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異世界の機士 黒のヴィダリオン  作者: 紀之
最終章 聖杯の章

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第17話 聖骸布を探せ②




  Y市埠頭


先日暗黒魔械竜マレフィクスの攻撃で一夜にして壊滅したY市は破剣兵団総長ロベール率いる破剣兵団と図像獣の混成部隊の駐屯地となっていた。比較的被害の少ない漁港に本陣を敷いた彼は斥候として飛ばした図像獣セイレーンからの報告に苛立っていた。


「何!?例の書物に書いてあった地点には何の痕跡も無いだと!?よく探せ!!探査音波の感度を上げて探索範囲を広げろ!あれが1000年前の地図だという事を忘れるな」


指示を矢継ぎ早に飛ばすと隣で首を傾げているナイトクレスター・ガルウに


「時間が経てば地形も変わる。この町の様にな」


「なるほどなあ。あたまいいな」


(こいつ本心で言ってるのか?それとも稀代(きだい)の詐欺師か?)


「ナイトクレスター・ナックラヴィーの性能の良い奴を幾つか借りるぞ。実際に水中の地形を確認せんことには手掛かりもつかめまい」


その言葉は『音波探査能力が信用ならない』という非難が込められているのだがガルウにはそれが伝わらない。


「いいぜ。最高の奴ら10騎を出す」


後ろで待機していたアザラシの背に騎士の上半身の付いたナックラヴィーに声を掛けるべく振り向いたガルウの鼻と耳はこの場に似つかわしくない排気ガスと機械の始動音をキャッチした。


「人間の船だ!?」


「誰も気が付かなかっただと!?追え!!」


ロベールの指示にトライデントを装備した隊長機を中心に10騎の怪物が海面を音も無く滑って怪しい1隻のボートを追った。ボートは分限博人の会社所有のもので今回の海中探索用の装備を積んでいた。だが先のY市の壊滅で整備が不十分だった物を強引に引っ張り出して来た為にそのポテンシャルを100%発揮できずにいた。


「気づかれたぞ!もっとスピードを出せ!」


「これ以上は無理だ!燃料だってそんなに無いんだ!博人坊ちゃんのとこに着く前に止まっちまうよ!うわ!?」


怪物の放った銛が1本、舳先を掠める。それが巻き取られない内に銛の飛んできたのとは反対側に併走するナックラヴィーが銛が投げつける。遊んでいるのか、それとも手元が狂ったのか、ボートのフロントガラスが砕け散る。


「ヒエッ!?もう追いつかれた!」


「チクショウ!例の空飛ぶ船は目の前だってのに・・・!」


銛を振り上げた怪物に左右を挟まれたボートの社員2人が死を覚悟したその時、救いの手が現れた。


「伏せていろ!フェザーブレイド!」


ペガサス型機動鋼馬ベオタスに跨った正騎士ホットスパーことパールウェイカーは愛馬の羽手裏剣を飛ばして銛を弾くと10枚の羽を自在に操って怪物の編隊を崩しにかかる。


「こういうのは指揮官を落とせば!」


ベオタスの前脚で1騎のナックラヴィーを蹴り飛ばして『転覆』させると勢いそのままにホットスパーはコートオブアームズ・スターシールドを展開、槍へと変形させるとトライデントを持った指揮官機に突撃する。


だがナックラヴィーは機士を改造したナイトクレスターである。その指揮官型は当然部隊指揮の経験と知識がある。指揮官は慌てず左右4騎の部下を散開させる。部下は頭部の辮髪(べんぱつ)状の蛇腹剣を振り回し、ベオタスの翼と後脚を拘束。その隙をついて指揮官はトライデントを構えて水上を跳び跳ねた


「野郎!マリニエールの武器をっ!」


敵の武装に亡き戦友への侮辱を感じたホットスパーの戦意は燃え上がり愛馬の羽根を拘束する蛇腹剣を掴んで両腕を振り上げると同時にベオタスに上昇を命じる。


辮髪を掴まれた2騎のナックラヴィーの抵抗をものともせずホットスパーは空中に持ち上げた怪物を激突させ指揮官型に対する即席の盾にしたのだ。だが指揮官は一切の動揺を見せずトライデントで部下2体の体を貫き、そのままホットスパーの首を撥ね飛ばそうと突っ込む。だがベオタスの上昇速度は想定より遅く、指揮官はホットスパーの頭上を飛び越えて着水。


「今だ!ベオタス、最大馬力で飛べ!!」


主の号令に嘶くと後脚に蛇腹剣を巻き付けたままベオタスは殆ど垂直に上昇し、1回転。その隙に剣を抜いたホットスパーは後脚の蛇腹剣を切断すると落下する2騎を槍で纏めて貫いた。


「これで4つ!4つ?おかしいな、確か10はいたはずだが・・・・あの指揮官らしき野郎もいない?」

ホットスパーは何事も無かったかのように穏やかな海を見て胸騒ぎを感じるとティレニア号へと全速力で戻って行くのだった。



そのティレニア号は先刻図像獣セイレーンの妨害音波を受けた影響で墜落しかかっていたのをハダリーの操舵でなんとか持ち直し、Y市から10kmほど離れた沖合に着水していた。


「一時はどうなるかと思いました。カローニン様とパールウェイカー様のおかげで一息つけそうです」


操舵室からデッキに出てきたハダリーにヴィダリオンが声を掛ける


「よくやってくれた。だが俺達はこれから主らと共に船を出なければならないが・・・迎えの船はまだ来ていないか?」


「先程妙な連中に追われていた小舟がありましたが・・・?」


「まさか沈められたのではあるまいな・・・・いや、いた!あれだ!」


彼らの目と鼻の先に分限家のモーターボートが飛沫(しぶき)を上げてやって来る。だが突如真下の海面が茶色く濁るとボートの速度が明らかに遅くなると同時に舳先を上にあげて傾きだした。謎の茶色の液体は海の至る所から湧いてきて一面を染める。


「え?沈没しかかっている!?あの液体のせいか!?」


ヴィダリオンの言葉を聞いたハダリーは操舵室に駆け込むと船を上昇させるべく舵輪を操作した。


「ゆっくり上げてくれ!俺は船員を助ける!」


「お気を付けて!」


ヴィダリオンはコートオブアームズ・ブースターレイブルを背中に展開すると船外に飛び出し、急速に腐食しながら沈んでいくボートの舳先に掴まっている2人の男を引き上げる。


「た・・・助かった~」


「掴まっていて・・・ウオッ!?」


両脇に救助者を抱えて上昇しようとしたヴィダリオンの右足にナイトクレスター・ナックラヴィーの蛇腹剣が絡みついていた。


「あの液体で俺を腐食させるつもりか・・・!そうはいかん!」


ヴィダリオンは左足へ飛んできた蛇腹剣を蹴り飛ばし、次いで首を絞めるべく襲い掛かる第3の鞭をブースタレイブルを稼働させることで体を海面に対し水平にすることで回避。同時にブースターの炎で右足の蛇腹剣を焼き切った。


だが敵もヴィダリオンの両腕が塞がれて反撃できないと判断するや銛を手に海面を跳び跳ね、三方から腐食液をアザラシの口から吹きかけ、銛を投げつける。腐食液こそ再度上昇して躱したが、投げつけられた銛はブースタレイブルの上昇速度を完璧に計算した軌道を描いていた。


「「ひえええ~」」


「くっ!?」


ヴィダリオンは銛に背中を向けて男達を庇おうとするが間に合わない。


しかし3本の銛は上空から急降下してきたカローニンの超音波防壁に弾き返された。


「カローニン、すまん!」


「早く、ティレニア号へ!狙われています!」


「何!?」


ティレニア号へ引き返すヴィダリオンを逃すまいとするナックラヴィー3騎にカローニンは腰を180度回転させ逆関節の両脚の爪を大きく開いて急降下キックを掛ける。ナックラヴィーらは水中へと素早く身を隠すがカローニンに備わった音波探査装置は彼らの動きを逐一捉えていた。


「そこだ!」


稲妻の様にジグザグに急降下し、海中から獲物を引き摺り出すその様は一瞬で海鳥が魚を捕らえるあの名人芸そのものだった。


ナックラヴィーを爪で握り潰すと両肩の羽根を展開振動させて超音波防壁を作ると海中へ突撃。海中で機会を伺う残り2騎が腐食液を吐くがカローニンは水中を音波の矢となって突進し、1騎を音波振動で粉砕、逃げる1騎を後ろから小刀で串刺しにすると海面へ飛び出し母船へと一直線に飛んだ。



「本当に一人で行くのかよ?」


勇騎はダイバースーツに着替えた杏樹の考えは無謀すぎると考えていた。


「これは私にしかできない事なのよ。ここで勇騎君が抜けたらハダリーが船に残れないでしょう?それに一人ではないもの」


「そりゃあそうだけどさ・・・」


「勇騎君が私を守った様に今度は私が守るわ。聖杯の巫女としてだけじゃない、一人の人間として、友達としての役目を今こそ果たして見せる!」


「役目・・・か。よっしゃ、なら俺はお前が帰ってくる場所を守るぜ、ハダリーと一緒にな!」


幼馴染の覚悟を受け止めた勇騎は杏樹と握手すると後甲板へと走り出す。そこにバリスタがあるのだ。


(ありがとう勇騎君。必ず帰ってくるからね)


ヴィダリオンの姿を確認すると杏樹は大きく手を振ると、甲板から勢いよく飛び降りた。

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