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異世界の機士 黒のヴィダリオン  作者: 紀之
好敵手の章

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第13話 新兵器故郷より②




  剣王町旧市街・マレフィクスのアジト


「修理はいつ終わる?」


「後2時間は必要かと。その頃にはゲッグ様の命じた、スコーピオンクレスターの収集した電子戦闘記録のタロス精鋭隊への移植も完了している事でしょう」


ゲッグの落ち着きがないのは焦りや苛立ちではなく、目的達成のを目の前にした高揚感からだ。少なくともバットハイクレスタ―=ザパトは彼の声色からそう判断した。


事実ウキウキしながらゲッグはスコーピオンクレスターの改修に掛かっているスパイダーハイクレスタ―=プレハに声を掛ける。


「しかし考えたな。連中を封じ、更に町全体を混乱に陥れて奴らの拠点を孤立させる策を思いつくとは」


「ハ。この世界の人間共は機械に多いに依存した文明を築いています。そして機士共も機械。この2つを解析し狂わせ、自在に操る役目をスコーピオンクレスターの尾の毒は担っているのです。その役目は粗方果たしましたので・・・・」


スコーピオンクレスターは魔法陣の中で失った尾の先をモーニングスター状の無数のトゲのついた鉄球に変えられていた。


「町は混乱の極みです。後は孤立した連中の居候先を襲撃すれば聖杯のパーツも手に入るのは造作も無いでしょう。ただ、機士共の本部にある最後のパーツ。あれをどうするおつもりで?」


「決まっている。その記録回路を破剣兵団本隊に届けさせる。奴らの能力と本部の機士共も違いは誤差だ。密偵共の話じゃ勇者ヴィダリオンがいない今が好機なんだよ。だから精鋭隊への記録の複製と修理は60分で終わらせろ。2つの次元で同時攻撃をかける。あの厄介な衛生兵上がりの機士が帰ってこない内に事を終わらせておく必要があるからな」


「そんなに急ぐ必要があるのか?」


床に書かれた魔法陣の放つ光の中のスコーピオンクレスターの言葉にハイクレスタ―2体はまずい事を聞くやつだ、と内心舌打ちする。案の定ゲッグはズカズカと魔法陣の中に入ると図像獣の頭(胴と一体化している)を鷲掴みにすると凄みのある低音で脅し文句を浴びせる


「おめえ、案外頭が回らねえな?機士共がお前への攻撃が甘かったのは、以前の例と同じくお前の宿主が俺達に強制的に図像獣に変えられた善人だと思っているからだ。町の機械が復旧してお前が悪人だってバレてみろ、連中はお前を消すのに躊躇しないだろうよ」


「ヒ・・・・しかし、俺のコンピューターウイルスを消し去ったりワクチンを作るのは簡単なことでは・・・・」


「メガイロ。お前を砲撃した奴がピンピンしているのを忘れているな?奴の砲撃を直撃させる為に他の4騎が捨て身で掛かってきたらお前だって(さば)ききれまい?無論そうならない為にタロスを派遣するがな」

これだけ言うとゲッグは図像獣を乱暴に床に叩きつけて杯を咥えた悪魔像に額ずく。


「我が雇い主よ、わが計画の完全達成の為そのお力をお貸しください」


ゲッグを承認するかのように柔らかな紫色の光が像の目に走る。少なくともそう取ったゲッグは杯になみなみと溜まった黒い水の4分の1ほどを図像獣にひっかける。


「お・・・・・おオオオおお!力が漲ってくる!?」


「他の作業を急がせろ!これは時間との勝負だ!!協力者の足止めも長くはないぞ!」


ゲッグの怒号が家全体を震わせた。



一方星川勇騎は自分の世界が脅威に曝されているのを知らず、ハダリーのそして聖戒機士団の故郷にして本部デウスウルトの光景にティレニアの甲板上で感嘆の声を上げていた。


「すげえ・・・・・島全体が要塞だ!?あれじゃ敵は近づく事も出来ないぞ」


「それが出来る輩がいるのです。ゲッグの所属する破剣兵団。彼らは我らを裏切った者達ですから」


後ろから聖女モードのハダリーが声を掛ける


「ゲッグか・・・・でも今は静かだな。撃退したのか?」


「多分。というのはこんな事で諦める連中ではないからです。きっと再侵攻の機会を伺っているでしょう」


「ってことは物資をくれる余裕があるかな?」


「貰います。それが任務ですから」


「そうだよな。俺達が敵の一部を引き付けてんのは確かなんだからそこを分かってもらえればきっと」


「それと、ユウキ様はここの慣習に慣れておいででは無いでしょう?私の後に続いて行動をしていただけますか?」


「頼むよ。ゲームとかで見てるけどそれと一緒だとは限らないしな」



遠目から見ると質実剛健さの中に壮麗さを加えた城塞に見える聖戒機士団本部も入港の為に近づくにつれて破壊の後が目立つようになってきた。多くの作業員型の骨格むき出しのロボット達が破壊された壁や港の修理に勤しんでいた。ティレニアの停泊したドッグは正に修理が終わったばかりだった。


団長が報告を待っている、という言伝を案内にやって来た機士から聞いたハダリーは勇騎を伴って貴顕衆の集う円卓の間へ向かうと団長の座る椅子の正面で跪いた。勇騎もそれに倣って隣に跪いた。こうすると間のテーブルが高すぎて跪づいている側からは団長らの姿は見えない形となる。少しの時間があって2種類の足音がすると椅子に座る音が1つして厳粛な声が部屋全体に響き渡った。


「報告は聞いている。ギスカル師とオーン看護長の件は残念だった。従機士ハダリーよ、2人の遺志を継ぎ、隣の主人の薫陶を受け真の機士へなれるよう精進するが良い」


「それで補給品はいつ頃積み込みが終わるんでしょうか?」


勇騎が問うと別の声で厳しい叱責が飛んでくる。


「誰が話して良いと許可を出したか!?従機士ハダリー、現地民への説明を怠ったようだな!?」


「待てフィッツガルト監督官」


その厳粛な声に叱責した声が押し黙る。


「彼は例の創造者の世界から来た客人でもある。こちらの世界の規律を知らぬのも当然と言えよう。どうか話して下さらんか。そちらでの聖杯にまつわる話を」


「聖杯?聖杯ってゲームいや伝説とかに出てくるあの聖杯?でしょうか?」


敬語が怪しくなってきた勇騎はなんでそんな事を尋ねるのか不思議だった。


「やはりあるのか。聖杯は創造者がその力を使った部品で我らを造りたもうた聖遺物。今の機士団にはその劣化品ともいえる部品しか造る事が出来ぬ。我らはマレフィクスや破剣兵団との決戦迫る中で少しでも優位を保ちたい。逆に敵に渡れば途轍もない損失となる」


「そんな大事な物が何で無くなったんですか?」


「今をもってそれは分かっていない。というのは遥か昔、機士団創設間もない頃ひとりでに聖杯が3つに分かれて次元の彼方へ去って行ったのだ。そしていくつもの捜索隊が出されたのだが帰って来た者は1人としていなかった。という訳だ」


(もしかして神社のあれが聖杯のパーツの一部なのか?あんなでかいのが・・・・)


「何か心辺りがあるようだが?」


「い、いえなんでもないです。思い違いでした。スンマセン」


この厳粛な声の人物は個人的な理由で聖杯を欲しがっている。そう感じた勇騎は知らぬふりをする。何故そう感じたのかは分からないがそれが友人達の為になるとの直感に従う事にしたのだ。


「そうか・・・・補給品の積み込みにあと2時間はかかる。技術部からの新兵器も1丁だけだが使うが良い。それまで従機士ハダリー、彼を案内してやりなさい。従機士ハダリー、発言を許す」


「かしこまりました」


「下がってよい」


主従2人は一礼して部屋を出た。




剣王町剣王神社・境内


マリニエールの要望で撤退した機士達は境内で車座になって今後の対応を話し合っていた。


「追撃の機会を逃して何を確認しようってんだ?」


「貴殿らは本当に何もおかしなところは無いのか?」


憤るホットスパーを無視してマリニエールが機士全員の顔を覗き込む。


「ある。今は何ともないが剣や盾が自分の意志とは無関係に動いていた。体の方は何も異常はない。お前にはあるのか?」


ヴィダリオンの言葉にマリニエールは頷き


「私の体は何かに侵されている。探知機能に歪みのような物がある。それで、貴殿らの体にもと思ったのです。メガイロ以外の奴の毒を食らった者全員に、ね」


「我々になくとも町中の機械は異常をきたしているようですね」


偵察から戻って来たカローニンの報告によれば街中のあらゆる機械が『新種のコンピューターウイルス』に罹ったとかで異常な動きをしているという。


「全く仕事にならぬところもあるようです。例えば水はある家は全く出ないと思えばある家は異常な量が出るとか。電話・ネットは全て使えないようです」


「そういやここも嬢ちゃんがブレーカーが落ちたって言って電気がつかないらしいな」


「まずいな。という事はここは孤立状態という訳だ」


メガイロの後を受けてマリニエールが続く。


「加えて何故かこちらの攻撃があの図像獣に悉く通用しない謎がある。それをどうにかしなければ勝ち目はない。これに関しては奴の毒に侵されていないメガイロの攻撃も直撃しなかった点から全員の手の内が何らかの方法でバレている、と見るべきだ」


ここまで話あった時、参道の方がにわかに騒がしくなった。


「車がタロス共に追われているぜ」


一番早く山門に駆け寄ったホットスパーの言う通り、1台のバンがタロス兵を乗せたケンタウロスと空飛ぶダイダロスに襲われていた。バンは攻撃を受けて急停止、機材を抱えた数人の男女が我先にと参道を駆け登ってくる。


「あれはブンゲン殿だな。皆、主の学友を救う為出陣だ。メガイロとマリニエールはここで支援を頼む」


「「「「了解!」」」」


ヴィダリオン・ホットスパー・カローニンはそれぞれの愛馬に跨り、参道を駆け降りていった。


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