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異世界の機士 黒のヴィダリオン  作者: 紀之
好敵手の章

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第12話 命を懸けたトーナメント⑥




 機士団対マレフィクスのデストーナメントの勝敗は機士側の勝利に終わった。だが決着はついていない。当事者達全員がそう思っている。何より彼らの考えるトーナメントの花形はこれから始まる馬上槍試合なのだ。


『さあ、デストーナメントの最後の種目馬上槍試合。騎士道の力と技をぜひご堪能下さい!

ルールは3対3の団体戦。武器の制限はありません。自分の得物でもよし、こちらがレンタルするランスや剣を使ってもよし。ただし、落馬した選手は馬に戻ってはならず、騎乗兵は徒歩立ちの選手を攻撃してはいけません。そして会場を超えて飛んでも失格です。チーム全員が降参するか絶命するまで試合は続きます。それでは選手の方は準備をどうぞ。今回は私主催者たるライオンクレスタ―も参加します。応援よろしく!』


主催者が参加するという点で会場内に不穏な空気が流れたがライオンクレスタ―は気にも留めず客席を降りて行った。


「無事か?プレハ」


「当然だ。おかげで・・・・な」


戦車競技での爆発に巻き込まれたスパイダーハイクレスタ―=邪神官プレハは怪我は殆ど負っておらず、バットハイクレスタ―=邪神官ザパトへ意味深に胸のタスキを示す。


相方の言いたい事を瞬時に理解した彼は特別席の一番高い所へ自身らの崇める邪神像を恭しく置くと両手を合わせ一心に祈りを捧げる。彼の祈りの言葉が進むごとに像の咥える杯に溜まった黒い水がゴボゴボと沸き立ち、中から奇怪な姿をした剣が現れる。


剣は先端と根本こそ普通だが、その間の剣身はくの字型のギザギザが連なっていてとても実用に耐えるとは言い難い。だがバットハイクレスタ―は誇らしげに剣を振って



「見よ。これこそが偉大なる主が我らを見捨てていないという証だ」


「そうだ。最後に勝つのは我々3人だ」


「ではここで連中の見張りを頼む」


「任された。武運を」



一方の機士達は参加するヴィダリオン、カローニンそしてホットスパーことパールウェイカーが競技場に繋がる選手用の待機場所でレンタル品のランスや剣を検分していた。


「見たところは普通のものだな」


「特に細工はない。その辺は主催者側も分かっている様ですね」


ヴィダリオンらが振り向くとマリニエールが壁に掛けられた武器類を頭部の解析装置にかけていて、そう言った。


「俺は使わん。頼れるのは自分の武器のみだ」


「あなたはスターシールドがありますからね。私はランスを借りましょう」


ホットスパーとカローニンは早々に自分の武器を決めると自分の愛馬の所へ戻っていった。


「お前は?」


「俺もホットスパーと同じだ。それよりもいいのか?」


「何が?」


「参加したかったんじゃないのか?特に強者との戦いはお前にとっては何よりの楽しみのはず。それをしないとは・・・・」


「所詮はお遊戯ですからね。奴らも適当な所で撤退するはず。本当の意味での決着は先の話、というのが私とメガイロの一致した意見です。それよりも主催者であるライオンクレスターが不利になった時が危険です。ハイクレスタ―も1匹残るようだし残り3名は客席にて彼らを守るのが合理的でしょう」


「すまん。主達を頼む」


「では御武運を」


敬礼して去って行くマリニエールを見送るとヴィダリオンもマスルガの許へと戻る。選手入場の音楽が会場に轟いたからだ。


『では挑戦者入場!』


ライオンクレスターの合図で機士達は武器を地面に向けて馬を進めると会場の端へ横一列に並ぶ。中央にヴィダリオン。その左右にホットスパーとカローニン。


「頑張ってヴィダリオン!」


「負けるなよ!」


声援というよりは願望に近い。身内である星川勇騎や金雀枝杏樹だけではなくここにいる観客全員としては自分達の命が掛かっている以上、彼らの応援も自然熱が入る。


『続いて主催者側入場!』


だがその客席の声援もマレフィクス側の出場者を見るや一気にしぼんでいく。ケンタウロスに乗った参加者であるライオンクレスター、バットハイクレスタ―という異形の怪物以上に最後に現れた機動鋼馬ガイオスに跨って現れた傭兵隊長『鉄腕』ゲッグの威容は機士達が敗北するかもしれないという不安を確証に変える印象を観客へ与えた。


ゲッグはいつも通りの右手のハルバードと左腕のランタンシールド。クレスタ―達は左腕にレンタル品の盾にバットハイクレスタ―が例の奇怪な剣にライオンクレスタ―は猛獣の腕を模した熊手型の槍を持っていた。彼らは機士達と


反対側の端へゲッグを中心に横一列に並ぶ。


双方準備は整った。その間会場は嵐の前の静かさと言うべきか呼吸さえ聞こえぬ静寂につ包まれた。


墓場のような静けさを破って試合開始のラッパが響く。と同時に双方の馬が地響きを立てて突進した。


「悪いが、こいつは俺の獲物だ!」


隊列を乱してベオタスがマスルガの前を征く。その正面には仇敵ゲッグのガイオスが他を圧倒するような迫力で迫っている。ホットスパーは全く臆さずスピードを上げるとコートオブアームズ・スターシールドを左手に形成し、槍へと変形させて構える。


「馬鹿の一つ覚えだな!」


ゲッグはハルバードを振り下ろす。だがその一撃は届かない。


「ム!?」


「かかった!今だ!」


ホットスパーはハルバードの間合いに入る直前に機動鋼馬ベオタスの両翼を展開、即席のエアブレーキで急停止、ハルバードが地を穿つと同時に跳躍し、左腕を脇に抱えたまま間合いを一気に詰めた。


「甘いな!」


普通ならば大抵の敵は落馬する。だがゲッグは並の戦士ではない。彼はガイオスの跳躍させ彼らを飛び越えるとガイオスの後足でホットスパーを背後から蹴り落とすと着地と同時にヴィダリオン目掛けて馬を走らせていた。


「ガッ!?なんて奴だ‥‥よ!?」


バットハイクレスタ―を乗せるケンタウロスの目の前の地面に落下したホットスパーは事故を装い撥ね飛ばそうとする敵の目論見に気付いて寝転がったまま槍を突き出す。自分から槍に刺さる形となったケンタウロスは胴を芋刺しにされて沈黙、バットハイクレスタ―はすんでのところで飛び降りて事なきを得た。


「てめえとの決着もまだだったな!」


「パールウェイカー!五体満足でここから出られると思うな!」


「俺達の戦いを真似したってなあっ!!」


ホットスパーは相手が見慣れない剣を持っている事に激昂し、両足の拍車を展開してローラーダッシュ。だが敵に近づくにつれて奇妙な感覚に囚われる。


「な!?体が引っ張られる!?」


重力剣ガナドール


バットハイクレスタ―の持つ剣の真価は重力波で対象を引き寄せ先端で貫く、恐るべき武器だった。今その魔力に捕らえられたホットスパーはその切っ先へと一直線に飛び込んでいた。拍車の回転を止め槍を地面に突き刺してスピードを殺そうとするもスピードは増す一方である。


「勝った!さらばだパールウェイカー!!」


だが勝利を確信したバットハイクレスタ―の耳に聞こえたのは機士の体を貫く心地良い音ではなく金属と金属が弾ける耳障りな音だった。


「何っ!?」


「へっ!初心者が気を抜くんじゃあねえ!!」


ホットスパーはスターシールドを槍から盾に戻すと目の前に構えた。剣と盾が火花を散らして弾けると同時に重力の魔力が切れた彼は激突の衝撃で後退すると再度拍車と槍を展開して突っ込んだ。


「チッ」


バットハイクレスタ―は体を捻って躱すが槍の穂先は彼の体に巻かれたタスキを引きちぎっていた。


「踏み込みが浅かったか!?」


「おかげで忌々しい鎖も切れた。ライオンクレスター、我々は帰ります。茶番の後始末は主催者の貴女が付けなさい」


「なっ!?そんな事が許されると思って・・・・」


「あいにくとこれは総意でな。ゲッグ様も認めてらっしゃる」


「そんな事が・・・・」


客席のスパイダーハイクレスタ―もタスキを切ると2体は嘲笑を響かせて同時に消えていった。スパイダーハイクレスタ―は先の戦車競技での爆発で既にタスキが切れており、それを自分の糸でつなぎ合わせて偽装していたのだ。


「どうしますか?これ以上の戦いはあなたには無意味と判断しますが」


「うるさい!ゲッグ様は・・・・」


ライオンクレスターはフィールド奥のゲッグとヴィダリオンの一騎打ちを見やる。




「ガイオス、スパークギャロップ!」


主人の命を受けガイオスはいななき前足の蹄から電撃を(ほとばし)らせる


「くっ」


騎馬突撃はスピードが命だ。言い換えれば目標目掛けて真っ直ぐ突っ込む時に速度が遅ければ遅い程その脅威と威力は減じてしまうのである。今ヴィダリオンは地面を奔る電撃をジグザグに躱しながら突撃の機会を伺っていたが相手も馬を操る能力は自身と互角以上。ゲッグにハルバードに有利なポジションへと次第に追いやられていく。


「ならばっ!」


ヴィダリオンはマスルガを大きく弧を描くように走らせる。電撃は直線状にしかこない事を利用し、側面から当たろうというのだ。無論そんな事を許す相手で無いのは承知の上で、ある。


「面白い。乗ってやる」


ゲッグは相手がカーブしきった所で馬を突進させ、3歩行ったところで電撃を(はし)らせる。


「マスルガ、ブースターオン!コートオブアームズ・ブースターレイブル!!」


ヴィダリオンはマスルガの後ろ脚のブースターを点火させ、自身も背部に鳥居型の高速移動装置を装着、ほぼ直角に曲がる形で電撃をジャンプで躱しつつ右手に剣、左手に盾を構えてゲッグへ突進する。


「電撃の軌道を読まれたか。だがこれを忘れていたな!」


ゲッグの大上段に振りかぶった右腕が振り下ろされるのと同時に伸びて鞭の様にしなりながら盾越しに左肩を落とそうとヴィダリオンへ迫る。


「ハッ!」

「チッ、野郎盾を!?」


投げやがった、と毒づく間もなければ、盾で弾かれた右腕を戻す暇も盾を構える暇もなかった。


ゲッグに出来た事は超スピードで迫って剣を袈裟切りに振り下ろしてくる相手を体を(よじ)って直撃を避ける事ぐらいしかなかった。


一瞬双方の馬が交錯し、距離を置いて相対した時ゲッグの胸にかけていたタスキは切れていた。


「ライオンクレスター、十分に楽しませてもらったぜ。後の始末は頼むぜ」


「ゲッグ、逃げるか!」


「次に会う時は本当の殺し合いをしてやる。今日は部下の顔を立てて出てやっただけだ。あばよ」


そう言うとゲッグはガイオスを通用口から走らせてそのまま出て行ってしまった。


後に残されたのはライオンクレスターただ一人。



「さあ、もう一度聞きます。まだこの大会を続けますか?」


カローニンが穏やかに問うた。

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