第16話 不滅の絆④
「それで良い・・・ヴィダリオン。だが君はどうだ?ハダリー?先程のような温いやり方では私達は止められないぞ?フレイムボンバーではなくアーキバスランチャーなら合体を止められたものを・・・・君のせいでそちらはみすみす勝機を逃したのだぞ!?それがどのような結末を周りの人間に生むか、この目で見届けるがいい!!」
ナイトクレスター・ヘカトンケイルの内心を見透かすかのような説教にハダリーは図星を突かれて一瞬体を硬直させ、金雀枝家へと猛然と駆け込んだ。
『後はカローニンが生きてあの家から出てくるかだが・・・・』
(来るとも、メガイロ。彼らはそういう連中だ。だが今は・・・)
それは確信と言っていい。マリニエールの唯一の誤算は自分だけでなくメガイロまで犠牲になる点だった。
「ハアアアッ!!」
マリニエールはメガイロとの心の中での会話を中断し裂帛の気迫と共に突っ込んでくるヴィダリオンへと意識を集中する。
「馬もブースターも使わぬとは回路が狂ったか!?」
「敵に勝算を言う必要があるのか!」
「その自信・・・命諸共砕いてくれる!」
ヘカトンケイルはヴィダリオン目掛けて投げ槍を『振り下ろした』
槍の穂先がアスファルトを穿つ直前、黒い機士はその一撃を躱し、柄を駆け上っていた。
ヴィダリオンの狙いはただ一つ。ヘカトンケイルの胸部の中心にある心臓、すなわち機士の動力源たるエスカッシャン・ハートである。
「小癪な!!」
ヘカトンケイルは右手の1つに持った蛇腹剣を展開し、自身の投げ槍諸共ヴィダリオンを切り刻もうと振り下ろす。
「い・・・まだああああ!!」
「しまった!!」
鞭の鉄片の1つがヴィダリオンの頭を切り裂く寸前、彼はブースターレイブルを展開し槍の柄を蹴って猛スピードで飛び立った。
直線移動では無類の速さを誇るブースターレイブルだが左右の旋回機能は無いに等しい。故に複雑な軌道で敵を斬り裂く蛇腹剣やクレッセントカッターとは相性が悪く、搦めとられる危険があった。よってこれらの攻撃が来るギリギリまで温存しておく必要があったのだ。
「いくぞ、友よ!紋章剣奥義・永遠の太刀!!」
空中で屈伸・ブースターの角度調整による回転によって数十倍に威力を増したヴィダリオンの必殺剣がヘカトンケイルの超合金製の胸部を紙の様に切り裂いていく。
「グヌッウ!?ここまで金属粒子を消耗していたとは・・・」
「何!それではお前の武器はまさか・・・自分の体を削って作っていたのか!?」
だが一度繰り出した技は止まらない。白色の光に輝く剣はヘカトンケイルの胸部の3重の装甲を破り、内部の機械を、人間で言うところの肋骨部分へ到達する。
「ウ!?無い!?」
切り裂かれた肋骨。それはその巨体に似合わぬほど細く華奢だった。そしてそこに守られているはずの心臓部エスカッシャン・ハートはそこには無く代わりにあったのは
「残念だったな・・・!」
コートオブアームズ・アニューレットカノンだった。既に砲口は赤く染まり、発射体勢が整っている事を敵に知らしめている。
「最後に勝つのは私達だ」
「あった!あったわ!これよ!!」
金雀枝家の屋根裏部屋から見つかった黒い大きな古びた箱。
星川勇騎と金雀枝杏樹はそれを彼女の部屋まで運んで中の巻物や書物を探る事30分。遂に目的の聖骸布について書かれた茶色の日記帳に似た書物を発見した。
「なんて書いてあるんだ?」
「えっと・・・Y市の沖に海底洞窟があってそこに隠した?」
「よし、これをみんなに伝えて・・・」
これで反撃の糸口がつかめる。
だが喜びもつかの間、目に見えない何かが窓を割って入って来た。
「杏樹、伏せろ!」
勇騎は反射的に幼馴染を押し倒すのと同時に背中に鋭い痛みが走った。
「きゃあ!勇騎君、手当しなきゃ!」
「平気平気!かすり傷さ。それより」
ジンジンする痛みをこらえて勇騎は部屋の奥に目を凝らす。
「それで見える訳はないが、しかしその勇気に免じて姿を現そう」
杏樹の机の長方形の照明の上にナイトクレスター・ハーピィが停まっていた。
「その声、カローニンだな!まさか敵に洗脳されて!?」
「違うな。俺は今も昔も機士団の為に働いている!その仕事を全うするだけだ。既にその書物の中身は確認し、主へと送った。後はお前達諸共消し去るのみ!」
「そんな…目を覚ませ、カローニン!」
「動くな!」
扉を開けてハダリーが部屋へ飛び込んで来た。彼女の目は背中に傷を負った主に向かい次いでその原因であろう鳥モドキに視線とアーキバスランチャーの銃口をむけた。
「あなたが・・・・!まさかカローニン様!?」
「ランチャーではこの部屋ごと吹き飛ぶぞ?主達がな!」
「なら!」
ランチャーの銃身を振り上げ振り下ろすハダリーをハーピィは音も無く飛び上って軽くいなすと巨大な両脚の鉤爪を機士の主2人へ振り下ろした。
「おっと、そうはいかねえ!」
間一髪、遅れて入って来たホットスパーが剣を横薙ぎに振るって割って入った。
「ホットスパー!カローニンが!」
「あいつはもう違う!」
「よく分かっているじゃないか。せめてもの情けだ。死ぬ瞬間は彼らに見せない様にしてやろう」
ハーピィは横薙ぎに振るわれた剣とホットスパーの右腕を両脚の爪で掴むと家から飛び出すと町がこの作戦の立案者であるヘカトンケイルの方へ飛んでいった。
「そんな所から落としたって俺は死なねえぞ」
「こうする」
両肩の羽を擦り合わせ超音波を発する。この音波は本来周囲の状況を探るソナーの役割を果たすのだが、周波振動を変える事で恐るべき破壊力を有するようにもなるのだった。
「グアアアアッ!」
ホットスパーの全身の金属が膨れ割れる。
音波で機能が一時停止したホットスパーを抱え、ハーピィはヘカトンケイルとヴィダリオンの死闘の場に割って入ると大音声で降伏を勧告する。
「機士団を裏切る者はこうなる!黒のヴィダリオン、今からでも遅くはない。機士団へ戻るのだ!」
「図像獣に魂を引っ張られた欠陥品が・・・・!機士の戦いに水を差すとどうなるか、その身で知れ!」
「なっ、バカな!?」
勝負に水を差され再び激昂したヘカトンケイルは胸部のアニューレットカノンの照準をハーピィへ向け発射。赤い波動がホットスパー諸共ハーピィを吹き飛ばした。
(これでいい。すみませんが最後まで付き合ってもらいますよ、皆さん)
(全員承知の上だ)
心の中でメガイロらの意志を受け、マリニエールは許されるとはこういう感覚か、と納得する。それが「人生」の最後の瞬間なのは皮肉だとも思いながら。
「マリニエール、今のはまさか!?」
「寿命が少しだけ延びましたね、ヴィダリオン!だがこれで終わり!」
再びアニューレットカノンに光が灯る。
(砲口から弾を入れるアニューレットカノンが連射できるはずがない!もしや胸部のアニューレットカノンはエスカッシャン・ハートと合体させてそのエネルギーを弾丸にしているのか?)
砲口の光は大きくなる一方である。これ以上考えている暇は無い。
「いくぞ!紋章剣奥義・終の太刀!!」
ヴィダリオンが大上段から振り下ろした白色のエネルギーに輝く剣がヘカトンケイルの砲門から放たれたオレンジ色の波動を切り裂き砲身を切り裂く。
「!これは・・・エスカッシャン・ハートがクレストに取り込まれているだと!?友よ!今闇の呪縛から解放するぞ!!」
ヴィダリオンはカノンのエネルギーに身を焼かれながらも砲台に隠れるように10個のエスカッシャン・ハートを内蔵した黒いクレストを両断するとその場から退避する。
心臓部を失ったヘカトンケイルは全身から赤黒い光を放ちながら巨大な火柱を立てて爆発炎上する。爆発跡に集まったヴィダリオンらは、機士達の部品や損壊したエスカッシャン・ハートが散乱する中で辛うじて首と胸部が残ったマリニエールが横たわっているのを発見した。
「マリニエール、貴方はまさか私とホットスパーを救う為に・・・!」
「カローニン様、元に戻られて・・・しかしどういう事です!?」
驚くハダリーに回答したのは瀕死のマリニエールだった。
「連中が私達をそのままにするつもりがないのは予想出来ていたのでね・・・・そこでメガイロと話してエスカッシャン・ハートの生命エネルギーをカノンで放射してカローニンの洗脳を解こうと・・・・まさかおまけが来るのは想定外でしたが・・・」
「何でそこまで想定できて自分達が助かる道を探さないんだよ!?」
「仲がいい方がこの先の戦いがやりやすいでしょう?どの道ザパトの指揮下にいる以上はもはや抜け出す事は不可能に近い・・・それならば・・・・・と」
「バカヤロウが!お前って奴は・・・お前は・・・最高の馬鹿な友達だぜ・・・・!」
「まさかあなたにそんな事を言われる日が来るとはね、ホットスパー」
マリニエールのバイザー奥の光が一段弱くなる。
「そろそろお別れのようです。メガイロ達が待っています・・さ・・・さら・・・・・・ば友・・・・・・・よ・・・・・せ・・・・・ぎの・・・・・・光を・・・・・・・」
マリニエールはエスカッシャン・ハートを残して光となって消えていく。
「「「マリニエール!」」」
勇騎と杏樹は滂沱の涙を、ホットスパーとカローニン、ハダリーは膝をついて拳で地面を叩く。
「全員!希望を託して往った戦友に敬礼!!」ヴィダリオンは拳が軋むほど握りしめながら声を絞り出す。
「マリニエール、メガイロ!必ずお前達の仇は、いやお前達の願いは果たして見せるぞ」
目の前に集められたヒビの入った10個のエスカッシャン・ハートを前にヴィダリオンらは新たな誓いを立てるのだった。




