第13話 新兵器故郷より⑤
スコーピオンクレスターが巨大HBクレスターSへと変態したのと同時に正機士ヴィダリオンと4従機士は体に流れるコンピューターウイルスの影響が低下していくのを感じていた。
「よし、これで後はあの化け物をブッ倒せば万事解決ってわけか」
「そううまくはいかないだろうな」
カローニンはホットスパーの楽天的な考えには賛同しかねる様子だった。
「おいおい、水を差すなよ」
「カローニンの言う通りだ。我々の体から毒が抜けきった訳じゃない」
「じゃあなんで今平気なんだよ?督戦官サマよ」
「恐らく奴に理性が無いからだ。奴が万が一理性を取り戻したらまた同士討ちをさせられるぞ」
「だが、マリニエールの言う事が本当なら今が討伐のチャンスという事になる。まだ完全なわくちんとやらは出来なさそうだし、時間を掛ければ町も俺達自身も被害が大きくなる。皆それでいいな?」
ヴィダリオンの意見に4騎は頷くと合体の為に円陣を組む。
頭部と両肩そして二の腕がヴィダリオン、両前腕がホットスパー、胸部が伸長し頭部が胸の中央に配置されたメガイロ、両足がマリニエール、背部はコートオブアームズ・チェンジマートレットとなったカローニンがブースターレイブルと合体し装着された重装合体ヴィダリオンが町で暴れ回る巨大HBクレスターSの前に立ち塞がる。
『足元に注意しろよ』
「できる限りはな。場合によってはそっちの判断で動いてくれ」
威嚇するように鋏をガシャガシャさせるサソリの怪物にマリニエールが注意を促すが、ヴィダリオンとしては尻尾の先が変じた騎士の方も気がかりだった。
『牽制してみましょう』
「よし、クレセントカッター!」
カローニンの助言で重装ヴィダリオンは4つのブーメランを肩と膝から発射、2個ずつ騎士とサソリに向かっていく。騎士は丸盾でサソリは鋏でそれぞれブーメランをはたき落とすとサソリの鋏から弾丸を放ちながら突進してきた。
重装ヴィダリオンは背中の翼を広げて飛び上がり左手を突き出すが、その拳が届く前に騎士の槍が胸を直撃し叩き落された。
『痛え!!そうだった、スターシールドは壊れてたんだった!?』
『まずいぞ!』
体勢を立て直そうとするが両足を鋏でホールドされ再び仰向けに転倒した重装ヴィダリオンへ再び槍が襲い掛かる。間一髪、5騎の盾を合わせた大盾で実体化して弾き返すが、怪物は体を回転させて敵を振り回し、投げ飛ばした。背中のブースターを吹かし、翼を広げて空中で一回転して体勢を立て直した。
「マリニエール、奴の核は?」
『それが・・・・あの盾の真芯だ』
敵の視線にその意図を感じ取ったのか、HBクレスターSは尾の騎士の槍を盾に打ち付けて挑発する。
「野郎・・・・・!お望み通りやってやろうじゃねえか!!」
『待て。一呼吸置こう。アニューレットカノンで怯ませてそこを突く』
「そうだな。挑発してくるという事は対策していると考えるべきだ」
マリニエールの意見にブツクサ文句を言うホットスパーだが体の主導権をヴィダリオンに奪われてはどうしようもない。各々の紋章剣を合体させて1つの巨大なランスへと変えると重曹ヴィダリオンは右肩にアニューレットカノンを装着し、砲撃準備に入る。
「照準が・・・・ズレる・・・毒の影響か?」
『できる限り補佐する』
「すまん、メガイロ」
照準を合わせる間、HBクレスターSは鋏から弾丸を連射し、周囲やヴィダリオンに土煙や爆発が起こる。
「くっ、発射!」
アニューレットカノンが火を噴き、盾でうけた爆発と衝撃でHBクレスターSは大きく後退する。間髪入れずに重装ヴィダリオンは必殺技の体勢を取る。ランスの切っ先から放たれた1条の光が合体ハウンドクレスタ―強化体へ命中。光の竜巻を巻き起こして敵を拘束。竜巻は敵とヴィダリオンを繋ぐと同時に敵の核の位置を重装ヴィダリオンへ送る。
「紋章槍奥義・疾風怒濤・迅雷!!」
送られた核目掛けてヴィダリオンはカローニンの翼を大きく広げ、ブースターを噴射。ホットスパーの拍車状のローラーダッシュを展開し更なる加速をかけて突進する。
だがHBクレスターSの鋏が腕から外れ盾の前で爪を合わせて横に合体すると同時に緑色の光を合わせ目の隙間から放射。
「バリアーか!?だが!」
重装ヴィダリオンはブースターの出力を最大にしてぶつかる。強烈なスパークが槍と盾の間で弾け両者は互いに吹き飛ばされた。
「馬鹿な!?俺達の・・・・重装ヴィダリオンの・・・・最大の技が通じない!?」
立ち上がった重装ヴィダリオンは相手が傷一つない事に愕然とする。
『もう一度やろうぜ!何度も防げるモンじゃねえよ』
そのホットスパーの励ましもヴィダリオンに再攻撃の決意をさせるまでには至らない。
「だがな・・・・奴の鋏を見ろ。見た目はどう見ても傷一つない・・・・」
『再攻撃するなら奴の背後を取るか、強引に貫くしかありませんがどちらも現状難しいですね』
『おい、じゃあどうすんだ・・・・!』
カローニンとホットスパーの言い合いはHBクレスターSの鋏からの砲撃で中断する。
「く・・・」
盾を構えて防ぐが突進と同時に繰り出される尾の騎士の槍は速さを増していた。突きを受けようと盾を構えなおした瞬間尾がしなり騎士が丸盾で重装ヴィダリオンの右側頭部を殴りつけると間髪入れず槍を振り抜く。
「ズッオッ!?平気かマリニエール?」
『なんとかね・・・・!』
怪物を撥ね飛ばし左腿を貫通した槍を引き抜くヴィダリオンにマリニエールは苦し気に返す。火花を散らす左足。これでは歩行はおろか自身の体重を支えているのがやっとといった状態だった。目を上げると再度突撃の体勢を整えたHBクレスターSが尾を弓なりに引いて飛び出す直前だった。
「これまでか・・・・」
全員が死を覚悟したその時。
風切り音と共に両者の間に巨大な矢が突き刺さった。
「あれはティレニア号!」
『だがハダリーでは・・・・』
思わぬ邪魔が入ったHBクレスターSは上空のティレニア号へ鋏からの弾丸を連射する。
「ユウキ様、アーキバスランチャーをヴィダリオン様に!」
操舵輪に齧り付き、回避に精一杯のハダリー。勇騎は揺れる船内で体をあちこちぶつけながらアーキバスランチャーを抱えて甲板につんのめるように上がった。
「ヴィダリオン、本部から新兵器だ!受け取れ!」
新兵器と重装ヴィダリオンを破壊させまいとハダリーはティレニア号を盾にするように割って入る。アーキバスランチャーと付属品一式、弾丸1つと発火用クレスト2つが重装ヴィダリオンに合わせて巨大化しながら手に収まるのと船尾から火を噴きながら船は胴体着陸したのは同時だった。
「どう使うのだ?」
『私に任せて下さい。そうした方が痛みも紛れる・・・・』
「わかった。頼むぞマリニエール」
腕のコントロールをマリニエールに任せると慣れた手つきで銃後端のコックを引き火皿を開いて発火用クレストを装填して閉じる。今度は垂直にエネルギーブリットを装填し、鉄棒で奥に押し込むとコックを最後まで引き切りながら銃を相手に向け、照準を合わせた。
「くそ、体が・・・」
『なら盾を使おうぜ。それで安定するだろ』
左足の損傷で体が揺れる中、ホットスパーの言う通り盾を地面に突き刺し、その上に銃身を置いて安定させる。
『照準の補正を手伝う』
「アーキバスランチャー発射!」
メガイロのサポートを受け核のある盾の真芯目掛けて引き金を引く。
再びHBクレスターSの鋏が腕から外れ盾の前で爪を合わせて横に合体すると同時に緑色の光を合わせ目の隙間から放射し、盾をいや核を守るバリアーを形成する。
アーキバスランチャーから放たれたエネルギーブリットはプラズマ化した弾丸である。その威力は鋏のバリアーを跡形も無く消滅させ盾の外枠の下部分を抉り取った。
『やった!』
『駄目だ!核に届いていない。ハダリー、ユウキ弾丸は?』
凄まじい苦悶の咆哮を上げるHBクレスター。だが最後のトドメを差すべくマリニエールは次弾を催促する
「あ、あれ?ちょっちょっと待ってくれ!ハダリー、倉庫見てきてくれ!」
新兵器に耐えるというまさかの事態に慌てて船内に飛び込むハダリー。指示を出した勇騎は既に怪物が再生を始めている事に更なる焦りを覚えて事態の打開を為の知識を脳内から引っ張り出そうと史上かつてない程に頭を回転させた。
『おい、もう鋏が半分以上出来上がってるぜ!?』
「そうだ!ヴィダリオン、槍だ!槍を銃で撃ち出すんだ!!」
「紋章槍を?よし」
ヴィダリオンはマリニエールと同様の手順で発火用クレストをセットすると銃口に紋章槍を押し込む。
『暴発の危険があるぞ』
「だがこれに賭けるしかない。この機を逃がしてはもう奴を倒す手段がなくなるかもしれん」
マリニエールの懸念を振り払い再び狙いを付ける。
「アーキバスランサーシュート!!」
撃ち出された槍は炎の渦となり盾ごと尾の騎士の体を貫き、100m先の地面に火柱を上げながら突き刺さった。
断末魔の叫びを上げながら今度こそ巨大HBクレスターSは炎を上げて消滅した。
「よくあんな使い方を思いついたな」
ティレニア号内で体の修理とウイルス除去を受けながらヴィダリオンは勇騎の判断を素直に称賛した。
「たまたま昔見た古い映画を思い出したんだよ。それより体は良いのか?」
「すこぶる調子がいい。ブンゲンの奴らもこれで少しは評判が良くなるといいがな」
ホットスパーが修理したスターシールドを振りながら横から口を挟む。
「問題は聖杯のパーツは奪われてしまった事だ」
「1つづつ解決していくしかないですよ。敵も強くなっている以上に我々の戦力も上がっている」
マリニエールの懸念にカローニンはアーキバスランチャーを見ながら慰めの言葉を掛ける。
(戦いは激しくなる一方・・・・私にできる事はないの?)
ティレニア号の隅で杏樹は思いつめたように俯いたままだった。
同時刻・マレフィクスのアジト
「スコーピオンクレスターは敗れたが任務は完了してくれた・・・・しかし総長、なぜ機士団本部を攻撃しなかったのです?そうなれば今頃は全ての聖杯のパーツが揃ったというのに・・・・!?」
「本隊のタロスがどれだけいると思っている?全員にデータが行きわたるまでには時間が掛かるのだよ」
語気荒く自分を非難するゲッグに気圧され気味に弁解する破剣兵団総長ロベール。
「そんな悠長な事をしていたらザルツァフォンはまた勇者ヴィダリオンを呼び戻すでしょう。では私が出撃して忌々しい黒のヴィダリオン一味を片付けて参ります。そしてそちらに合流して本部を攻撃。これでよろしいか?」
「うむ、待っておるぞ」
ゲッグの最後の言葉は身内だけでなく雇い主であるマレフィクスにも向けたものでもある。
「最後の出撃のお手並み拝見ですな。協力は惜しみませんよ」
「同じく」
バットハイクレスタ―とスパイダーハイクレスタ―のニヤニヤ笑いに含まれた意味にゲッグは腸が煮えくり返る思いをやっとのことで抑え込んだゲッグは部下のタロスにある指令を下してアジトの2階へと上がって行った。




