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異世界の機士 黒のヴィダリオン  作者: 紀之
1章 機士の章
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第1話 グータラ最強騎士登場③




 繭の中からゴツゴツした赤い皮膚に巨大な2本の角を生やした頭、体にトラックの車体を模したような鎧を着け、トラックの荷台に似た棍棒を持った正にミノタウロスのような怪物が出現した。


図像獣ブルクレスタ―


3mを超える巨躯のその怪物は繭から這い出るなり棍棒を振り回して周囲を破壊しまわった。


「誕生まで約半日か。それに見合う強さならいいがな」


「ブルクレスタ―強い。俺のクレスタ―まけない」


怪物ブルクレスタ―の背後の廃屋からザパトとガルウがその成果を見るべく観察していた。


「まあ我々を追ってきた機士を倒せるなら良し、倒せなくとも今後の戦略の指標となる」


ザパトの呟きには耳も貸さずガルウは自らのクレスタ―の応援に余念がない


「そうだやれ!ぶっ壊せ!」


「ガルウ、あのチョコチョコやっているのが見えるか?あれをブルクレスタ―に襲わせろ」


「なんで?」


「あれはこの次元の生物の一つ、人間だ。あれを襲えば我々を追ってきた機士も出てくるだろう」


「そうかあ。いけ!あのチョコチョコを捻りつぶせ!」


創造主ガルウの命令に従い周囲を無差別に破壊しまくっていたブルクレスタ―は旧市街を全力疾走で駆け去っていく

勇騎を見つけるとズンズンとそちらへ向かっていく。


「こっちに向かってくる!?」


そして怪物は明らかに自分目掛けて棍棒を振り下ろす。


それをすんでの所で回避した勇騎叩き潰されて原型をとどめていないショベルカーを見て肝を冷やすと同時に山の上の神社と町を一瞬見比べると頭を振る。


「駄目だ駄目だ!何考えてんだ、俺!どっちもダメに決まってんじゃんか!でも」


山の中なら被害は多少なりとも少なくできるはず。


そう考えた勇騎は剣王山へ向けて走り出した。


その間にもブルクレスタ―は力任せに棍棒を振るい勇騎を潰そうとする。更に目が悪いのか彼が横道に逸れると途端に見失い、キョロキョロと周囲を見回しては唸り声を上げ道路を駄々っ子の様に棍棒で叩きつける。


「ヨッシャ!これなら案外楽にヴィダリオンの所まで戻れそうだ。さて杏樹に連絡してっと・・・・」


勇騎はジャンパーのポケットを探すが入れたはずのスマホが無い。


「アッ、さっき逃げる時に落としちまったのか」


もう神社へ行く以外にない。そう思った時ブルクレスタ―は一際高く唸り声を上げると頭の2本の角から光線を放って周囲を破壊する。


「やべぇ、もう迷ってられねえ。お~いこっちこっち!」


瓦礫の間から勇騎は意を決してブルクレスタ―の目の間に飛び出すと挑発するようにあかんべえをして駆けだす。


剣王神社


舞の最終リハーサル中の事だった。


普段の新年ならありえない振動や破壊音。それが神社の最も神聖な場所である奥の院にまで響いてくる。


「杏樹。何があっても心を乱すでない」


「はい、おばあ様」


そうは言うものの、その異変に幼馴染が巻き込まれているかもしれないと思うと杏樹は気が気でなかった。そして振動や何かの動物の吠え声の様なものが気のせいではなくこちらに近づいて来ていた。


「おばあ様、私出てきます」


「待ちなさい。あれは普通ではない。お前が行っても何にもならん。あれは、あの吠え声の主は剣王様の時代の怪物じゃ。儂らは神様に祈る事が仕事ぞ」


(おばあ様は何かを知ってるの?)


「大丈夫。今の私には強い味方がいるから」


祖母は一瞬目を見開いたが何かを察したように気を付けてな、とだけ言った。彼女は制服を取りに行き、その上着の校章に取り付いている騎士に呼びかけても制服をゆすっても何の反応もない事に苛立ち、杏樹は制服の上着を羽織ると参道を駆け降りる。そして人間と何かの動物の声と咆哮を頼りに参道を降りて行った先に3mほどの牛の怪物に追いかけまわされている幼馴染の勇騎を見つけた。


勇騎は地面から突き出た岩場から石や枝を投げたりして抵抗しているが全く効いている様子は無い。


「あなたの追っていた敵が来たわ!アレ、そうなんでしょ!?」


『正しくあれは図像獣。しかしあれは連中の先兵。あれを作り出した邪神官がどこかにいるはず』


振動で起きたと思しきヴィダリオンが寝ぼけ眼で答える。


「それよりも早く勇騎君を助けて!!主の命令よ!」


「いや、確かに主の身に危険が迫れば動きますが・・・彼は主とは別の人間ですので」


「なっ・・・!?冷たい!あなた本当に騎士なの?」


「正機士という事であれば違います。エクスワイア、私はまだ見習いの身分ですので」


「どっちでもいい!!彼は勇騎君は大切な友だちなの!・・・・・彼がもし死んだら私も死ぬわ。そうなったらあなたは契約を果たせない最低男よ」


杏樹の声は低く、薄い狂気さえ感じられる程の冷たいものだった


「ゥ・・・・ム承知しました。では主よ、私を召喚してください。『アコレードヴィダリオン』と」


状況は一刻の猶予も無かった。自分の腕の2倍はある棍棒を小枝の様に振り回すブルクレスタ―の振り下ろしをすんでの所で躱した勇騎だったが立っていた岩場が積木の様に砕け散った拍子にバランスを崩して足を踏み外して捻った上にバラバラと飛び散る石片に顔や腕を切り裂かれた。


ようやく目を見開いた時はブルクレスタ―が頭上に棍棒を振り下ろしている最中だった。


(あ死んだわ俺)


彼の心に今までの人生の思い出の映像が浮かび上がるがそれは横合いからの『アコレードヴィダリオン』の叫び声と光でかき消されてしまった。


「!?お前」


「全く・・・・世話を掛けさせる奴だ。早く逃げろ。主がお待ちかねだ」


光が晴れるとそこには左腕の盾で棍棒を受け止めたヴィダリオンが立っていた。ヴィダリオンは無造作に左腕を振るって棍棒を跳ね上げると怪物の胴に蹴り飛ばし距離を離す。


「そうはいっても・・・・いてて足が」


「ハア、仕方あるまい。しっかり掴まっているのだぞ」


顔を紅潮させ頭部の2本の角を突き出し突進してくるブルクレスタ―。それに対してヴィダリオンはまるで闘牛士の如くバッと白いマントをはためかせた。直後マントの動きに合わせて赤い光が弧を描き地面を覆ったと思ったのもつかの間ブルクレスタ―、ヴィダリオンそして星川勇騎は夜空の下一面灰色の起伏のある採石場のような所に来ていた。


「な・・・何だ!?一体どうなってんだ!?」


「我が聖械機士団が技の1つディバインウェィブ。敵を異空間に閉じ込めそこで雌雄を決するのだ」


「てことは杏樹は、神社は」


「何の影響もない」


「すげー」


感心したのもつかの間完全にコケにされたと感じたブルクレスタ―は鼻息を蒸気の様に噴出させながら棍棒を頭上で風車の様に回しながら突撃してきた。


「フン。向こうから来てくれるとはありがたい。ハアッ!!」


気合と共にヴィダリオンは剣を取る。背中に回した盾に描かれた剣が光と共に実体化したのだ。そのブロードソードというべき直剣を背中から引き抜くと両手で構え頭上に掲げる。


「見敵必殺。これが面倒が嫌いな俺の座右の銘にして唯一の技」


ザ、と一歩前に出る。自身の間合いに入ったのを見逃さず


「紋章剣・全身全霊一の太刀!!ヴォ―セアン!!!」


裂帛の気合と共に振り下ろされた光り輝く白銀の炎を纏った剣はブルクレスタ―をまるで紙の如く唐竹割に一刀両断、閃光と大爆発が起こるがヴィダリオンはマントで勇騎を爆風から守るように立っていた。


爆光に照らされる黒い鎧に初めて勇騎はその男を見直したのだった。


同時に夜空は晴れ雲一つない青空となる。現実世界に戻ったのだ。


「コリャ、お前達そこで何をしとるか!罰当たり奴らが!?」


「うおっ、何でこんな所にいるんだ!?ばっちゃん、これには深いワケが・・・」


杏樹の祖母の怒声で勇騎はいつの間にかヴィダリオンに小脇に抱えられた状態で神社の本堂の屋根の上にいる事を知った。世界が元に戻るのと同時にヴィダリオンは光となって学校の校章に変わる。


「おい、どうしたヴィダリオン?」


「全身全霊と言ったろう。エネルギー切れだ。後は自分で何とかしろ」


「おまフッザおおおお!?」


勇騎は光の矢となり飛んでいく校章に悪態をつくが既に遅かった。


「勇騎く―――ん!?」


ヴィダリオンが戻ってきた方向へ走ってきた杏樹の叫び声が木霊する中勇騎の体は支えを失い落下、屋根を転がりその直下の木の枝を掴むが体重を支え切れずに落下した。


「ひでえ。何なんだアイツは」



「異空間生成にブルクレスタ―を倒したか。連中もそれなりの奴を送り込んで来たという訳だな」


「まあ落ち込むなガルウ。これで今後の方針は決まった。今度はこの世界にあったクレストを作ってやろう」


号泣するガルウにザパトとプレハが左右から肩を叩きながら慰めつつも青と黄色の視線は奇怪な像の咥える盃に注がれる。


その盃の底にはわずかだが黒い水滴が溜まっていた。



剣王神社の奉納舞にはきちんとしたストーリーがあるという。ある少女の祈りによって空からやってきた武人がこの地に蠢く魔を槍とも長剣ともいわれる武器で退治する。そして武人はこの山の頂上にその武器を突き立てると空へと帰っていった。それ以来人々は彼が武器を突き立てた場所に神社を建立し少女は神社の巫女となり現在まで続く剣王神社の一大行事となっているのだ、という物語。


その物語の最後の部分、空へと帰る武人に感謝を捧げる場面を舞で表現する杏樹を見とれながらも武人とあいつは大違いだよなと呟く。


(まさか、あいつのご先祖とか?んな訳ないよな)


そんな事を考えながら、今年はいつもと違う年になりそうだと感じる勇騎だった。

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