第16話 不滅の絆②
「現在の聖戒機士団いや、魔神機兵団は組織体系の強化の為あのゲッグが所属していた破剣兵団と手を結び、さらに
組織の指揮系統の1本化を図っている」
カローニンは早口でまくし立てると息をつく。
「問題はその方法なのだ。連中は戦力の基準に満たない小姓や従機士達をタロス共や図像獣と合成したナイトクレスターを造り出している。それは暗に戦力の内に数えられている機士、つまり今兵団の長であるザパトの精神支配が不十分な力ある機士達に対する脅迫になっているのだ」
「なんてことだよ・・・・・!しかし、お前も正騎士叙任を受けたみたいじゃないか。あのフィッツガルト監督官は連中の圧力に屈せず正義を貫いたんだな」
「『略式でしかも誰も見届け人もいない中での叙任ですまない』そう仰っておられた。だが見届け人は来たのだ。マリニエールとメガイロの2人がな。奴らは・・・奴らは機士の情けとして見届け人になってやる、その上で自分達に歯向かってこいと言い切った。叙任は果たされたが、マリニエールは約束を破り叙任終了と共に我が主を殺したのだ」
カローニンは怒りに体を震わせて続けた。
「マリニエールとメガイロは今や魔神マレフィクスの側近として機士の改造や粛清の先頭に立っている。尤も彼らの主はザパトに吸収されたザルツァフォン総長だから特別支配力が強いともいえるのだろうが」
「他の貴顕衆の方々はどうしているのですか?」
「ゴッドフロスト卿以下表面上は従っている・・・・と思う。だが連中の影響力と力は時間を追うごとに増している。面従腹背が心からの忠誠に変わるのはもはや時間の問題だろう」
ハダリーは自らの問いに答えたカローニンの言葉に絶句する。
「だが反撃の機会はある。聖骸布を見つける事だ」
暗澹とした雰囲気を吹き飛ばすようにヴィダリオンが横から口を挟んだ。
「そうだよ!そのありかが書かれている本がここにあるんじゃないかって今皆で言っていたんだ」
「そうだったのですか。では私はここで見張りに立ちますのでユウキ殿らはその本の捜索をお願いします」
「俺も残るぜ。そういう細かい仕事は苦手なんだ」
「じゃあ、ホットスパー、カローニン見張りよろしくね」
勇騎、杏樹とリエそしてヴィダリオンとハダリーが社務所の奥へ消えて1時間も経った頃。
入り口の右側に立っていたホットスパーは手持ち無沙汰なのか抜き身の剣をクルクル回したり、両足を砂利道にバンバンと叩きつけたりしていた。
「遅いな。何かあったのか?」
入り口の左側に立つカローニンは時折建物内をジッと見てまた神社の入り口や塀に視を向ける。
「・・・・・・それはこっちのセリフだぜ。お前ナニモンだ?」
ホットスパーはもはや我慢の限界だった。元々隠し事や隠蔽工作に向く性格ではない。この時も剣を突きつけながらストレートに疑問を口にした。
「何を言って・・・?」
「最初は主人を失ったショックかと思っていたがな・・・・俺達の知るカローニンは、階級が上ったくらいで口調が変わるような奴じゃねえ。それに、さっきから何を探ってやがる?お前の体から妙な音波が出ているぜ!」
カローニンは答えない。
「そうかい!これでもかよ!」
ホットスパーは両足の拍車を展開してローラーダッシュし、鋭い突きを入れる。カローニンはその攻撃を躱すように小さくバックステップ。
「この程度じゃ躱せねえよ!!」
ホットスパーはその動きで目の前の相手が自分の知るカローニンでないと確信する。
「こういうことだよ」
カローニンの下半身が180度回転し、鋭い3本の爪を持つ鳥のような逆間接になると前方へと飛びホットスパーの両肩を掴んで仰向けに押し倒すと両肩の装甲の先端から3対の剣の様に鋭い突起を伸長し、羽ばたかせて水平飛行、ホットスパーは背中から火花を吹き出しながら引きずられていく。
「テメエ、ナイトクレスターって奴か!?本物のカローニンはどこだ!?」
「私はカローニンだよ。今の名はナイトクレスター・ハーピィというのが正式名称だがね」
カローニンいやナイトクレスター・ハーピィは両足を振り抜きホットスパーを神社の塀に叩きつけると両肩の突起を小刻みに振るわせて飛翔すると社務所を通り越して市街へと飛んでいった。
デウスウルト城内
「密偵の正体はバレましたが件の情報の在りかは判明致しました。この上は私共の手で連中を始末し、本を持って帰って参ります」
「よし。マリニエール、メガイロよ。今度はお前達の忠誠を見せてみろ」
「ハッ!」
マリニエールとメガイロは3騎のナイトクレスターに敬礼すると部屋を出て行く。
カローニンがヴィダリオンらに語った話には嘘があった。それはマリニエールがフィッツガルト監督官を刺した時は機士叙任の最中だった事だ。スパイダーハイクレスタ―・プレハが監督官の体を吸収合体し、ナイトクレスター・プレハとして叙任式を引き継いだ結果カローニンはプレハの僕、ナイトクレスター・ハーピィとして生まれ変わったのだ。
「人格が変わってしまったのは失敗だった。よもやあのホットスパーにさえ見抜かれるとはな」
「どうしてきがついたときに始末しない?」
「フ・・・仲間にショックを与えたくないとかそんな理由だろう」
ナイトクレスター・プレハはフード状の頭部からくぐもった声でガルウに自身の推測を話す。
彼女の新たな体は死神そのものといっていい。その体は黒いフード付きのローブにすっぽり身を包まれていたがローブの合わせ目の隙間から覗く黄色がかった白色光は胸の中心から蜘蛛が8本の脚を広げ、胸部はそれが人間の肋骨の様に見えるのだった。
「聖骸布の情報は確実に手に入れねばならぬ。焼却しても万が一、何者かの手に渡ってしまっては事だ。我々の手で実物を探し出し、確実に破棄してしまわねば」
ナイトクレスター・ザパトの言葉に他の2人が頷いた。
「ホットスパーを置いてきちまって本当にいいのかよ?」
社務所内での作業中に戦闘の音を聞きつけた、勇騎らは避難と金雀枝家の方の捜索も兼ねて神社を抜け出していた。
「そう簡単にやられる男ではない。それにあの場所からは見つかりそうにはなかったしな」
「そりゃそうだけど、杏樹の家にあるって決まった訳じゃないぞ」
「でも、どの道探さなければならない訳だから・・・」
杏樹が勇騎とヴィダリオンの間に入る。
「そ、そうだな。ごめん杏樹」
「いいのよ。残ったおばあ様は心配だけど、向こうもこちらを狙ってくるだろうから」
杏樹は振り返り祖母のリエのいる剣王山を見る。神社に残ると言って聞かなかった彼女は1人でタンスや押し入れを探しているのだろうか?
(それとも・・・)
嫌な想像を振り払い、家に向かった。
金雀枝家には先客がいた。家の周りを見慣れない灰色の鎧を着た騎士が8騎とよく知った2騎が取り囲んでいた
「マリニエール、メガイロ!それにそいつらは!?」
「私の部下ですよ」
「そこで何をしているのですか?」
「見ての通り包囲しているのです。どうやらここの家主は賢明にも闇の者に家の敷居を跨がせないように結界を張っている様でね。だがおかげでこの場所に聖骸布の情報が眠っているとみて間違いないでしょう」
ハダリーの厳しい質問にもマリニエールは平然としていた。
「それじゃ、カローニンの言った事は本当なのかよ!?」
「その通り。さあ、中に入り、探して頂きましょうか?お互いの為に」
「互いの?お前達のではなく?」
ヴィダリオンはマリニエールの真意を図りかねて、言った。
「お互い必要としているのは情報ではなく現物その物のはず。使い方は違いますがね」
「行きましょう!勇騎君、聖骸布の情報を探さなければ!ヴィダリオン!」
「ああ!ハダリー、ここを頼む」
「「承知!」」
「ヴィダリオン、貴様の相手は私だ!」
マリニエールは蛇腹剣を振り抜くとヴィダリオンに向けて振り回す。ヴィダリオンは鞭に搦めとられない様に小さな跳躍を繰り返す。マリニエールの腕の動きに合わせ、蛇腹剣は蛇の様に体をのたうち、くねらせながらアスファルトや塀を切り裂きつつヴィダリオンへ迫る。
「その軌道は複雑だ。だが!」
ヴィダリオンは蛇腹剣の攻撃から遠ざかるように後退していたが一転、前方に駆け出すと伸び切った鞭をくぐり、飛び上がってマリニエールの右手目掛けて剣を振り抜いた。
「チイッ!」
伸び切った鞭を元に戻す時間はなく、マリニエールは後退せざるを得ない。尤もただ飛び退くのではなく、コートオブアームズ・クレセントカッターを1枚投げたが、相手はそれを苦もなく叩き落した。
「流石に手の内は知れているな・・・」
「向こうも・・・ね」
マリニエールは傍で戦う相棒とナイト・ハダリーの戦いを見やる。メガイロは素早く動く敵に対して装填と発射に時間のかかるコートオブアームズ・アニューレットカノンを使用せず大剣での待ち伏せ攻撃を目論んでいた。だがハダリーのカウンター剣技「月輪」に悉く阻まれ、未だ傷をつけることが出来ないでいる。それはハダリーとしても同じでカウンター技は決まれどメガイロの重装甲に決定的な打撃を与えられなかった。
『やはり埒が明かないようだな』
「う・・・・総長お待ちを・・・決着はこの手で!他者の介入など無用ううう!?」
「グヌアアああ!?」
マリニエールとメガイロ、そして金雀枝家を包囲していた8人の従機士の頭にナイトクレスター・ザパトの声が響くと彼らの体は突如として青白い光を放つ。
「馬鹿な・・・私とメガイロの体にもいつの間にクレストをっ!?」
光は円状に10騎を繋ぐと機士を中心へと集め始めるとまるでおしくらまんじゅうの様に機士達をもみくちゃにしていく。
「な‥何が起きているんだ!?」
ヴィダリオンの問いに答える様に青い光を払って20の腕を持つ巨人、ナイトクレスター・ヘカトンケイルが姿を現した。




