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異世界の機士 黒のヴィダリオン  作者: 紀之
好敵手の章

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第14話 敵傭兵隊長最後の挑戦③




  剣王町・旧市街参道


従機士カローニンとメガイロは参道に突如現れた合体図像獣マンティコアの攻撃を掻い潜りながらも必殺のコートオブアームズ・アニューレットカノンを直撃させる。だが図像獣の防御力はその威力をものともしないほど頑丈だった。


「砲兵としてどう見ます?あれでも多少の傷を負っていると思いますか?」


「見た限りでは全く無傷に見える」


カローニンはメガイロの意見が自分の考えと同じだと知って臍を噛む。従機士仲間では最大の攻撃力を持つメガイロの攻撃が通じないという事は、自分の持つ技ではどうしようもない事を意味していた。カローニンの技は牽制や撹乱の後敵の防備の薄い所を突いて攻撃するのに有用なのだ。


2騎がこうして話し合っている間にもマンティコアはゆっくりと距離を詰めてくる。


「だが、同じ個所を正確に狙えばあの皮膚も破れるはずだ」


「あの攻撃の嵐に曝されながら、ですか」


もはや先程の手は通じないだろう。自分の攻撃を無視してあの図像獣はメガイロに攻撃を集中するに違いなかった。


「方法はあるわ!ヴァレルを召喚して!」


物陰から戦いの様子を見ていた金雀枝杏樹は怪物と機士、両者の間に割って入った。


せせら笑うような唸り声を上げてマンティコアは両腕を杏樹へ向ける。図像獣にとって彼女は機士以上の優先抹殺対象となっている。なにせ彼女を殺せばヴィダリオンがいなくなり、ヴィダリオンがいなくなることは合体不能や部隊統率に支障が出るからである。それが無防備に出てきたのである。マンティコアは右手の獅子の口から火炎弾、左腕の針を飛ばす。


カローニンは杏樹に言われた通り機動鋼馬ヴァレルを召喚、愛馬の鞍に備え付けられた3本のアームに装備された長方形の盾を前面に展開して攻撃を防ぐ。


「何という無茶を・・・」


「ごめんなさい。でもこのまま突っ込んで!」


「メガイロの目隠しとして再装填の準備をさせる訳ですか」


「ええ!それに攻撃手段は豊富だけど全部直線にしか飛ばないし、発射間隔が微妙に違うのよ」


「つまり、遠距離攻撃が出来ない時間があると?」


よく見ている、とカローニンは内心舌を巻く。


(先程歩いていたのは余裕の誇示だけでなく遠距離武器の再装填の為だったのか)


ここまで説明されればカローニンもメガイロも早い。


メガイロはアニューレットカノンの砲弾を砲口に入れて再発射の準備に入り、カローニンはヴァレルを真っ直ぐに突撃させる。


「持つのかしら・・・・?」


杏樹はヴァレルの左と上の盾越しに感じられる火炎弾とビームの熱と蒸気に身をすくめる。といって右の盾の方が安心という訳ではない。こちらは射出される針を跳ね返してはいるがその甲高い反響音は戦いという物に縁遠かった杏樹の不安を煽るには十分すぎるのだ。


「アンジュ殿お掴まり下さい!」


攻撃が止まったタイミングでカローニンはヴァレルを脇道に入れる。図像獣の視線が向くが気にせず駆け抜けた。背後でアニューレットカノンの発射音と爆発音が響く。


「アンジュ殿はここで。私はもう一度奴に突撃します」


「気を付けてね」


「はい。ではっ」


カローニンは杏樹を降ろすと巧みな手綱さばきでヴァレルをターンさせると来た道を駆けて行った。


「やはり胸に傷が出来ている。メガイロ殿、再度行くぞ!」


「応!」


煙が晴れた先に立っていたマンティコアには胸の装甲に数cmの裂傷があったが、怪物はその事に動揺してはいないようだった。むしろ相手方に打つ手なしと見たのか両目と獅子の口を光らせ、左腕を水平に構える。


「攻撃力と防御能力を高めた半面再生機能は無しか!これならば!!」


カローニンは再度メガイロを隠すようにヴァレルを敵の正面に向けて突撃した。



同じ頃、異空間でのヴィダリオンとゲッグの一騎打ちはゲッグが機動鋼馬ガイオスの頭部を中心から割れて額から頬を覆い、前脚が両肘に後脚が膝部へ胴体が胸甲として纏った最終形態ゲッグ・ウィクトールとなった事で3倍の力を得たゲッグ有利に傾いていた。ハルバードと剣での十数合の撃ち合いにヴィダリオンはじりじりと押され防戦一方となっていた。


「ク・・・以前とは膂力(りょりょく)が桁違いだ・・・」


「さっきまでの威勢はどうしたァ!?」


ゲッグ・ウィクトールは額部分のガイオスの角からの電撃をハルバードへ移すと得物を振り下ろす。


「う!?グウッ!」


斬撃を後方へ飛んで躱したヴィダリオンは頭上が暗くなり、間髪入れずに2条の稲妻が自分目掛けて降り注ぐのを更に後ろに飛んで躱す。だが着地と同時に直接放たれたガイオスの角からの電撃が直撃する。


「トドメだ!」


膝をついたヴィダリオン目掛けて巨体に似合わぬ跳躍力で一気に距離を詰めたゲッグはハルバードを振り上げ渾身の力で撃ちおろす。


「まだだ!」


いかな剛の者でも空中での動きには制限がある。それはゲッグとて同じだ。ヴィダリオンもその隙を突き再びコートオブアームズ・ブースターレイブルを吹かしてハルバードの間合いの内側へと突っ込んだ。


「そう来ると思っていた!」


ゲッグ・ウィクトールは義手となっている右腕を伸ばす。更に間合いを伸びたハルバードは右のブースターを切り落とし、ヴィダリオンの背中を撃つ。


「ガアッ!?だ・・・が!」


ハルバードの柄を左手で掴んだヴィダリオンも残った左側のブースターの勢いを利用して逆袈裟にゲッグの義手を切り落とした。


「おのれッ!?」


激昂したゲッグは右足でヴィダリオンを蹴り飛ばすと上空へ舞い上がったハルバードを左腕で掴むと制御を失って墜落したヴィダリオンの許へと向かった。



同時刻


剣ヶ峰学園・校庭


動いている的を、それもこちらを攻撃してくる敵を撃つなどハダリーには初めてのことである。つい先日まで止まっている的に命中させるにも一苦労だったのだ。


(だがやるしかない)


今自分と従機士ホットスパー、従機士マリニエールが対峙する合体図像獣エアレーの機動力はケンタウロスに毛が生えたほどとはいえ並の機動鋼馬のそれを凌ぐ。ホットスパーの愛馬ベオタスもマリニエールの愛馬ナライズも速度面では追い付けないのだ。


その相手に命中させる。


彼女の眼前でエアレーの注意を自分から逸らすべく奮戦する先輩機士達の姿は却ってハダリーの緊張を増して体と頭脳を強張らせて何度もやってきたアーキバスランチャーの弾丸を手から滑らせた。



「貴様の相手はこっちだ!」


愛馬ナライズが爆発に巻き込まれるのを嫌って下馬したマリニエール。彼とエアレーの立ち回りはまるで闘牛士と闘牛のようだった。闘牛士の振る舞いにいきり立つ猛牛の如くエアレーは腕に抱えた小弓を連射しながら両肩の角を前方に向けて突進する。それをクルリと回転していなしたマリニエールは飛び散る赤い汗を模した爆薬の破裂する中、左側の角の根元に蛇腹剣を巻き付けた。


「グっ、この馬鹿力が・・・・!」


蛇腹剣を引き角の切断を試みるが、彼の予想通り角は頑丈でこれは失敗した。加えて拘束を解く為に体を振り回すので広範囲に爆液が飛び散り、ハダリーの周辺で爆炎が数個立ち昇った。


「おい、何やってんだ!」


(予想以上の馬力だ。コイツを一瞬でも停止させておくのは不可能に近いか)


ベオタスに跨ったホットスパーの叱責をあえて無視し内心で舌打ちするとエアレーに蛇腹剣のリールを引きちぎられる前に剣を戻した。


「確実に奴を仕留める方法を考えていたんですが・・・難しい」


「そうだな。なら逆にハダリーに突っ込ませるか?」


「あの様子で?」


射撃訓練ではとっくに装填完了していた時間だ。だが今は震える手でようやくコックを1段階引き上げている所だった。


「難しいとは思わないが・・・ね!」


マリニエールはコートオブアームズ・クレセントカッターを4つ生成し、エアレーの周囲に投げつけると一瞬遅れてホットスパーもベオタスにフェザーブレイドを撃ち出させる。


複雑な軌道を描くブーメラン2つと全ての羽剣はエアレーの弓矢で撃ち落とされ、残った2つのブーメランを両肩の2本の角に引っかけて逆に投げ返すとエアレーは2騎に向かって矢を放ちながら突進してきた。


「味なマネを・・・さっきの続きだがな、ハダリーの月輪なら爆発させずに倒せるんじゃないか?使い慣れない武器より手慣れた武器と技の方が実戦では有用だ」

ブーメランをキャッチして投げ渡しながらホットスパーは己が持論を言う。マリニエールは反論しようとしたがエアレーの突進を回避するためにホットスパーとは逆方向に大きく飛んだ。飛び散る液体爆薬とその間を縫うようにどこまでも伸びる角を盾で防ぐ。


(向こうはどうだ?)


ホットスパーは伸びる角を回避する為にベオタスを上昇させたが、その後ろにはようやく銃の装填の終わったハダリーがいた。


「いかん!ホットスパー、ハダリーを守れ!!」


「無茶言うな!!」


言いながらもベオタスを急降下させるホットスパー。だが間に合わない。


「ハダリー伏せろ!」


勇騎の言葉も間に合わず、ハダリーは咄嗟に銃を置き腰のメイスを引き抜く。角はメイスを貫きグン、と投げ上げる。その先にはもう1本の角が待ち構えていた。

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