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異世界の機士 黒のヴィダリオン  作者: 紀之
最終章 聖杯の章

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第15話 復活!?暗黒の支配者③




 異世界デウスウルトから突如やって来た勇者ヴィダリオン卿は後輩機士をその場に留めてその威厳に圧倒されている星川勇騎と金雀枝杏樹の方へとズシズシと歩くと目の前で立ち止まり最敬礼を取った。


此度(こたび)の戦では我らが後輩達が大変お世話になっております。特に問題児の1人、我が氏族の黒のヴィダリオンが正機士の位を引き受けたのは真にこの世界の住人である貴公らのおかげであります」


「そ、そんな私達は何も・・・・」


「そうですよ。俺達いつもヴィダリオン達に守ってばっかりで」


「何と謙虚な。あのような成長はデウスウルトでは見られない事でした。無意識なりともお互いに実戦を通して知った事、伝えた事があるのでしょう。それと」


彼は自分の乗って来た空飛ぶ帆船を見上げて


「我らの軍船の停泊場所を教えて頂きたい。何分数が100隻と多く、分散する必要があるのですが」


「100隻!?あれが?」


勇騎と杏樹は顔を見合わせる。そんな場所がこの剣王町にある訳が無かった。


「あの・・・・ハダリーの病院船みたいに小さくなったりは・・・・?」


「申し訳ないが、軍船は戦時対応の為そういった機能はありません。無茶は承知の上です。せめて(いかり)だけでも降ろす事をお許し願いたい」


「それならなんとかなる・・・・なるよな?」


「山の裏手になら・・・・おばあさまに聞いてみます」


「ありがたい」


杏樹が確認の為に去って行くとその護衛も兼ねて勇騎とハダリーも付いて行く。ヴィダリオン卿は上機嫌で一礼すると自分の従者であるホットスパーこと従機士パールウェイカーを呼ぶ。


「戦時のそれも決戦の前ではあるが略式にてそなたを正機士に任ずる」


「あ~それは・・・・その・・・・・・」


明らかに乗り気ではない、部下の心情を察してヴィダリオン卿は続ける。


「正機士とはいえ、この状況が落ち着くまでは今のままだ。心構えやら従者やらはそれまでお預けだ。今必要なのは戦力だ。知っての通り、正機士と従機士には6倍の戦闘力の差があるからな」


「はっ」


ホットスパーの性格上いやな事を先延ばしにされるのは苦痛ではあった。複雑ではあるがより強くなれるのは願ってもない事なのは事実である。


「では、黒のヴィダリオン。この儀の証人として立ち合いを」


「ハッ」


ヴィダリオン以外の従機士らも見守る中正機士叙任の儀が始まった。


ヴィダリオン卿は跪き、ヴィダリオンから両手で差し出された剣を受け取ると右手で顔の前に剣を構える。


「戦場、それも急場という事での略式となるが、汝パールウェイカーを正機士へ任ずる。汝正機士の責務を全うする意思ありや?」


「ハッ」


ヴィダリオン卿は剣をパールウェイかーの右肩に置き尋ねる。


「正機士の責務とは主、機士団そして鋼の血で結ばれし兄弟姉妹に忠勇を尽くすことなり。汝その意志ありや?」


「ハッ」


パールウェイカーの大きく迷いのない返答。それに満足げな笑みを浮かべるヴィダリオン卿は彼の左の肩に剣を置き、再度尋ねる。


「世界が崩れようとその使命全うする勇気ありや?」


「・・・・・世界とは我が同胞そのもの。世界が崩れるのを食い止める事こそ我が忠勇の証であります」


「よろしい。では汝パールウェイカーを正機士と認める」


ヴィダリオン卿がパールウェイカーの兜の正中に剣を置くと剣が輝きを放ち、彼の体を包んでいく。


パールウェイカーの鎧はくすんだ灰色から白に赤いライン2本が両腕、肩、両足と兜の中央に走る新たな姿に変わる。


「おめでとう!ホットスパー、いやパールウェイカー」


「今まで通りでいいぜ。中身が変わったわけじゃねえからな」


仲間からの祝福を照れくさそうに受け取る。ホットスパー。そんな彼らの頭上を大きな影が差す。


「あ・・・・あれは!?」


ここにあるはずのない、宙に浮く故郷の城を見てカローニンは絶句。


「早すぎるな。そんなにこの次元に興味があるのか」


「ヴィダリオン卿、我らが城であるデウスウルトまでもここへくるとは!?」


「そうだ。総長直々にな。だが俺は・・・・いかん!?ここに来るだと!?散れ!押し潰されるぞ!!」


会話は中断され、ヴィダリオン卿は船に、機士達は愛馬を駆って全速力で早々にこの場を離れた。

かくて無人となった団地の瓦礫の山を押し潰して機士達の居城にして故郷の次元の名でもあるデウスウルトがその地の新たな主となったのだった。



「一体どういうおつもりか!?何の交渉もせずにいきなりデウスウルトを着陸させるとは・・・!?まだ軍船の停泊地も交渉中というのに・・・!」


最高幹部のみの入出を許される円卓の間に面目を潰された形のヴィダリオン卿が怒鳴り込んできても聖戒機士団総長・ザルツァフォンは一向に気にした様子を見せない。


「此度の戦はすぐ終わる。いわば仮住まいというもの。その事をよく言い聞かせておいてくれ」


その言葉に既にこの場に集った貴顕衆の面々から失笑が円卓のあちこちから洩れる。


「これはヴィダリオンらが築き上げた住民との信頼関係をこちらから潰す行為です!彼らの協力なしでマレフィクスを殲滅できるとは思えません」


「その必要はない。奴らはじきに出てくるわ」


「何故そう言い切れるのです!?」


ザルツァフォンは立ち上がると自身の椅子の背に据えられた円形のパーツを指し示す。

それはいつになく光輝いており、その輝きを満足そうに眺めつつ言った。


「お集まりの諸君、これが我が言葉の証である。これはただの円盤ではない。在りし日の聖杯のプレート(グラス等を支える丸い台)なのだ。今や3つに分かれた聖杯の部品の2つが敵の手中にある。我らはこれを奪還し、かつ奴らに悪の力に汚された聖杯を清める聖骸布(せいがいふ)を見つけ出さねばならぬ。聖杯は我らが創造主の最上の持ち物でそこから我らの先祖が生まれたのは知っての通りである。私は聖杯を我らの手に戻すのは当然の権利であり、我らの支配と権威を(あまね)く全ての次元に行きわたらせるに必要であると信じる。諸君らの健闘を期待する」


彼の発言の権威と信憑性を高めるかのようにプレートの輝きは益々増して、城内はおろか遥かに離れたマレフィクスのアジトからそして剣王神社からも視認できる程になっていた。



『ハハハハハ、ついにこの時が来た!!遂に体をそして全ての次元を取り戻す時が来たのだ!!邪神官達よ!計画通りに動くのだぞ!』


「御意」


「既にキマイラはジンジャへと向かっております」


「フッフフ・・・・後は・・・・!」


城からの光を受けた悪魔像の中から膨大な赤黒い煙が立ち上る様を3神官は歓喜と滂沱の涙を流して見守っていた。



「あれは・・・・あの光はなんだ!?」


突然差し込んだ光に境内に飛び出した勇騎は戻って来ていた機士達に尋ねるが説明できる者はいなかった。


「古の光じゃ・・・・太古の悪魔を浄化した光が今またこの現世に・・・」


代わりに応えたのは杏樹の祖母のリエだった。


「古のってまさかあれが剣王神社の奉納舞の・・・・?」


「うむ。しかし杏樹よ、その光は同時に禍をも齎す。悪と共に現れ悪を鎮めたのじゃからしてな」


リエの言葉を証明するように旧市街から赤黒い煙が立ち上る。


「今度はなんだ!?」


「あれは・・・図像獣の物だ!!しかしこんな凄まじい熱量は見たことが無いぞ!!」


ヴィダリオンの言う通り煙は天高く立ち昇り、徐々に密度を増してより濃くより邪悪さを増していく。不可思議な事に城の光が増せば増す程煙もまた濃くなりついには天高くそびえる結晶となった。


そして


城内から目も眩むばかりの光が1条結晶に差し込む。


プレートからの光の道を通ってデウスウルトにあったはずのプレートは黒く変色して結晶内に飲み込まれると心臓の鼓動のような音と共に膨張すると結晶を粉々に砕いてそれは現れた。



「でけえ・・・・!?機械の黒竜だ・・・!」


「あれも・・・図像獣なの!?でも・・・・」


「そうか!あれが伝説の暗黒魔械竜マレフィクス!!邪教集団の支配者にして全ての図像獣の祖!」


マリニエールはかつて先輩機士から聞かされた禁書の内容を思い出していた。


現れた黒竜は全身傷だらけだった。左腕は内部の骨格が露出しており、いつもげてもおかしくないほどのだらりと垂れており、右足も同様の状態で引きずるようにしてデウスウルト目指して巨体を労わるかのようにゆっくりと歩を進める。


機士団も軍船の錨を上げて迎撃の準備にかかる。だがあまりにも突然の事に陣形は乱れ統率も何もあったものでない事は勇騎や杏樹のような素人でも分かる程だった。


竜が口を開き、口内に夥しい熱が集う。


「お・・・おいヤバいんじゃないのか!?」


「皆伏せろ!」


ヴィダリオンの指示で全員がその場に蹲る。



数瞬後凄まじい熱線が機士団の艦隊を貫きその大半を蒸発させた。爆発と熱の余波は剣王町全体を揺るがし、熱線は遠く離れた隣県のY市に着弾し、同市を溶鉱炉へと変えて消滅させてしまった。


「ば・・・・馬鹿な!?こんな事が・・・・・こんなはずでは・・・・・・話が違うぞマレフィクス!?」


自身の攻撃で自身の体から火花を迸らせつつ黒竜は半狂乱で叫ぶザルツァフォンに向けて勝ち誇った様に咆哮するのだった。

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