第12話 命を懸けたトーナメント②
剣王町旧市街・邪神官らのアジト
「一体どういうつもりだ!あのまま連中を倒す好機をみすみす逃してしまうとは!?あんな事をさせるためにお前に力を与えたのではないぞ!」
バットハイクレスタ―=ザパトにとって予想外の推移を辿った先の戦闘。悠然と戻って来たライオンクレスタ―は礼徳律子の姿に戻ると鼻を鳴らして創造者の小言を受け流す。
「確かに力を与えてはくれたわ。それは感謝してる。でもこの力をどう使うかを決めるのは私。フフッ、ゾクゾクするわ!この町の連中が私の決めたルールのみで動く。規則規範に厳格な理想世界が誕生するのよ」
胸の前で両腕を組み陶酔したように語りだす律子にハイクレスタ―2体はドン引き、傭兵隊長ゲッグはカラカラ笑っていた。
「そのデストーナメントとやらだが種目は決まっているのか?俺としてはジョストと戦車競技は是非とも外して欲しくないねぇ」
「勿論、全種目血生臭さ満点の仕様ですわ。しかし、参加されるのでしたら私の例のタスキを着けて頂かなくては」
「いいとも。おい、お前達も参加だ」
「何ですって!?こんな小娘に従うなど・・・・」
「そもそも何に参加しろというので?」
露骨に拒否を示すスパイダーハイクレスタ―=プレハと参加しない理由を模索するバットハイクレスタ―。両者とも自分達が下に見ている存在の言う事を聞くなど我慢ならないのだ。
「そう?人間共がのたうち回る姿を特等席で見られるというのに残念。でもゲッグ様の言う事は絶対だわ。ハッ!」
ゲッグ、バットそしてスパイダーに自身の髪から作り上げた例のタスキが掛けられる。
「貴様・・・!」
「ではゲッグ様、追って種目は通達いたします。どれに出られるか考えておいて下さいね」
「おう、楽しみにしているぜ」
(とんだ失態だ。ガルウを救う方法の糸口をつかんだかと思えば、まさかこんなモノを生み出してしまうとは・・・)
バットハイクレスタ―は歯噛みしながら部屋の隅でゴソゴソ動き回るウルフハイクレスタ―=ガルウの右手に目をやり、死んだふりをしておけと目で合図する。
ガルウはその生命力で生きていたのだ。
翌日
星川勇騎は生徒会長の『物理的呼び出し』を受けて校庭をトーナメント用グラウンドへと変貌させる人夫として呼び出された。
「陸、お前もか」
「あのタスキの締め上げを食らったら行きたくなくてもいくしかねえ。てかこの学校の奴らは全員だろ。見ろよ、キョウキンまで参加させられてやがる。学校はいまや生徒会長様に支配されてるってこった」
陸が顎をしゃくった先にはキョウキンとあだ名される筋骨たくましい体育教師が黙々と作業に掛かっていた。その胸には生徒らと同じ呪いのタスキが掛けられていた。
「さあ、校庭の土をそっくり入れ替えて均すのよ!ここはメインイベントの会場になるのだからね。そしたら観客席をすり鉢状に作る!そこモタモタしない!星川君、競技の練習があるから先に帰っていいわよ」
「ギャアアアアア!」
「グオオオオオ!」
ライオンクレスタ―の視力は屋上から米粒が転がる様を視認出来る程鋭い。そんな視力の前ではだべりながら腕の動かし方の悪い人間などすぐにわかる。彼女咆哮でタスキが締め上げられると校庭のあちこちで悲鳴が上がり痛みと疲労で次々と倒れていく生徒達。
(皆、必ず助けてやるからな)
勇騎は後ろ髪を引かれながら練習場所の河原へ走って行った。
「あ、礼徳君、これでは生徒達が・・・・」
「校長、これは彼らが望んだことです。その為なら犠牲をいとうべきだとは思いません。もしこれに懲りたら二度と体育祭や文化祭のような手間のかかる行事などしない事です。学校とは本来学びの場なのですから勉学だけしていればいいんです」
クレストとの融合により極端な思考に陥った教え子の理屈に校長は押し黙るしかなかった。
剣王町・鍔広川
剣王町西の県境にあるこの河原に2本の杭が撃ち込まれている。ハダリーと勇騎はこのデストーナメントの目玉競技の1つ戦車競技に参加するべく先輩機士達から特訓を受けていた。今彼女はカローニンとヴィダリオンから機動鋼馬ヴァレルと機動鋼馬マスルガを借りて屋根の無い木製カートに座り顔を引きつらせながらに手綱を握っていた。カートを引く2頭は比較的大人しいため馬を持っていない彼女にも扱い易かろうという配慮でもある。
「もっと手綱を曳け!この競技はコーナーでの切り返しが全てだ。遅れるとスピードロスどころか横転するぞ!」
「はい!」
「分かってる!」
中央に間隔を開けた杭の周りをぐるりと楕円上に走る。字面だけなら簡単に見える。ハダリーも勇騎もそう思っていた。
だが実際には2頭の個体差と2人の息を合わせての手綱の捌き方、そもそも砂利と小石の足場で揺れるコース上でコーナーを曲がる事は至難の業だった。事実彼らは特訓開始から既に十数度、曲がり切れず横転してカートから投げ出されていた。
「本当はこれに相手の妨害があるからな」
「いいんですか?貴方はジョストにも参加するんでしょう?マスルガを貸してよかったんですか?」
「2頭立てだと馬同士の相性もあるからな。ベオタスだと機動力がありすぎて他の馬はついてこれない」
「それに督戦隊の2人の馬は気位が高いですからね・・・・こうせざるを得ない訳ですか」
2人の機士は再度の挑戦を土手で見守りながらため息をつく。今度は曲がる事には成功した。スピードも十分だが・・・・
「もっと杭との差を開け!本番は相手にぶつけられるぞ!」
「それ、良いのかよ!」
「立派な戦術だ。それどころかカートや手綱、馬自体を傷つける方法も連中は取ってくるだろう」
「マジかよ・・・・」
「先は長いですね・・・・」
(だけどやるしかねえ)
やっとまともに走り切ったと思えばまだスタートラインにも立てていないと知り、愕然とする勇騎とハダリー。互いに全身傷だらけになりながらも再度手綱を握って戦車を疾走させる。もう一つのコーナーを曲がる直前杭の脇に突然穴が出現、その穴は徐々に大きくすり鉢状になっていく。
「な,何だ!?ヴィダリオンどうなってんだよこれ!?」
「そんな罠は仕掛けていない!離脱しろ!カートを切って馬に飛び乗れ!カローニン!」
「承知!」
カローニンはコートオブアームズ・チェンジマートレットで飛行形態に変身し救出へ向かう。ヴィダリオンもその後を一足飛びに追う。
ヴィダリオンの指示通りに馬に飛び乗った勇騎とハダリー。だが穴の内側の土は脱出にもがけばもがくほど沈んでいく。
「ユウキ様!せめて貴方だけでも!」
ヴァレルに跨ったハダリーは後ろの勇騎に手を伸ばす。穴の外へ投げ飛ばそうというのだ。
「一緒に脱出しなけりゃ意味がない!それが奴らの陰謀だ!」
「しかし・・・!」
「ハハハハハッ、迷っている間に死ぬがいい!」
穴の底の中心からスパイダーハイクレスタ―が顔だけ出して2人を嘲笑う。
「お前はスパイダーハイクレスタ―!くっ、これはお前が・・・」
「そうとも!戦車競技にこの手の事故はつきものだからな。主従仲良く地獄へ行け!」
スパイダーハイクレスタ―は六目を光らせるとそれに呼応して穴はミキサーの様に回転し地の底へ向かって回転を始めた。砂と回転に足を取られマスルガとヴァレルは底へと引き込まれていく。
「ハダリー、ユウキ殿を!」
「お願いします、カローニン様!」
「やらせるか!」
ハダリーは渾身の力でカローニンに向かって勇騎を投げ上げた。それを阻止せんとスパイダーハイクレスタ―は口から糸を吐き、鳥の姿になったカローニンが勇騎をキャッチする直前に絡めとって引き寄せる。彼に追いつき引き上げようとするカローニンごと引きずる程その力は凄まじいものだった。
「うわっ!」
「さあ、地の底で永遠の眠りにつくがいい!」
「貴様がな!マスルガ、フレイムボンバー投射!」
後れて穴に飛び込んだヴィダリオンはマスルガに騎乗すると愛馬の尻尾をクロスボウ状に変形させ、火矢を穴の中心に巣くう怪物目掛けて撃ちこんだ。
「グガッ!味なマネを・・・グオオオオオっ!?」
「?今だ!全員離脱しろ」
火矢を受けても敵はのけ反る程度だった。だが明らかにそれとは別の苦しみに悶絶するスパイダーハイクレスタ―。彼女の魔力が切れたか、回転が止まり流砂も無くなった穴から機士達は脱出するとそのまま河原から退散するのだった。
ヴィダリオンらは知らない事だったが、スパイダーハイクレスタ―もまたライオンクレスタ―の魔力のタスキを着けられていたのだ。無論今回の襲撃はこんな茶番に付き合ってられぬという独断である。
「おのれ、あの小娘奴!!余計な事をしおって!」
毒づくがこのタスキある限りは逆らえない。だが彼女は、いやバットハイクレスタ―やゲッグさえもこのままで済ますつもりは毛頭なかった。
(下級図像獣如きが・・・・見ておれよ)
かくして怨嗟と不安渦巻くデストーナメントが開幕するのだった。




