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異世界の機士 黒のヴィダリオン  作者: 紀之
好敵手の章

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第11話 魔を癒す剣①




 剣王町旧市街・鉄腕ゲッグらのアジト


女機士ハダリーが黒のヴィダリオン一行に加わった次の日の夜の事である。

新型タロスに両脇を抑えつけられて一人の男がゲッグの前に連れてこられた。顔つきは若々しさを残しているものの、げっそりと頬が痩せて目は落ちくぼみ恐らく本来の年齢に不釣り合いなほど髪と髭に白いものが混じっている。


「ようやくか。お前がこの町で一番不幸な人間か?」


ゲッグは上機嫌で修復を終えたばかりのハルバードを磨きながら尋ねた。


「そうだよ!この上何をむしり取ろうってんだ?俺は分限の奴らにケツの毛までむしられて何も残っちゃいないぜ」

絶望を前にした開き直り。もしくは捨て鉢な前向きさ。そこからどんなことでも実行するという危険な光が男の両目に宿っている。


「逆だよ。与えてやろうってんだ。そいつらにいや、この町の奴ら全員に無情の絶望を与えてやれる力をだ」


ゲッグは懐からウルフハイクレスタ―の右手を取り出すとその人差し指を引きちぎり、右手でこねくりまわす。残るハイクレスタ―達の凄まじい視線も鼻歌交じりに流しながら切断された指が紫色の光と共にひし形の結晶へと変化したのを確認すると、ゲッグはそれを男に投げつけた。


「グ・・・・何を!?をおおオォォー!」


「馬鹿な・・・人間をベースに生み出されるクレスタ―だと・・・!?」


「HBクレスタ―とでも言うのか・・・?」


スパイダーハイクレスタ―とバットハイクレスタ―はこのゲッグの発想には脱帽するほかなかった。

男の姿は紫色の光に包まれる。光が晴れた時、男の姿は上半身が角の生えた禿げ頭の人間、下半身緑の毛に覆われたヤギというサテュロスのような姿に変っていた。


「成功だ。ではゴートクレスターⅡよ。お前には一つ指令を与える。これを」


ゲッグがハルバードで指し示した所には以前奪った身代金が山と積まれていた。


「いくら使ってもいい。お前の力と合わせてこの町を買い占めろ」


「土地の買い占め?」


「そうだ。俺の雇用主に献上する。この町そのものをな」



翌日


「おはよう勇騎君」


「おはよ杏樹・・・・ふぁああ」


「眠そうだね。また夜遅くまでゲームしてたんでしょ?ご両親今日帰ってくるんでしょう?そんなんじゃまた怒られるわよ」


ゴールデンウイーク明け。


学校への通学路での何気ない日常会話ではある。だが星川勇騎にとって日常は2日前にやってきた女機士ハダリーによって全く崩壊していた。


「違うんだよ!あいつ、信じられるか!?夜中に起きてきてお祈りしてるんだぜ!それに俺も付き合わされているんだ。しかも2回も!0時と4時!そこからまた7時に朝のお祈りだ。眠れないよ」


「た・・・・大変だねそれは・・・・でも断ればいいのに」


「そうなんだけど『こうするのが夢だったんです』とかあの純粋な顔で言われると断れなくて」


馬鹿だと思う。だが同時にそこが勇騎の良いところなのだとも金雀枝杏樹は知っている。知っているから無意識にハダリーに嫉妬してしまう。


(うちへのお参りには初詣くらいしか来ないのに)


「ご両親に見られたらどう説明するの?」


呟きをきかれたかと思い、慌てて話を振って勇騎を見るが彼は気が付いた様子は無い。


「そこなんだよ。ティレニア号の方は何とかごまかせるけどあの生活習慣は絶対ばれるよなあ」


「じゃあ、勇騎君の制服預かろうか?」


「いや、さすがにそれは・・・まあ何とか言い訳を考えてみるよ」


ハダリーが乗ってきた病院船ティレニア号はあの後信じられない事に伸縮自在である事が判明し模型サイズにまで縮小され、勇騎の部屋の窓の外に吊るしてあった。外なのは緊急時に発進する可能性があり、中に置いて置くと窓ガラスを破って出て行く可能性があるからである。


「そう言えばヴィダリオンはお祈りとかしているのか?見た事ないけど」


「ないわね。もっと言うなら信心深さとは無縁の生活を送っているわ」


『何、時課の祈りは他の日に振り替える事が出来ますので』


「その日はいつ来るのかしら?」


『駄目ですよ、ヴィダリオン様。我らを造られた創造主様に感謝を捧げなければ』


『ぐぬぬ。しかしあった事も無い、伝説上の存在によく祈れるな。そこは感心する』


校章を通しての2人の機士の会話を聞いて杏樹は自分の機士が問題児だったことを思い出す。そもそもこの時間起きていること自体が奇跡なのだ。


「全くだ。俺も遥かな過去より未来の授業より、昼飯買って食う事が大事だ」


「午前中の授業、お昼休みより前の時間なんですけど・・・?」


「それはそれ・・・ン?な・・・・・・なんだそりゃアァ!?」


「嘘・・・・こざねやさん、閉店しちゃうの?」


剣王町にある地域密着型スーパー『こざねや』


朝の7時半から17時半まで開いていて価格も手頃と剣王町民から色々と重宝がられ、親しまれてきたスーパーである。勇騎と杏樹の子供の頃から親に連れられてよく来ていたなじみの場所だった。

それが無くなるという。だが理由は非常に不可解としか言いようのない『都合により本日をもって閉店します』という、入り口に貼られた紙一枚。


「クレスタ―騒ぎの中でもやってたのに・・・・急すぎるなあ」


「小札さんのおじさんもおばさんも事件に巻き込まれてケガしたとかそういうのは聞いて無かったけど」


ため息をつく勇騎と残念な思いと経営していた初老の夫婦を心配する杏樹。


「おい、こざねやも閉店してるとかマジかよ!?これからどこで弁当買えばいいんだ?」


「よう、陸。もって?」


後ろから現れた新井陸の言葉に引っかかりを覚えた勇騎は嫌な予感を感じながらもその返事を待った。


「うちの近くのコンビニも閉店してるんだ。しかも2軒もだぜ」


果たして陸の言葉は勇騎の予想を裏切らないものだった。


「ねえ、見て!他の商店にも同じ張り紙がしてあるわ!」


杏樹の言う通り、通りにある商店は自転車店や電気屋などジャンルは違えど一様にこざねやと同じ文言の張り紙がしてあった。


『待ってください。あのこざねやという店の中から声が聞こえませんか?』


(なんだって、本当かハダリー?)


小声で問う勇騎の耳には聞こえない。だが彼女は機械だ。人間の自分には聞こえない音も拾えるだろう。そう考えてこざねやの入り口の引き戸を思い切って動かすと、簡単に開いた。


「鍵が掛かっていない?おじさん、おばさんいるのか?」


(声はこの奥です)


3人は奥に進むと小札家の生活の場になっている2階の階段を上る。階段を上がり切ってようやく人間の耳にも聞き取れる程のか細いうめき声とも泣き声ともとれる、絞り出すような声が聞こえてきた。


「おい、まさか!?」


陸が真っ先に障子を開けて飛び込む。そこは夫妻の寝室に当たる部屋だがその部屋の天井からつり下がっている昭和風の電灯の根元に太い紐を括り付けて首を吊って呻いている夫の小札氏と床に仰向けに倒れている彼の妻の姿があった。


「大変だ!杏樹はおばさんを!」


勇騎と陸は助けを拒否するように暴れる小札氏を2人掛かりで何とか床に降ろす。この場で死ねないと分かると小札氏は絶望の叫びを上げて号泣した。


「おばさん、おばさん!?しっかり!?」


(大丈夫です。気を失っているだけらしい)


ヴィダリオンの言う通り、杏樹の声ですぐに目を覚ました妻は床に突っ伏して泣き喚く夫に駆け寄って背中に縋りつくとまた号泣するのだった。



「おっさん、一体なにがあったんだよ!?」


「どうもこうもねえ!遂にあいつが、分限の奴らがこの町の地上げを始めやがったんだ!あの野郎、東京にいる娘夫婦を人質に取りやがった挙句俺を首つり自殺に見せかけて権利書まで奪いやがって・・・・!」


陸の質問に小札氏は恐るべき事情を語り始めるが、妻が横槍を入れる。


「喜んで権利書を渡したのはあんた自身だろ!?あんな女の色香にデレデレして挙句自分から首を吊り始めてあたしゃ卒倒しちまったよ」


「ちょ、ちょっと待ってください。2人とも同じ場所にいたんですよね?なのに全く違う人間を見て、経緯も違うのは・・・?」


「そんな事は知らねえな。ただ事実なのは権利書も金も皆奴らが独り占めしちまったってことだ」


「おじさん、周りの店もしまってるけどまさか・・・・」


「そうだっ!桐谷さんも鹿居さんもきっと同じ目に合ってるはずだ!」


「手分けしましょう!ヴィダリオン!」


「ハダリー!」


「「心得ました!」」


「はあアッ!なんだこりゃ!?」

陸は光と共に現れた騎士と修道女を見てマヌケな声を上げる。小札夫妻はただ目を丸くするばかりである。


「説明は後で!とにかく他の人達を助けなきゃ!ヴィダリオンは従機士を集めて!2人一組で行動しましょう!この事件何かおかしいわ」


杏樹の指示の下に全員は商店街の各所に散っていった。

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