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異世界の機士 黒のヴィダリオン  作者: 紀之
好敵手の章

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第14話 敵傭兵隊長最後の挑戦①




  剣王神社


7月


例年なら夏祭りの準備で人通りも多いこの季節。


神社の参道脇の林の一角の5m四方には場違いな西洋風の盾とベニヤ板、そして手書きの『危険ですので立ち入らないようお願いいたします』と書かれた、同じくベニヤの立て看板が置かれていた。この区画の中から起こる独特の轟音は麓まで響いていた。


「よし。次はハダリー、君の番だ」


射撃を終えてアーキバスランチャーの銃身内部を掃除し終わったカローニンが後ろに控えていたハダリーへ銃を渡す。


「は、はい!」


スコーピオンクレスターとその巨大化したHBクレスターSを倒した翌日。撃破の立役者となった新兵器アーキバスランチャーの習熟を全員がするべきだ、というマリニエールの意見で、この区画を借りての射撃訓練が朝から始まった。主である星川勇騎と一定距離しか離れられない従機士であるハダリーは彼の学校の終わった午後からこの訓練に参加した。


『射撃武器は下賎の者の武器』というこの世界の中世騎士と同じ考えを聖戒機士団の機士達も持っていた。それは本来機士ではないハダリーのような部署の違う者達さえ浸透している考えでもあった。


だから自分が使うとは考えてもいなかった彼女はこの時初めてアーキバスランチャーという武器を『見た』のだった。機動鋼馬や船に取り付けられるクロスボウ以上に複雑な機械を眺めまわし、先程カローニンがやったのと同じように射撃準備にかかる。


「コックを引き上げ過ぎない事だ。最初から最大にすると暴発するぞ」


「それは朝、私が君に言った言葉なんだが・・・・」


「マリニエール、それを言うなよ」


ホットスパーの横からの恐ろしいアドバイスに体を引きつらせるハダリー。それをたしなめるマリニエールの言葉に彼女の心に自分だけではないという妙な安心感とより慎重に扱わなければならないという意識が芽生えてくる。


「ハダリー、落ち着いて的を狙うんだ」


星川勇騎の言葉を背に受けて的代わりの瓦礫に狙いを付ける。瓦礫の周りの板や地面には大穴がいくつも開いている。


(先輩方も外しているのに私にできる訳が・・・・)


半ば自棄になり引き金を引く。衝撃でハダリーは後ろに吹き飛び、的は瓦礫の左上端に命中した。


「凄い。見る以上に扱いが難しいですね」


ハダリーはヴィダリオンに助け起こされながら呆けた目で感想を述べる。


「だが初弾を的に命中させたのは君が2人目だ。尤も中心ではないが。馬を持たない君には機動力のある敵を倒すのには必要だろう。まさか毎回ケンタウロスや図像獣相手にティレニア号の巨大なバリスタを使う訳にもいくまい?」


それがこの訓練の本当の目的でもあった。他の従機士達は合体後に主人格のヴィダリオンが何らかの事情で撃てなくなった時の代わりに、ハダリーは普段使いでというのが機士達の間での決定事項だったのだ。


「確かに。それに夜間の戦闘も考えればまだまだ訓練の必要がありますね」


「そういう事だ。それにホットスパーの野次は気にするな。あれはアイツなりに君を認めている証でもあるんだ」


「そうですか・・・・」


複雑な気持ちでハダリーは再度の射撃の為に銃身を掃除するのだった。



同時刻


剣王町旧市街・マレフィクスのアジト


「一体何を始めるつもりで?」


バットハイクレスタ―が訝るのも無理はない。1階の居間には先の作戦で大破した魔銅兵タロスの残骸と逃げ帰った1体のケンタウロスがそれぞれ2つの魔法陣の中心に置かれていた。


「説明は後だ。お前達HBクレストを出せ。バットは2つだ」


ゲッグに言われた通りバットハイクレスタ―とスパイダーハイクレスタ―は各々の細胞で作り出したHBクレストを差し出す。ゲッグはそれを受け取るとウルフハイクレスタ―の右腕を取り出すと人差し指を千切り、そこからHBクレストを新たに生成すると腕を投げ捨てた。そして青と黄のHBクレストをタロスの残骸へ、赤と青のHBクレストをケンタウルスへと投げ入れると赤黒い煙と光が魔法陣から噴出した。煙が晴れると魔法陣の上には2体のいつも以上に奇怪な怪物が立っていた。


タロスの残骸からはスコーピオンクレスターの胴体と足にタロスの頭部、右腕はライオンの頭そのもので左腕はサソリの尾を持つ。

もう1体は血の様に赤い汗を流す毛むくじゃらの体に両肩からそれぞれ1mほどの角を生やしたケンタウロス。


「おお・・・これは!」


バットハイクレスタ―もこれには感嘆のため息を漏らした。


「よし、予想通りの出来映えだな。紹介しよう。タロス改め合体図像獣マンティコアとケンタウロス改め合体図像獣エアレーだ」


「彼らとHBクレスターの違いは?」


上機嫌のゲッグはドヤ顔でスパイダーハイクレスタ―へ解説を始めた。


「俺は機械でなく人間を基にした図像獣、HBクレスターを考えていた。この次元の人間の狡猾さと人質という点での機士共の心理的弱点を突く意味からな。だが一方でこの次元の人間共は惰弱すぎる。いざ戦いとなったら想定した戦闘力を発揮できねえ。これじゃいくら心理戦で勝っても最後には負ける。あの人間とクレスターを分離させるハダリーとかいう女も計算外だった。そこで、だ。基本に立ち返って機械にHBクレストをお前達のハウンドクレスターの様に2つ投入してみたらより強力になるんじゃないかと思ってな」


「元となった彼らは先のスコーピオンクレスターのもたらした機士共の戦闘データを持っている・・・!」


「そうだ。こいつらと俺とでヴィダリオンらを消し炭にして、デウスウルトへ行く。それで全てお終いってわけよ」


「では・・・・」


期待の目でバットハイクレスタ―がゲッグを見上げる。


「明日出陣する。手出しは無用だ。連中に最後の平和な夜を堪能させてやるさ」



翌日


剣ヶ峰学園校内に期末試験終了のチャイムが響く。


HRが終わりハダリー達の射撃訓練の手伝いの為に神社へ続く道を歩く勇騎と彼の幼馴染の金雀枝杏樹。


「あ~終わった。これで後は夏休みを待つばかりだ」


「それで、手応えの方はどうなの?」


大きく伸びをする勇騎に杏樹が声を掛ける。


「ン。色々と教えてもらったおかげでいつもよりかはマシかな」


「ならいいけど」


「何か元気ないな?」


「そんなつもりは無いけど・・・・」


「そうだよな。柱盗られちまったもんな」


勇騎は先の襲撃でスコーピオンクレスターに奪われた神社の『御神体』の事を思い出す。


神社の一角にぽっかりと空いた区画。

その穴はいつもそしていつまでもあると思っていた物が無くなる事がどれだけ人を不安にさせるかという事を改めて思い知らされる結果となった。


「取り返そうぜ。皆の力で。ヴィダリオンの言葉じゃないけど変えちゃいけないものを守る為にも、さ」


「そうね・・・・私に何ができるのかしら・・・・ハダリーと違ってヴィダリオンは戦士としても人間性としても完成しているというかあまり手助けできる事がなくて」



「立派に主やってるだろ。それだけで十分・・・・!?」


参道へと続く麓の土産物屋等が立ち並ぶ通りに出たと同時に2つの影が反対側の通りからやってくるのが見えた。


「図像獣とゲッグか!?」


「良い所で会ったな。さあ、ヴィダリオンを呼べ!」


「これ以上町を破壊させない!アコレード・ヴィダリオン!」


杏樹の呼びかけに鞄の中の校章が光輝き黒のヴィダリオンが眼前に現れる。


「ゲッグ!纏めて決着をつけるぞ!ディバインウェイブ!」


ヴィダリオンの背中のマントの動きに合わせて赤い光が弧を描き地面を覆ったがゲッグは随伴させた合体図像獣マンティコアをその結界から蹴り出すと同時に愛馬機動鋼馬ガイオスと共に異空間へと消えていく。


「な・・・!?図像獣をこっちに残した?」


困惑する勇騎のスマホが着信を告げる振動で震える。電話の相手は新井陸だった。


「どうした!」


「バケモンが今学校で暴れてんだ!至急ヴィダリオン達を頼む!」


「こっちも今1匹いて・・・・クソ、分かった。そっちに行く。無茶するなよ陸!杏樹も」


「うん。気を付けて!」


異変に気が付いた従機士達が山から下りてきた。勇騎はホットスパーの愛馬機動鋼馬ベオタスに乗せてもらいマリニエール、ハダリーと共に学校へと向かった。残ったカローニンとメガイロはマンティコアと。そして異空間でゲッグとヴィダリオンの一騎討ちが始まろうとしていた。

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