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異世界の機士 黒のヴィダリオン  作者: 紀之
好敵手の章

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第13話 新兵器故郷より④




 「ハアッ、ハアッ、ま、まだなのか~!?」


「坊ちゃん、止まると死にますよ!急いで早く!?」


分限博人(わけきりひろと)とエンジニア達は各々機材を担いで剣王神社への山道を決死の思いで登っていた。時折空から放たれる飛行兵ダイダロスの銃弾の雨に怯えながらも彼らは木々の多い場所を選んでは走り続けていた。普段運動などしない人間達が急に運動する時の常で手足を必要以上に動かす為既に全員、息が上がり喉はカラカラに乾き、手足は傷だらけになっていた。少しでも歩みを止めれば弾丸に砕かれた参道の石畳の破片や砂利が彼らの周囲を舞うからである。


「あ、ああああああっ見えた、助かった!!」


神社の入り口に立つマリニエールとメガイロを見て安堵のため息をついた分限は最後の頑張りと駆けだした。機士達も彼らとその追手を認めてメガイロがそのフォローの為に前に出てくる。


その援護の為にマリニエールはコートオブアームズ・クレセントカッターを4つ展開、ダイダロスへと投げつける。だがダイダロスはブーメランの軌道が全てわかるかのように地上へ視線を向けたまま空中を旋回しつつ右肩の矢筒状のガトリングガンを地上へ撃ちまくる。


「やはり、全て見切られている?メガイロ撃つな!外れたら大惨事だぞ!」


「わかった」


盾を構えて分限達と後退しつつコートオブアームズ・アニューレットカノンを空中へ向けて構えていたメガイロは相方が普段の慇懃(いんぎん)な口調を捨てて早口でまくし立てるのを聞き、大砲を仕舞う。


「だが、大砲はいつでも撃てるようにしておいてください。今、隙を作ります。合図をしたら・・・・」


「了解」


神社内への侵入を防ぐべく、マリニエールは蛇腹剣を振り回し、再びクレセントカッターを投擲。武器の軌道はやはりダイダロスに見切られており、敵はぐるりと回転しながら上昇したが、ブーメランの1つが予期しない方から飛んできた事に動きを一瞬だが止めてしまった。


「テメエ、危ねえだろうが!」


ブーメランを弾き返したのは手傷を負いながらダイダロスの1体を撃墜したホットスパーだった。


(かわ)されるんですよ。申し訳ない」


悪びれる様子もなくマリニエールはクレセントカッターをダイダロスへ投げ続ける。ダイダロスはふと考えを変え、わざと躱した先にホットスパーがいる様にブーメランの軌道を誘導する。


「ちゃんと狙えってんだよ!」


剣で弾き返しつつ悪態をつくホットスパー。


(これでいい)


弾き返されたブーメランの軌道を蛇腹剣でさらに変えながらマリニエールは着実にダイダロスを追い込んでいく。ダイダロスがその事に気が付いた時はもう遅かった。蛇腹剣で両足を拘束された彼の視線がメガイロのアニューレットカノンの砲口と見つめ合った刹那火を噴いた砲弾はダイダロスの体を粉々に吹き飛ばしていた。


「お前っ!?マリニエール、俺を囮にしやがったな!?」


「口で説明したらばれるでしょう?何より貴方、演技できないでしょう?ならこうするより他はありませんよ」


「それよりも、雑魚1体にこれだと今後大変になるな」


「そうですね。あの現地民達が何で逃げてきたか聞いてみましょう」



「こんぴゅーたーういるす?」


「そう。君達の体というかこの町のあらゆる機械に感染しているんだ。こいつがネットを介してあらゆる場所の機械に今悪さしているからワクチンつまり特効薬を作ろうってね。幸いネットに繋いでいない古いPCを見つけたんでそれを使ってね」


分限達は神社の責任者であるリエの許可をとり社務所でワクチン開発の準備の為機材を繋ぎながら言った。


「完成にどれくらいかかりますか?」


「さあて、ね。おっ、これは・・・・?」


分限の技術者は合流したヴィダリオンに明言を避けた。


「どうしました?」


PC画面をのぞき込んでいた技術者の1人は表示されたウイルスのデータに見覚えがあった。


「いえね、このウイルス、10年くらい前に掴まった小端って奴が作ったのに似てるんですよ。あの時は日本中大騒ぎでしたからね。ワクチン開発に駆り出されましたよ」


「じゃあ・・・・」


「ウイルスを鈍くするだけの対処療法的なものは1人分ならすぐに作れそうです」


分限は技術者の言葉に笑顔を見せる。


「よし、そのわくちんとやらはヴィダリオン、貴方が使うと良い。最大の攻撃力を持つ者が優先だ」


マリニエールの意見に皆が賛意を示す。


「すまない皆」


技術者がヴィダリオンに対処療法ながらワクチンプログラムを投与する様を興味深く見ていたカローニンはふと辺りが静かすぎる事に気が付いた。


「しかし元凶の図像獣はどこでしょう?全く姿を見せないとは・・・・・空からは来ない。地上にもいない。となると…まさか地下から!?」


カローニンの推理に応えるように境内の地下から轟音と砂埃を上げてスコーピオンクレスターが姿を現した。機士達は一斉に社務所を飛び出したが、メガイロを除く4人の体に緑色の電流が走るとマネキンの様に固まってしまった。


「聞いていたぞ、馬鹿共め!そう簡単にワクチンが出来てたまるか!さあ、従機士共は技術者共と機材をやれ!ヴィダリオンとやらはこっちに来い!」


「「「「ぐ・・・・・体が!?」」」」


「早く逃げろ」


ヴィダリオンがスコーピオンクレスターの方へ真っ直ぐ歩いていく背後でマリニエールとホットスパーの剣をメガイロが大剣で受け止める。社務所の裏口から機材を纏めて再び逃げ出した分限達をチェンジマートレットで飛行形態となったカローニンが追い、その爪で分限と技術者の1人を捕まえると大空高く飛び上がる。


「図像獣!これ以上の蛮行はやめろ・・・!」


「いいとも。お前がこれからある事をやってくれりゃあ考えてやるよ。おい、ここの責任者と小娘出てこい!でないとこいつら全員皆殺しだぞ!!」


スコーピオンクレスターの大音声が神社に響き渡る。本殿の奥から金雀枝杏樹とその祖母、リエが姿を現した。


「そんな声を出さなくとも聞こえているよ」


「そうかい、元気なばあさんだ。おいヴィダリオン、貴様には最高の苦しみを与えてやる。自分の手で主とその祖母を殺せ」


「な・・・ク、くそっ体が勝手に・・・・主、祖母君逃げてくださ・・・い」


自分の意志とは無関係に剣を抜き杏樹達にゆっくりと近づくヴィダリオンを見て満足したスコーピオンクレスターは境内の片隅にある円柱、聖杯のパーツへと向かう。


「コイツを持って帰りゃいいんだな。チッ、だがこれで・・・!」


スコーピオンクレスターは両手の鋏を柱に近づけた瞬間、柱から火花が飛び近づく事を妨げる。だがスコーピオンクレスターは(はさみ)の先から黒い靄を出して柱に纏わりつかせるとその結界も消えてしまった。


「クククッこれでいい」


両手で柱を抜き頭上に抱えて歩き出す。振り向くとまだヴィダリオンは2人を始末出来ていなかった。ヴィダリオンの大上段からの振り下ろしを躱した2人はこちらに向けて走ってきた。


「へっ、こっちに来てどうすんだ?俺に自分達の死に様を見せつけようって腹か?残念だが無期懲役くらった俺はそんなモンに心動かされる良心は持ってねんだヨ」


スコーピオンクレスターは尻尾のトゲ付き鉄球を杏樹の目の前でクルクルと回しながら笑う。


「う・・・根っからの悪人ってわけね。なら・・・・」


「なら?」


スコーピオンクレスターは少女の言葉を訝るが彼女らの背後から剣を構えて突進してくるヴィダリオンに再び笑みを浮かべた。


「覚悟オオオオオオ!」


ヴィダリオンは再び大上段に構えて飛び上り剣を



振り下ろさなかった。背部ブースターを吹かして一直線に急降下


「紋章剣奥義・終の太刀!!ヴォ―セアン!!」


「な・・・!?」


驚愕の表情を浮かべるスコーピオンクレスターを唐竹割に真っ二つにする。


「最初に一撃を振るった時お二人にお前の方へ行くように進言していたのだ」


「そんな・・・・ワクチンが効いていた・・・だと!?詐欺みたいな手口を使いやがってェェェェ!」


「悪人が正道を口にするとは笑止!」


切り口からどす黒い液体のような物を流しながらスコーピオンクレスターは爆発する。


「あの柱を回収しないと!」


杏樹は爆発で飛ばされた円柱を回収しようと駆け寄り手を伸ばすが後一歩のところで円柱の先端に糸が巻き付き巻きとられた。


「やはり詰めが甘かったか。まあいい。これで聖杯の一部は回収できた」


鳥居の天辺(てっぺん)から去ろうとする糸の主スパイダーハイクレスタ―を追跡しようとしたヴィダリオンは足元の異変に気が付いて飛び退いた。


「待て・・・ウッ、主、祖母君お下がりください!」


スコーピオンクレスターから流れ出た液体は尾の先が騎士の上半身となった10m程の巨大サソリとなって地響きを立てながら町へと歩き出したのだった。

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