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異世界の機士 黒のヴィダリオン  作者: 紀之
好敵手の章

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38/90

第9話 敵傭兵隊長の挑戦⑤




 シーズデパートでの人質奪還作戦を終えて起動鋼馬ベオタスに跨り、商店街の大通りを走るホットスパーことパールウェイカーと星川勇騎。


「他の皆は大丈夫かな?」


「皆手練れだ。そこは保証するぜ。ま、一番は俺だけどな」


「ではその慢心の報酬をくれてやりましょう」


「何っ!?」


音も無くそれは舞い降りた。


勇騎はゾッとする冷たいものが顔の両側を挟み込むのを感じるのと同時に体がベオタスの鞍からどんどん離れて行くのを感じる。


「いっ?ドラキュラ!?」


病的に青白い手に長い爪。同様の色をした顔と対照的に血の様に赤い目。その口から見える鋭い犬歯とマントを羽ばたかせる姿はマンガやゲームでよく見る吸血鬼のテンプレそのものだ。


「は、離せ!」


「いいですよ。私もこれだけ頂ければ満足ですから」


ツッとドラキュラは人差し指の爪で彼の持っていたバッグのひもを切る。途端に勇騎を支えるものは何もなくなり真っ逆さまに落下していく。


「ユウキ、掴まれ!」


ベオタスを跳躍させたホットスパーは勇騎を受け止める。


「ごめん・・・・身代金が・・・・・」


「なあに追いかければすぐさ。道草食って丁度いいってな」


カラカラと笑うホットスパーはベオタスに翼を開かせ飛翔しようとして、目の前にやってきたある存在に気が付くと翼を畳ませた。勇騎も彼の視線を追うと額に角を生やした逞しい黒馬に乗ったブルドックを思わせる兜と巨大な右腕の騎士の姿があった。


「もしかして、あいつが?」


「『鉄腕ゲッグ』だ」


ホットスパーは勇騎に降りるよう促すとコートオブアームズ・スターシールドを展開し、即座にランスモードに変形、ベオタスに拍車を当てるとゲッグ目掛けて突進した。

対するゲッグは全く動かない。おかしなへこみのある丸盾を装備した左手で手綱を握っているだけで右手はだらりと下げている。


ホットスパーも相手のランタンシールドの事は知っている。だから相手の右半身目掛けて槍を突き出した。


「グ・・・ガッ!?ガアアアアアッ!!」


一瞬の内にホットスパーは地面に叩き落とされ全身から火花を上げながら物凄いスピードで引きずられていた。


「グ、クソッ」


ホットスパーは激しやすい性格である。同時に彼の頭脳はゲッグの持つおかしな形状の槍にスターシールドを引っかけられて叩き落されたこと、状況を脱するには一旦槍を手放すしかないという機士としての二重の屈辱を感じながらもしかし最後の勝利の為にその屈辱を甘んじて受け入れるだけの合理性も持ち合わせていた。


「フン!ガイオス!」


右手の感触に僅かな変化を感じたゲッグは自身の得物ハルバードを振り上げる。この武器は大斧の先端に槍、斧とは反対側に馬上の人間を引っかけて落とすスパイクを備えた複合兵器である。


ゲッグはその3.5mはある大槍を操り片手で小石でも投げるかのようにホットスパーを放り投げると自分の馬の額の角から発した電撃をハルバードの穂先に纏わせると目にも止まらぬ速さで突き出すとその胸部を貫いた。


「グオオオオオおおおお!?べ・・・・おタス‥…ゆ…ウキを・・・・ま・・・・・もれ」


ホットスパーことパールウェイカーは機士の心臓部であるエスカッシャンハートを中心に全身を焼き尽くされ黒煙を上げて転がりながらなおも機士の務めを果たそうと愛馬に最後の指令を出す。


指令を受けた翼を広げたベオタスは主人の仇に背を向け勇騎を乗せて飛翔する。


「戻れ!戻ってくれ!!ベオタス・・・・・・必ず、必ず助けてやるからな・・・」


「見上げた根性だ。これなら隊長ってのにも期待できそうだな」


ゲッグは敵の心意気に免じてわめき続ける勇騎を乗せたベオタスをあえて見逃すことにしてゴミでも蹴飛ばすかのようにパールウェイカーの体をガイオスで跳ね飛ばすと次の美術館へと馬を飛ばした。




美術館の異変はメガイロが外に出てすぐに起こった。


メガイロはリエの「蜘蛛が!?蜘蛛が!?」という悲鳴を聞きつけると美術館へと取って返した。

外からホールを覗くと細いワイヤーのような糸が身代金を入れたバッグをリエごとつり上げ上へ上へと引っ張り上げていた。


「今行く。手を離すなよ」


そう言って一歩踏み出したメガイロの眼前の扉に巨大なハルバードが突き刺さった。


「俺の部下が折角仕事してんだ。邪魔するなよ、でかいの。‥‥おっと不言実行ってのは今どき古風だ、ねえっ!」


「な・・・に?その腕は!?」


ガイオスから飛び降りたゲッグは挑発するように両手を上げて悠然と歩いていたがメガイロの振り向きざまの大剣の真っ向切りを右腕を『伸ばして』逆にメガイロの左腕を受け止めて斬撃を防ぐ。


「残念だが伸びるだけじゃないんだ・・・・!」


「う・・・おお!?グウッ!」


事実機士としては最重量のメガイロを片手1本で持ち上げ左腕を握りつぶすと同時に大剣を奪い取り、うつ伏せに倒れたメガイロが突き出したもう片方の腕を昆虫の標本でも作るかのように串刺しにする。根元まで入った剣を引き抜くことはメガイロの力をしても容易な事ではない。


「スパイダーハイクレスタ―、余計なものは捨てていけ。お前は3か所同時にやると豪語した以上はやってもらうぞ」


「勿論だ。既に図書館と銀行は回収済みだ。どちらも金より人命を優先していたおかげで容易く回収できた」


「なるほど。残るは本命だけか。先に帰ってろ」


「そのままでいいのか?」


子蜘蛛(人間の幼児並の大きさである)越しにスパイダーハイクレスタ―=邪神官プレハは


負傷し、呻くメガイロを見る。


「言ったはずだ。欲をかくなとな」


それだけ言うとゲッグはハルバードを回収して市役所へ向けて馬を駆った。


「分かった」


子蜘蛛は糸を大きく揺らして未だにしがみ付くリエを壁に叩きつけようと目論む。悲鳴を上げるリエはしかしその壁を破って突入したカローニンと新井陸によって事なきを得た。


「間に合ってよかった。蜘蛛の糸の魔力を辿ってみれば、ここもか」


「おい、また糸が!?」


「鞄が・・・身代金が空に消えていく?」


「やられましたね。しかし命には代えられませんよ。さ、手伝って下さい」


カローニンはあんぐりと口を開けて呆けたように突っ立っている陸とリエを突っつくとメガイロの右腕に刺さっている大剣に手を掛ける。


「俺の事はいい。ヴィダリオンの助けになってやれ」


「分かりました。すぐに戻ってきます」


「気を付けろよ」


「ええ。ご協力ありがとうございました。リク。祖母君もご自愛ください」



同時刻・剣王町市役所前


ここでは先の4つと少し違う展開が繰り広げられていた。


身代金の入ったバッグを持った金雀枝杏樹が市役所前に来た時、既に入り口付近は人でごった返していた。


「え?もう解放されているの?誰が?」


だが人混みからは安堵ではなく悲鳴と恐怖の叫びが続いていた。それは彼らの直ぐ近くでバッという火花と閃光が上った時一層大きくなったようだった。


『気を付けて下さい。あそこにいるのはタロスではない』


「うん」


ゆっくりとしかし恐れる事なく1歩1歩踏みしめて混乱の中心に近づく杏樹はスッと息を飲む。


「身代金を持ってきました。人質を解放してください」


バッグの中身を開けて自分でも不思議なくらい落ち着いた声音が響く。


人込みを飛び越えて現れたのは黒い体に血の様に赤い体毛と眼をしたウルフハイクレスタ―=ガルウだった。


「クレスタ―!?」


「死ね!」


ウルフハイクレスタ―は杏樹目掛けて両手の短剣その物といった爪を飛ばした。杏樹の制服の校章が光り上半身を黒、下半身は白というツートンカラーの鎧に身を固めたヴィダリオンが盾を構えて彼女を守るように立ちはだかる。


「な、何っ!?グヌッ!」


「きゃあ!?」


だが恐るべき事にウルフハイクレスタ―の飛ばした10本の爪の全てが盾を素通りし、8本がヴィダリオンの体に突き刺さり、親指に当たる一際大きいジャックナイフとも言うべき残りの2本がバッグの紐を切り裂くと落下するバッグを引っかけて反転した。その間8本指を再生させたウルフハイクレスタ―はヴィダリオンの眼前に躍り出ると追撃のカウンターを予測した機士のシールドバッシュを身を屈めて躱すとそのまま彼を飛び越えて親指を装着、火花と旋風を巻き起こす程の急激なターンをかけながらヴィダリオン目掛けて右手を振り下ろした。


「ならばっ!」


ヴィダリオンも振り向きざまに盾を投げつける。


「ばかな!?こんなことをするのがいる?ウッ!?」


盾を粗末に扱う事は機士の誉れを捨てる事であり普通に盾で防御してくると思っていたウルフハイクレスタ―の魔力を帯びた爪が盾を素通りし、地面に突き刺さる。爪を引き抜き彼が体を起こした時、機士が剣を頭上に掲げ必殺の構えを取っている事に気が付く。


「紋章剣奥義・全身全霊一つの太刀!!ボーセアン!!」


『一つの太刀』は正機士の技である『終の太刀』に比べて威力と浄化できる魔力は落ちる。だが正機士叙任間もないヴィダリオンにとっては精神統一や呼吸の『間合い』がまだ甘い新技よりも従機士時代から何百何千と振ってきたこの技が自然と出てくるのである。


事実その威力は凄まじく、彼の剣はウルフハイクレスタ―の左半身を真っ向から切り下げ打ち倒していた。


「大切な金なんでな。返して貰うぞ」


「ガッグルルウウウゥ!」


ヴィダリオンは切断個所から火花を散らし右半身のみでバッグを握りしめてなおも威嚇するウルフハイクレスタ―に近づき腕を伸ばす。だが身代金の入ったバッグはウルフハイクレスタ―ごと突如現れた迅雷によって吹き飛ばされた。


「あ、あれは!?」


「ゲッグか!?」


「欲目を出すなとあれほど言っただろうが。ガイオス」

宙を舞うバッグをハルバードの先で引っかけ、瀕死の部下に氷のような声を掛けるゲッグは愛馬の右足に電撃を纏わせ無情にも踏み潰させる。


「ガッギャアあああァ!!」


「酷い・・・」


「悪いなお嬢さん。俺は言った事は必ずやらないと気が済まないのでね。奴らには命令を無視すればこうなると伝えてあるんだ。さてと」


ウルフハイクレスタ―の右腕を玩具の様に弄びながら小脇に抱えたバッグの中へしまうと飛び降りる。



「お前、あのヴィダリオンと同型だな。ならこの右腕の復讐のウォーミングアップに付き合ってもらおうか」


「自業自得が今更何をッ!」


ハルバードと剣が火花を散らして鍔迫り合う。だがゲッグの動きと力には余裕があるのに対しヴィダリオンの方は全力。徐々にハルバードの刃が兜に近づいてくる。


「フッ!」


「ヌッ!?」


ヴィダリオンは突如腕の力を抜き、ゲッグの体勢を崩すと同時に左腕目掛けて剣を振り上げた。


「グガッ?」


「ヴィダリオン!?」


刃が腕に触れるより先にゲッグの盾から2本のスパイクが伸びヴィダリオン喉元を突き通し、杏樹が悲鳴を上げる。


「グ・・・だがまだ・・・・・・」


ヴィダリオンはスパイクをへし折ろうと両手に力を込める。


「中々やるな。だが遅い!!」


ゲッグがハルバードを振り下ろすが何かの力で後方に引っ張られる。見ると柄に蛇腹剣が巻き付いていた。マリニエールである。


「取り巻きが来たか。それに2匹もか!」


トドメを邪魔されたゲッグは後方のマリニエールと前方に滑り込むようにやってきた(チェンジマートレット)のカローニンに毒づくと蛇腹剣を引きちぎり、ハルバード先端の槍を射出、スパイクを引き抜きヴィダリオンを救出しようとするカローニンに直撃させる。


「馬鹿力が・・・!」


「グオッ!?」


翼を撃ち抜かれ吹き飛ぶカローニン。


「カローニン!?おのれ・・・!」


ヴィダリオンは両手でスパイクをへし折り投げつけると剣を頭上に掲げる。


「やらせんよ!」


ゲッグのハルバードの横薙ぎは終の太刀よりはるかに速い。だがその斬撃も頭上からヴィダリオンを守るように落下してきたフェザーブレイドに阻まれる。


「増援?いやあの小僧か!?」


「ヴィダリオン、皆の仇を取ってくれ!!」


「ヴィダリオン!!」


空飛ぶベオタスに乗った勇騎と背後の杏樹の声援に押されるようにヴィダリオンは踏み込み、剣を振り下ろす。


「紋章剣奥義・全身全霊終の太刀!!」


「チイィ!」


ゲッグは胸の前で盾を構えその前にハルバードをかざして防ごうとするが両方を粉砕され、衝撃で後退する。


「・・・・何だと?それは本当か?ガイオス!」


突如入った部下からの報告にゲッグは愛馬に飛び乗ると迅雷の様に去っていった。


「ヴィダリオン!」


「何とか撃退出来ました。しかし・・・・」


「皆酷い傷・・・・」


「そうだ!ホットスパーが、パールウェイカーが危険なんだよ!」


「カローニンとメガイロもな」


「病院船を要請する。間に合うか、そもそも来てくれるかも分からないが」


勇騎と陸の悲痛な報告にヴィダリオンは長い息をつくとそう言った。


「必ず寄こすよう報告します。任せておいてください」


「助かる」


マリニエールの言葉に安堵したようにヴィダリオンは光となって杏樹の校章へと戻っていった。


(鉄腕ゲッグ・・・・恐ろしい奴が来た)


勇騎は敵の去っていた方角を見て身震いするのだった。


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