第13話 新兵器故郷より①
剣王町旧市街・マレフィクスのアジト
ライオンクレスタ―によるデス・トーナメントから2週間ほどが経ち、季節は7月、夏本番となった。傭兵隊長ゲッグによるHBクレスタ―による心理面から人間を征服する作戦はかなりの被害を出してはいるものの決定的な成果を出せないまま、3か月が過ぎようとしていた。
「噂の傭兵隊長殿も今回ばかりは勝手が違うようですな」
「そのようだ。おかげで俺は楽しめているんだが、そろそろ危ないな」
バットハイクレスタ―=ザパトの皮肉に笑いながら自分の首を平手で叩いて応じるゲッグ。
(この男は万事がこの調子だ。一体我が神とどんな契約を取り交わしているのか?)
バットハイクレスタ―は未だにこの上官がどういう男かを測りかねている。今も彼は倒された2体のHBクレスタ―を生み出すHBクレストを右手の義手で弄びながらもう1人の部下の帰りを待ちわびていた。
どの位待っただろうか。アジトは深夜の闇に包まれて真っ暗だったがふいに1階の床に紋章が刻まれてスパイダーハイクレスタ―と何かがその中心に現れた。
「帰ったか」
「は。こやつ、スコーピオンクレスターの素体が疑り深くて苦労しました」
スパイダーハイクレスタ―=プレハがゲッソリした様子で息を吐く。
「失礼ながらこんな奴が頼りになるとは・・・・」
バットハイクレスタ―の言う事はもっともだった。このスコーピオンクレスター、人間の下半身から上がサソリの体となっていて頭と胴が一体化し、後頭部からサソリの尾がおさげの様に伸びているという一見するとゆるキャラのような見た目をしていた。
「素体はきちんとした技術を持っているのだろうな?」
ゲッグはバットハイクレスタ―を無視して尋ねた。
「それはもう。この男先日無期懲役を言い渡されたハッカーでございます。さらにご要望通りの能力も付与してあります」
「結構。後は斥候の指示があるまで待機せよ。連絡が入り次第行動開始だ」
翌日
剣王町新市街・星川家の玄関
「本当に悪い。でも主従システムの都合上どうしても行かない訳にはいかなくてさ」
「どうだか?今の今まで隠していたのはどういう訳!?」
「忘れてたんだよ。向こう側の準備が整わないと行ったって意味がないからさ」
「それ、いつの話?」
「2週間前」
「はあ~。もう少し事前に言ってよね。それなら色々協力できるのに」
「協力って?」
「テスト勉強」
「代わりに受けてくれるのか?」
「バッカじゃないの!?勉強を見てあげるって事!今日の数学の小テスト全部期末に出るって」
「そうかあ。まあ受けてもかわらな・・・・はいすみませんでした」
星川勇騎は肩をすくめるが幼馴染の金雀枝杏樹に睨みつけられすぐさま背伸びをして反省の意を示す。そしてテストだの勉強だのといった単語に敏感な母親の声に慌てて杏樹と共に急いで外へ出た。
「あぶねえ。母さんに見つかったら何言われるか」
「早いか遅いかの違いじゃないの?」
「馬鹿言え。俺の勉強の為に仕事休むくらいは言いだしかねないからな」
『つまりそれほど悪い訳か。ユウキの母君も気が気でないだろう』
杏樹の鞄の中からヴィダリオンの声が聞こえる。彼の擬態した冬服の上着の校章は密かに制服から外され鞄の中に入れられていた。
「ほっとけ。お前達の補給品を取りに行くんだぞ。分かってんのか?」
『そうか。それは助かる』
「こいつ・・・・」
無感動な返事にカっとなりそうだったが、ヴィダリオンはそういう男だと思い直してやり場のない拳を解く。少し歩いた先の人通りの少ない十字路で勇騎は呪文を唱える。
「それじゃこの辺でいいかな。アコレード・ハダリー!」
鞄の中にある勇騎の冬の制服の上着が光り、ハダリーが現れる。
「ティレニア号ここへ!」
ハダリーの声に勇騎の部屋の窓の外に吊るされた模型ほどの大きさの病院船ティレニア号が動き出し、徐々にその大きさを拡大していく。
「それじゃ行ってくる」
「行って参ります」
「気を付けてね」
『団長らによろしく伝えてくれ』
杏樹に見送られながら勇騎とハダリーを乗せたティレニア号は次元の壁を破り、空へと消えていった。
その様子は全て騎馬兵ケンタウロスによって見張られていた。その情報はすぐにアジトに伝わり、スコーピオンクレスターへ出撃の指令が下る。
『しかし、少し困りました。今あのHBクレスターとやらが出て来られると厄介です』
「そうね。ならハダリーに教えてもらえばいいのに」
『まさか。あの月輪は一朝一夕で身につくものではありません』
「難しいの?」
『そうです。それに返し技の中でも特に地味なので誰も士官学校時代、学ぼうという者がいなかったのです』
「それが本音なのね・・・・」
なんだかんだ幼馴染とこの黒騎士はウマが合うのはこういう所だろうな、杏樹は思う。
(私もハダリーにもっと関心を持った方がいいのかな・・・)
ロボットとはいえ健気な紅一点なのだ。学ぶところも教える事もお互いにあるだろう。何より主があの勇騎だ。さぞかし苦労しているだろう。
(愚痴の1つも言いたいだろうしね)
杏樹がそう考えていると悲鳴と共にこちらに逃げてくる人々に出くわした。
「あ・・・・もしかして!?」
「早く逃げろ!サソリの化け物が!?」
『主行きましょう!』
「ええ!」
人波をかき分けて杏樹は騒動の大本、商店街へと急いだ。
「やっと来たか!待ちくたびれたぞ」
電気店の屋根に腰かけていたスコーピオンクレスターは杏樹を見て飛び降りた。
「よかった。殆ど被害は出ていないみたい。行くわよヴィダリオン!」
『承知!』
「アコレード・ヴィダリオン!」
杏樹の鞄の中から光が輝き黒機士ヴィダリオンが彼女を守るように現れる。
「馬鹿め!ノコノコ出てきたのが来たのが運の尽きだ!」
スコーピオンクレスターは後頭部の尾の先から緑色のエネルギー弾を3つ、間隔を開けて撃ち出す。
「そんな物が効くか!」
ヴィダリオンは剣と盾を構えて突進する。1発目を盾で受け
「な・・・何っ!盾が!?」
盾はヴィダリオンの腕を引っ張る様に勝手に動き出し、体ががら空きになる。
「だがっ!」
2発目と3発目の光弾を剣で弾き、斬りかかるが相手の右手の盾で受け止められる。
「これは・・・?」
飛び退き距離を取る。先程の一撃で両腕の盾のどちらかを破壊するつもりだったのだ。
(予想外に硬い・・・・いや僅かだが剣の振りが鈍った?あの光のせいか?)
「ハハハハハどうしたどうした!?」
スコーピオンクレスターは尾からの光弾を連射する。
「主、離れて下さい。あの光に何かあります!?」
「へっ、もう遅えよ!」
スコーピオンクレスターの怒声と共に杏樹を守って光弾が直撃したヴィダリオンの体が、いや盾と剣が彼の両腕を引っ張っていた。
「どうなっているのだ?」
「さあな!?地獄でゆっくり考えな!」
スコーピオンクレスターの両腕の盾が左右に開いて巨大な鋏になる。ヴィダリオンの首を切り落とそうと右の鋏を突き出した瞬間、右の鋏は向きを変えて空中から繰り出されたホットスパーの槍形態のスターシールドを挟んで粉砕、左腕はマリニエールの蛇腹剣のリールを切り裂いていた。
「な!?俺のスターシールドが!?」
「馬鹿な!初見でこの剣の軌道を見切っただと!?」
2名とも騒ぎを聞きつけてヴィダリオンに呼ばれずともやって来た。完全な不意打ちだった。それを簡単に防がれたのがショックだった。
「気を付けろ!こいつは見た目以上に強いぞ!マリニエール、カローニンとメガイロにも注意してかかるように指示を・・・・!」
ヴィダリオンの指示が飛ぶ間もスコーピオンクレスターは尾の光弾を絶え間なく発し、更に鋏の中から弾丸を連射する。
「ガっ!痛え!だがこの程度」
「どうという事は無い!」
光弾と弾丸を受けながらもホットスパーは紋章剣を構え、マリニエールはクレッセントカッターを展開。ホットスパーの斬撃に合わせて四方から三日月型のブーメランが迫るがスコーピオンクレスターはブーメラン2つを鋏で受け止めて真っ二つに砕くと斬撃を体を開いて躱すとホットスパーの背中に尾の光弾を浴びせ、残り2つを後ろに向けた尾の光弾で弾き返した。
「またか。それに通信にノイズが・・・コイツの能力か?」
「だがよ、攻撃力は大したことはねえ。この通り、ピンピンしてら。ヴィダリオン、挟み撃ちだ!」
ブーメランを回収したマリニエールは攻撃が容易くいなされ続ける事に首を傾げるがホットスパーは変わらず突撃しようと剣を構えるがマリニエールはそれを制するように右手を上げる。
「あ?そういう事か、よ!」
ホットスパーは一旦垂直に短く飛ぶと両足の拍車を展開し、ローラーダッシュ。それに合わせてヴィダリオンも駆けだす。
「どっからでも・・・どわっ!あぶねえ!」
左右からの挟撃に備えていたスコーピオンクレスターは遠距離からの砲撃を後方にステップして直撃を免れるが、爆風に煽られて体勢が崩れる。そこにコートオブアームズ・チェンジマートレットで鳥型飛行形態となったカローニンのクローが尾を引き裂く。緑色の液体が傷口から噴出し、カローニンの灰青の鎧を汚す。
「ギャアあああ!痛えええ!!」
「よし、厄介な武器は消えた。後は・・・!?」
のたうち回る怪物に止めを刺そうと短剣を突き立てようとするカローニン。だが彼の意思に反して体は再び飛行形態に変形し、怪物を両足のかぎ爪で鷲掴みにすると彼方へと放り投げていた。そこにヴィダリオンとホットスパーの剣が迫り、カローニンはギリギリのところで2人に切り刻まれるのを免れた。
「おい、何やってんだ!?」
「申し訳ない。しかし体が勝手に」
「だが結果的にこれで良かったかもしれん。あの図像獣には不可解な所がある」
「あいつらはいつも変だろうが」
ホットスパーはカローニンとマリニエールに食ってかかるが本人も何か納得がいかないものがあり苛ただしげに剣をしまう。
全員さほどの被害が無い事を確認したヴィダリオンは杏樹の無事を確認しに駆け寄る。
「ご無事ですか、主」
「私はね。でもスマホがおかしいのよ」
彼女のスマホの画面には大量のスパムメールとひっきりなしに着信が掛かっていた。
「忙しないですね」
「そうなのよ。それで電源を切っても、ほら」
電源を切ったスマホは何も操作していないにもかかわらず勝手に起動し、通話状態となって気味の悪い男の声がスピーカーから大音量でいやらしい質問をまくしたてる。
「どうなってるのよ、これ」
「斬りましょうか」
涙目で頷く主の了解を得てヴィダリオンの剣がスマホを両断した。




