第13話 新兵器故郷より③
「やっと見つけた安全なPCだ!なんとしても守り抜くんだ!」
分限博人。剣王町の経済を牛耳る成金・分限一族の少年である。今朝から発生した謎のコンピューターウイルスによって彼の個人PCも彼の親族が経営する会社のPCを含む電子機器は全ておかしくなっていた。それは会社が販売しているスマホ等も全て同じであり矢継ぎ早に殺到するクレームと誹謗中傷にも何らの手立てが出来ないまま数時間が過ぎていた。そんな時従業員の1人が廃棄する予定の古いノートパソコンを思い出した。そこからの博人の行動は早かった。彼は両親にエンジニアと無事な機材を集めてウイルスのワクチン作成と無料の配布をすれば混乱と分限の悪名に終止符が打てると説得したのだった。もちろん社会がそんな甘いワケが無い事を知っている父親はそれでも事業主としての責任から息子の申し出を受け入れた。
だがいざワクチン作成に取り掛かろうとした時、この家を見張っていたタロスの一団に襲われる事になったのだった。
「あいつらしつこいな」
「坊ちゃん、このままだと神社の方へ行っちまいますよ」
「そうだ!あそこには彼らがいる!このまま神社に行って匿ってもらおう。そこなら安心してワクチンが作れるぞ」
彼らは知らなかったが、追手の一団、すなわち歩兵であるタロス6名とダイダロス2名とケンタウロス2名の小部隊はヴィダリオンら機士抹殺の為の新しい戦闘プログラムを施されていた刺客でもあったのだ。彼らをつり出す為の囮にされた事など分限達は知る由も無かった。
「ゲッ!?」
「うわっ!?」
バンが大きく揺れて耳障りなスキール音を上げて停車する。
「どうした!?」
「やられました。矢がタイヤに刺さって動けません!」
「くそっ、走っていくぞ!神社まで駆け上がるんだ!」
「で・・・でも・・」
職員が震えあがるのも無理はない。前からはケンタウロスが、後ろからは金属音を響かせて長槍を持ったタロスの歩兵が迫ってくるのだ。
「走れ!走るしかないんだよ!ここでこうしていても嬲り殺しだぞ!」
博人は自分に言い聞かせるつもりでこの言葉を吐くとノートパソコンを抱えて飛び出した。ジッとしていると先に泣き出しそうだったから。
「あっ、待ってくださいよ!」
エンジニア達も次々に飛び出す。彼らを認めた歩兵達が一斉に槍を肩に構えて駆け足を始めた金属音に恐怖しながら参道を駆けていく。山門に入れば遮蔽物があると考えた博人を影が覆う。見上げると空飛ぶ魔銅兵ダイダロスが槍を投げようと右腕を一杯に引いている所だった。
「だ、だめだ~!?」
その悲鳴をかき消すように彼の背後から風切り音が響き、フェザーブレイドがダイダロスへ殺到する。複雑な軌道を描くフェザーブレイドを全て回避したダイダロスに愛馬ベオタスに跨ったホットスパーは驚愕する。
「な・・・・全部避けられただと!?」
標的を自分に切り替え突っ込んでくるダイダロスを迎え撃つべくホットスパーは剣を抜き、槍を切り飛ばそうと逆袈裟に振り上げるが、敵は絶妙のタイミングで槍を引きまた突き出しホットスパーの脇腹を抉った。
「グ・・・どうなっていやがる!?完全に動きが見切られてやがる・・・・!」
だがホットスパーという男は目の前の事を処理する事しか能のない男だ。目の端でもう1体のダイダロスが神社へ向かっていこうともそんな事は仲間が何とかしてくれると思っている。今の彼の頭の中は敵をどうすれば敵を倒せるかしかない。槍が傷口を押し広げるのも構わずベオタスを突進させ頭突きをしようと頭を逸らすがもうその時には相手は距離を取っていた。
「似合ってるぜ、その羽飾り・・・・!」
背中に6本のフェザーブレイドが突き刺さり飛行装置を破損したダイダロスはクジャクのような見た目になって墜落していく。こうなればいかに相手の動きが分かっていても避ける事は出来ない。ダイダロスはホットスパーが投げ返した自分の槍に胴を貫かれて爆散した。
「戻るぞ、ベオタス。ああ、あいつらならどうにかするさ。俺が出来るんだからな」
ホットスパーはベオタスが下の参道で歩兵と騎馬部隊と乱戦をしているヴィダリオンとカローニンを見ながら心配そうにいななくのを宥めて山門へと戻って行った。
事実ヴィダリオンとカローニンは数の多い歩兵部隊に苦戦していた。分限達の追撃を阻止するために起動鋼馬の機動力と突進力で歩兵の縦列を崩壊させようと試みたのだがタロス兵は横に大きく動いて道を開ける6mの槍で左右から馬目掛けて突いてきた。
「しまった!?誘い込まれた?」
右側の列にカローニン・ヴァレル、左側にヴィダリオンと・マスルガ。
それぞれに愛馬を守る為盾で防ごうとするが、その動きは完全に予測されており、槍は掠る事無くヴァレル・マスルガの体に、カローニンとヴィダリオンの足に突き刺さっていく。
横倒しになった騎馬兵に立ち直させる余裕を与えない為に追い打ちに横合いから現れたケンタウロスが大弓とガトリング砲で矢継ぎ早に繰り出される攻撃にヴィダリオンとカローニンは盾を構えているだけで精一杯だった。
「完全に動きが読まれている!?こちらの盾もヴァレルの盾もいつまでも攻撃を防ぐことは出来ない・・・」
「奴らの予想しえない行動をとるしかないが…ッ」
ヴァレルやベオタスと違いマスルガには追加の盾や飛行能力はない。だが3方から迫るタロスが振り下ろした槍が自身とマスルガを貫く瞬間、稲妻の様に天啓がヴィダリオンの頭を打った。
「マスルガ、ブースターオン!!」
ヴィダリオンはマスルガの後脚に備えられたロケットブースターを点火、炎と煙が一帯に充満しタロスがたじろぐ。このシチュエーションでの対応はインストールされているプログラムにはない。このわずかな隙をついてヴィダリオンは左側のタロスの槍を掴んで自分の正面にいるタロスにぶつけるとヒュッという風切り音と火薬火花とを頼りに最後に残ったタロスを槍を手繰って引き寄せた。逃げようとするタロスをガッシリと掴み、ガトリングと矢で穴だらけにすると蹄の音の方に投げ捨てると、その動きを殺さぬまま円を描くように体を回転させて最初の2体のタロス兵の槍の間合いの内側に入ると同時にその首を2つとも落とした。
カローニンの方はマスルガによって作られた煙の中でコートオブアームズ・チェンジマートレットで飛行形態となると両足の爪をヴァレルの2枚の盾の間から突き出すと左と正面のタロスの首を鷲掴み、滑るように外へ飛び出した勢いでねじ切った。最後のタロス兵の槍が右羽を貫くが構わず飛び上り、大きく宙返りしてそのままタロスの体をヴァレルの盾に叩きつけた。最後のタロスの体と槍が真っ二つになるのと煙が晴れるのは同時だった。ケンタウロスは形勢不利と見たか一目散に戦場を後にする。
「追撃よりも、本陣が心配ですね」
「ああ。戻ろう」
傷ついた愛馬を紋章へと戻して2騎は参道を駆け上っていった。
異世界・デウスウルト
骨組みだけの機械人形達が入港したティレニア号へ補給物資を黙々と積み込んでいる。星川勇騎の隣で従機士ハダリーが積み込み品のリストを見て各種品目のチェックと置き場所の指示を出していた。
「団長の言っていた新兵器ってなんだ?」
「これですね。アーキバスランチャー。どうやらメガイロ様の使うアニューレットカノンカノンを小型して誰でも使える様にしたみたいですが・・・・」
「鉄砲、それも火縄銃そのものの見た目じゃんか・・・・気乗りしてないみたいだけど」
「従機士としては白兵戦こそが戦場の華と感じておりますので。看護兵としても銃や矢傷の手当は難しいのです」
「そうか・・・・皆使いたがらないから押し付けられた感じか・・・・やっぱり抵抗あるのか?」
勇騎はアーキバスランチャーを弄りながら尋ねる。
「それは勿論。私を含めて敵を倒した実感が湧きませんから嫌がる機士は多いです。そうではない方もいらっしゃいますが」
「選択肢はあるに越した事は無いけどさ、使う使わないは任せるよ。体張って俺達を守ってくれるんだから、モチベーション?やる気?は大事だろうし」
「はっはっはっはっは。良い主に恵まれたのう、従機士ハダリー」
声のした方に目を向けたハダリーは居住まいを正して腰を90度に折って最敬礼を取る。それに従い勇騎も同じ姿勢を取った。
(誰?)
(貴顕衆席次2位、ゴッドフロスト卿です)
「異次元の方よ。かしこまる必要はありませんぞ。私はゴッドフロスト。この機士団の相談役をしている老いぼれです」
「とてもそうは見えない…ですけど」
白銀の鎧兜はピカピカに磨き上げられている。恐らく席次2位という高位を示すのだろう茨の輪状の装飾品が兜を飾っていた。
「そうでもない。私もギスカル師同様引退を考えていましてな。この手足の動きではじきに動けなくなる。さっき油を差したばかりなのに、もうキーキー言っておる」
2人が話している間、ハダリーはブルブルと震えていた。それを見たゴッドフロストは優しく言った。
「従機士ハダリー、発言を許す」
「ハッ!ありがとうございます。ゴッドフロスト卿いてこそ在りし日の機士団の威光と伝統を私達若輩者が学べるというもの。引退などされては困ります」
「そうか・・・・だがな、どんな伝統や威光も風化し陰りが来るもの。儂が若者達が正機士にならん事を嘆くのは新しい伝統や威光を造り出そうという気概、これに欠けると見ておるからでな。尤も勇者と名高いヴィダリオン卿はそうではない。彼には期待を掛けているのだが、彼も忙しいからな」
「そういえば、この要塞の人数ってこんなに少ないんですか?」
「全く、異次元の方に指摘されるほどとは情けない限り。実は直前に襲撃があったというのにもう大丈夫と団長はヴィダリオン卿を元の任地に除け者を扱うように追い立ててしまって・・・・」
「新兵器を俺達にくれるってのももしかして?」
「ああ。団長は戦が分からぬ。だが、ハダリーよ。お前達の次元は敵との最前線。和解するにしろ殲滅するにしろこれまでとは違う考え方が必要だろう。あのはぐれ者たちならばその答えを見つけてくれる。儂はそう信じておる。おお、準備ができたようだな。くれぐれも気を付けるのだぞ」
勇騎とハダリーはもう一度深々とお辞儀をするとティレニア号に乗り込み、デウスウルトを後にした。勇騎の胸は言葉に出来ない思いで燃えていた。




