵の真上から逆落としに急降下


「どうしたベオタス!?」


振り回される辮髪に槍の穂先が触れた瞬間だった。ベオタスは殆どVの字に急上昇すると図像獣を警戒するように鼻息荒く首を振った。


「・・・?なんじゃこりゃ!?」


ベオタスの怖気を叱ろうとしたホットスパーは不意に左手が軽くなっているのを感じ、見てみると槍の穂先が綺麗に切断されていた。


「これを教える為に撤退したのか?」


そうだと言わんばかりにいななくベオタス。


(蛇腹剣の切り口じゃねえ。また妙なカラクリを使ってやがるな)


「だがよ、このままじゃ船がヤバい。奴の目を引き付けるぞ」


猛スピードで迫るスキュラが腐食液で穴だらけで前進するティレニア号に追いつくのは簡単な事だった。空にいるカローニンとホットスパーに目もくれずスキュラは船底の穴を塞ぐヴァレル目掛けて頭部の6本の蛇腹剣を蛇の様に繰り出す。


「あれはヤバいぜ!」


「ええ、高周波振動してますからね!」


超音波センサーでホットスパーの言う『カラクリ』を見破ったカローニンはスキュラとヴァレルの間に急降下すると両肩の翼を合わせて振動させた。


蛇腹剣と翼が接触するとギーンと耳障りな音を立てて衝撃波が波と共に弾けてスキュラは後退、カローニンは船体に叩きつけられた。


「カローニン!?だが!」


あの程度でやられる男ではない、ホットスパーは友の作った隙を逃さず突撃する。


しかし、スキュラもタダの図像獣ではない。怪物は腰の中央の馬の目から緑色のビームを放つと同時に4つのアザラシの口から球状の腐食液を連射して迎え撃つ。ホットスパーは手綱を引いて慌てて上空へと戻って行く。


「クソ、あのおさげと熱線とゲロっ吐きの猛攻じゃ空から近づけやしねえ」


「空と海から同時に仕掛けましょう。幸い、奴の武器の殆どは正面にしか届かない。短時間なら海に潜れる私が海中から奴に仕掛けます」


「よし、ユウキとリクにも援護させよう。目くらましは多い方が良い。再突撃するついでに話しておく」


相談が纏まるとホットスパーは甲板へ上昇し、星川勇騎と新井陸に甲板に設置されているバリスタを撃ちまくるよう指示する。


「ヴィダリオンは、杏樹はどうなったんだ?」


「時折光が見えるから生きているとは思うが、詳しい事は分からねえ」


「来た!とにかくあいつを倒さなくちゃな!」


「そういうこった。援護頼むぜ」


再びティレニア号へ近づいてくるスキュラにホットスパーはフェザーブレイド発射をベオタスに命じる。数秒後剣を振って勇騎と陸にバリスタ発射の合図を出すとスターシールドの切断面に切れ込みを入れるとそこに剣の柄を強引にねじ込み即席の槍にすると怪物の真正面へ急降下する。


怪物は相変わらず頭部の3対6本の蛇腹剣を振り回して水飛沫を撥ね上げながら羽根剣もバリスタの矢も弾いて一直線に突っ込んでくる。そんな自分に真っ向から挑んで来るのは馬鹿でしかない。


そんな嘲笑に似た耳障りな吠え声を上げると正面の自殺志願者目掛けて熱線と腐食泡を浴びせる。だがその攻撃はベオタスの上げる水飛沫が天然のバリアとなって悉く阻まれる。


「へ!恐れ入ったか!」


ホットスパーは手綱を引いてベオタスを海面スレスレで飛行させたのだ。


「これで!」


蛇腹剣の軌道を見切ったホットスパーの槍と後方の海中からのカローニンの高周波突撃で勝敗は決したと思われた。

だが


「ゲッ!?飛んだ!」


「しまった!?」


スキュラは4枚のヒレで垂直に跳ねると頭部の羽根を羽ばたかせ滞空。目標が消えた事で2騎は激突して吹き飛び海中へと没していった。


スキュラは耳障りな吠え声を立てると船から飛んでくる矢を払うと止めを刺すべく海中へと潜行し、激突の衝撃で気を失っているホットスパーとカローニンを正面に捉え、止めの溶解液を吐こうと口を開けたその時


彼方の海底から巨大な光の柱が立ち昇ると、柱いや光炎の剣はスキュラ目掛けて振り下ろされた。巨大な剣は海を左右に割って怪物へ迫る。振り向いたスキュラは辮髪を交差させて即席の高周波振動する盾にとして身を守ろうとする。


そんな小細工を文字通り粉砕しながら巨大な光の剣はスキュラを両断し、そのままティレニア号へ到達すると光はティレニア号の破損を瞬く間に修復する。


スキュラは何が起きたかわからぬまま爆散した。訳が分からないのはティレニア号の乗員もガルウも同様である。


「しんじられん・・・・きけんすぎる」


ガルウには辛うじてそれだけは本能で分かっていた。だからヴィダリオン以外の機士にこの力を渡してはならぬと一足飛びに跳躍し、ティレニア号の甲板へと乗り込む。


「ヴィダリオン、敵が!?」


「・・・すみません。力の加減が利かず、今しばらくは・・・!」


「とにかく海から上がりましょう!」


カローニンとホットスパーの愛馬ベオタスに乗ってヴィダリオン主従は海上へ上がる。


「奴は!?」


「いかん!ハダリーには荷が勝ち過ぎる相手だ」


甲板での戦いはハダリーがガルウの猛攻に防戦一方だった。愛用のメイスは半分無くなっていた。


「聖なる力よ。我が同胞を救い給え!」


ヴィダリオンは渾身の力で自分の盾を甲板目掛けて投げつける。ハダリーに飛び掛かろうとしたガルウは目の前に突き刺さった盾の発する光炎を恐れて後退、炎はハダリーのメイスに集まり、白銀のメイスへと変化する。


「これが・・・聖骸布の力!?これならば!」」


「ほのおがない!?ならいける!」


ガルウは超高速でハダリーの背後に回り、爪を振るう。


「月輪奥義・叩打月奉(こうだげっほう)!」


メイスに宿る光の力に導かれるようにハダリーは振り向き様に棍棒を振るい、敵の手の甲を撃ち、爪を敵自身の腹部へと突き刺す。


「ガッグッ!?」


爪を通してあの嫌な炎が流れ込んでくる。それを嫌って一足飛びに飛びのくと、ガルウは海中に光の輪を残して消えていった。


「なんて力だよ・・・・」


勇騎は自分の感想がマヌケすぎると思いながらそれ以外の言葉を思いつかなかった。



「戻ったか、ガルウ」


「だめだった。はんぶんしかこわ・・・せなか・・・・った!?」


「ガルウ、お前体が!?」


()()うの体で戻って来たガルウを労うザパトとプレハ。だがガルウの全身から光が立ち昇ると彼の体は自身の魂と言うべきクレストと共に光の粒子へと分解消失していった。


「恐るべし、聖骸布!半分でこれか!」


黒竜鎧皇マレフィクスは初めて恐怖と言う物に震えた。

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