第15話 復活!?暗黒の支配者①
異次元デウスウルト
ヴィダリオンらの故郷であり、彼らの所属する聖戒機士団の本部がある次元でもある。
今本部基地の港には100を超える数の帆船型の軍船が並びそれらへの物資の積み込みでどこも騒然としていた。
「おい、本当に別次元に攻め込むってのは本当なのか?」
「そうだよ。総長の演説を聞いて無かったのか?」
1騎の正機士は質問してきた同僚の盾に描かれた紋章を見て納得する。
2騎の機士の外見に違いがあるとすれば盾やマントに描かれた紋章しかない。それは機士団が出来てから日の浅い段階で製造されたベテランを意味する。
「そうか、ヴィダリオン卿の部隊の者か。別次元から帰って来て早々というかこの為に呼ばれたんだっけ」
「本当なんだな?」
「本当だ。遂に上は邪教集団を根絶やしにすると歓迎する声もあるがな。俺に言わせりゃこんな大船団どころかこの基地さえ動かす必要があるのか疑問だよ」
「それだけ慎重かつ大胆・・・とも言えるが」
会話はそこで中断される。監督官フィッツガルトがこちらにやって来るのが見えたからだ。
余計な小言と罰を受けない内に2騎はそそくさとそれぞれの部隊に戻って行った。
「ザルツァフォン総長、この度に変節の説明を願おうか?」
「変節?私は機士団の悲願を果たすだけだよ、ヴィダリオン卿。機士団創設時からの仇敵マレフィクスを滅ぼす好機が来たのだ」
本部最奥の円卓の間。総長含む最高幹部しか出入りを基本的に許されないこの場で勇者の異名取るヴィダリオン卿の怒声が響く。
「その機会はこれまでもあったはずだ。いや、今以上の好機があったと聞いている。そうではなくなぜ今なのかと聞いているのだ」
「なるほど、前線に赴く士官らの信任厚い貴公ならでは情報網という事か。マレフィクスがどんな敵かを考えれば自ずと分かるだろう?つまりこちらの油断を誘い、殲滅する。その危険が今回最も少ないと判断したからこその大遠征だ。これで十分かな?」
「う・・・む。だが向こうとの折衝はどうするのだ?この人数と船、なによりこのデウスウルトそのものを動かすというではないか?停泊場所は向こうの次元の住人に負担になるのでは?」
元々口の回るタイプではないヴィダリオン卿はザルツァフォンの答えに若干の冷静さを取り戻したが次の言葉にはさすがに内心であきれ果てるしかなかった。
「連中もマレフィクスに散々苦しめられているのだ。むしろ涙を流し、諸手を上げて歓迎してくれるだろう」
(気楽な頭をしている事だ。何度言っても変わらぬとは・・・・)
勇者などと祭り上げられ、部隊を率いて様々な次元の悪と戦ってきたヴィダリオン卿は機士団が現地住人から歓迎されない事態に何度も直面してきた。彼らからすればいきなり乗り込んできた見知らぬ武装集団がやって来て土地を一時的にせよ占拠するのだからたまったものではない。しかも戦いで土地や資産は荒れる一方となればなおさらの事だ。その戦いの果てに人はおろか生物の住めない環境になった次元さえあるのをヴィダリオン卿は知っていたし、見た事もあった。
(その不毛となった次元を機士団が接収し、何かをさせているという噂もある)
「まだ何かあるか?」
「いえ。聞けば今度の次元は我らが創造主が住まう次元と聞き、相応の礼儀と敬意が必要かと」
「フフフ、かつての主の危急を救う。これ程武士にとっての名誉もあるまい?ついては先遣隊を貴公にはお願いしたい」
「かしこまりました」
そう言うとヴィダリオン卿は一礼して足早に部屋を出て行った。
「さて、これで邪魔者を全て排除出来ればいいが・・・・連中も抜けているからな」
ただ一人残ったザルツァフォンは自分の座る椅子の背もたれに設えられた円形のパーツの輝きが増すのを見て微かに笑ったが直ぐに顔を引き締め、伝令官に出撃を急がせる旨を通達させた。
「歴代の総長が夢見た日が私の代で達成される。フフフフフフ、ハハハハハハ!」
ザルツァフォンの笑いは城塞とその周りの船の発進音にかき消され、誰にも聞かれることはなかった。
剣王町旧市街・マレフィクスのアジト
『いよいよ来るか・・・・プレハよ、例の図像獣は完成したか?』
「いつでも」
廃屋の居間の中央に築かれた祭壇。そこに鎮座する杯を咥えた悪魔像からの声にスパイダーハイクレスタ―=邪神官プレハは跪いて答える。
「ではいよいよ・・・・」
興奮を抑えられないという目で像を見上げてバットハイクレスタ―=ザパトが額づいた
『我らの世が来る。永遠の闇の世界が・・・・!ガルウよ、お前も新たな体の肩慣らしには丁度良いだろう』
「はい。俺がんばる。がんばってまち壊す」
『だが、手筈は分かっておろうな?』
「ふねがきたらかえる。図像獣といっしょにかえる」
『よろしい。では行け!』
「合体図像獣キマイラ、出撃せよ!」
プレハの指令で強風のような甲高い、耳障りな咆哮と同時に異形の怪物が現れた。
頭部はライオンの頭、胸に山羊の頭そして腹部にサソリの頭がある。右腕は先日戦死した傭兵隊長ゲッグの形見ともいえるハルバード、左腕はサソリの尾が、更に背中にはコウモリのような翼がある。
それが合体図像獣エアレーと合体図像獣マンティコアを更に融合強化した合体図像獣キマイラだった。
同時刻
剣王神社・境内
「体の調子はどうだ?ヴィダリオン?」
「完全とはいかないが大分いい。新しい足も不具合なく動く。それより全員をそれも祖母君やリクやブンゲンまで集めてどうした、マリニエール?」
剣王神社の名物となりつつある境内での機士達の作戦会議。そこに普段呼ばれない金雀枝杏樹の祖母リエや杏樹や星川勇騎の友人である新井陸や分限博人まで集まっていた。
「じつは・・・こういう手紙が来た。読んだら隣の者に回してください」
マリニエールはヴィダリオンに例の暗号電文を渡す。機士達は全員一様に唸り、人間達は首を傾げる。
「つまり、どういう事なんだ?」
「我々の本隊がやって来るというのです。それも指導者たる総長直々に。これは異例の事態といわねばならないでしょう」
「本当に来るのか?あの総長なら代わりの者を寄こしてそれで終わりそうなモンだが」
「残念だがその文面は本当に来る時の言い回しだ」
断言するマリニエールにマジかよと呟くホットスパー。
「それでアタシたちに何をして欲しいんだい?」
リエの言葉は質問というより確認を取るという口調だった。
「本隊の機士達の寝泊まりする場所と船の停泊地。これを用意して頂きたい。団長はいや、聖戒機士団はこの町この次元に巣くう悪を一掃するつもりなのです」
「しかし今頃どうして?」
「それは・・・・分かりかねます」
杏樹の疑問は全員の頭に浮かんだ物だった。
実際のところマリニエールも聖杯が何を意味し、どのような効果をもたらすかまでは知らないのだ。
「急に言われても困るね。こっちにも準備って物があるんだ。そいつらはいつ来るんだい?」
「早ければ明日にでも」
「早すぎだろ」
「だから町の住人を説得できそうな御仁に集まって頂いたのです。どうかよろしく」
「気にいらないねえ。出来れば早く片付けて帰って欲しいねえ」
「尽力します」
マリニエールがリエに頭を下げたのと町から爆発と黒煙が上がるのは同時だった。
「図像獣か?皆行くぞ!」
ヴィダリオンの号令に従機士4騎はそれぞれの愛馬に跨り参道を駆け降りていく。
「ヴィダリオン、私も行くわ。何か嫌な予感がするの」
「・・・・ではマスルガの後ろに」
「ユウキ、ハダリー、乗せて行ってやるぜ」
「サンキュ、ホットスパー」
「パールウェイカー様、ありがとうございます」
「いいね、実名で呼んでくれる後輩ってのは。俺も正機士になろうかな」
「動機が不純すぎます」
「ハハ。なんだかんだで慕われそうだけどな」
「やっぱダメだよな。それじゃ掴まってろよ!一番乗りといこうか!」
「勝手に仕掛けるなよ。またあの合体図像獣なら1人2人じゃまともに歯が立たない相手だからな」
「分かっているよ」
ヴィダリオンにそう返すとホットスパーは愛馬機動鋼馬ベオタスの翼を開いて空へと舞い上がった。
「そう言えばやられているのはどこなんだ?」
「あそこは・・・・団地の辺りじゃないか!ホットスパー急いでくれ!ほっとくと沢山の人が死んじまう!」
「チッ、人間狩りかよ・・・・!」
ホットスパーは毒づくと拍車を当ててベオタスの速度を上げた。
剣王町新市街・集合団地
剣王町の団地は新市街開発の初期に造られた建物群で、商店街や駅といった場所から数キロも離れた利便性の悪い場所だ。それで今では住んでいる住人は4階建て20棟を超える建物に15世帯ほどしか住んでいない。
この半ばゴーストタウンと化した地区をナイトクレスター・ガルウと合体図像獣キマイラが襲撃したのだ。
「よし、どっちがおおくの家を壊せるか勝負だ」
「わかりました」
キマイラはコウモリの羽を広げて飛翔すると獅子の口から火炎を、胸の山羊の頭から緑色のビームそして腹部のサソリの口から弾丸を連射して手あたり次第に建物を破壊していく。
「やるなあ。俺もいくぜ!」
ガルウは両手から電撃を放つとキマイラと反対側に並ぶ建物群を吹き飛ばしていく。
「うーん、これじゃ負けちまうなあ。そうだ!」
住人の悲鳴をよそに彼は電撃を止め自身の爪を飛ばす。本体から離れた爪は壁が剥がれた無残な姿の建物や逃げ惑う人々をすり抜け柱を切り裂いた。
「ヒイッ!?早く逃げろ!崩れるぞ!!」
誰かがそう言った時には柱を失った建物は真ん中からボッキリと折れて避難の終わっていない住人ごと落下していく。
「うわああああ!おかあさ~ん!?」
ビルから投げ出された男の子に母親の絶叫が木霊する。
「よっと。ユウキ、この坊主を頼む」
間一髪ベオタスに乗ったホットスパーが男の子を受け止めた。
「ホットスパーは?」
「決まってんだろ。あれを支える」
ホットスパーは勇騎に男の子を預けるとベオタスの馬上で鐙を踏みしめて立ち上がると落下してくる折れたコンクリートの塊を受け止める。
「グ・・・だがな・・・!ベオタス、ゆうっくり下降しろ」
主人の意を汲んだベオタスは垂直にゆっくりと下降し、ホットスパーは傍の地面に折れた建物の残骸を降ろす。
「おかあさ~ん!」
「あ、ああ、ああああ良かった!!」
「早く逃げて下さい。ここ一帯は戦場になります」
「はい、お気を付けて。ありがとうございました」
ハダリーの言葉に母親は我が子を抱えて逃げていく。
避難民と逆の方から続々と機士達が到着する。
「酷いな」
「人間ではなく建物の破壊が目的か?」
「そのとおり。それが俺とキマイラの使命だ」
機士達は剣を抜き声のした方へ身構える。
瓦礫の山の上にはガルウとキマイラが文字通り爪を研いで待っていた。




