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異世界の機士 黒のヴィダリオン  作者: 紀之
好敵手の章

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第14話 敵傭兵隊長最後の挑戦④(2章完)




 剣王町旧市街・マレフィクスのアジト


1階の居間に3つの戦いの映像が浮かぶ。


ゲッグとヴィダリオン


合体図像獣マンティコアと従機士カローニンとメガイロ


合体図像獣エアレーと従機士ホットスパー、マリニエールそしてハダリー


これら全てを見える場所に杯を咥えた悪魔像が赤黒いオーラを纏って鎮座していた。


「後1つのパーツさえあれば我らの天下でありましたものを・・・」


後ろで跪くバットハイクレスタ―が苦々しげに呟く。


『良い。最後のパーツは向こうからやってくる。それよりも我が眷属復活の為の準備をせよ。我が眷属の残り火をここへ』


「すると、ガルウを・・・!」


スパイダーハイクレスタ―が歓喜の念あらわに部屋の隅に捨て置かれたウルフハイクレスタ―の右手を抱え恭しく杯の中へと浸す。


「見ておれよ、ゲッグ。勝とうと負けようと今日が貴様の最期の日だという事を思い知らせてくれるわ」


バットハイクレスタ―の呪詛がアジト全体に響き渡った。



同時刻


剣王町旧市街・参道


合体図像獣マンティコアの攻撃を防ぐべくカローニンはヴァレルの盾を展開して突撃する。


「む?しまった!?」


盾に衝撃や熱を感じない事を訝しんだカローニンはヴァレルの手綱を引くがマンティコアはそれより早く接近し、右の盾を毒針で突き刺し左の盾をクローで挟むと同時に持ち上げるとヴァレルの盾が届かない腹部へ両目からの緑色のビームを至近距離で放った。


爆発で吹き飛ばされヴァレルの下敷きになったカローニンは我が身よりも愛馬の体を心配する。


「ヴァレル、無事か!?ああ、生きているな!」


苦しそうにいななくヴァレルの下から這い出すのと毒針と火炎弾が飛来するのは同時だった。


よろけながら愛馬を庇うように盾を構えて攻撃を防ぐが毒針は盾を貫通し火炎弾は脆くなった盾を粉々にしながらカローニンを吹き飛ばす威力を見せた。すかさず追撃のビームが放たれる。その熱線はメガイロの放ったコートオブアームズ・アニューレットカノンの弾と相殺し、爆炎と煙が両者の間につかの間の小休止をもたらした。


「く・・・おのれ・・・・・!」


「無事か、カローニン」


「ええ。すみません。私の短慮で敵を倒すチャンスを逃してしまいました。どうやら奴は同じ失敗を2度繰り返す相手ではないようです」


「ならどうする?」


「1つ考えがあります。協力して頂けますか?」


煙が晴れた時マンティコアの前に立っていたのは右肩に大砲を構えたメガイロただ1人だった。

自身の攻撃が大砲より早い事を知っているマンティコアは全ての火器をメガイロ目掛けて一斉射。


「今です!」

カローニンの声がしたと同時にアニューレットカノンが火を噴きその中からコートオブアームズ・チェンジマートレットとなったカローニンが回転しながら飛び出した。アニューレットカノンが砲口から弾を込める前装式の大砲だからこそできる荒業だった。


「いくぞ!紋章剣奥義・烈風波濤壁!」

燕の口から放たれる波動が火炎弾と毒針を跳ね飛ばしカローニンの体は跳ね返せず拡散したビームを纏って(きり)の様に突撃。マンティコアに防御させる時間を与えず、胸の傷を抉り勢いそのままに貫くと急上昇。

マンティコアが爆散する様を空中で振り向いたカローニンは見下ろしながら着地した。


「間もなく異空間が閉じます。ゲッグを迎え撃つ準備を」


息つく暇なく短剣と砲を構えて2人の従機士は互いの総大将の帰還を待ち構えていた。


剣ヶ峰学園・校庭


「ハダリイイー!」


星川勇騎は無我夢中でハダリーが投げ出したアーキバスランチャーを抱え上げると彼女を持ち上げている合体図像獣エアレーの角の真ん中あたりに狙いを定めて撃った。彼には弾が当たったかを確認する暇はなかった。発射時の衝撃で銃を取り落して大きく後方に飛ばされ、校庭のフェンスに叩きつけられ気絶したからだ。彼が目を開けた時、全ては終わっていた。


彼が撃った弾丸は狙いを逸れて角を根元から粉砕しただけでなく、その後ろに待ち構えていたもう1本の角さえも真中から叩き折る快挙を見せた。エアレーは自身の角を奪った人間に激昂して突進しようとしたがこの隙を逃す程2人の従機士は甘くない。ホットスパーが右から、マリニエールが左から柄をも通れと渾身の力で紋章剣をエアレーの角の根元部分に突き刺したのだ。この部分には厄介な爆発する汗はないからだ。だが憤怒に駆られたエアレーは激痛に怯むことなくひたすらに機士2人を押して前に前に突き進む。


「くそ、止まれってんだよ!」


「2人がかりで押し負けるとは・・・!」


砂利と火花を上げながらじりじりと後退するホットスパーとマリニエール。


「ユウキ様!」


ホットスパーは後ろを振り返ると先に地面に叩きつけられ、起き上がったハダリーが勇騎に駆け寄ろうとしていた。


「ハダリー、アイツは無事だ。アイツが作ってくれたこの勝機を逃すな!」


「う・・・はい!」


一瞬の逡巡の後ハダリーは自分の主が取り落した銃を拾い上げるとスゥと深呼吸すると弾丸の装填に掛かった。


(不思議だ。あれだけ手間取っていたのに今は手が独りでに動く・・・・!)


「ハダリー。私達に構わず撃つんだ!」


「遠慮はいらねえ!俺達を信じて撃て」


銃身の揺れから狙いを付けるハダリーの迷いを見抜いた先輩機士2人はそれぞれの言葉で激励の言葉を掛ける。


(ユウキ様、どうか力を・・・!)


目を閉じて今一度深呼吸する。目を見開いた時ハダリーには的が恐ろしく近く鮮明に見えた。


「これなら外さない!」


引き金を引くと同時に独特の発砲音と衝撃がハダリーの全身を包み、金の髪が逆立った。


だが彼女の体と目は微動だにせず怪物の胴を貫き、断末魔の叫びを上げるのと、ホットスパーとマリニエールが左右からマントからの光で爆発するエアレーを包み込むのを見届けていた。


「よくやったな。早くアイツの所に行ってやれ」


戦いが終わり射撃体勢を取ったままの彼女にホットスパーが肩を叩いて声を掛ける。


「・・・・・・はい!!」


我に返ったハダリーは2人に一礼するとフェンスへ向かって駆けだしていった。


「ところで」


やりきったと大きく伸びをするホットスパーにマリニエールが声を掛ける。


「あの図像獣の爆発をどこへ送るつもりだったのです?」


「適当だ。座標を指定する暇もなかったろうが。それはお前も一緒だろう?」


「それはそうですが・・・もっとあなたとは意志疎通が必要なようです」


「ま、時間はあるさ。神社でいくらでもな」



異空間


上空から叩き落とされたヴィダリオンはすぐさま立ち上がるとゲッグ・ウィクトールが振り下ろすハルバードを受け止めるべく剣を構える。


「足元がお留守だぜ!」


ゲッグは左腕を止めると額の角から電撃を放ち、ヴィダリオンの右足に直撃させる。


「グ‥アッ!」


「貴様には全てを失ってから死んでもらう!」


右足が電熱で吹き飛び体勢を崩したヴィダリオンを支える様にゲッグはハルバードの斧の反対側の鎌状突起に相手の剣を引っかけると剣を弾き飛ばすべく力任せに引き上げる。右手の義手ほどではないがこの左腕も機士一人の頭を叩き潰すくらいなら十分な膂力(りょりょく)があるのだ。


「こ・・・この剣だけは離さん・・・・・!この剣は我が魂でもあるのだ・・・・!」


「その強がりを死ぬまで言い切った奴はいねえ、な!!」


あくまで剣を放そうとしないヴィダリオンに左膝の攻性の電磁フィールドを膝蹴りの要領で何発も打ち込む。青白い電撃が何度もヴィダリオンの体を(ほとばし)るがヴィダリオンは苦痛の声を漏らすのみで状況は変わらない。


「そうかよ。なら魂ごと死にな!」


微かな敗北感に苛立ちながらゲッグはハルバードを振り上げる。剣と斧槍(ハルバード)が離れ、ゲッグはヴィダリオンを直上に投げ上げた。


(今だ!!)


ハルバードが自身の体に触れる刹那、ヴィダリオンは残ったブースターレイブルをゲッグの頭目掛けて噴射。ゲッグは反射的に体を捻ったが火炎に目をやられながらも振り下ろしたハルバードは残った左側のブースターを切り落としていた。


「さんざてこずらせやがったが今度こそ最後だ!!」


ゲッグは仰向けに倒れたヴィダリオン目掛けて電撃を纏ったハルバードを振り下ろしたその瞬間。


異空間の形成時間が終わり、2人の周りの景色は元の空間へと戻ろうと点滅を始めた。


(異空間が戻る。せめて最期の瞬間は主にみせたくなかったが・・・・)


ヴィダリオンは死を覚悟し、目を閉じたが、ゴウッという爆音と高熱と何事だというゲッグの声を聞き、再度目を開ける。


ゲッグの背後から凄まじい爆発が噴き出した。


ゲッグもヴィダリオンも知る由もなかったがこの爆発はホットスパーとマリニエールがあのエアレーが爆死した際に「適当に」異空間へ送ったせいだった。座標を決められず送られたエネルギーは唯一の異空間であるこの決戦の地へと最後の最後になってやってきたのだ。


「な・・・なんだあ!あのバカ神官共の仕業か!うっ!?」


現実世界へと戻った彼は爆発に吹き飛ばされぬ様にハルバードの刃を地に突き立てていたゲッグは得物を引き抜こうとしたが、それより早くヴィダリオンが剣を杖に立ち上がり、体を限界まで屈伸させ太陽を背にして片足で跳躍していた。


「片足で俺が獲れるモノか!」


「出来る!!」


ヴィダリオンは空中で前方に回転する。


「受けよ、ゲッグ!我が渾身の・・・・!紋章剣・永久(とこしえ)の太ァァ刀!!」


「な・・ガイオス!?グオオオオオッ!!!」


体の屈伸と回転が合わさった事で切断力を増した斬撃。


それは機士道というエネルギーが続く限り永久に回り続ける刃の車輪がゲッグの左肩から腰までを切り下げる。


青白い炎が一瞬舞い、次の瞬間真っ赤な炎が凄まじい爆発と共に吹きあがった。


「「「ヴィダリオン!!」」」


戦いを見守っていたカローニン、メガイロそして金雀枝杏樹の悲鳴が木霊する中煙が晴れた中にはうつぶせに倒れているヴィダリオンと全身の装甲が吹き飛び内部の部品や配線から絶え間ない火花とオイルをボタボタと垂れ流すゲッグが立っていた。


「ガイオスが盾になって・・・へ・・・へへ・・・・・えええ・・・・俺を倒せなかった事後悔サ・・・・せてや…るよ」


そう言うとゲッグはクルリと背を向けて歩き出す。


「待て!」


「止せ。あの様子ではもう数分と持つまい。悪とはいえ死力を尽くして戦った相手。死に場所を選ぶ権利くらいはある」


カローニンを制してヴィダリオンは全身をギシギシ言わせて立ち上がった。


「それより全員ティレニア号へ行くぞ。全員体を治さなければ」


ヴィダリオンの肩を持ちメガイロが神社へ歩き出す。そこが集合場所だった。



ゾンビのような姿と足取りでゲッグはアジトへと帰って来た。


「やられましたな。しかしこれを」


指揮官の惨状にも顔色一つ変えずバットハイクレスタ―は悪魔に汚された杯をゲッグに渡す。

部下の手から杯を強引にひったくり、無造作に傾け頭から赤黒い液体を浴びるゲッグ。


「お・・おお・・・・これだ・・・・図像獣を強化できるなら俺も強く・・・・・へ・・へえ!?」


傾けたカップの底からウルフハイクレスタ―の右手がズルリと落ち、ゲッグの顔にへばりつくと全身に浴びた赤黒い液体が霧の様に変化し体に纏わりついた。


「グ・・・こ・・・これが・・・・いや違う!これは!こんな事ガあああアアアア!?お‥俺はお前達に利用されていただけだった・・・・のか!?」


ウルフハイクレスタ―の右手がゲッグの体を這って右腕に繋がると全身の霧が彼の体を新たな生命体へと作り変える。


バイザー部分が口となった銀の狼の頭


一際目を引く巨大な腕と爪


全身に赤いラインの入った銀の板金鎧と緋のマントを翻してウルフハイクレスタ―・ガルウはナイトクレスター・ガルウとして蘇った。


パチパチと拍手が沸き起こる。


「おかえり、ガルウ」


「長い休暇を取った分働いてもらうぞ」


「まかせておけ」


バイザーをカチャカチャ言わせてガルウが胸を張る。


『これで我が眷属が全て揃った』


杯を咥えた悪魔像から声が響き、3人はその場で跪く。


『聖戒機士団との決戦は近い。その時こそ我は復活する。心せよ、我が腹心達よ』


「「「ハハァー!!!」」」



同じ頃ティレニア号内で自らを修理していたマリニエールは直属の上司である団長ザルツァフォンからある暗号伝聞を受け取っていた。


『チカク我ラソチラニ往カン。マレフィクストノ決戦ニソナエラレタシ』


紙にはそう書かれていた。

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