第16話 不滅の絆①
「聖戒機士団機士諸君!我らが守り神にして全能の主マレフィクスに頭を垂れよ!全ての次元の支配者マレフィクス様の使徒として我らは今より、聖戒機士団から魔神機兵団へと生まれ変わるのだ!!」
その場にいたほぼ全ての機士と図像獣らが一斉にマレフィクスへ跪く。
聖戒機士団総長(団長)ザルツァフォンの肉体と精神を乗っ取ったナイトクレスター・ザパトは2つの組織を吸収合併し魔神機兵団の長として機士と図像獣に忠誠心という名の呪縛を施した。
それはヴィダリオン側も例外ではない。ナイトクレスター・ザパトの言葉は毒となり、重装ヴィダリオンの体を駆け巡ると合体を解除。従機士カローニン、従機士マリニエール、従機士メガイロがフラフラと悪魔崇拝の輪に加わって忠誠の誓いを立てる。
「どうしちまったんだよ、カローニン、マリニエール、メガイロまで!?」
「ユウキ様、いけません、ここは一度引きましょう!」
「見捨てて行けっての言うのかよ!?」
異様な光景に病院船ティレニア号から飛び出した星川勇騎はハダリーに引きずられながらなおも抵抗する。
「では諸君、我らが魔神機兵団最初の任務は我が神に従わぬ背教者共の排除だ!!」
ザパトの声に一斉に立ち上がった機士達は呪いを克服したヴィダリオン、ハダリー、ホットスパーを包囲するようにじりじりと周囲から迫る。
「ハダリー、ティレニア号を」
「分かっています、ヴィダリオン様」
勇騎とその幼馴染の金雀枝杏樹を囲うように3騎は背中合わせに立ち、それぞれの方角から迫る機士達を見据える。と、その体が急激に重くなり、3騎は地面に膝をつく。
「逃げられると思っているのか?」
ザパトが重力剣ガナドールを掲げたのだ。
「い・・・ま・・・です!」
ハダリーの信号を受けて空中から接近したティレニア号は左舷のバリスタをザパトに向けて発射。後方に飛んで躱されるがヴィダリオンらにはその一瞬だけで十分だった。ザパトの意識がそちらにそれた事でガナドールの効果が弱まった隙をついてティレニア号へと乗り込むと全速力でその場から撤退する。
「おのれ・・・」
「待て。今は我が力を安定させる事が先だ」
追撃部隊を出そうとしたザパトを黒竜鎧神マレフィクスが止める。
「しかし・・・連中は聖骸布の情報を知ってしまいました。一刻も早く始末しなければ」
「それならば」
マリニエールが口を挟んだ。
「何のつもりだ?」
横から口を出された不快感と他の機士達への見せしめの為にザパトはマリニエールの体に電流を流す。
「グアアアアっ!?も・・・しわけ・・・し・・・か・・し」
「発言を許可する。言ってみよ」
マレフィクスの言葉にザパトは従わざるを得ない。電流が止み、全身から煙を上げながらマリニエールは進言する。
「は、ハッ。ありがとうございます。聖骸布についての知識についてはこちら以上に奴らは何も知らないでしょう。しかしヴィダリオンの主たる巫女の家は例の聖杯に関する書物があるはず。ならば当然聖骸布に関する情報もあるでしょう。かつての仲間が逃げてきたとあれば苦も無く情報を持ち帰ることが出来ると考えます。そしてその後で始末すれば良い」
「おまえたちが、か?しんようできない」
ガルウが警戒するように唸る。それは残るザパトやプレハも同様だ。マリニエールが過去に自分達と取引し、故意に戦いを長引かせようとした事から彼の言動を今一つ信用できないのだ。
「・・・・・計画は採用する」
「馬鹿な・・・・・」
「ありがとうございます。早速準備に取り掛かります。行くぞ」
マリニエールは最敬礼を取るとカローニンとメガイロを連れてデウスウルト城内へと入っていった。彼らが見えなくなった後でマレフィクスはザパトとプレハに告げる。
「ザパト、プレハよ、お前達でこの案を好きなように修正するがいい。あのマリニエールとメガイロは元は『お前の』直属の部下だ。この意味が分かるな?」
「!なるほど。では、プレハ。お前の融合先は決まったな」
「・・・・それよりも問題はなぜ、あのホットスパーが主に従わなかったかですが」
「恐らく、そういう傾向がある、というのと勇者ヴィダリオンは行動の自由を許すあの紋章を取り上げなかったようだ。故意か忘れていたのかはもう判らんがな」
「では連中の動向を密にさせます。では主よ、私は実験がありますので失礼いたします」
「期待しているぞ」
両脇に最敬礼で居並ぶ機士らの間をマレフィクスは三神官を連れて円卓の間へと凱旋するのだった。
剣王神社・境内
「一体どうしちまったんだよ、あの3人は!?」
勇騎の苛立ちを宥める様にヴィダリオンはしかし淡々と説明する。
「我々機士は忠誠の義務があるからな。それをザパトに利用されたのだ。カローニンの主であるフィッツガルト監督官はザパトに吸収されたザルツァフォン総長の腰巾着の関係で部下にもそれを強制する。マリニエールとメガイロに至っては総長の直属の部下だからな。俺とハダリーは恐らくこの地の人間と契約した事でその忠誠の糸が弱まったか切れたのだろうな」
「・・・・その理屈で言うとホットスパーはマレフィクスの・・・つまりヴィダリオン卿の部下だけど・・・」
「そう言えばそうですね」
全員の疑惑の目を浴びたホットスパーは慌てて反論する。
「おいおい、俺にスパイなんて芸当が出来る訳ないだろ!?これだよ、この胸の紋章を返しそびれてたんだよ」
「それだけで?ならカローニンも同じ物を着けていたわよね?」
杏樹の明るい声にヴィダリオンは首を振る。
「しかし彼は従機士ですから。正機士と従機士の裁量の差は大きいですから。断ち切れないかと・・・」
「・・・・・来るかしら?」
重苦しい雰囲気の中誰もが考えていたがあえて口にしなかった事を杏樹は口にする。
「来るでしょう。今までのとおりならば」
ヴィダリオンは静かに返す。
「戦える?」
「私が忠を尽くす相手は貴女です。その貴女を害するなら戦友とも戦うまで」
「それだけではありません。ヴィダリオン卿に言われた聖骸布を探さなければ」
「それって一体何なんだ?」
ホットスパーの質問に答えられる者は機士側にはいない。
「そっちが分からないんじゃ俺達も分からないよ」
「多分聖杯に関わる事だろうけれど・・・・神社か家に何か記録が無いか探してみましょう。おばあさまにも聞いてみるわ」
家と神社どちらを探すか。手分けして2か所に別れる方法もあったが、敵もそれを狙っている事を考えればただでさえ強大な敵に戦力が半減したこちらが分散するのはまずい、というヴィダリオンの意見でどちらかをまず徹底的に探す事に決まった。最初は神社である。
「はて・・・・聞いたことがないのう」
社務所で帳簿をつけていた杏樹の祖母であるリエも聖骸布という言葉には心当たりがないとの事だった。
「確か奉納舞には布がどうとかいう場面はないよな?」
「そうね。そもそも聖杯やそれに関するようなことは何も表現されてないもの」
「そういえば・・・・昔じっさまの友達の学者はこの舞には何か欠けているモノがあるとか言っておったな。それでじっさまも古い巻物やら本やらを漁って奉納舞に隠された真実を探す気になっておった。ワシは罰当たりだからやめろと言ったがな」
「つまり、伝承の武人が意図的かもしくは神社の人達が何らかの事情で後世に残さなかった何かがあるということですか?」
ヴィダリオンの推理にリエが頷く。
「そう考えていた様じゃの。この辺一帯には武人ゆかりの地が沢山あるからのう」
「初耳だけど、それ!?」
「そりゃあ聞かれんことには答えんわ。そうでなくともそういうのに若い奴は興味なかろ?」
「グっ、そうだけどさ。そうだったけどさ、今は違うんだ」
「・・・・そもそもその学者様は何が欠けていると考えていたんでしょう?そしてその根拠はどこから出てきたのでしょうか?」
今まで黙っていたハダリーの意見に勇騎と杏樹は顔を見合わせて、あっと同時に声を上げた。
「そうか!その本だか巻物だかを見たはずだよな。とすると」
「奉納舞の原典か伝承かしら?確か本殿の奥にあったはず」
「いい知らせならこっちにもあるぜ。今しがたカローニンの奴が脱走してきた。向こうは滅茶苦茶らしい」
こういった話し合いは苦手だと見張りを買って出ていたホットスパーが社務所に入ってくる。
「カローニンが!?」
勇騎達が気色を湛えて外に出た。
境内には青いラインの入った白い鎧を泥だらけにしたカローニンが息も絶え絶えにしかし地面に突っ伏しふるえていた。
「カローニン、その姿はまさか?」
「聞いてくれ、ヴィダリオン、ホットスパー。我が主フィッツガルトは真の機士であった。私は全ての機士の無念を託されてここに来たのだ!」
「最初から話せ。マリニエールとメガイロはどうしたんだよ?」
「あの2人は完全に寝返った。正機士叙任の終わった直後の主フィッツガルトを後ろから刺したのだ。そして・・・そして・・・・ああ、おぞましい!あの事を話す事は・・・伝える事自体が悪だ・・・・」
「一体どうしたんだよ?お前程の男が?」
「う・・・・む。だが話さねばなるまい。どんなに恐ろしく忌まわしい事でも正義を為す為には」
カローニン絞り出すような声でデウスウルト城内で行われている凶行について語りだした。




