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異世界の機士 黒のヴィダリオン  作者: 紀之
好敵手の章

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第12話 命を懸けたトーナメント③




夜が明ければトーナメント開始。


剣王町新市街の戸建ての自室で礼徳律子(あやのりりつこ)は今までの人生でこれほど上機嫌だったことはなかった。そんな高揚した気分を害するインターフォンのチャイムに律子は舌打ちしながら階下へ降りる。唯一の肉親である弁護士の父はまだ帰っておらず、この家には自分しかいない。父ならこんな事をせず普通に鍵を開けて入ってくる。だから今ドアの前に立っているのは赤の他人という事になる。


「どなた?」


「夜分遅くに失礼いたします。私、金雀枝杏樹と申します。礼徳会長は・・・」


「私よ。入って」


律子は電気もつけていない真っ暗闇の玄関に杏樹を通すと2階の自分の部屋に案内する。


「それで・・・・明日の宣戦布告かしら?律義ね」


「違います。私は機士の主ではなく、生徒の1人としてここに来ました。今からでも遅くない、会長、トーナメント内容を普通のものに変えて皆が楽しめる様にしましょう?何故ヴィダリオンや図像獣を巻き込む必要があるんですか?」


杏樹の言葉に鼻を鳴らして律子はライオンクレスタ―の姿に変身する。その姿を見ても目の前の少女は身じろぎもしなければ表情1つ変えないのを内心で苛立ちまた賞賛もする。


「私ね、人生で最高に気分がいいのよ。正義を貫くためには力が、それも圧倒的な力が必要だと彼らは気づかせてくれたわ。あなたも見たでしょう?あのタスキを着けた連中は私の意のまま。1人1人どうしているかも手に取るようにわかる。あなたは私の味方だったから見逃してあげたのよ。でもこれ以上くだらない説教をするなら連中と同じ・・・いやそれ以下の境遇にするわよ」


「構いません。会長が考えている事を私にすればヴィダリオン達は奮起するでしょう」


「なら望み通りにしてあげる!」


「あっ!?」


ギリッと歯噛みしてライオンクレスタ―は(たてがみ)から変化させたタスキを変化させた十字架に杏樹を磔にした。


(機士共、そして幼馴染の星川勇騎よ、聞くがいい。貴様らの主は預かった。返して欲しくば明日のトーナメントに勝利せよ!!)


その言葉はヴィダリオンらのタスキを通して激痛と共に伝えられた。


(なんということだ・・・・主を人質に取られるなど・・・・)


(しまった?あいつ俺に連絡しないで・・・・杏樹必ず助けるからな!)


ヴィダリオンと勇騎は共にタスキの締め付ける体の激痛よりも自分を頼ってくれなかった胸の痛みの方が勝っていた。そして明日絶対に負けられないという思いもまた強くなるのだった。



校庭を急ピッチで作り替えられた『闘技場』の周りの観客席には剣ヶ峰学園高等部の生徒が全員座っていた。彼らの眼には一様に緊張と恐怖しか映っていない。会長から事前に渡されたプログラムは全て馴染みが無く、負ければライオンクレスタ―に吸収されるという恐るべき罰が待っているからだった。


「ゲッグ様どうですか?この恐怖に彩られた静けさ。これが悲鳴に彩られると思うとゾクゾクしません?」


「さあな?楽しめるかは連中次第ってのがな」


「お気に召しませんか?では」


ライオンクレスタ―は空中に磔にされた杏樹を召喚すると自分達VIP用に設けられた豪華な観覧席から開会の言葉を放つ。


「これより第1回デストーナメントを開催する。優勝賞品はこの娘だ。精々頑張る事だな。そして敗者は私の血肉となってもらう!無論貴様らが勝てば吸収した者共小娘共々返してやろう。無論そんな事は出来ないと最初から宣言させてもらうがな!!」


突然の事にざわつく会場全体を圧する吠え声に耳を塞ぎながらも生徒達は暗澹(あんたん)たる気持ちでグラウンドへ降りる。

第一種目は槍投げ。いくつかの距離ごとに置かれた的に当てるのだ。的は左右に動いているので腕力だけでなく投げるタイミングも重要となる。


だが


「ぐ・・・・重てえ・・・なんだこの槍は!?」


「決まっているでしょう?このトーナメントにはゲッグ様配下のタロス共も参加するのだから平等に、ね!?」


「チクショウ!最初から俺らを勝たせる気がねえってことじゃないか!こんなこ」


第一選手である3年生はそれ以上言葉を紡ぐことなくライオンクレスタ―に吸収される。VIP席のゲッグ、バットハイクレスタ―そしてスパイダーハイクレスタ―の酷薄な爆笑に包まれて魔銅兵タロスが軽々と槍を投げる。槍は最高点を示す最も遠い的の中心に刺さった。


「人間諸君、どうしたね?君らが頑張らないと君達の仲間の少女は死んでしまうぞ?」


グラウンドを見下ろすバットハイクレスタ―はそんな気概のあるものはここにはいないという確信めいた嘲りの表情を浮かべる。事実二番手以降の生徒らは槍に触れる事すらせず皆項垂れたままだった。


「人間共は全員失格!」


ライオンクレスタ―の宣言と共に絶望の悲鳴を上げながら生徒達は怪物の体に吸収された。


会場のあちこちから聞こえる悲鳴など意に介さずライオンクレスタ―は次の競技の開始を宣言する。


「さあ、次は見ものですわよ。噛みつきと目つぶし以外は何でもありの格闘技パンクラチオン!特設リングを血に染めて栄光の勝者となるのは誰か!?」


グラウンドの地下からせり上がってきたボクシングやK―1に使われる四角のリング。既に青コーナーには武器と防具の無いタロスが立っていた。


だがやり投げでの惨状から参加予定の生徒達は怖気づいて誰も上がってこようとしない。いや1人いた。人の波をかき分けて新井陸がリングの赤コーナー側に立ったのだ。


「フ・・・勇ましい、いや蛮勇と言うべきか。貴様はこのタロス兵とまともにやり合えると思っているのか?」


「へっ!思っちゃいねえよ、コウモリ野郎!だがな、このまま黙っていても男が廃るってもんだ。これ以外に参加する気はなかったしな」


「よかろう!タロスよ!この小僧の五体をバラバラにしてやれ!」


「そううまくいくかね」


既に勝利を確信したバットハイクレスタ―の号令にボソリとゲッグは釘を刺したが彼には聞こえていないようだった。


タロスと陸の体格差は倍近く、体重に関しては10倍以上の差があった。


(一か八か、やってみっか!)


実のところ陸が遮二無二突進してくるタロスを恐れないのは事前にパンクラチオンにタロスが参戦してくるだろう事とその対策をカローニンとマリニエールから教わっていたのだった。勇騎が戦車競技の訓練に勤しむのと同時に彼はマリニエールからタロスに関するある重大な弱点を聞いていたのだ。


『タロスはその構造上首が弱い。だがパンクラチオンでは首を守る防具を外してくるだろう。私達が参加しないから人間相手には素体だけで充分だと侮っているだろう。その油断を狙え』


「ままよ!!」


タロスが自分の首を絞める直前陸は後ろに自ら倒れると同時に相手の両腕を掴み後転する勢いとタロス自身の突進のスピードを利用して腹を蹴り上げて後ろに投げ飛ばした。


「巴投げ!?」


ライオンクレスタ―の言葉が終わらない間にタロスはリングのロープを超えて地面に激突。グシャリという音と共に首がもげてコロコロと客席下へ転がった。胴体は自身の首など気にせず何事も無かったかのようにリングに登ろうとするが


「それまで!勝者は新井陸!」


「馬鹿な!」


タロスとバットハイクレスタ―双方から同じ驚愕が漏れ出る。だが両者の言葉の意味は異なっている。バットハイクレスタ―はともかくタロスの側はまだ戦えるのだ、という意思を首の無い胴体がアピールするがライオンクレスタ―の判定は覆る事は無かった。


「戦場なら胴体も一緒にバラバラにされているぞ!舐めてかかったお前が悪い」


ライオンクレスタ―はタロスのタスキを締め上げてその機械の体を粉砕する。


「ゲッグ様、申し訳ございません」


「ハハハハハ、そうこなくちゃあ面白くねえ。次は機士共とあの星川って奴が出るんだよな?」


「はい。ゲッグ様お待ちかねの戦車競技です」


「よし、さっきのでケンタウロス共も身の引き締まる思いをしているだろうが直々に発破をかけてくるとするか」


怒るどころか上機嫌で客席を後にするゲッグ。後には陸を讃える歓声に怒りと屈辱に震えるクレスタ―達が残される。


「おのれ!次の競技は参加する奴らを残らず地獄へ、そうでなくても三途の川の手前までは送ってくれるわ!」


「あくまでもルールの範囲でだぞ?私の目をごまかせない事を忘れるな!」

いきり立つスパイダーハイクレスタ―にライオンクレスタ―はあくまで自分がルールであるという事を誇示するように吠える。


「フ・・・・だが戦車競技に事故は付き物だよ?」


不穏な言葉を残してスパイダーハイクレスタ―は厩舎へと向かった。


デストーナメントの目玉の1つ戦車競技。校庭でのトラックだけでなく、剣王町全域を使った紅白2組、4台の戦車によるレースが始まろうとしていた。

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